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後編
28 わかっていない
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「旦那様、奥様! おめでとうございます」
パチパチと大きな拍手とたくさんのフラワーシャワーが舞い散る中、正装したユリウスとウェディングドレスを着たルビーは使用人たちに祝福されていた。
「みんな、ありがとう」
「うっうっ……ありがとうございます」
二人には秘密で使用人たちは、結婚パーティーの準備をしていた。飾りつけはユリウスが不在中、そしてルビーを部屋で整えている間に行った。
「これは魔法のお花です」
「あの時の……」
「ずっと綺麗に咲いていましたよ」
「それはエドガーさんが大事に育ててくれていたからです」
部屋を彩る花たちは、以前エルヴィが魔法で出した花だった。それを枯らさぬように育ててくれた庭師のエドガーに、ルビーはお礼を言った。
「旦那様の大事なものを、枯らすわけにはまいりませんからね。毎朝愛おしそうに花を見つめていらっしゃったので」
エドガーは、ニヤリと笑いながらユリウスを見つめていた。老齢のエドガーは、幼い頃からユリウスを知っている。
「……エドガーはいつも一言多いのだ」
「はは、それは申し訳ありません。坊ちゃん」
「その呼び方はやめてくれ。私を何歳だと思っているんだ」
「いやいや、失礼しました。旦那様」
ルビーは、この花を見てユリウスが自分を思い出してくれていたことを知って嬉しく思った。
そしてルビーが着ているウェディングドレスは、エルヴィが最後の日に身に付けていたものだ。きちんと手入れして保管されてきたので、一年経過したとは思えない程そのままの状態で残っていた。
「わたしたち幸せですね!」
「ええ、そうですね」
ユリウスとルビーは、大好きな使用人たちに祝われて楽しい夜を過ごした。
大好きな肉料理がたくさん並んできただめ、ルビーは目を輝かせてパクパクと嬉しそうに頬張っていた。
「んんー、美味しいです」
花嫁がこんなに豪快に食事をするのは珍しい姿ではあるが、その素直な喜びようにユリウスは目を細めた。
「私も負けないように食べないといけませんね」
「はい! ラハティ家で食べる料理が一番美味しいです」
「はは、それは良かったです」
腕によりをかけたシェフたちは、ルビーの褒め言葉に照れながらも喜んでいた。
彼女に再会するまで少し食が細くなっていたユリウスも、ルビーの食べっぷりにつられて自然とたくさん食べることができた。
豪華なウェディングケーキもみんなで平らげて、パーティは終わりを迎えた。
「最後に……皆にも聞いてほしいことがある」
ユリウスは片膝をついて、ルビーの左手を自分の手のひらの上にのせた。
「命が尽きる最期の瞬間まで、ユリウス・ラハティはルビーを愛すると誓います」
ユリウスの綺麗なブルーの瞳がきらりと輝き、真っ直ぐにルビーを見つめていた。
そのあまりの格好良さにルビーは倒れそうになったがグッと耐えた。
「……それならば、わたしは命が尽きてもユリウス様を愛します!」
ルビーは大きな声でそう宣言した。一瞬シンと静まり返った後、たくさんの笑い声が聞こえてきた。
「ははっ、せっかく格好をつけたのに……あなたには敵いませんね」
ユリウスは照れたように眉を下げ、声を上げて笑っていた。周りにいる使用人たちもふふふ、と嬉しそうにしている。
「だって……その……わたしの方がユリウスを好きな気持ちが大きいですから」
人差し指をツンツンとしながらそんなことを言うルビーを見て、ユリウスはふうとため息をついた。
「ルビーは全然わかっていませんね」
「え?」
「私がどれほどあなたのことを好きか」
ユリウスはルビーをふわりと横抱きにした。
