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24 最高の女性

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「私はファビアン様をずっとお慕いしておりました。そして、その恋心から……アイラ様が受けられた教員試験の結果を改竄しました」
 
 それを聞いて、周囲はまた騒がしくなった。
 
「アイラ様はとても優秀です。落ちたことになっていますが、教員免許試験の本当の結果はトップの成績で合格でした」
「えっ?」
 
 アイラはテレージアの話を聞き、驚いて目をパチパチと瞬かせた。
 
「アイラ様、本当に申し訳ありませんでした」
 
 テレージアは、アイラに向かって深く頭を下げて謝った。
 
「私は、ロッシュ家に『不合格』と書いた紙を送り、王宮の資格省にはロッシュ家の侍女だと偽り『資格の辞退』の申し出を出しました。ファビアン様は『アイラ嬢に付き纏われて困る』と言われ『試験に落として恥をかかせたら、自分の婚約者候補から外せる』と相談されました。そして、書類改竄のためには女性の筆跡が必要なので……私に力を貸してほしいと」
 
 ファビアンは一瞬だけテレージアを睨みつけたが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
 
「ははは、面白い話ですね。でもそんな作り話するのはやめてください。あなたが偽造をしたのは、私と婚約するアイラに嫉妬したからでしょう? テレージア嬢がやったことですよ」
 
 そう言ったファビアンをテレージアは哀しい目で見つめた。
 
「どうして、私はこんな最低な男を好きだったのでしょうか」
「……は?」
「自分で自分が嫌になりますわ」
 
 テレージアは大きなため息をついて、一枚の手紙を開いた。
 
「これはファビアン様の直筆の手紙です。内容はアイラ嬢の教員免許の改竄のお願いと、全てが終われば私と婚約したいと書いてあります」
「そ、それは……」
「そして、最後に『手紙は燃やして欲しい』と書かれてあります。私に疑いがかかってはいけないから、証拠を消すようにと」
「ど、ど、どうしてそれが。君は燃やしたと言っていたではないか!」
「ええ……確かに燃やしたとお伝えしました」
 
 ファビアンは怒りの声をあげて、テレージアを責め立てた。
 
「それを残しておくなど。本当にお前は使えない。美人でないお前に、私が何のために近付いてやったと思っているんだ!」
 
 我を忘れて怒るファビアンに、テレージアは無表情のまま答えた。
 
「……あなたには一生わからないでしょうね。こんな内容でも、好きな人からの手紙を燃やしたくないと思うこの女心は」
 
 テレージアは一筋の涙を流し、グッと唇を噛み締めた。
 
「まだ公にはなっていませんが、今度国家プロジェクトとして平民への教育に力を入れることが決まっています。それをアンブロス家は独占したいのです。頭が良くて教育に詳しいアイラ様に協力させて、自分たちに資金が集まるように計画しているのです。これをご覧ください」
 
 テレージアは、ある二冊の本を開けて見せた。
 
「これはアイラ様が孤児院の子ども向けに作った本……そして、これがアンブロス公爵家から王家に見本として提出された本です。内容は全く同じなのに、版権はファビアン様に移していますね。おそらくにでしょう」
 
 その二つは全く同じ内容だった。アイラは以前ファビアンの父親にこの話をされたが、実は後に断っていた。

 それにアイラは、国家プロジェクトの件も何も知らせてもらっていなかった。

「このことは、私の父から陛下に確認済みです。本人の了解がないのであれば、版権はアイラ様へ返すと仰ってくださっています」

 テレージアの話を聞き、ファビアンと父親のアンブロス公爵は青ざめていた。

「この本を作って儲けるために、アンブロス公爵家はアイラ様を婚約者にしたのです。全国に配るとなれば大事業ですからね。でもまさか放火までして婚約を取り付けていたのは、私はさすがに知りませんでしたが」
 
 テレージアは、呆れたように大きなため息をついた。

「ファビアン様はお美しい女性が好みなので、アイラ様の『外見』が目当てで婚約者にしたのでしょうけれど。ちなみに私には『アイラ嬢は性格に可愛げがない』と仰っていましたので」
 
 テレージアはファビアンを横目で見て、ふんと鼻で笑った。そしてそれを聞いたアイラは、ファビアンににっこりと微笑んだ。
 
「……そうでしたか。可愛くなくて大変申し訳ありませんでした」
 
 刺々しいその言葉に、ファビアンは顔が引きつった。
 
「ア、ア、アイラが可愛くないなんて……そんなこと言うはずないだろう? こんなに私の隣にぴったりの可愛い女性は君しかいないさ」
「違いますよ、ファビアン様。私はが可愛くないのです」
 
 にっこりと微笑んだアイラは、思い切り振りかぶってファビアンの頬に平手打ちをした。そのあまりの衝撃に、ファビアンはよろめいた。

「女を馬鹿になさるのもいい加減にしてくださいませ!」

 そのアイラの勇ましい姿を見たオスカーは、ゲラゲラと大きな声で笑いだした。

「アイラはやっぱり最高だな。君はそうでないと!」

 嬉しそうに笑ったオスカーは、アイラを抱き寄せファビアンから距離を取らせた。

「……オスカー様」

 オスカーは涙をアイラの頭をポンとひと撫でし、すぐに顔を引き締め厳しい顔に戻った。

「アンブロス公爵家の人間を全員捕えろ。様々な罪について、別室で詳しく話を聞く」

 その一声で騎士たちは、ファビアンたちを拘束した。オスカーの前を通り過ぎていく時、ファビアンはギロリと睨んできた。

「許さない……お前ら……私を……こんな目に遭わせやがって!」

 ファビアンは騎士に掴まれていた腕を振り払い、アイラに襲いかかった。どうやら胸ポケットにナイフを忍ばせていたらしく、キラリと光る刃物が見えた。

「アイラ、私と共に逝こう。美しい君は私といるべきだ」
「きゃあっ!」

 アイラが叫び声をあげた瞬間、オスカーが前に出てきた。

「惚れた女を刺すなんて、やっぱり全然『美しく』ねぇな。お前こそ、その自分の醜い顔をしっかり見てみろよ」

 鬼の形相のオスカーは、ファビアンをそのまま床に投げ倒した。その瞬間に何人もの騎士たちが、ファビアンを押さえつけた。

「オスカー様、ありがとうございます。あの、お怪我は?」
「ああ……平気……」

 オスカーは話している途中で、ガクンと膝をついてそのまま床に倒れ込んだ。

「オスカー……様?」

 後ろにいたアイラからは見えていなかったが、オスカーの腹にはナイフが刺さっておりすぐに血の海になった。

「きゃあっ! オスカー様、オスカー様っ!!」
「……」
「死なないで。いや……いやぁ……オスカー様っ!」

 アイラは純白のウェディングドレスを真っ赤に染めて、反応のないオスカーの傍で泣き叫んでいた。



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