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27 お礼

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「アイラは甘すぎるわよ! テレージアを許していいの?」

 事件の顛末を聞いたリーゼは、呆れたようにため息をついた。

「いいの。国から正式に私に『平民の教育支援』の依頼が来たから、一緒にやる事にしたわ! 私の作った教科書が出来がいいって認めてくださったの。テレージアをこき使ってやるんだから」
「……あのお嬢様をこき使うの?」
「ええ。弱みを握ってるから断れないはずよ」

 アイラが悪戯っぽくそう言うと、リーゼはくすくすと声をあげて笑い出した。

「あー……アイラのそういうところが好きよ」
「ありがとう」
「教員資格も取り消しにならなくて良かったわね。アイラの夢だったもの。おめでとう」
「ええ。ありがとう!」

 あの事件の後書類が偽造されていたことが証明され、晴れてアイラは『教員資格』を手に入れた。アイラはリーゼと抱き合って合格を喜んだ。

「で、オスカー様とはどうなったの?」
「……上手くいったわ」

 いざきちんと話すとなると、アイラはなんだか恥ずかしくなって真っ赤になって小さな声でそう伝えた。

「ちゃんと自分の気持ちを伝えられたの?」
「ええ。結婚して欲しいって私から言ったわ」
「えらいわ! ちゃんと言えたのね」

 リーゼはアイラの頭をよしよしと撫でた。

「で? どこまで進んだの」
「……は?」
「初めてのキスくらいしたでしょ? どうだった?」

 うふふと楽しそうに質問してくるリーゼに、アイラはさらに頬を染めた。

 リーゼには言っていないが、実はファーストキス自体はアイラからしてしまっている。オスカーとデートした日に、無理矢理した短く哀しい口付けだった。

 しかし、アイラはこの前オスカーからされた濃厚なキスを思い出していた。

「真っ赤になっちゃって。アイラのえっち」
「ち、ちがっ……!」
「オスカー様、やるわね」

 ニヤニヤと笑うリーゼを見て、アイラは拗ねたように唇を尖らせた。

「な、なんか……私の想像してたキスとは違ったから、驚いただけ。オスカー様は、大人の男の人なんだなって思っちゃった」
「あの方は私たちの八歳も年上だしね。色々経験はあるかもしれないわね」
「色々……経験……」

 それを聞いて、アイラは胸がもやもやした。騎士たちはオスカーのことをモテないなんて言っていたが、キスは上手だった。年齢的にも、今まで女性と何もない可能性の方が低い。

 今のオスカーが自分を熱烈に愛してくれるように、過去に他の女性を同じように愛していたかもしれないと思うと胸が苦しくなった。

「なんか嫌だわ」
「そうよね。でも、過去に囚われちゃダメ。今のオスカー様はあなたのことが好きなんだから」
「そ、そうよね」
「そうよ! 過去の女なんて思い出させないくらい、惚れさせるのよ」
「わかったわ! 私、頑張る」

 グッと拳に力を入れているアイラをみて、リーゼはニコリと微笑んだ。

「心配いらないわ。あの人はアイラに心底惚れているもの」
「そ、そうかしら?」
「そうよ。だってアイラを助けるために、私のところに頭を下げに来たのよ。もちろん、オスカー様に言われる前に私も別ルートで色々調べてはいたけれどね」

 リーゼの話はこうだった。アイラとファビアンの婚約話が公になった日に、オスカーはリーゼに『力を貸してくれ』と直接頼みに来たらしい。

「アイラはいい人と出逢えたんだな、と嬉しくなったわ」
「ええ、本当にそうだわ。それに、私は最高の親友を持った!」
「……でしょう?」
「リーゼ、本当に助けてくれてありがとう。そして、心配してくれたのに酷いことを言ってごめんなさい」
「私こそアイラが大変なことわかっていたのに、あんなこと言って後悔していたわ。ごめんね。幸せになってね」
「ありがとう」

 完全に仲直りした二人は、そのまま暗くなるまで話し続けた。

 トントントン

 ノック音が鳴り、返事をするとロベルトが入って来た。

「リーゼ、迎えに来たよ」
「あら、もうそんな時間?」
「楽しい時間を過ごせたようでなによりだよ」

 ロベルトは優しくニコリと微笑んだ。

「ロベルト様、この度は大変ご迷惑をおかけしました。助けていただきありがとうございました」

 アイラが頭を下げると、ロベルトは左右に首を振った。

「いや、大したことはしていないさ。でも大変だったね。解決して良かったよ」
「本当にありがとうございました」
「いいんだ。リーゼの大事な人は、私の大事な人でもあるからね」

 さらりとそう言ったロベルトに、リーゼはポッと頬を染めた。

「ロベルト様……!」
「君が哀しむ姿は見たくないからね」
「も、もう。ロベルト様ったら」
「本当のことだよ。リーゼを心から愛しているからね」

 イチャイチャし出した二人を見て、アイラは恥ずかしくなった。

「じゃあ、私は帰りますね」

 今にもキスをしそうな程の甘い雰囲気に、アイラは逃げるように店を出た。

♢♢♢

「エイベル様、他の皆さんもこの度は本当にありがとうございました」

 アイラは協力してくれた騎士団の隊員たちにお礼を言うために、大量の食事とお菓子の差し入れを持って王宮の訓練場に来ていた。

「うわー、本物だ。可愛い、いい匂いする!」
「本当にあの筋肉ゴリラな隊長と結婚するんですか?」
「おい、そんなこと聞いて彼女の気が変わったらどうするんだよ。隊長、ショック死するぞ」
「あははは」

 若い隊員たちはぞろぞろと出てきてアイラを眺め、色々なことを言いながら笑っている。アイラは驚いて、目をパチパチとさせていた。

「おい! お前ら、さっさと訓練に戻れ」

 エイベルの一声で、隊員たちはぶーぶーと文句を言いながらもその場を去って行った。

「アイラ嬢、いらっしゃい。オスカーは急な会議でちょっと出ているんだ。少し待っててね」
「そうなのですね。ありがとうございます」

 約束の時間より少し早めに来てして欲しいと騎士団から手紙がきたが、オスカーとはタイミングが合わなかったらしい。

「エイベル様にもお世話になりました。私の教員試験のことを、内部から調べてくださったとお聞きしました」
「いいんだよ。ちょっと資格省のに聞いただけだから」

 ウィンクをしたエイベルは、とても美しかった。エイベルは騎士には珍しいタイプの、スマートな美形なので女性たちから人気があるのも納得できる。

「オスカーは君のことが本当に好きなんだ」
「は、はい」
「あいつはいい奴だから安心して欲しい。オスカーを選んでくれてありがとう」
「はい!」

 エイベルはニコリと微笑み、アイラと握手をした。すると後ろから出てきた大きな何かが、影を落とした。

「……何してるんだ」

 不機嫌そうだったが、その声は間違いなくオスカーだった。アイラは後ろにグイッと引かれて、大きな腕にすっぽりと抱き締められた。




 
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