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34 全部受け止めたい

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 お祭り騒ぎのパーティーを終え、二人はやっと新居に帰ってくることができた。

「おめでとうございます!」
「アイラ様、ドレスとても素敵です」
「オスカー様、思いが伝わってよかったですね」
「お幸せに」

 街中でも領民たちからアイラとオスカーを祝福する声は止まず、二人は手を振りながら帰ることになった。

 二人の新居は、ロッシュ領の中に建てられた。小さくて可愛らしい家は、アイラの生家からも近くて侍女のリラや使用人たちが通いで手伝いに来てくれることになっている。

『ロッシュ領で良かったのですか?』
『良いに決まってるだろ? 王都までも近いし、俺が仕事の時にロッシュ子爵家が近い方が安心だからな!』
『ありがとうございます』

 オスカーはいつでも、さも当たり前のようにアイラ第一に物事を考えてくれていた。それがとてもアイラは有り難かった。

「お嬢様、とても素敵でした」
「リラ、ありがとう」
「もう……お嬢様ではありませんね。奥様とお呼びしなければ」
「なんだかくすぐったいわね」

 ロッシュ子爵家の使用人たちにも、アイラはドレス姿を見せることができた。今まで色々あったので、みんな涙ぐみ喜んでくれた。

 結婚式後に疲れているだろうと、リラはアイラの世話をしに来てくれていた。リラはお風呂や軽食の準備も全てしてくれていて、とても助かった。

「はい、できましたよ」
「あ、ありがとう」
「では、私は帰りますので」

 夜の準備を終えたリラが、すぐに帰ろうとするのでアイラは慌てて止めた。

「ま、まだいいじゃない! ここにいて」
「……奥様」
「なに?」
「大丈夫です。素敵な夜をお過ごしくださいませ。また明後日に伺いますから」

 リラはニッコリと微笑み、そのまま去って行った。

「明日じゃなくて……明後日?」

 その明後日の理由は、アイラはまだわかっていなかった。

 アイラが着ているちょっと布の少なめな夜着は、特別な今夜のためのものだ。夫婦になったのだから、一緒に寝るのは当たり前だがアイラは少し不安だった。

 オスカーは普段から抱き締めたり、頬やおでこには何度も何度もキスをしてくれていた。だけど結局深いキスは数回しかしていないし、それ以上触れられたこともない。

「……私じゃそういう気分にならないのかしら?」

 大事にしてもらえているんだ、という気持ちと同時に胸がザワザワとした。

 オスカーはアイラにあれだけ毎日『好きだ』と言ってくれていても、ある一線以上は踏み込んでこない。

 しかしアイラも年頃なので、それなりに男女の触れ合いにも興味はある。未知の領域だから、怖いけれど愛するオスカーとはそれも越えてみたいのだ。

「入ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ」

 アイラは夜着をガウンでしっかりと隠して、恐る恐る二人の寝室に入った。オスカーもシャワーを浴びたらしく、タオルを首にかけたまたシャツを羽織っていた。ボタンが開いているので、鍛え上げられた腹や胸がチラチラと見えてアイラは視線を逸らした。

「街中すごかったな」

 緊張しているアイラに比べ、オスカーはとてもいつも通りに話してくれた。

「ええ、パレードみたいでしたね」
「それだけ領民たちから、アイラが好かれてるってことだな」

 オスカーはそう言ったが、アイラは自分だけでなく領民たちはみんなオスカーを慕っているのだと思っていた。

 もともと人の良いオスカーは好かれていたが、火事で助けてもらってからオスカーはロッシュ領のヒーローだったからだ。

「あなたの方が、好かれていますよ」
「そうか?」
「ええ、オスカー様はみんなのヒーローですから」

 アイラが微笑むと、オスカーは頭をかきながら苦笑いをした。

「いや、俺はそんな格好いいもんじゃねぇよ。そんな立派な人間でもないしな」
「え?」
「俺はアイラの……アイラだけのヒーローになれればそれでいい」

 そう言われてアイラは胸がドキッとした。オスカーと一緒にいると、泣きたくなるほど切なくて苦しくて……嬉しくて温かくなる。いつもそんな不思議な感覚になるのだった。

「充分です。ありがとうございます」
「ちなみに俺の物語のヒロインはアイラだけだ」
「ふふ、そうですか」
「愛してる」
「私も愛し……」

 アイラは全部言い終わる前に、オスカーの大きな手が頬を包み込みそのまま口付けをされた。

「んっ……ふっ……」

 ちゅっちゅと軽いキスを何度も繰り返した後、そのままゆっくりとベッドに倒された。

「アイラ、好きだよ」
「んんっ……ちょっと……待っ……」
「もう待てない」

 そのまま深いキスをされ、アイラはその気持ちよさにふわふわした気持ちになった。

「オスカー……さまぁ……」
「やっぱり、こんな可愛い顔をみんなに見せなくて正解だ」
「ふっ……んん……」
「ずっとこうしたかった」

 オスカーの大きなゴツゴツした手が、アイラの柔らかい身体を夜着の上から優しくなぞっていく。

「今日のアイラは色っぽいな。似合ってる」

 低く響く声で囁かれて、アイラはゾクリと身体が震えた。

「耳が感じる?」
「やっ……違いま……」
「いいところは教えて欲しい。アイラを気持ちよくしたいから」

 そのままカプリと耳を甘噛みされて、アイラは「ひゃっ」と変な声が漏れた。

「……可愛いな」
「あっ、やめて」
「やめない。今夜は覚悟して」

 その熱のこもった瞳を見て、アイラはオスカーが今まで『我慢』してくれていただけなのだとわかった。

「愛してる。できるだけ……優しくするから」
「んんっ、恥ずかし……い」
「大丈夫。とても綺麗だ。全部見せて欲しい」

 いつの間にかオスカーに夜着を脱がされて、時間をかけて全身をくまなく愛された。

 二人は体格差もあるため、かなり大変だったがオスカーの愛のおかげでなんとか夫婦になることができた。

「アイラ、一つになれたよ」
「本当……ですか?」
「ああ。温かくて気持ちがいい。しばらく、このままくっついていよう」

 アイラの瞳からポロポロと溢れる涙を、オスカーは指で拭い目元にちゅっとキスを落とした。

「オスカー様……」
「呼び捨てにしてくれ。夫婦なんだから」
「オ、オスカー」
「なんかいいな。嬉しい」

 オスカーがふわりと笑った姿に、アイラは胸がキュンとした。

「ゔっ」

 その瞬間、オスカーが苦しそうに唇を噛んで呻き声をあげた。

「オスカー、どうしたのですか。大丈夫?」
「だい……丈夫だ。必死に我慢をしてるから、刺激があると……その……辛いんだ」
「我慢しなくていいですよ」
「え?」
「私はオスカーの妻ですから。あなたのこと……全部受け止めたいです」

 アイラがそう伝えると、オスカーはふぅとため息をついた。

「……アイラ、悪いがもう止められないからな」
「え?」
「そんな可愛いことを言うアイラが悪い」

 ギラリと瞳が鋭く光ったオスカーにそのまま深く口付けられて、アイラは意識を飛ばすほど激しく愛された。さっきまでの行為とはまるで違う熱を感じ、アイラはオスカーに必死にしがみついた。

「愛してる」

 もう自分なのかオスカーなのかわからない程、何度も愛を深め合った。

 全部を受け止めたいというのはアイラの本心ではあったが、その発言を翌日すぐに後悔することになるのだった。


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