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第1章
出会い 5
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~幼馴染の洋~
母親同士が友人で、近所に住んでいたんだよな。
初めて出会ったのはいつだった?赤ん坊の頃からの付き合いになるのか。物心がついた時、俺の傍には常にお前がいた。
俺…実はお前のこと、最初女の子だと思っていたんだ。
黒目がちの目には愛嬌があって、クセ毛が首元ではねていて可憐だった。俺に向けられる笑顔が優しくて可愛い女の子だなと気になっていた。だから、夏のプールで男だと知ったときは正直寝込んだぜ。
そんなわけで俺は出会った瞬間から、目が離せないのさ。
『女みたいな洋』
そう噂されることが多かった。
本人はそれを一番気にしている。
それでも中学までは地元で泥んこになって遊び馬鹿もやったし、女みたいな顔だからといって、お前が心底困ることはなかったかもしれないな。
だが、俺は見てしまった。新学期の朝、電車の同じ車両にお前を見かけたので声をかけようとした時、背後の会社員が洋の耳たぶを舐めているのを。
お前は蒼白な顔で俯いて耐えていたんだ。なのに俺は、助けにいってやることが出来ず足が竦んで、その場から動けなかった。
しかも…目を凝らすと男の厚ぼったい手が洋の胸をまさぐっているじゃないか!
「なっ!」
思わず赤面してしまった。洋はますます俯き震えているのに、満員電車の人混みは俺の行方を阻み、ターミナル駅まで洋は誰にも気が付かれることなく耐え続けていた。
駅で解放された洋は、呆然と立ちすくんでいた。
「あっ……」
まるで女のようにいたぶられた洋に、どう声をかけたらいいのか分からない。
一番本人が気にしていることが、とうとうこんな形でふりかかってくるとは。俺は必死に笑顔を作り、何も見なかったふりをして、声をかけた。
洋、許せ……もしかしたら…俺もお前に対して邪な気持ちを抱いているのかもしれない。お前が嫌な目に遭っているとき、俺は助けたいと思う一方でお前の耐える姿にドキドキしてしまったのだから。
その後も電車でみかけるお前は、いつも耐えていた。そんなお前をこっそり盗み見していた俺は、本当に邪な最低な男だ。
ある日、お前がとうとうその男を思いっきり突き飛ばし走り出した時、俺は慌てて追いかけた。
「おい!洋っ待てよ!」
「っつ……」
滅多に泣かないお前の目から涙が流れ、俺のことなど見向きもせずに走り去っていった。そのお前の切ない横顔を見て、俺はやっと目が覚め、激しく後悔した。
お前はその日以来早朝の空いた電車に乗って通学し始めたことを知っている。毎日そんなに早く学校へ来て、授業中眠たそうにしている姿に、なんとかしてあげたくなった。
お前を助けなかった俺を許してくれ。
明日からはこの邪な気持ちとはきっぱり別れる! 思い切って声をかけるよ。
「明日からお前の家の前で待ってるから、一緒に学校に行こうぜ」
母親同士が友人で、近所に住んでいたんだよな。
初めて出会ったのはいつだった?赤ん坊の頃からの付き合いになるのか。物心がついた時、俺の傍には常にお前がいた。
俺…実はお前のこと、最初女の子だと思っていたんだ。
黒目がちの目には愛嬌があって、クセ毛が首元ではねていて可憐だった。俺に向けられる笑顔が優しくて可愛い女の子だなと気になっていた。だから、夏のプールで男だと知ったときは正直寝込んだぜ。
そんなわけで俺は出会った瞬間から、目が離せないのさ。
『女みたいな洋』
そう噂されることが多かった。
本人はそれを一番気にしている。
それでも中学までは地元で泥んこになって遊び馬鹿もやったし、女みたいな顔だからといって、お前が心底困ることはなかったかもしれないな。
だが、俺は見てしまった。新学期の朝、電車の同じ車両にお前を見かけたので声をかけようとした時、背後の会社員が洋の耳たぶを舐めているのを。
お前は蒼白な顔で俯いて耐えていたんだ。なのに俺は、助けにいってやることが出来ず足が竦んで、その場から動けなかった。
しかも…目を凝らすと男の厚ぼったい手が洋の胸をまさぐっているじゃないか!
「なっ!」
思わず赤面してしまった。洋はますます俯き震えているのに、満員電車の人混みは俺の行方を阻み、ターミナル駅まで洋は誰にも気が付かれることなく耐え続けていた。
駅で解放された洋は、呆然と立ちすくんでいた。
「あっ……」
まるで女のようにいたぶられた洋に、どう声をかけたらいいのか分からない。
一番本人が気にしていることが、とうとうこんな形でふりかかってくるとは。俺は必死に笑顔を作り、何も見なかったふりをして、声をかけた。
洋、許せ……もしかしたら…俺もお前に対して邪な気持ちを抱いているのかもしれない。お前が嫌な目に遭っているとき、俺は助けたいと思う一方でお前の耐える姿にドキドキしてしまったのだから。
その後も電車でみかけるお前は、いつも耐えていた。そんなお前をこっそり盗み見していた俺は、本当に邪な最低な男だ。
ある日、お前がとうとうその男を思いっきり突き飛ばし走り出した時、俺は慌てて追いかけた。
「おい!洋っ待てよ!」
「っつ……」
滅多に泣かないお前の目から涙が流れ、俺のことなど見向きもせずに走り去っていった。そのお前の切ない横顔を見て、俺はやっと目が覚め、激しく後悔した。
お前はその日以来早朝の空いた電車に乗って通学し始めたことを知っている。毎日そんなに早く学校へ来て、授業中眠たそうにしている姿に、なんとかしてあげたくなった。
お前を助けなかった俺を許してくれ。
明日からはこの邪な気持ちとはきっぱり別れる! 思い切って声をかけるよ。
「明日からお前の家の前で待ってるから、一緒に学校に行こうぜ」
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