重なる月

志生帆 海

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第1章

出会い 2

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「なんだって?ここで男と同居?」

 会社の人事部からの電話を受け、思わず携帯を落としそうになった。

 私は張矢 丈はりや じょう

 医師としての資格を活かし製薬会社で新薬の開発をするメディカルドクターとして、ここ数年働いている。街外れにあるテラスハウスで気ままな一人暮らし中だ。

 会社の寮などまっぴらだと突っぱねてみたら、医者である私への待遇としてわざわざ用意してくれた借り上げ社宅のようなものだが、ここは居心地が良い。

 私は昔から一人でいるのが好きだ。
 
 少々会社までは遠くなったが、この家は昼夜問わず研究や仕事に没頭でき誰にも何も気を遣わないので済むので気に入っている。

「なんでわざわざここに同居させる?相手はただの新入社員だろ?そんなのボロアパートでも何でも良いのでは?」
「丈先生……そんなことおっしゃらずに…何しろアメリカの大事な取引先の息子さんなんで、こちらも無下に出来ず。どうしてもそれなりのシェアハウスが空いていないのです。ここはどうか…」

 人事も譲らないので、結局引き受ける羽目になってしまった。

「ありがとうございます!もうすぐそちらに到着すると思いますのでよろしくお願いします!」
「おいおい、最初からそのつもりか」

 ため息交じりに通話を切った。

「はっ……コネ入社のお坊ちゃまか。やれやれ」

 どうせ、なよなよした奴だろう。私は他人に興味がない。しかし厄介なことになったな。この家に一人でいるのが心地良かったのに。通話が終わった後も苛々した気持ちが落ち着かず、部屋をウロウロしていると、インターホンが鳴った。

 来た! 思わず身構えてしまう。




****



 モニターに映る新入社員の顔は、俯いていてよく見えない。
 想像通りかなり若い奴だ。ただそれだけの感想だ。
 まぁ私はもともと他人に興味がないので、どんな顔をしていようと、どうでもいい話だ。


「オートロックだから開いている。入って来い」
 
 リビングのドアが開いて中に入ってくる気配がするのを確認し、PCのキーボードを打ちながら振り向きもせず、必要事項だけ教えた。

「鍵はその机の上、門限なんてない。私は仕事をここでする時と君が通う本社に行く時と、日によって違う。だから私をあてにするなよ、新入社員くん。それから君の部屋はその廊下の突き当り右。バストイレ共有。キッチン?ご自由にどうぞ。とにかくお互い干渉なしにしてくれ」

 一気にここまで言っても何の反応がないのが気になり振り向くと、その男はもう突き当りの角を曲がり、部屋に入るところだった。

「な……何だ?人の話もろくに聞かないで」

 気になって、その男の後ろ姿をじっと眺めている自分に驚いた。

 若いな……それにすっきりとした綺麗な後ろ姿だ。一体どんな顔をしている?
 私がこんなことを考えるなんて珍しいな。
 ドアがパタンとしまる音と共に、頭を振り、また仕事に没頭することにした。

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