重なる月

志生帆 海

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第1章

出会い 3

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  ここが俺の部屋なのか。天井まである大きな窓から外を見ると、 空は徐々に暮れていく気配を見せていた。 

「月明かりが届きそうな程大きな窓……」 



 何故だかこの家は好きだ。静かに守られているような感じがして落ち着く。それにしても、ずいぶんぶっきらぼうな同居人だったな。だが丁度良いのかもしれない。俺も干渉されるのは嫌だ。 ましてまた……いつものような同性の男から変な気でも持たれたら、一つ屋根の下で危険すぎる。 

 とにかく久しぶりに日本での生活が始まった。 空港に着いてから、ここまで長く、疲れた一日だった。

 少しほっとした俺は時差もあり、急な眠気に襲われ ベッドにそのまま倒れこみ、深い眠りに落ちてしまった。


*****

「なんなのだ!あいつは一体?」 

 来た早々部屋に閉じこもったかと思えばあれから数時間、出て来やしない。
 
 もう夜だぞ。夕食はどうするつもりだ? 私もこんなお節介を焼くこともあるもんだと、意外な自分に感心しつつ部屋をウロウロしてもう一時間だ。意を決して同居人の部屋をノックするが、 うんともすんとも応答がない。 

「おいおい……来た早々ぶっ倒れたのか」 

 仕方がなくそっとドアを開けてみると、同居人は洋服のままベッドに横たわっていた。

「あっ!」

 女と見まごうような綺麗に整った顔で、長い睫毛を伏せ、安心した表情でぐっすりと寝込んでいた。まるで天使が羽を休ませているかのように、清らかな静寂を身にまとって。

 どこか懐かしいような 、どこかで逢ったような ……
 胸をぎゅっと締め付けられるようで、目が離せない。
 
 途端に心臓もバクバクしてくる。一体なぜ……こんな気持ちに?

 慌ててドアを閉め 自分の部屋へ戻り、息を整えた。 

「な……なんだったんだ?一瞬、羽が見えたような?」 

 一体何故こんなに胸が高鳴る? 相手は男じゃないか。 いくら女みたいに綺麗な顔だからって、私にそんな気はない。女性とは何度も寝たこともある、至ってノーマルのはずだ。 

 私は胸の高鳴りの理由が理解できずに、頭が混乱してしまった。とにかくあまり関わらないようにしよう。再びPCの前に座り、仕事に没頭することで、動揺を打ち消そうと努力した。

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