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41愛してる

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 披露宴もかなり盛り上がったが、夕方になってとりあえず解散になった。両親はもう今日は夜通し近所のみんなと飲み続けると言うので、私達は新居に帰ることにした。

 すると、私は帰る直前に町のお姉様方に囲まれて捕まった。飲み屋のお姉様達も小さい頃から私を可愛がってくれているのだ。みんな色っぽくて色気がムンムンだ。

「おめでとう。でも初心なミーナが、まさかあんな年上の色男捕まえるとはねぇ」
「ほんと、人生わかんないものよね」
「あーんな身体も顔もいい男、こんな田舎にいないんだから羨ましい。でも私たちの可愛いミーナが、あの経験豊富そうな男の嫁になるの少し心配だわ」
「まあ、上手くやってくれるでしょ。大人だし?ほら、これみんなからお祝い。どれも高級品だから安心して」
「ありがとう。でも……なにこれ?」
「帰ってから二人でたっぷり楽しんで」

 私にはよくわからないが、なんか二人で楽しめる物らしい。うふふと笑うお姉様方に「ありがとう」とお礼を告げた。

「皆さん、今日はありがとうございました」
「あらぁ、ミーナ!噂してたら男前の旦那様が来たわよ」
「ハハ、これからも夫婦ともどもよろしくお願いします」
「ミーナはこの町のみんなの可愛い妹みたいなものだから。虐めたら許さないわよ」
「気をつけますね」
「お腹が空いていても一気に食べてはだめ。美味しい物は少しずつ食べるべきだわ」

 お姉様はニッコリと微笑むと、カールは何故か苦笑いをした。ん?美味しいもの?晩御飯の話??

「……気をつけます」

 私にはよくわからない話が繰り広げられた後「そろそろ行こうか」と彼に促され、みんなにもう一度お礼を言って食堂を後にした。

 馬車に乗り、新居に着く。今日からこの家が私達の住処なのだ思うと胸が高鳴る。

「あー……楽しかったけど疲れたね」
「そうだな。でも幸せだった」
「うん、私も」

 いい加減ドレスは苦しいので部屋で脱いでくると言うと「脱がしたい」と困ったことを言われる。

「だ、だめ。絶対だめ」
「どうして?」
「そんな、だって……だめ!」

 私は真っ赤になってぶんぶんと左右に顔を振った。寝る時にそういうことをすることはわかってるけど、今は無理だ。シャワーとか色々ちゃんとしたいから。

「抱きたいとは言ってないけど?」
「それでもだめ!恥ずかしいから」
「じゃあ、これで我慢する」

 彼にクイッと顔をあげられ、ちゅっ……と唇を吸われる。そのまま何度もちゅっ、ちゅとキスをされ口内へ舌が入ってくる。

「可愛い」
「ふっ……」
「君のドレス姿見た時から、ずっとこうしたかった。でもできなかったから」

 ちゅくちゅく……といやらしい音が部屋中に響く。ボーッとしてきた時に、やっと体が離されたがテカテカと光った彼の唇がセクシーだ。

 カールはわざとミーナに見せつけるように、ゆっくりと自分の唇を舐めた。

「続きは……後で」
「う、うん」
「晩御飯はどうする?」
「お腹いっぱいだわ」
「だよな。じゃあ……早く準備して、寝室で祝酒を少しだけ飲もう」
「うん」
「着替えるついでにシャワー浴びておいで」
「う、うん」

 新居はなかなか広い。一階は小さなレストランで、二階と三階は居住部分。そしてお互いの部屋の真ん中に二人の寝室を作った。続き部屋で、鍵を掛けなければどちらの部屋にも移動できるようになっている。

 私はドレスをなんとか一人で脱いでお風呂に入り、いい匂いのボディーソープでピッカピカに体を磨いた。髪もトリートメントして、香油をつけて完璧なはず。うん、これで恥ずかしくない。

 そしてお母さんが用意してくれた夜着を開いてみると、それは……真っ黒でレースがふんだんに使われてるのに透け透け。想像していたより、なんともセクシーな物だった。

「ええっ……これ着るの!?」

 しかも黒って。最初からなんか攻めすぎてない?なんかえっちだし。王家の閨教育の教科書では初夜はホワイトか薄いピンクが望ましいとか書いてあったけど。じつは自分でも何枚か用意していたのだが、つい可愛らしいデザインのものを選んでいた。やっぱり自分で選んだ方を着ようかな。

 ミーナへ
 新婚だからこれくらいの夜着は普通よ
 びっくりしないでね
 白か悩んだけど、せっかくだしカールの色にした
 絶対に喜ぶと思うから
 ファイト!

 そんなメモがペラリと出てきた。なるほど……彼の色だったわけね。ううっ……恥ずかしいけど経験のない私には、もはや何が正解かなんてわからない。よし、もうこうなったら開き直ろう。お母さんに従って、これを着てやろうではないか!今夜は黒だ!

 それを着た自分は酷く大人びて、やっぱり恥ずかしい。一緒に入っていた着心地のよいガウンをしっかりとボタンを留めた。これで中は見えないはずだ。

「カール、お風呂あがったよ」
「あ……ああ。じゃあ俺も入ってくる」

 彼は一瞬だけこちらを見たが、スッと視線を外してさっさとお風呂場に行ってしまった。

 あれ?なんか言われるかなと思ったのに拍子抜けだ。そうだよね。すぐに寝るわけじゃないもんね。

 私は寝室で寛いでいると、彼は短時間でお風呂から上がってきた。彼はスラックスにガウンを羽織っているだけだ。カールが動くたびにチラチラと肌が見えるので、中に何も着ていないんだと思うと恥ずかしくなった。

「カール……髪濡れてる」
「あ、ああ」
「なんか珍しいね。いつもカールの方がちゃんとしてるのに。拭いてあげる」

 ポタポタと髪から垂れる水を、タオルでゴシゴシと拭いてあげた。

「ごめん、なんか焦って」
「ふふ、何を焦ったの?」
「早くミーナを愛したいなって」

 髪を拭いていたが驚きで動きが止まった私の手を、そっと掴んで熱っぽく見つめてきた。私は彼から視線を逸らせなかった。

「……だめか?」

 カールは眉を下げ甘えるような声を出した。ずるい。そんなの断れるわけないのに。

「だめ……じゃない」
「よかった。酒はまた今度にしよう」

 彼はホッとしたように、私をそっと抱きしめた。何度も抱き締められているはずなのに、少し怖くなってピクリと体が強張った。

「ミーナ、緊張してる?」
「うん」
「俺も緊張してる」
「え?カールも?」

 カールは何度も経験があるだろうから、緊張してるのは私だけだと思っていた。

「当たり前だろ。大好きな人を前に緊張しない男はいない。ほら」

 彼は私の手をカールの心臓に持っていった。ドクドクドクとすごい速さで動いている。

「カールも……私と同じなのね」
「そうだよ。一緒だ」

 それがわかると、なんだか安心してふっと力が抜けた。彼は私の頬をするりと撫で、キスをしながらそっとベッドに押し倒した。

「ミーナ、愛してる」

「好きだよ」

「可愛い」

 カールは私に甘いキスをしながら、同じくらい甘い言葉を繰り返す。そして彼はガウンのボタンにそっと手をかけ、キスをしながら片手で器用に外していく。

「……っ!」

 彼から声が聞こえなくなったので、どうしたのかとそっと見上げるとカールはじっとある一点を見つめていた。

 どこを見てるのかと思ったら……胸!?うわぁ……恥ずかしい。セクシーな夜着は胸元が大きく開いている。実は私は着痩せするタイプで、小柄な割に胸が大きめなのだ。それがアンバランスな気がして、私はなんとなく彼に隠したかった。

 カールに、はしたない体って思われたらどうしよう。私は慌てて、手で胸を隠した。

「……隠さないで見せて?」
「やだ……恥ずかしい」
「すごく綺麗だ」

 私は全身真っ赤に染まった。彼に隠している手を外され、夜着の上からそっと撫でられる。私はピクンと体が跳ねた。

「想像より、大きくて驚いた」
「ん……ごめんなさい」
「どうして謝る?」
「背が低いのに、ここだけ育ってるの嫌なの」
「俺は好き。すごく好きだ」

 カールはゆっくりと胸元にキスを落としていった。

「柔らかくて気持ちいい」
「やっ……ん」
「夜着も似合ってる。まさかこんなセクシーなの着てくれると思ってなかったけど?」

 彼は夜着のリボンをくるくると指で弄びながら、ニヤッと意地悪に微笑んだ。私はさらに真っ赤になった。やっぱり最初から黒ってだめだった?

「……の……だから」
「ん?なんて言ったの?」
「カールの色だから!つ、次はもっと可愛くて清楚なのにする……から……今夜は……その……これで許して」

 彼は私をじっと見つめたまま動かなくなった。え?なんか変なこと言った?

「俺の……色?」
「う、うん」
「うわ……それ、やばい」

 ええ、やばいですよね。ごめんなさい。初夜から黒のレースなんてカールも嫌よね。可愛い奥さんの方がいいもんね。

「嬉しい」
「……え?」
「ミーナが可愛すぎて……頭おかしくなりそう」

 彼は真っ赤になり、少し息が荒くなっている気がする。

「君が煽るのが悪い。もう全部見せて……全部見たい」

 私が戸惑っている間に、ガウンを全部剥がれて薄い夜着の上から全身を愛される。彼の触れるところ全てが熱くて、胸が苦しくなる。

 濃厚な口付けをしながら、徐々に夜着を脱がされゆっくりじっくりと体に快感を覚えさせられる。

「恥ずかし……い」
「恥ずかしくないさ」

「綺麗だ。力抜いて、そのまま気持ちよくなって」
「ひゃ……あ」
「ミーナ、可愛い声だ」

 もうどれくらいこの状態が続いているのだろう。ふわふわとぬるま湯に浸かっているような気持ちよさから、急に激しい刺激がきてぶるりと体が震える。それがずっと繰り返され……まるで自分の身体ではないような感覚だ。

 カールは欲を含んだ獣のような獰猛な目をしながらも、私に優しくキスを続けた。私は……彼に愛されてとろとろに蕩けてしまっていた。

 しばらくすると、彼がゴクンと喉を鳴らした。そして自分のガウンを脱ぎ捨てると、引き締まった裸体が目の前に現れた。

「君と一つになりたい」
「うん、私も」
「……痛いと思う」
「いいの。あなたが与えてくれるなら……痛みも嬉しいの」
「そんなこと言われたら止まらなくなる」

 その瞬間体の中に彼が入り、ゆっくりと先に進むたびに体験したことのない痛みがきた。

「愛してる」

 はじめての痛さにポロポロと涙が溢れる。苦しくて息が止まる。

「ミーナ、ちゃんと息して」
「い……き……?」
「そう。ゆっくり……吸って……吐いて。ごめん、止められない」

 彼は私の目から溢れる涙を、ちゅっと舐めとって頬を撫でた。そしてカールの顔がとても苦しそうなのを見て、私は焦ってしまった。きっと私が初めてで上手くできないからだ。

「ごめ……んなさい」

 私はさらにボロボロと涙が流れ、止まらなくなってしまった。

「俺の方こそごめん。今夜はここまでにしよう」

 え?もしかしてやめちゃうの?せっかく結婚したのにそんなの嫌だ。

「やめないで。でも……カールが辛そうな顔してるから。私じゃ……気持ち良くないんでしょう?」
「……っ!?」
「上手く……できなくてごめんなさい。頑張るから……嫌わ……ないで」

 カールは口元に手を当てて、目を逸らした。

「嫌うわけない!それに違う」
「え?」
「ミーナは痛いのに……俺だけ気持ちいいんだ。すまない、にやけるのが嫌で眉間に皺よせて耐えていた」
「そうなの?」
「ああ」

 それを聞いて私は「良かった」とフニャリと微笑んだ。力が抜けた瞬間に、私の中に彼がさらに入ってきた。

「そのまま力を抜いて。俺のこと素直に感じて?」

 カールは私の胸を優しく撫でながら、濃厚な口付けを繰り返した。

「ミーナ好きだ。可愛い」
「ああ、私も……カール……すき」
「くっ……ミーナ、一つになれた」

 その言葉に、ついに彼と本当の夫婦になれたのだと嬉しくなった。

「愛してる。ありがとう……俺の妻になってくれて。とても幸せだ」
「カール……私も愛してる。私も幸せよ」
「生きていて……君に逢えて良かった」

 そのまま動かずギュッと抱きしめ合った。どうなるかと思ったけれど、ちゃんとできて良かったと心の中で安堵した。痛いけれど、精神的にはとても満たされている。

「はぁ……はぁ……ミーナ……」
「なぁに?」
「ごめん。もう……我慢の限界」
「……ん?」
「俺の背中に手を回して。痛かったら爪たてていいから」

 ――ん?我慢?爪をたてる?何の話なのだろうか。

「愛してる」

 その瞬間、身体が大きく揺れて目の前にチカチカと光が見えた。

 その後はもうそれはそれは言葉にできない程すごかった。カールに激しく愛され、意識が飛ぶほど揺さぶられた。もう何がなんだかわからない状態で「ミーナ!」と何度も何度も名前を呼ばれていたことだけ薄らと記憶がある。

「綺麗だ」
「可愛い」
「大好き」

 私は甘い言葉を聞きながら意識が朦朧として「カール、愛してる」と言うと、急に「ミーナ、俺も愛してる」と叫び彼の力がぐったりと抜けたのがわかった。

 ぐったりと汗に濡れた彼を抱きしめながら、途中でもう終わったと勘違いしていた自分が恥ずかしいなと思った。私が習った王宮での閨の教育は、まるで役に立たなかった。

 最終的に私はそのまま意識を失った。初めての夜はとても甘くて気持ち良くて、かなり苦しくて刺激的だった。


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