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23 まさかの救世主

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「オスカー、なんとか間に合ったぜ!」

 二人が睨み合っている時、いきなりエイベルとオスカーの部下の騎士たちが教会の中にぞろぞろと入って来た。
 
「……遅いんだよ。もう無理かと思ったぞ」
「うるせぇ、これでも最短だ」

 エイベルは背中の後ろにいた子ども二人に優しく声をかけた。その二人は、ロッシュ領の孤児院にいたビルとマリーだとアイラはすぐに気が付いた。しかしアイラの記憶通りのビルとは対照的に、マリーは綺麗なドレスを身に着けまるで人形のような見た目になっていた。

「話せるか?」

 不安そうなマリーはビルの手をぎゅっと握って、こくんと頷いた。

「この……このお兄さんは、私をすぐにおこるの。ふ、ふとったら……みにくいからって、ご飯もちょっとだけしかくれない。くるしくてうごきにくい服で、ずっとすごさなきゃいけない」
「お兄さんというのはあそこにいるファビアンだね?」

 エイベルはファビアンを指さして、マリーに顔を確認させた。
 
「そうだよ。ほかにも私とおなじようなおねえちゃんたち、いっぱいいる。きゅうに……いなくなったりして、こわかった」

 カタカタと震えるマリーを、ビルはぎゅっと優しく抱き締めた。

「少し前にマリーは孤児院から引き取られた。子どものいない金持ちの夫婦の家の養子になると聞いて、みんな喜んでいたんだ。だが、ある日俺宛に手紙が届いた。道に落ちていたが表に『必ず届けて欲しい』と書いてあったからと、親切な人が孤児院まで届けてくれたんだ」
「つれて行かれるばしゃのなかで、話がきこえたの。私は『ようし』じゃなくて『あいがんよう』に『アンブロスこうしゃくけに売られる』って。だから、てがみを書いて外におとしたの。アイラ様に文字をならったから」

 その時の怖さを思い出したのか、マリーはぐすぐすと泣き出した。

「捏造だ! そんな平民の子どもの言う事を信じられるとでも? 孤児院出身で文字を書けるわけがない」
「……書けますわ。私自ら教えましたから」
「なんだと?」
「マリーは簡単な文字は理解しています」

 アイラのその発言に、ファビアンは悔しそうにギリッと唇を噛んだ。
 
「その手紙には『たすけて アンブロスこうしゃくけに つれていかれる こわい』とそう書いてあったらしい。今日は結婚式で、皆がいないことはわかっていたから屋敷に俺たちが無理矢理踏み込んだってわけだ。そしたら庭の古い建物の中から、見目の良い少女が五人と宝石や絵画などが山のように出てきた。ざっと見ただけでも、他国からの不正な輸入品がたくさんあった。もう観念しろ」
「孤児院の子どもを助けてやったんだ。慈善事業だろう! 宝石や絵画は貰いものだ」
「嘘をつくな。お前が成長して自分の好みから外れた女を裏ルートで売っていたことも、わかっている」

 婚約前にはアイラの見た目以外が好きだと言っていたファビアンだったが、本当は誰よりも『外見至上主義』の人間だったらしい。

「ははは、それの何が悪い? 私は綺麗なものだけ手元に置いて置きたいんだ。それに売ったのではなく、よりよい縁を結んであげただけさ」
「……お前、本物の屑だな」
「完璧な私に相応しいように、金をかけて美しくしてやってるんだ。感謝して欲しいくらいだ。身寄りのない子を助けてるのだから、これは慈善事業だ」

 ファビアンは『美しいもの』が好きなのであって、幼児趣味ではない。なので、着飾らせて人形のように傍に置いておくのが好きだった。それだけでも十分異常ではあるが、ぎりぎり『慈善事業』と言い逃れできなくもない。

「私がその子たちに手を出したとでも?」

 オスカーが無言のまま視線を送ったが、エイベルは悔しそうに小さく左右に首を振った。

「じゃあ、何も問題はないな」

 こんなにも怪しいのに、決定的に追い詰めることができないことがオスカーは悔しかった。オスカーは自分の人脈と時間を全て使って、この日を迎えた。アイラにどうしてもこの結婚をして欲しくなかったからだ。

「くそっ!」

 オスカーは床にドンと拳を叩きつけた。

「諦めないでくださいませ」

 オスカー側の主張が『嘘』だという空気が流れている中、教会の扉から新たに一人の女性が入って来た。

「私もファビアン様の罪の証拠を持っています」

 そこに現れたのは、公爵令嬢のテレージアだった。アイラを虐めていてファビアンを慕っていたはずのテレージアの出現に、周囲はまた騒がしくなった。

「テレージア嬢っ! 来てくれたのか」
「……ええ、私も覚悟を決めました」
「感謝する」

 ボロボロになっているオスカーは、難しい表情のテレージアに向けて深く頭を下げた。


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