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第1章
雨に濡れて 5
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「このバイクだが、乗れそうか?」
「あぁ大丈夫そうだ。助かるよ」
「気を付けて」
「また夜に!」
丈から借りたバイクに跨り走り出すと 秋風がひんやりと頬にあたり、眠気も一気に覚めてくる。
いつも俺のことを気にかけて、打開策を見出してくれる丈。
ありがとう。本当にこういう同性との普通の関係って久しぶりすぎて、どう反応したらいいのか分からない。まともに顔を見てお礼なんて恥ずかしくて言えなくて、ごめん。
あぁ……俺の幼なじみの安志以来かな。 そういえば帰国したことを、安志には知らせないと。 俺たち、酷い別れ方をしてしまい、気まずくてアメリカからは一度も連絡出来なかったから。
ふと幼馴染の人懐っこい笑顔が頭に浮かんで来たが、やっぱり丈とは、ちょっと違うとも思った。安志はほっとする存在だったが、 なんというか丈のことは、何故か俺の胸の奥がきゅっと締め付けられるんだ。
この感情って一体……
****
いつものように少しばかりの残業をして、テラスハウスに19時過ぎにバイクで戻った。 窓の外に漏れる橙色の暖かな光に、俺の心は安堵する。
「ただいま」
「お帰り、洋」
「ちょうどいいところに帰ってきたな。ちょっと料理を手伝ってくれないか」
「えっ?あぁいいよ」
キッチンから香ばしい食材の香りが漂ってくる。 急いで着替え手を洗ってキッチンへ行くと、丈は忙しそうに調理をしていた。
「悪いが、これを炒めてくれないか」
肉と野菜を炒めている途中のフライパンを渡される。
「丈……あの、これであってる?」
実は俺は料理に自信がない。 ほとんどしたことがない。ちらっと横目で見た丈が、呆れた顔で近寄ってくる。
「もっと鍋の底からひっくり返すように炒めるんだ。これでは焦げるだろう!」
「こう?」
勝手が分からないので、ぎこちない動きになってしまい、ついには焦げ臭い匂いまで漂い出す。
「おいおい」
丈は俺の背後にぴったりと立ち、俺の右手にその手を添える。 丈は俺より10cm以上は背が高いので 、俺は後ろから抱きしめられているような感じになり、思わず赤面してしまった。添えられた右手は、ちっとも嫌じゃなくて、むしろ心地良い。丈の骨ばった大きな手で包まれ、温かい。
狭いキッチンで丈に背後に立たれ身動きが取れない俺は、高鳴る心臓の音を聞かれないようにと身を固くした。
「分かったか、コツ」
「うん、なんとか」
しばらく無言の時が過ぎた後、丈は素知らぬ顔で違う作業に取り掛かっていってしまった。 俺は耳まで赤いんじゃないかと思うほど顔に血が上り、 そんな反応をしてしまう自分の身体に、ただただ驚くばかりだった。
「あぁ大丈夫そうだ。助かるよ」
「気を付けて」
「また夜に!」
丈から借りたバイクに跨り走り出すと 秋風がひんやりと頬にあたり、眠気も一気に覚めてくる。
いつも俺のことを気にかけて、打開策を見出してくれる丈。
ありがとう。本当にこういう同性との普通の関係って久しぶりすぎて、どう反応したらいいのか分からない。まともに顔を見てお礼なんて恥ずかしくて言えなくて、ごめん。
あぁ……俺の幼なじみの安志以来かな。 そういえば帰国したことを、安志には知らせないと。 俺たち、酷い別れ方をしてしまい、気まずくてアメリカからは一度も連絡出来なかったから。
ふと幼馴染の人懐っこい笑顔が頭に浮かんで来たが、やっぱり丈とは、ちょっと違うとも思った。安志はほっとする存在だったが、 なんというか丈のことは、何故か俺の胸の奥がきゅっと締め付けられるんだ。
この感情って一体……
****
いつものように少しばかりの残業をして、テラスハウスに19時過ぎにバイクで戻った。 窓の外に漏れる橙色の暖かな光に、俺の心は安堵する。
「ただいま」
「お帰り、洋」
「ちょうどいいところに帰ってきたな。ちょっと料理を手伝ってくれないか」
「えっ?あぁいいよ」
キッチンから香ばしい食材の香りが漂ってくる。 急いで着替え手を洗ってキッチンへ行くと、丈は忙しそうに調理をしていた。
「悪いが、これを炒めてくれないか」
肉と野菜を炒めている途中のフライパンを渡される。
「丈……あの、これであってる?」
実は俺は料理に自信がない。 ほとんどしたことがない。ちらっと横目で見た丈が、呆れた顔で近寄ってくる。
「もっと鍋の底からひっくり返すように炒めるんだ。これでは焦げるだろう!」
「こう?」
勝手が分からないので、ぎこちない動きになってしまい、ついには焦げ臭い匂いまで漂い出す。
「おいおい」
丈は俺の背後にぴったりと立ち、俺の右手にその手を添える。 丈は俺より10cm以上は背が高いので 、俺は後ろから抱きしめられているような感じになり、思わず赤面してしまった。添えられた右手は、ちっとも嫌じゃなくて、むしろ心地良い。丈の骨ばった大きな手で包まれ、温かい。
狭いキッチンで丈に背後に立たれ身動きが取れない俺は、高鳴る心臓の音を聞かれないようにと身を固くした。
「分かったか、コツ」
「うん、なんとか」
しばらく無言の時が過ぎた後、丈は素知らぬ顔で違う作業に取り掛かっていってしまった。 俺は耳まで赤いんじゃないかと思うほど顔に血が上り、 そんな反応をしてしまう自分の身体に、ただただ驚くばかりだった。
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