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後編
33 秘密の薬
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「ルビーはまだ帰らないのか?」
「はい。奥様は、何やら個人的に薬の研究をされていらっしゃるとかで」
ユリウスが仕事から戻っても、ルビーが帰ってきていない日が続いていた。彼女は普段より何時間も遅く帰ってきて、ぐったりと疲れてすぐに寝てしまう。最初は黙って見守っていたが、それももうすぐ三カ月になる。
「迎えに行く」
ルビーが何をしているのかを、ユリウスだけは知っていた。十中八九、あのせいりょ……いや、滋養強壮薬を作っているのだろう。
研究熱心なのはよいことだが、ユリウスは自分との時間が少なくなっていることが寂しかった。
長い間一人で過ごしてきたはずなのに、もうルビーのいない生活なんて考えられそうにない。
ラハティ公爵領には医学と薬学を学び研究するための施設がある。ルビーはそこで働いているのだった。
「ルビー」
残っていた職員に部屋を案内してもらい、ルビーがいる研究部屋の扉をノックした。
「ユリウス! どうしたのですか」
「あなたがまだここにいると聞いて、迎えに来たのです」
「ナイスタイミングですね。やっと……やっと完成したのです!」
ルビーはとても自信満々な顔で、グイッと薬を差し出した。
「出来たのですか?」
「はい! 何回も試作を繰り返し、やっと満足できる数値がでました」
「そうですか」
「ドリンクではなく錠剤にしました。身体に悪いものは一切入っていませんから、安心して試してください。是非効果をみたいので」
嬉しそうにそう話すルビーから、ユリウスは薬を受け取った。
「……用法容量は?」
「元気を出したい時の一時間前くらいに一粒飲んでください! 五時間くらいは効果がありますよ。ちなみに一日二錠までです」
ユリウスは説明を聞いてふむと考え込んだ。
「仕事がある日の朝に飲んでみてください」
「いや、今夜にでも試してみます」
「え……でも寝る前に飲んだら、元気になって睡眠に支障が出る可能性がありますよ?」
ユリウスからすれば、朝からこれを飲む方が恐怖だ。きっと仕事どころではなくとんでもないことになるだろうから。
「明日は休みですし、せっかくルビーが作ってくれたので早く効果をみたいのです」
「それならばわたしも起きています。明日はお休みですから」
「それは嬉しいですね。最近一緒にいられなかったですから」
「すみません。わたしも嬉しいです」
へへへと照れたように笑ったルビーに、ちゅっとキスをすると頬が真っ赤に染まった。
「ここは……仕事場ですよ」
「すみません。あなたが可愛くて我慢できませんでした」
フッと色っぽく笑ったユリウスは、ルビーの耳に唇を寄せた。
「私がこれ以上したくなる前に、早く帰りましょう」
「……っ!」
「さあ、帰る用意をしてください」
「は、はい」
ルビーは慌てて片付けをし、あっという間に二人はラハティ公爵家の屋敷に戻ってきた。
二人で楽しく晩御飯を食べ、その時にユリウスは薬を飲んだ。
「ふふ、楽しみです。どうか効きますように」
早く効果を知りたいルビーは、まるで子どものようにワクワクしながら手を合わせて祈っていた。
「寝る準備ができたら私の部屋に来てください。今夜は眠れなくなるかもしれませんから」
「はい! わたしはユリウスに話したいことがたくさんあります」
「……では、また後で」
今夜はゆっくり話は聞けないかもしれないなと思っていたが、ユリウスは口には出さなかった。
ユリウスはルビーの薬師としての腕を信用している。だから、きっと効果は抜群のはずだとわかっていた。
「薬云々以前に、久々だからな」
この三カ月、まともにルビーに触れていない。もちろん寄り添って寝るのも幸せだが、やはり愛する妻と一つになれないのは苦しかった。
今夜は薬なんて必要なかった気もするが、可能ならば何度でも妻を愛したいというのが男の素直な欲求というものだ。自分しか知らない若い妻を、満足させたいという気持ちもある。
「どうなることやら」
ユリウスは生まれて初めて精力剤を飲んだので、正直自分がどうなるのかわからなかった。
「ユリウス、入ってもいいですか」
「……どうぞ」
「どうですか? そろそろ元気になって……んんっ!」
ちょうど一時間ほど経過したので、ルビーは自分で作った薬の効果が気になっていた。
だがそれを確かめる間もなく、扉を閉めた瞬間にユリウスに唇を塞がれた。
「んんっ……ふっ……んん……」
何度もキスをしているとはいえ、いきなり舌を絡める濃厚なものをされてルビーは驚いた。
いつものユリウスなら、優しく触れるところから始まり……時間をかけてだんだんと深いものに変わっていくからだ。
身体を扉に押し付けられながら、こんなに強引で激しいキスをされたのは初めてだった。
ユリウスはルビーの唇をしばらく堪能した後、名残惜しそうに唇を離した。
「ユ、ユリウス。こ、こ、これは……その……一体どうしたのですか?」
「……わかってはいましたが、あなたが優秀な薬師だと私は再認識しましたよ」
「え?」
「効果の責任は取ってくださいね」
そのままルビーをひょいと横抱きにし、ベッドにそっとおろした。
「先に謝っておきます。今夜はあまり優しくできないかもしれません」
「え、あの……」
「でも安心してください。ルビーを傷つけることは絶対にしませんから」