「皆、ありがとう。私たちは部屋に戻るので後のことは頼んだよ。明日の昼まで近付かないように」
堂々とそう宣言したユリウスに、使用人たちは承知したという合図の代わりに頭を深く下げた。
「あ、あの! ユリウス?」
「今夜はじっくりと、私の愛を伝えましょう。嫌というほどにね」
腕の中で子どものようにバタバタと暴れるルビーを連れ去っていくユリウスの後姿を、使用人たちは嬉しそうに見つめていた。
「旦那様、幸せそうですね」
「ええ、本当に良かったです」
「ここまでが……長かったですからね」
「きっとこれから忙しくなりますよ」
執事のジュードは屋敷がさらに賑やかになるだろう今後のことを考えて、ニッと口角を上げた。
♢♢♢
夫婦の寝室に連れて行かれたルビーは、ベッドに優しく下ろされドレスを脱がされた。
複雑なデザインのウェディングドレスをするすると脱がしていくその器用な手つきに、ユリウスは何でもできるんだな……なんて感心しているとルビーはあっという間に下着姿になっていた。
もともと羞恥心の薄いルビーだが、さすがになんだか恥ずかしくなって、身体を手で隠してユリウスから見えないようにした。
「あ、あの。ちょっと……待ってくださ……」
「申し訳ないですが、もう待ちませんよ」
「でも、恥ずかしくて」
「恥ずかしいだけならやめません。嫌なら蹴飛ばしてください」
ユリウスを蹴飛ばすなんてできるはずがない。だってルビーは、大好きなユリウスに触れられるととても幸せなのだから。
「あなたの全てを可愛く思っています」
優しいキスが、だんだんと熱を帯びて……ルビーはそのまま全身をくまなく愛された。具体的なことは何もわかっていないルビーに、ユリウスは時間をかけて愛を伝えていった。
ルビーは初めての快感と、経験したことのない痛みと、言葉にできない愛おしさが込み上げてきた。
「ルビー、愛しています」
「わたしも……ユリウスを……愛しています」
大粒の涙を流しながら微笑むルビーを、ユリウスは強く抱き締め……その夜二人は本物の夫婦になった。
パチパチと大きな拍手とたくさんのフラワーシャワーが舞い散る中、正装したユリウスとウェディングドレスを着たルビーは使用人たちに祝福されていた。
「みんな、ありがとう」
「うっうっ……ありがとうございます」
二人には秘密で使用人たちは、結婚パーティーの準備をしていた。飾りつけはユリウスが不在中、そしてルビーを部屋で整えている間に行った。
「これは魔法のお花です」
「あの時の……」
「ずっと綺麗に咲いていましたよ」
「それはエドガーさんが大事に育ててくれていたからです」
部屋を彩る花たちは、以前エルヴィが魔法で出した花だった。それを枯らさぬように育ててくれた庭師のエドガーに、ルビーはお礼を言った。
「旦那様の大事なものを、枯らすわけにはまいりませんからね。毎朝愛おしそうに花を見つめていらっしゃったので」
エドガーは、ニヤリと笑いながらユリウスを見つめていた。老齢のエドガーは、幼い頃からユリウスを知っている。
「……エドガーはいつも一言多いのだ」
「はは、それは申し訳ありません。坊ちゃん」
「その呼び方はやめてくれ。私を何歳だと思っているんだ」
「いやいや、失礼しました。旦那様」
ルビーは、この花を見てユリウスが自分を思い出してくれていたことを知って嬉しく思った。
そしてルビーが着ているウェディングドレスは、エルヴィが最後の日に身に付けていたものだ。きちんと手入れして保管されてきたので、一年経過したとは思えない程そのままの状態で残っていた。
「わたしたち幸せですね!」
「ええ、そうですね」
ユリウスとルビーは、大好きな使用人たちに祝われて楽しい夜を過ごした。
大好きな肉料理がたくさん並んできただめ、ルビーは目を輝かせてパクパクと嬉しそうに頬張っていた。
「んんー、美味しいです」
