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37可愛い
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この人は、明らかに一人だけずば抜けて強い。それは素人の私が見ていてもわかる。
「陛下、この方はどなたですか?」
「今の騎士団エースのジュードだ。実力だけなら、今すぐ団長になっても良いくらいだな。新人時代には、カールが剣を教えていた。やはりこのレベルでないとカールとはやり合えないか」
未だに決着はついておらず、激しく剣がぶつかり合っている。激しい闘いに私はハラハラと心配になってきた。
「カール様、貴方のことずっと憧れていました。なのに、なぜ騎士をやめるなんておっしゃられるのですか!?」
「もっと大事なことができたからな」
「女なんかのために、騎士をやめるなんて信じられません!貴方はいつも冷静で、強くて……闘いを一番に考えていたのに!!」
打ち合いながらも、ジュードという男の怒っているような声が聞こえてくる。
「俺の人生だ。俺が決める」
「それに、どうしてこんな普通の女なんですか?貴方の人生をかける価値なんてないでしょう?」
その瞬間に、男が私の方に剣を向けてきた。え、えーっ?私にどうして!?刺されると思って目を強くつぶって、ギュッと自分の手で体を抱きしめた。
「……馬鹿が」
そんな陛下の声が隣から聞こえた瞬間、ビュッと目の前に風が舞った。
キーン、ドサッ……
痛みがこないので、恐る恐る目を開けると私の前にはカールがいて男は地面に倒れ、剣は遠くに飛ばされていた。
カールは倒れているジュードの喉元に剣を当て、上から見下ろした。
「戦時中なら、お前は死んでる」
「くっ……」
「ミーナに手を出すなら、誰であっても容赦はしない。彼女が普通?こんな女?ふざけるな。暴言を吐くなら、俺を倒してからにしろ」
彼は男の腹に足を置き、グリッとゆっくり力を入れた。いけない、カールは完全にブチ切れている。
「ゔわぁ……ぐっ……うっ」
ジュードの悲鳴が聞こえる。私は真っ青になって、慌てて彼の腕を掴んだ。
「カール!もうやめて。あなたにそんなことして欲しくない」
私の声に彼はハッと正気に戻り、足をどけて剣を納めた。
「ミーナ、ごめん。嫌なところを見せた」
「ううん、お疲れ様。こちらこそごめんね。私があなたの闘っているところが見たいと言ったから」
よかった。いつもの優しい彼に戻ってきたようだ。
「陛下!ご無事ですか!?ジュード、お前……陛下の傍で剣を抜くなど不敬だ。懲罰ものだからな」
陛下の側近が近付いてから、ジュードに詰め寄ろうとした。剣は明らかに私を狙ったものだったが、隣にいた陛下に楯突いたと勘違いされてもおかしくはない。
「よい、余興の一環だ。私が二人の剣技を近くで見たいと申したのだ」
「陛下……しかし……」
陛下は側近達を制し、カールをチラリと見たが彼は不機嫌な表情のままだ。しかしさすが王の器だ。この場を大きな心で許された。
「此度の勝負カールの勝ちだ!皆、ご苦労であった。今後もより一層鍛錬に励め」
陛下のお言葉でその場はすぐに解散になった。
「ミーナ嬢、私の臣下が失礼をしたね。怖い思いをさせた。許してくれ」
「何のことですか?何も起こっていません」
私がとぼけたフリをしてそう言うと、陛下はフッと微笑まれた。
「感謝するよ。あいつはカールに憧れていたから、受け入れられないのだろう。まだ若いからな」
「そうですか」
「そうだ。ミーナ嬢、君が望んでいた紅茶等は全て用意してある。馬車に積むように指示したから確認してくれ。今回の詫びに王家のとっておきの菓子もつけよう」
「わぁ、よろしいんですか?嬉しいです」
「半年ごとに同じ量を送る。カールの今までの褒賞と思ってくれ……まあ、こんなのじゃ本当は礼は足りんがな」
はぁ、とため息を吐く陛下にカールは「ミーナが喜ぶのが一番なので、それが俺の望みです」と言った。
「そうか、私はここで失礼する。気をつけて帰れ」
「ありがとうございます。シュバイク王国の更なる繁栄、あなた様のご健勝遠くからお祈りしております」
「大変お世話になりました。失礼致します」
「ああ、二人に会えて嬉しかったぞ。では」
陛下は爽やかに軽く手をあげて、マントを翻し颯爽と去って行った。
するとジュードはふらふらと立ち上がってきた。大丈夫なのかしら?心配になる。
「なんであんたみたいな女なんだ。カール様に全然似合わない!ガキっぽいし、ちんちくりんだし」
ちんちくりん……そういえばカールに出逢った頃に同じことを言われたと思い出し少しイラッとした。どうせ私はチビですよ!私はジュードにギロっと睨まれた。
「ジュード!お前……よっぽど俺に殺されたいようだな」
怒りの表情のカールが、バキバキと拳を鳴らしている。いやいや、あなたも私にちんちくりんって言ってたからね!