いつもより何倍もの色気を放ったユリウスは、自分の着ていたシャツを脱ぎ床に投げ捨てた。
「はい。奥様は、何やら個人的に薬の研究をされていらっしゃるとかで」
ユリウスが仕事から戻っても、ルビーが帰ってきていない日が続いていた。彼女は普段より何時間も遅く帰ってきて、ぐったりと疲れてすぐに寝てしまう。最初は黙って見守っていたが、それももうすぐ三カ月になる。
「迎えに行く」
ルビーが何をしているのかを、ユリウスだけは知っていた。十中八九、あのせいりょ……いや、滋養強壮薬を作っているのだろう。
研究熱心なのはよいことだが、ユリウスは自分との時間が少なくなっていることが寂しかった。
長い間一人で過ごしてきたはずなのに、もうルビーのいない生活なんて考えられそうにない。
ラハティ公爵領には医学と薬学を学び研究するための施設がある。ルビーはそこで働いているのだった。
「ルビー」
残っていた職員に部屋を案内してもらい、ルビーがいる研究部屋の扉をノックした。
「ユリウス! どうしたのですか」
「あなたがまだここにいると聞いて、迎えに来たのです」
「ナイスタイミングですね。やっと……やっと完成したのです!」
ルビーはとても自信満々な顔で、グイッと薬を差し出した。
「出来たのですか?」
「はい! 何回も試作を繰り返し、やっと満足できる数値がでました」
「そうですか」
「ドリンクではなく錠剤にしました。身体に悪いものは一切入っていませんから、安心して試してください。是非効果をみたいので」
嬉しそうにそう話すルビーから、ユリウスは薬を受け取った。
「……用法容量は?」
「元気を出したい時の一時間前くらいに一粒飲んでください! 五時間くらいは効果がありますよ。ちなみに一日二錠までです」
ユリウスは説明を聞いてふむと考え込んだ。
「仕事がある日の朝に飲んでみてください」
「いや、今夜にでも試してみます」
「え……でも寝る前に飲んだら、元気になって睡眠に支障が出る可能性がありますよ?」
ユリウスからすれば、朝からこれを飲む方が恐怖だ。きっと仕事どころではなくとんでもないことになるだろうから。
「明日は休みですし、せっかくルビーが作ってくれたので早く効果をみたいのです」
「それならばわたしも起きています。明日はお休みですから」
「それは嬉しいですね。最近一緒にいられなかったですから」
「すみません。わたしも嬉しいです」
へへへと照れたように笑ったルビーに、ちゅっとキスをすると頬が真っ赤に染まった。
「ここは……仕事場ですよ」
「すみません。あなたが可愛くて我慢できませんでした」
フッと色っぽく笑ったユリウスは、ルビーの耳に唇を寄せた。
「私がこれ以上したくなる前に、早く帰りましょう」
「……っ!」
「さあ、帰る用意をしてください」
「は、はい」
ルビーは慌てて片付けをし、あっという間に二人はラハティ公爵家の屋敷に戻ってきた。
二人で楽しく晩御飯を食べ、その時にユリウスは薬を飲んだ。
「ふふ、楽しみです。どうか効きますように」
早く効果を知りたいルビーは、まるで子どものようにワクワクしながら手を合わせて祈っていた。
「寝る準備ができたら私の部屋に来てください。今夜は眠れなくなるかもしれませんから」
「はい! わたしはユリウスに話したいことがたくさんあります」
「……では、また後で」
今夜はゆっくり話は聞けないかもしれないなと思っていたが、ユリウスは口には出さなかった。
ユリウスはルビーの薬師としての腕を信用している。だから、きっと効果は抜群のはずだとわかっていた。
「薬云々以前に、久々だからな」
この三カ月、まともにルビーに触れていない。もちろん寄り添って寝るのも幸せだが、やはり愛する妻と一つになれないのは苦しかった。
今夜は薬なんて必要なかった気もするが、可能ならば何度でも妻を愛したいというのが男の素直な欲求というものだ。自分しか知らない若い妻を、満足させたいという気持ちもある。
「どうなることやら」
ユリウスは生まれて初めて精力剤を飲んだので、正直自分がどうなるのかわからなかった。
「ユリウス、入ってもいいですか」
「……どうぞ」
「どうですか? そろそろ元気になって……んんっ!」
ちょうど一時間ほど経過したので、ルビーは自分で作った薬の効果が気になっていた。
だがそれを確かめる間もなく、扉を閉めた瞬間にユリウスに唇を塞がれた。
「んんっ……ふっ……んん……」
何度もキスをしているとはいえ、いきなり舌を絡める濃厚なものをされてルビーは驚いた。
いつものユリウスなら、優しく触れるところから始まり……時間をかけてだんだんと深いものに変わっていくからだ。
身体を扉に押し付けられながら、こんなに強引で激しいキスをされたのは初めてだった。
ユリウスはルビーの唇をしばらく堪能した後、名残惜しそうに唇を離した。
「ユ、ユリウス。こ、こ、これは……その……一体どうしたのですか?」
「……わかってはいましたが、あなたが優秀な薬師だと私は再認識しましたよ」
「え?」
「効果の責任は取ってくださいね」
そのままルビーをひょいと横抱きにし、ベッドにそっとおろした。
「先に謝っておきます。今夜はあまり優しくできないかもしれません」
「え、あの……」
「でも安心してください。ルビーを傷つけることは絶対にしませんから」
いつもより何倍もの色気を放ったユリウスは、自分の着ていたシャツを脱ぎ床に投げ捨てた。
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