【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹

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28 結婚式

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 あとはお兄様に認めてもらうだけだ。今日のお兄様はまだ一言も言葉を発していない。

「……おい、レベッカのこと泣かせたら許さないからな」

 お兄様はレオンさんを鋭い目でギロリと睨みつけた。。つまり……それは泣かせなければ許すという意味なのだろうか。

「はい。もちろんです!」

「この前は……酷い態度をとって悪かったな。レベッカを救ってくれたこと感謝する」

 お兄様のその言葉を聞いて、私はまた涙が溢れてきた。

「いえ、とんでもありません。認めていただきありがとうございます」

「お兄様、ありがとうございます。長い間ご心配をおかけして……すみませんでした」

「レベッカ、お前は昔からあの力のせいでしなくていい苦労を沢山してきた。だからこれから沢山幸せになりなさい」

「お兄様っ……!うっ……うっ……」

 私はお兄様の胸に飛び込んでわんわんと子どものように泣いた。お兄様はあやすようにポンポンと背中を叩いてくれている。

「レベッカにも酷いことを言ってすまなかったな」

 お兄様は小さな頃も、自分が家庭を持った後もずっと私の心配をしてくれていた。

「お兄様、私レオンさんと幸せになります」

「ああ、よかったな。こんな嬉しいことはない」

 こうして私とレオンさんは正式な婚約者になり、その三ヶ月後には結婚式を挙げることに決まった。

 貴族として本当は半年から一年の婚約期間を持つのが正しいが、レオンさんが一刻も早く一緒に暮らしたいと言い張ったのと……私の年齢のことも考えて短めの婚約期間になったのだ。

「時間は有限だから。一秒でも長くレベッカさんの傍にいたい」

 レオンさんに潤んだ目でそうお願いされたら、否と言うことは難しかった。それに私も早く彼と一緒にいたかった。

「レベッカさん、愛しています。俺と人生を共にしてください」

 彼は私の前にきちんと跪いて指輪を差し出し、改めてきちんと求婚をしてくれた。答えはわかっているはずなのに、レオンさんは緊張しているのか手が震えていた。

「はい、よろしくお願いします」

 その時の彼のとても幸せで嬉しそうな顔は一生忘れられそうにない。


 指に光り輝く指輪にドラゴン討伐の報奨金丸々使った……という恐ろしい話を知って私が悲鳴をあげるのは後になってからだ。








 心配していた彼のご両親からの結婚の許可は、驚くほどあっさりとおりた。おりた……というよりはむしろ大歓迎された。

「レベッカさん、ずっと君を探していたんだ。会えて嬉しいよ」

「うっうっ……レベッカさん。レオンを助けてくれて本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」

「レベッカ嬢、弟を助けてくれてありがとう。レオン、初恋が実って良かったな。お前は小さな頃から助けてくれた憧れの女性と結婚すると言っていたから」

 彼のご両親やお兄様、それどころか使用人の皆さんからも大、大、大歓迎歓迎されそれはそれはすごいおもてなしを受けた。レオンさんは本当に十歳の頃からずっと私を探していて、彼が私を大好きなことは家中の人が知っている事実だったそうだ。

 私はそれを聞いて流石に恥ずかしくてなって俯いてしまった。

「レオンを愛してくれてありがとう」

「私こそ……彼と出逢えて幸せです」

 こうして私達にはなんの障害もなくなった。彼のご両親はどうしても昔のお礼が言いたいと、わざわざ離れた地にある我が家にもお二人で出向いてくださった。

 それがきっかけで、いつの間にか私達抜きでやりとりをする程両親同士は仲良くなったらしい。



♢♢♢


 ――そして今日は結婚式。

「レベッカさん……すごく綺麗だ」

 彼は頬を染めてうっとりと私を見つめている。ドレスは彼が私に一番似合うものを用意してくれた。

「ありがとう、レオンさんも素敵ですよ」

 いつもより大人びて、キリッとしている彼は普段より何倍も男前だ。

「だめだ。もう泣きそう」

 彼はウェディングドレスに身を包んだ私を見て、目頭を押さえている。

「ふふっ、晴れの席で泣くのはやめてくださいませ」

 私はくすり、と笑った。奥様が泣いていることはあっても、旦那様が号泣している貴族の結婚式は見たことがない。

「だってこの日をずっと夢見てたから」

「夢じゃありませんよ。よろしくお願いしますね、旦那様」

「だ、旦那様っ!?」

 彼は顔を真っ赤にして、照れている。私はぐいっと彼の腕に手を絡めて「さあ、行きましょう」と微笑んだ。

「は、はい」

 私も緊張するけれど、ここは年上の奥様として大人の余裕を見せようではないか。

 教会の扉が開くと、たくさんの人達から祝福を受ける。ギシギシとぎこちなく歩くレオンさんは、団長や同僚から笑われていたが……その揶揄いにも愛が込められているのがわかる。