「カール、黙ってて。私が話すわ」
彼にはもう暴力はして欲しくない。
「カール様に似合う美しい御令嬢はもっといる!あんたみたいな平凡な女が手に入れていいお方じゃない!」
「あなたはカールのこと、とっても慕ってくれているのね」
「剣がものすごく強くて、クールで格好良いカール様は俺の憧れだ!ずっとカール様を目標に頑張ってきた。それなのに、急に退団されたと思ったら……結婚して騎士を辞めるなんて。信じられるわけがない!貴方に騙されてるんだ!!」
ジュードは悔しそうに唇を噛み、俯いた。
「貴方の気持ちわかるわ。憧れの人が急に居なくなって、しかも何の力も美貌もない平民女と結婚して騎士を辞めるなんて最悪よね」
「……え?」
少し間があった後、ジュードはぽかんと口を開けて驚いた顔をした。
「ミーナ!何を言ってるんだ」
「これは一般論よ」
「君以上に素晴らしい女性などいるはずがない!」
カールは事実を言った私に不満気だが、今はとりあえず彼を無視する。
「でも、あなたが何と言おうと私は彼を手放せないわ。本気で愛してるから。彼が強い騎士で英雄だから好きなんじゃないの。だって……同じような年齢で同じ平民なら良かったのにって何度も思ったもの」
「……」
「でも私のことは嫌いでも、カールのことは嫌いにならないで」
私はニコリと微笑んだ。カールは私の言葉に嬉しそうに顔がにやけていたが……ゴホンと咳払いをしてキリッと表情を引き締めた。
「ジュード、俺が先に彼女に惚れたんだ。それに騙されてるわけがない。俺の地位や名誉、金が目当てならこの国で騎士として生きてくれというはずだろ?しかし彼女は何も持たない今の俺を選んでくれた」
「……そうですよね。お二人ともすみませんでした。俺がミーナ様のこと勝手に誤解してました」
ジュードは頭を深く下げた。
「わかってくれてありがとう」
「子どもみたいなこと言って申し訳ありませんでした。お二人のご結婚祝福します」
「あなた、すごく努力されてるわよね?その手は剣を沢山振っていないとできないわ。それに引き締まった体も一日二日ではならないはず。あなたのその若さでカールと互角に剣を打ち合っていた。きっと……この国を担う素晴らしい騎士になられるはずです。引き続き励んでくださいませ」
私は微笑むと、ジュードはハッと顔をあげた。
「騎士が訓練するのは当たり前のことです」
「その当たり前を、真面目にできるのも才能だわ」
「……っ!そんなこと、言っていただいのは初めてです。ありがとうございます」
彼は何故か頬を染めている。褒めたから照れているのかしら?
