重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
27 / 1,657
第1章

雨に濡れて 12

しおりを挟む
 震える……冷えた身体を温めてあげたくなった。
 震える……その心を温めてあげたくなった。

 強く抱きしめて背中を擦ってやると、洋の躰の震えは止まり、荒かった息も整ってきた。そして次第に朦朧とした意識の中から覚醒してきた。

「……えっ?」

 私に抱きしめられていることに気付いたようで、腕で頼りなく押して離れようとする。

「丈……なんだよ、離せよ……」
「君はこんなに濡れて……風呂を沸かしてやるから温まれ」
「……」
「もしかして怒っているのか……もしかして……妬いたのか」

 途端に、洋はかっと顔を赤く染めそっぽを向いた。

「なっなんで俺が男に妬くんだよ!」

 首まで真っ赤になっていて、どうやら図星のようだ。

「もしも、そうならば、私は嬉しいよ」
「え!?」
「私は洋のこと気になっているからな。あれから彼女を送り届けてすぐに帰宅したんだ」
「なっ!」

 洋はますます顔を赤らめて動揺する。

「さぁこっちへ来い。風呂に入れ、風邪をひくぞ。」

 洋を横に抱いたまま移動しようとすると、足をばたつかせ抵抗する。

「はっ放せよっ!こっこんな抱き方変だ!一人で歩ける!」
「ふふっ以前会社に行くとき倒れた時も、こうやって抱いてやったんだから照れるな。初めてじゃあるまいし」
「なっなに言うんだよっ!」

 顔を真っ赤に染めた洋を脱衣所で降ろしてやると、私を両手で廊下へ押しやりドアを閉める前に、こちらをキッと睨み「覗くなよ!」言い放った。私は、思わずその表情が可愛らしくて苦笑してしまった。


****

 近い。抱きかかえられると丈の鎖骨に俺の頬があたり、男らしく逞しい胸板を直に感じた。そして、力強く脈打つ心臓の鼓動が聴こえてきた。

 なんで……この男の肌は、こんなにもしっくりくるのか。俺はこれ以上見つめられるのが恥ずかしくなりバスルームのドアを閉め、ドアにもたれた。

 丈に強く抱きしめてもらった躰が熱い。俺の身体は一体どうなっている?いつもなら同性に触られるだけで気持ち悪くなっていたのに、丈に触られた身体はもっと強く抱きしめてもらいたく彷徨い求め、熱くなっていく一方だ。おまけに……あぁこんな姿見つかったら最悪だ。まさか……硬くなるなんて!

 乱れる息を整え濡れた服を一枚一枚脱いでいくと、重石が取り払われ羽が生えたように心が踊り出す。

 もしかして俺は……丈を好きなのか。俺が、男の丈を?ありえないよな……

 だが丈に抱きしめてもらうと、触れてもらうと、不安が取り除かれて心が落ち着くんだ。くそっ何故、こんなことに?丈の腕の中は居心地がよく、もっと強く俺の心が零れ落ちないように抱きしめて欲しいくらいだった。

 次々と浮かび上がる恥ずかしい考えを沈めるために、シャワーを勢いよく浴びて、再び脱衣場に戻った。そこではたと着替えがないことに気が付いた。
 
 「あっ…バスルームに強引に連れて来られたから着替えがない。着ていた服はびしょ濡れだし、どうする?」

 ふと目をやるとドアのフックに、丈の白いバスローブがかかっていたので手に取ると、先ほど間近で嗅いだ丈の香りがふわっと香った。それだけで胸の奥が疼くなんて。本当に俺はどこかおかしい。

 結局思い切って、水滴のついた躰にバスローブを直接羽織って廊下へ出た。 
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...