花嫁がこんなに豪快に食事をするのは珍しい姿ではあるが、その素直な喜びようにユリウスは目を細めた。
「私も負けないように食べないといけませんね」
「はい! ラハティ家で食べる料理が一番美味しいです」
「はは、それは良かったです」
腕によりをかけたシェフたちは、ルビーの褒め言葉に照れながらも喜んでいた。
彼女に再会するまで少し食が細くなっていたユリウスも、ルビーの食べっぷりにつられて自然とたくさん食べることができた。
豪華なウェディングケーキもみんなで平らげて、パーティは終わりを迎えた。
「最後に……皆にも聞いてほしいことがある」
ユリウスは片膝をついて、ルビーの左手を自分の手のひらの上にのせた。
「命が尽きる最期の瞬間まで、ユリウス・ラハティはルビーを愛すると誓います」
ユリウスの綺麗なブルーの瞳がきらりと輝き、真っ直ぐにルビーを見つめていた。
そのあまりの格好良さにルビーは倒れそうになったがグッと耐えた。
「……それならば、わたしは命が尽きてもユリウス様を愛します!」
ルビーは大きな声でそう宣言した。一瞬シンと静まり返った後、たくさんの笑い声が聞こえてきた。
「ははっ、せっかく格好をつけたのに……あなたには敵いませんね」
ユリウスは照れたように眉を下げ、声を上げて笑っていた。周りにいる使用人たちもふふふ、と嬉しそうにしている。
「だって……その……わたしの方がユリウスを好きな気持ちが大きいですから」
人差し指をツンツンとしながらそんなことを言うルビーを見て、ユリウスはふうとため息をついた。
「ルビーは全然わかっていませんね」
「え?」
「私がどれほどあなたのことを好きか」
ユリウスはルビーをふわりと横抱きにした。
「皆、ありがとう。私たちは部屋に戻るので後のことは頼んだよ。明日の昼まで近付かないように」
堂々とそう宣言したユリウスに、使用人たちは承知したという合図の代わりに頭を深く下げた。
「あ、あの! ユリウス?」
「今夜はじっくりと、私の愛を伝えましょう。嫌というほどにね」
腕の中で子どものようにバタバタと暴れるルビーを連れ去っていくユリウスの後姿を、使用人たちは嬉しそうに見つめていた。
「旦那様、幸せそうですね」
「ええ、本当に良かったです」
「ここまでが……長かったですからね」
「きっとこれから忙しくなりますよ」
執事のジュードは屋敷がさらに賑やかになるだろう今後のことを考えて、ニッと口角を上げた。
♢♢♢
夫婦の寝室に連れて行かれたルビーは、ベッドに優しく下ろされドレスを脱がされた。
複雑なデザインのウェディングドレスをするすると脱がしていくその器用な手つきに、ユリウスは何でもできるんだな……なんて感心しているとルビーはあっという間に下着姿になっていた。
もともと羞恥心の薄いルビーだが、さすがになんだか恥ずかしくなって、身体を手で隠してユリウスから見えないようにした。
「あ、あの。ちょっと……待ってくださ……」
「申し訳ないですが、もう待ちませんよ」
「でも、恥ずかしくて」
「恥ずかしいだけならやめません。嫌なら蹴飛ばしてください」
ユリウスを蹴飛ばすなんてできるはずがない。だってルビーは、大好きなユリウスに触れられるととても幸せなのだから。
「あなたの全てを可愛く思っています」
優しいキスが、だんだんと熱を帯びて……ルビーはそのまま全身をくまなく愛された。具体的なことは何もわかっていないルビーに、ユリウスは時間をかけて愛を伝えていった。
ルビーは初めての快感と、経験したことのない痛みと、言葉にできない愛おしさが込み上げてきた。
「ルビー、愛しています」
「わたしも……ユリウスを……愛しています」
大粒の涙を流しながら微笑むルビーを、ユリウスは強く抱き締め……その夜二人は本物の夫婦になった。
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