「もしルニアス王国に来ることがあれば、ぜひうちのレストランにお越しくださいね」
「レストラン?」
「ええ、私は料理人なの。来月カールと結婚したらレストランを開くのよ」
「そうですか。俺なんかが行ってもいいんですか?……あなたにあんな酷いことしたのに」
「もちろん!お気になさらず。私達仲直りしましたよね?カールも喜ぶのでお待ちしてます」
私は和解の意味を込めて、彼と握手してブンブンと振った。あーよかった。カールの教え子に嫌われるのは哀しいもの。
ジュードはわたわたと焦り、さらに真っ赤になった。すると、後ろからカールに手を強引に剥がされた。
「ジュードは忙しいだろうから、無理して来なくてもいい」
「え?あー……そうよね。騎士は忙しいわよね。ごめんなさい!気軽に誘ってしまって」
「いえ!是非伺わせてください!!」
ジュードはまるで尻尾をブンブン振っている大型犬のようだ。
「チッ……」
「カール?」
「君って本当に……はぁ……」
カールはため息をついて、頭を抱えていた。
「あと、そのミーナ様のこと平凡とか言ってすみませんでした。訂正します。あなたは……その……綺麗です」
ジュードにそう言われて、私は驚いたが「ありがとう」とくすりと笑った。わざわざ適正するあたり彼は真面目な男のようだ。
「ジュード、ミーナが綺麗なのは当たり前だ。俺の婚約者なんだから」
「は、はい。そうですね!すみません」
「ほら、ミーナ。もう行こう」
「ええ、ではここで失礼しますね」
「はい、ご指導ありがとうございました」
「お前はまだ発展途上だ。これからまだ強くなる。毎日励め」
「はい!」
ジュードや他の騎士達に見送られ、カールは騎士の服を返して馬車に乗り込んだ。
「わあ、本当にお土産がいっぱい」
「よかったな」
御者さんにお願いしますと挨拶をして、私達は出発した。
「ミーナ、気をつけてくれ」
「え?何を」
「君はすぐに人を惹きつけるから心配だ」
私が「んー?」と首を捻って何のことか考えていると、頬にキスされた。
「……ジュードのこと」
「カールに懐いてて素直で可愛いね。私より少し年上くらいの年齢?」
「……可愛くない。君の口から、別の男の話なんて聞きたくないんだが」
カールはムスッと怒ったような顔をして、不貞腐れている。
「え?もしかして妬いてる?」
「当たり前だろ。ジュードは……君と年が近いから……嫌だ」
どうやらカールは本気で妬いてるようだ。なんか拗ねていて可愛い。
「ふふ、ジュードが可愛いなんて勘違いだったわ。カールの方がずーっと可愛い」
「……は?可愛い?俺が?」
「うん。私はこんなにあなたを大好きなのに、まだ他の人に妬いちゃうカールが可愛い」
私がくすりと笑うと、彼は私を膝の上にひょいと乗せて後ろからぎゅうぎゅうと私を抱きしめた。
「妬くよ。君に話しかける男みんなに妬いてる。だってミーナと話したら……みんな君を好きになるから」
「ははは、そんなことないわよ」
「……あるよ。陛下もジュードも君を気に入っていた」
「それは恋愛感情じゃないわ」
「そんなのは時間の問題さ。君と長く過ごせば……好きになる。だから本当は君を他の男と話させたくない。俺と二人きりの部屋にずっと閉じ込めたい気持ちになる時があるよ」
「……カール」
「ごめん、本気でそうしたいわけじゃない。でもそういう気分になる時がある。だけど君が輝くのは、人と接している時だと俺はちゃんとわかっているから」
彼は私の肩におでこを擦り付けてぐりぐりと甘えている。
「私が好きなのは、あなただから」
「ああ」
「年齢とか関係ないから」
「……ありがとう。愛してる」
彼は後ろから首筋にちゅっ、ちゅと口付けを繰り返す。触れる唇がとても熱くて、恥ずかしい。
「はぁ……家に帰ったら、ミーナとこんなに近付けないな」
「そうね」
「そう思うと、帰りたいけど帰りたくない」
「なにそれ」
「俺の複雑な乙女心わからない?」
「カールは乙女じゃないでしょうが!」
そんな軽口を言いながらも、二人きりのイチャイチャを楽しんだ。彼と一緒にいたら長いはずの旅も、あっという間に時間が過ぎ去った。
「おかえりなさい」
「おかえり」
家に着くと、両親が笑顔で出迎えてくれた。たった数日だが久しぶりな気がするのが不思議だ。沢山のお土産をおろした。
「土産すごい量だな」
「なんと国王陛下から、お祝いにいただいたの」
「そんなお方とカールが知り合いなのが驚きだ」
「私もご挨拶したけど、緊張したわ」
そして私達は御者さんにお礼を言う。
「どうか、我が家で休んで帰ってください」
「いえ、私は戻って報告までが仕事なので。私はお二人をお送りできて光栄でございました」
優しい御者さんは休憩を拒否されたので、私はお父さんが作っていた明日の仕込みの中から簡単につまめる食事とお菓子を包んで渡した。
「お気遣いありがとうございます」
