18 / 1,657
第1章
雨に濡れて 3
しおりを挟むあと一駅、もう少しの辛抱だ。
案の定電車に乗ってすぐ、俺の尻を誰だか分からない手が執拗に撫でてくる。
「くっ……」
身をよじって避けても、その手は吸い付くように離れない。 全身に悪寒が走り身体がぶるっと震えるが、俺は唇をきゅっと噛みしめ 顔を俯き、時間が流れるのをひたすらに待った。もう毎度毎度のことなので、身体が慣れてきているといえばそうなのかもしれない。 幸い今日の手は控えめに後ろを蠢くだけだ。この位ならこのまま後数分だけ耐えよう。
ターミナル駅に着くとその手も人混みではじけ、俺はようやく自由を取り戻す。 ホームに降りて冷や汗を拭いながら暗いため息をつき、スーツの皺を整えていると 、後ろから突然声をかけられ驚いた。
「洋……お前大丈夫か?」
少し青ざめた丈の表情に、見られていたのかと急に恥ずかしさが込み上げてくる。
「丈、いつから見ていた? 俺のことを」
「やっぱりそうか。君はなんで抵抗しないんだ? 私は気が気じゃなかったぞ!何故助けを呼ばない?」
丈に問い詰められるのが気まずく、無理やりに笑顔を作って答えた。
「俺……慣れているから。こんなこといつものことだから。この位ならもう大丈夫だ」
それは嘘だ。前なんて近くのサラリーマンに助けを求めたら 、そいつまで俺のことを触り出して、前からも後ろからも攻められ散々な目に遭ったとは流石に言えなかった。
「ふざけるな!私が大丈夫じゃない!」
珍しく落ち着いている丈が大きな声をあげたので、驚いて顔を見つめると ひどく辛そうな顔をしていた。
「丈…?」
何故、丈がそんなに怒るのか分からない……。俺の感覚は麻痺しているのか。
11
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる