重なる月

志生帆 海

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第1章

雨に濡れて 11

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「はぁ…んっ…」

 暁香の吐息があがり、私へと徐々に身を預けてくる。いつもならこのまま部屋へ連れ込んで、雪崩れ込むようにお互いの身体を求め絡め貪りあうのだが、今日は自分自身を上手く高められない。

 洋を傷つけてしまった。洋は、今何をしてる?全身ずぶ濡れだったが、ちゃんと着替えただろうか。捨て猫のように哀しげな瞳の洋の姿が浮かんでは消えていく。

 私はとうとう意を決して、暁香の身体をぐいと離した。

「すまないが、今日はそういう気分じゃない。悪いな」
「えっ?」

 興奮しきった暁香は途中でやめられて一瞬もどかしそうな表情を浮かべたが、すぐにいつものクールな顔に戻った。

「まぁ……丈ってば、あなたもしかして本気で好きな人が出来たの?」
「……」
「今日のところは許してあげるわよ。ねぇ……教えてよ。私よりイイ女?」
「家まで送るよ」

****

 暁香のマンションの前で別れた後、車の速度を上げ急いでテラスハウスへ戻った。玄関を開けると、洋の靴が乱暴に脱ぎ捨てられていた。

 いつもはきちんと揃えているのに……。

 全身びしょ濡れだったせいで、洋の歩いた場所に水滴が残っていた。それを辿って行くと、まっすぐに洋の部屋へと向かっていた。ノックをしても返事がないが、耳を澄ますと微かな嗚咽が聞こえて来た。

 思い切ってドアを開けると、びしょ濡れの服を躰に張り付けたままベッドに仰向けに横たわる洋がいた。その表情は、ひどく頼りなく、ひどく怯えていた。一体どうした?

「洋?」

 投げ出した手をそっと握ってやると小刻みに震えている。濡れた服も着替えず、あのままここで泣いていたのか。

「誰……?」

 朦朧と彷徨う手を握りしめてやり、私の胸にかき抱いてやる。
 抱きしめて初めて感じるのは、想像よりも細い身体に細い腰……。

 庇護欲みたいなものが沸き上がり、たまらなく切ない気持ちになった。
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