御者さんは嬉しそうに微笑んでくれたので、私も嬉しくなった。これくらいしかしてあげられることがないから。
「気をつけてお帰りになってね」
「娘がお世話になりました」
「ありがとう、助かった」
王宮の馬車が遠ざかっていくのを、見送って家の中に入った。そして四人でディナーを食べながら、旅の話で盛り上がった。
「陛下、この方はどなたですか?」
「今の騎士団エースのジュードだ。実力だけなら、今すぐ団長になっても良いくらいだな。新人時代には、カールが剣を教えていた。やはりこのレベルでないとカールとはやり合えないか」
未だに決着はついておらず、激しく剣がぶつかり合っている。激しい闘いに私はハラハラと心配になってきた。
「カール様、貴方のことずっと憧れていました。なのに、なぜ騎士をやめるなんておっしゃられるのですか!?」
「もっと大事なことができたからな」
「女なんかのために、騎士をやめるなんて信じられません!貴方はいつも冷静で、強くて……闘いを一番に考えていたのに!!」
打ち合いながらも、ジュードという男の怒っているような声が聞こえてくる。
「俺の人生だ。俺が決める」
「それに、どうしてこんな普通の女なんですか?貴方の人生をかける価値なんてないでしょう?」
その瞬間に、男が私の方に剣を向けてきた。え、えーっ?私にどうして!?刺されると思って目を強くつぶって、ギュッと自分の手で体を抱きしめた。
「……馬鹿が」
そんな陛下の声が隣から聞こえた瞬間、ビュッと目の前に風が舞った。
キーン、ドサッ……
痛みがこないので、恐る恐る目を開けると私の前にはカールがいて男は地面に倒れ、剣は遠くに飛ばされていた。
カールは倒れているジュードの喉元に剣を当て、上から見下ろした。
「戦時中なら、お前は死んでる」
「くっ……」
「ミーナに手を出すなら、誰であっても容赦はしない。彼女が普通?こんな女?ふざけるな。暴言を吐くなら、俺を倒してからにしろ」
彼は男の腹に足を置き、グリッとゆっくり力を入れた。いけない、カールは完全にブチ切れている。
「ゔわぁ……ぐっ……うっ」
ジュードの悲鳴が聞こえる。私は真っ青になって、慌てて彼の腕を掴んだ。
「カール!もうやめて。あなたにそんなことして欲しくない」
私の声に彼はハッと正気に戻り、足をどけて剣を納めた。
「ミーナ、ごめん。嫌なところを見せた」
「ううん、お疲れ様。こちらこそごめんね。私があなたの闘っているところが見たいと言ったから」
よかった。いつもの優しい彼に戻ってきたようだ。
「陛下!ご無事ですか!?ジュード、お前……陛下の傍で剣を抜くなど不敬だ。懲罰ものだからな」
陛下の側近が近付いてから、ジュードに詰め寄ろうとした。剣は明らかに私を狙ったものだったが、隣にいた陛下に楯突いたと勘違いされてもおかしくはない。
「よい、余興の一環だ。私が二人の剣技を近くで見たいと申したのだ」
「陛下……しかし……」
陛下は側近達を制し、カールをチラリと見たが彼は不機嫌な表情のままだ。しかしさすが王の器だ。この場を大きな心で許された。
「此度の勝負カールの勝ちだ!皆、ご苦労であった。今後もより一層鍛錬に励め」
陛下のお言葉でその場はすぐに解散になった。
「ミーナ嬢、私の臣下が失礼をしたね。怖い思いをさせた。許してくれ」
「何のことですか?何も起こっていません」
私がとぼけたフリをしてそう言うと、陛下はフッと微笑まれた。
「感謝するよ。あいつはカールに憧れていたから、受け入れられないのだろう。まだ若いからな」
「そうですか」
「そうだ。ミーナ嬢、君が望んでいた紅茶等は全て用意してある。馬車に積むように指示したから確認してくれ。今回の詫びに王家のとっておきの菓子もつけよう」
「わぁ、よろしいんですか?嬉しいです」
「半年ごとに同じ量を送る。カールの今までの褒賞と思ってくれ……まあ、こんなのじゃ本当は礼は足りんがな」
はぁ、とため息を吐く陛下にカールは「ミーナが喜ぶのが一番なので、それが俺の望みです」と言った。
「そうか、私はここで失礼する。気をつけて帰れ」
「ありがとうございます。シュバイク王国の更なる繁栄、あなた様のご健勝遠くからお祈りしております」
「大変お世話になりました。失礼致します」
「ああ、二人に会えて嬉しかったぞ。では」
陛下は爽やかに軽く手をあげて、マントを翻し颯爽と去って行った。
するとジュードはふらふらと立ち上がってきた。大丈夫なのかしら?心配になる。
「なんであんたみたいな女なんだ。カール様に全然似合わない!ガキっぽいし、ちんちくりんだし」
ちんちくりん……そういえばカールに出逢った頃に同じことを言われたと思い出し少しイラッとした。どうせ私はチビですよ!私はジュードにギロっと睨まれた。
「ジュード!お前……よっぽど俺に殺されたいようだな」
怒りの表情のカールが、バキバキと拳を鳴らしている。いやいや、あなたも私にちんちくりんって言ってたからね!
「カール、黙ってて。私が話すわ」
彼にはもう暴力はして欲しくない。
「カール様に似合う美しい御令嬢はもっといる!あんたみたいな平凡な女が手に入れていいお方じゃない!」
「あなたはカールのこと、とっても慕ってくれているのね」
「剣がものすごく強くて、クールで格好良いカール様は俺の憧れだ!ずっとカール様を目標に頑張ってきた。それなのに、急に退団されたと思ったら……結婚して騎士を辞めるなんて。信じられるわけがない!貴方に騙されてるんだ!!」
ジュードは悔しそうに唇を噛み、俯いた。
「貴方の気持ちわかるわ。憧れの人が急に居なくなって、しかも何の力も美貌もない平民女と結婚して騎士を辞めるなんて最悪よね」
「……え?」
少し間があった後、ジュードはぽかんと口を開けて驚いた顔をした。
「ミーナ!何を言ってるんだ」
「これは一般論よ」
「君以上に素晴らしい女性などいるはずがない!」
カールは事実を言った私に不満気だが、今はとりあえず彼を無視する。
「でも、あなたが何と言おうと私は彼を手放せないわ。本気で愛してるから。彼が強い騎士で英雄だから好きなんじゃないの。だって……同じような年齢で同じ平民なら良かったのにって何度も思ったもの」
「……」
「でも私のことは嫌いでも、カールのことは嫌いにならないで」
私はニコリと微笑んだ。カールは私の言葉に嬉しそうに顔がにやけていたが……ゴホンと咳払いをしてキリッと表情を引き締めた。
「ジュード、俺が先に彼女に惚れたんだ。それに騙されてるわけがない。俺の地位や名誉、金が目当てならこの国で騎士として生きてくれというはずだろ?しかし彼女は何も持たない今の俺を選んでくれた」
「……そうですよね。お二人ともすみませんでした。俺がミーナ様のこと勝手に誤解してました」
ジュードは頭を深く下げた。
「わかってくれてありがとう」
「子どもみたいなこと言って申し訳ありませんでした。お二人のご結婚祝福します」
「あなた、すごく努力されてるわよね?その手は剣を沢山振っていないとできないわ。それに引き締まった体も一日二日ではならないはず。あなたのその若さでカールと互角に剣を打ち合っていた。きっと……この国を担う素晴らしい騎士になられるはずです。引き続き励んでくださいませ」
私は微笑むと、ジュードはハッと顔をあげた。
「騎士が訓練するのは当たり前のことです」
「その当たり前を、真面目にできるのも才能だわ」
「……っ!そんなこと、言っていただいのは初めてです。ありがとうございます」
彼は何故か頬を染めている。褒めたから照れているのかしら?