「レオン・セルヴァンは妻レベッカを一生愛することを誓いますか?」

「はい」

「レベッカ・シャレットは夫レオンを一生愛することを誓いますか?」

「はい」

「では、誓いのキスを」

 レオンさんが私の頬を優しく包み「愛してる」と呟いた後、そっと口付けた。

 その瞬間にわぁっ、と大きな歓声と拍手が鳴り響いた。少し照れてしまうが、幸せだ。

 レオンさんも緊張が解けたのか、いつも通りの明るい表情に戻った。

「おめでとう!幸せになれよ」
「レベッカさん、お綺麗です」
「レオンしっかりしろよ!」

 私達は「ありがとうございます」と皆に手を振りながら、教会を後にした。その後は魔法省の皆を中心に、披露宴を行った。

「ついに……よかったなぁ。レオンずっとレベッカ嬢のこと好きだったもんな」

「先輩、ありがとうございます」

 レオンさんは何故か号泣している先輩達に抱き締められて、お祝いの言葉を受けている。

「レオン、レベッカ様ご結婚おめでとうございます」

「お二人ともおめでとうございます」

 今日はカトリーナ様もお祝いに来てくださっていた。そしてカトリーナ様の隣には……ライナー様が優しく寄り添うように立っている。小物はお互いの色を入れており明らかに恋人同士だ。なるほど、そういうことなのか。

「おー!同期二人で来てくれたのか。ありがとう」

 その親密な様子を見ても、レオンさんは特に何も感じていないようで呑気にそんなことを言っている。

「ありがとうございます。お二人もどうかお幸せになってくださいませ」

 私がそう伝えると、お互い見つめ合って照れたようにはにかんだ二人がとても可愛らしかった。

「うっ……うぅ。レベッカさん、おめでとうございます」

「アリシアさん、来てくれてありがとう」

「そりゃあ来ますよ。めちゃくちゃお綺麗です」

 アリシアさんも泣きながら、私に抱き着いてきた。私はとても可愛い後輩を持ったものだ。

「おめでとうございます。二人とも皆に愛されていますね。まあ、魔法省で有名なカップルですから当然といえば当然ですが」

「事務長も……ありがとうございます」

 私が頭を下げると、彼はふんわりと優しく微笑んでくれた。

「お幸せに」

 それだけ言って事務長は「また」と軽く手を上げてその場を去っていった。すると入れ替わりでニタニタと意味深な笑顔の団長がこちらに来るのが見えた。うん……なんだか嫌な予感がする。

「レオンおめでとう。お前……祝いとはいえ、浮かれてそんなに酒飲んで大丈夫なのか?」

「団長、俺はもう大人ですから大丈夫です」

 レオンさんは何でもない、という風にプイッと顔を背けながらグイッとグラスの酒を飲み干した。

「ほお。流石……男だねえ」

 バシバシと彼の肩を叩きながら、ゲラゲラと笑っていた。

「本物の大人で大先輩の俺から、教えてやるよ」

 そう言ってレオンさんの耳の近くで、団長はボソボソと何かを囁いた。するとレオンさんは真っ赤になったと思ったら、すぐに真っ青になった。

 ――なに、あの百面相は。

 絶対に碌でもないことを教えたに違いない。私がギロリと睨むと、団長はくすりと笑った。

「ど、どうすればいいんですか!?」

 レオンさんは団長の肩をガクガクと揺らしながら必死にそんなことを言っている。

「さあ?まあ、若いから大丈夫なんじゃねぇの?自分を信じろ」

 カカカ、と笑って「健闘を祈る」とレオンさんに向けて色っぽくウィンクをした後に「レベッカ嬢もおめでとう。こいつのことよろしく」と言ってヒラヒラと手を振って去っていった。

 横ではグビグビと勢いよく水を飲むレオンさんがいて、私は首を傾げた。

「レオンさん、それ水ですよ?お酒取ってきますか?」

「い、い、い、いりません!あー……ちょっと酔ってしまったみたいで」

「大丈夫ですか?気持ち悪い時は言ってくださいね」

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」

 それから披露宴が終わるまでレオンさんは一切お酒を飲まなくなかった。ちなみにザルの私は、グビグビとお酒を嗜んでいたがもちろん酔っていない。

 若干の疑問を感じながらも、私達は来てくれた皆にお礼を言って新居に帰ることになった。

 その時、晴天の青空にいきなり真っ赤な翼の鳥が現れた。あれは……不死鳥フェニックス

【お前達、やっと番になったんだな】

「わざわざ来てくれたの?あの時はありがとうございました。あなたのおかげで……私達は幸せです」

「俺にも火の魔法を返してくれてありがとうございました!」

【くっくっく、レオンの緩みきった面白い顔を見に来ただけだ】

「面白いって……!そりゃ緩みっぱなしにもなるでしょ。大好きな人との結婚式なんだから」

 レオンさんはムッと唇を尖らせて拗ねている。フェニックスは、そんな彼を見てなんだか楽しそうだ。

【お前達人間の寿命は短い。限りある人生を後悔なく生きろ】

「はい。本当にありがとう」

【お前らの様子をたまに確認しに来よう。今日は祝いとしてあえて現れてやったのだ。人間達が作ったただの迷信だが、私を一目見たものは幸せになれるそうだからな】

 バッサバッサと羽音を立てて飛び立つ姿は、私達の結婚式の参列者達も目撃していた。あえて皆に隠さずに姿を見せてくれたようだ。

「すごい、本物の不死鳥フェニックス
「初めて見た」
「幸せの象徴っていうよね。結婚式にこんなことがあるなんて……奇跡だわ」

 わーわーと周囲が騒がしくなる。最後の大物すぎるゲストのおかげで、私達の結婚式はずっと語り継がれるくらい有名なものになった。

 私達はお互いを見つめて、不死鳥フェニックスが来てくれたことを感謝した。




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