重なる月

第1章

君に抱かれる 3

「はぁ……はぁ」 

　丈の汗ばむ躰に包まれると男らしい芳しい香りがふわっと漂い、それに酔いしれていく。

「大丈夫か？」 
「ん……」 

　なんとも恥ずかしい 。
　俺の躰の中に丈のものが入り吸い込まれていくような感覚に驚きと共に、なぜか遠い昔こんなことがあったような、そんな懐かしい待っていたものに再び出逢ったような気持ちに触れた 。

　恥ずかしさもこみあげ 、丈の顔をまともに見れない。
 
　丈の肩に顔を埋めるようにしている俺の背中を、丈はきゅっとしっかりと抱きしめ、どこまで気遣ってくれる 。

「洋……無理させてないか」 
「丈……俺はどうして、君に抱かれたのか不思議だよ」 

「抱かせてくれて、ありがとう」 
「俺はずっと怖かった。見知らぬ男に触られたりするのが、でも丈は違うんだ。温もりが心地良い。だ、だから……」 

　興奮して伝えたい言葉が出てこない。

「いいんだよ。洋…少し休め…」 

　一つの布団で抱き合って眠りにつく 。こんなことは初めてだ。

　ずっと俺は一人だった 。
　歳を重ねるにつれ警戒心が増し、心を許せる相手なんて、ずっといなかった 。

　女と付き合ってみようと思い何度か出かけたりもしたが、キス以上のことを求められると、 躰が過去の事件を思い出し強張って進めない。そんな情けない俺に女は愛想をつかして去って行った。

　所詮俺の顔にしか興味がなかったからなのかと自己完結してしていた。そんなことを繰り返すうちに、何故か女にさほど興味を持てない冷めた躰になってしまった。

　俺の心の闇 、外見でしか見られないことに慣れ、人と距離を置く方を選んで生きてきた 。

　父は帰国を激しく反対した。でも逃げたままじゃ解決にならないし 、なぜか俺は日本へこのタイミングで戻らないといけないような気がして、単身で帰国したんだ。

　それがまさか……こんな出逢いが待っていたとはな 。

　丈……君は俺にとってどういう存在なのか。

　俺よりも七歳も年上なのに、同志だった。そんな気持ちにさせてくれる人だ。誰にも甘えられなかった俺が甘えられる場所 、それは君の腕の中だったのか。

　まずいな。この腕の中はあまりに心地良すぎる 。
　
　疲れて眠りに落ちていく俺の腰を、丈がもう一度ぎゅっと力を込めて抱きしめてくれた。