「もしルニアス王国に来ることがあれば、ぜひうちのレストランにお越しくださいね」
「レストラン?」
「ええ、私は料理人なの。来月カールと結婚したらレストランを開くのよ」
「そうですか。俺なんかが行ってもいいんですか?……あなたにあんな酷いことしたのに」
「もちろん!お気になさらず。私達仲直りしましたよね?カールも喜ぶのでお待ちしてます」
私は和解の意味を込めて、彼と握手してブンブンと振った。あーよかった。カールの教え子に嫌われるのは哀しいもの。
ジュードはわたわたと焦り、さらに真っ赤になった。すると、後ろからカールに手を強引に剥がされた。
「ジュードは忙しいだろうから、無理して来なくてもいい」
「え?あー……そうよね。騎士は忙しいわよね。ごめんなさい!気軽に誘ってしまって」
「いえ!是非伺わせてください!!」
ジュードはまるで尻尾をブンブン振っている大型犬のようだ。
「チッ……」
「カール?」
「君って本当に……はぁ……」
カールはため息をついて、頭を抱えていた。
「あと、そのミーナ様のこと平凡とか言ってすみませんでした。訂正します。あなたは……その……綺麗です」
ジュードにそう言われて、私は驚いたが「ありがとう」とくすりと笑った。わざわざ適正するあたり彼は真面目な男のようだ。
「ジュード、ミーナが綺麗なのは当たり前だ。俺の婚約者なんだから」
「は、はい。そうですね!すみません」
「ほら、ミーナ。もう行こう」
「ええ、ではここで失礼しますね」
「はい、ご指導ありがとうございました」
「お前はまだ発展途上だ。これからまだ強くなる。毎日励め」
「はい!」
ジュードや他の騎士達に見送られ、カールは騎士の服を返して馬車に乗り込んだ。
「わあ、本当にお土産がいっぱい」
「よかったな」
御者さんにお願いしますと挨拶をして、私達は出発した。
「ミーナ、気をつけてくれ」
「え?何を」
「君はすぐに人を惹きつけるから心配だ」
私が「んー?」と首を捻って何のことか考えていると、頬にキスされた。
「……ジュードのこと」
「カールに懐いてて素直で可愛いね。私より少し年上くらいの年齢?」
「……可愛くない。君の口から、別の男の話なんて聞きたくないんだが」
カールはムスッと怒ったような顔をして、不貞腐れている。
「え?もしかして妬いてる?」
「当たり前だろ。ジュードは……君と年が近いから……嫌だ」
どうやらカールは本気で妬いてるようだ。なんか拗ねていて可愛い。
「ふふ、ジュードが可愛いなんて勘違いだったわ。カールの方がずーっと可愛い」
「……は?可愛い?俺が?」
「うん。私はこんなにあなたを大好きなのに、まだ他の人に妬いちゃうカールが可愛い」
私がくすりと笑うと、彼は私を膝の上にひょいと乗せて後ろからぎゅうぎゅうと私を抱きしめた。
「妬くよ。君に話しかける男みんなに妬いてる。だってミーナと話したら……みんな君を好きになるから」
「ははは、そんなことないわよ」
「……あるよ。陛下もジュードも君を気に入っていた」
「それは恋愛感情じゃないわ」
「そんなのは時間の問題さ。君と長く過ごせば……好きになる。だから本当は君を他の男と話させたくない。俺と二人きりの部屋にずっと閉じ込めたい気持ちになる時があるよ」
「……カール」
「ごめん、本気でそうしたいわけじゃない。でもそういう気分になる時がある。だけど君が輝くのは、人と接している時だと俺はちゃんとわかっているから」
彼は私の肩におでこを擦り付けてぐりぐりと甘えている。
「私が好きなのは、あなただから」
「ああ」
「年齢とか関係ないから」
「……ありがとう。愛してる」
彼は後ろから首筋にちゅっ、ちゅと口付けを繰り返す。触れる唇がとても熱くて、恥ずかしい。
「はぁ……家に帰ったら、ミーナとこんなに近付けないな」
「そうね」
「そう思うと、帰りたいけど帰りたくない」
「なにそれ」
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「カールは乙女じゃないでしょうが!」
そんな軽口を言いながらも、二人きりのイチャイチャを楽しんだ。彼と一緒にいたら長いはずの旅も、あっという間に時間が過ぎ去った。
「おかえりなさい」
「おかえり」
家に着くと、両親が笑顔で出迎えてくれた。たった数日だが久しぶりな気がするのが不思議だ。沢山のお土産をおろした。
「土産すごい量だな」
「なんと国王陛下から、お祝いにいただいたの」
「そんなお方とカールが知り合いなのが驚きだ」
「私もご挨拶したけど、緊張したわ」
そして私達は御者さんにお礼を言う。
「どうか、我が家で休んで帰ってください」
「いえ、私は戻って報告までが仕事なので。私はお二人をお送りできて光栄でございました」
優しい御者さんは休憩を拒否されたので、私はお父さんが作っていた明日の仕込みの中から簡単につまめる食事とお菓子を包んで渡した。
「お気遣いありがとうございます」
御者さんは嬉しそうに微笑んでくれたので、私も嬉しくなった。これくらいしかしてあげられることがないから。
「気をつけてお帰りになってね」
「娘がお世話になりました」
「ありがとう、助かった」
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旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
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