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第1章
はじまり 4
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激しい雨に打たれながら一気に駆け出した。はだけたシャツのボタンを留め、外されたベルトを締め直し、とにかく逃げた。
逃げても逃げても追ってくるようで、躰の震えが止まらない。あと一歩遅かったら、俺は無理やりに犯されていた。
そう思うだけで恐怖で足がすくむ。
「まだ駄目だ!守れ!逃げろ!」
そんな声が天高く遠くから聞こえたような気がして、雷が轟く空を思わず見上げた。
一体これは……誰の声だろう。
****
「おい君、大丈夫か。車に酔ったのか」
同居人が心配そうに覗き込んでいる。助手席に座った途端に蘇ってしまった記憶に吐き気がこみ上げて来て、恐らく顔色が真青で苦痛に顔を歪めていたのだろう。冷たい汗がひっきりなしに額に浮かんでくる。
「うっ……ちょっと停めてくれ」
車を降りた途端、道端で激しく戻してしまった。涙が滲み出る。
「大丈夫か」
俺の背を優しくさする温かい手に、驚いた。
「あっ……」
遠い昔この手に治療してもらったような気がする。デジャヴ(既視感)というのか、こういう感覚……。
「君、何か過去に精神的につらいことがあったのか。車の中で何かあったのか」
そう聞かれると図星のような気がして、真っ赤になってしまう。
「違う!酔っただけだ!」
「そうか、それならいいが。なにかあったら相談にのるからいつでもオフィスの医務室に来るといい」
「あなたには関係ないことだ。もう大丈夫」
だが強がって立とうとした途端、今度は貧血のように目が回ってしまう。
「あっ……」
違う……俺はこんなに弱くない。いつだって弱みを見せないで生きてきたのに、なんでこの人の前だと、こんなに弱くなるのか。一気に血の気が引いて、冷や汗と共に記憶がなくなった。
逃げても逃げても追ってくるようで、躰の震えが止まらない。あと一歩遅かったら、俺は無理やりに犯されていた。
そう思うだけで恐怖で足がすくむ。
「まだ駄目だ!守れ!逃げろ!」
そんな声が天高く遠くから聞こえたような気がして、雷が轟く空を思わず見上げた。
一体これは……誰の声だろう。
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「おい君、大丈夫か。車に酔ったのか」
同居人が心配そうに覗き込んでいる。助手席に座った途端に蘇ってしまった記憶に吐き気がこみ上げて来て、恐らく顔色が真青で苦痛に顔を歪めていたのだろう。冷たい汗がひっきりなしに額に浮かんでくる。
「うっ……ちょっと停めてくれ」
車を降りた途端、道端で激しく戻してしまった。涙が滲み出る。
「大丈夫か」
俺の背を優しくさする温かい手に、驚いた。
「あっ……」
遠い昔この手に治療してもらったような気がする。デジャヴ(既視感)というのか、こういう感覚……。
「君、何か過去に精神的につらいことがあったのか。車の中で何かあったのか」
そう聞かれると図星のような気がして、真っ赤になってしまう。
「違う!酔っただけだ!」
「そうか、それならいいが。なにかあったら相談にのるからいつでもオフィスの医務室に来るといい」
「あなたには関係ないことだ。もう大丈夫」
だが強がって立とうとした途端、今度は貧血のように目が回ってしまう。
「あっ……」
違う……俺はこんなに弱くない。いつだって弱みを見せないで生きてきたのに、なんでこの人の前だと、こんなに弱くなるのか。一気に血の気が引いて、冷や汗と共に記憶がなくなった。
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