上 下
22 / 37

21 結婚式

しおりを挟む
 今日はついにファビアンとアイラの結婚式。

 ほぼ婚約と結婚が同時だった。貴族でそんなことはかなりのレアケースだったが、ロッシュ子爵家への支援を急ぎたいからという理由で国から正式に受理された。

 今回の結婚でアンブロス公爵家は、社交界でものすごく評判が上がっている。ファビアンは家格が下にも関わらず『真実の愛』を貫き、アイラの生家を助けた『ヒーロー』だと騒がれているからだ。

「ああ、アイラ。ものすごく可愛いよ」
「ありがとうございます」

 アイラはものすごく豪華で煌びやかなウェディングドレスに身を包んでいた。既製品ではなく、一点物の特注品だ。こんな短期間でどうやってこの素晴らしいドレスを作らせたのかと、正直アイラは驚いた。

「良かった。デザイナーと相談した甲斐があった」
「長い間?」

 アイラは首を傾げた。二人の結婚が正式に決まって、まだ一ヶ月ほどしか経っていないからだ。

「……いや、なんでもないよ。本当にアイラは、天使が地上に舞い降りたようだ。ではまた結婚式でね」
「はい」

 アイラは心が重たかった。この式が終われば、ついに正式な夫婦になる。考えただけで、胸が苦しかった。

「お嬢様……うっ、ううっ……」
「リラ、泣かないで」
「でも、お嬢様と一緒にいられるのも最後かと思うと……悲しくて……ううぅっ……」

 結婚後もアイラについて来ると言っていたリラだったが、実はアンブロス公爵家から拒否された。アイラには新たな侍女を公爵家から用意するため、リラは連れて来ないようにと言われてしまった。理由は、義母が子爵家の人間が入ることを嫌がったからだ。

 アイラの父親から再度お願いをしてもらったが叶わず、立場はロッシュ子爵家の方がかなり弱いため結局話は白紙になった。ファビアンからも謝罪を受けたが、決定は覆ることはなかった。

「今までありがとう。誰よりもリラと過ごした時間が長かったわ」
「どこにいても私はお嬢様の味方ですからね」
「ありがとう」

 アイラはリラを抱き締めて、式場に向かった。もう両親とカミルには、昨夜のうちに挨拶を済ませている。

 カミルはこの結婚にまだ納得できないようで、かなり不機嫌で宥めるのが大変だった。

『カミル、お願い。最後だから笑ってちょうだい』
『嫌だ。どうして……どうして……姉様が犠牲にならないといけないんだ』
『いいのよ。私は私のできることをするだけ。あなたはお父様から学び、皆を守り愛される領主になりなさい』
『姉様、何もできなくてごめんなさい。そして……今までありがとう。大好きだよ』
『私もカミルが大好きよ』

 できればこんな結婚を、弟に見せたくはなかったが隠し通せる話ではない。

「行ってきます」

 リラに心配をかけないように、アイラはニコリと微笑んだ。しかし、付き合いの長いリラにはそれが『作り笑顔』だとわかっていた。だって本当のアイラの笑顔は、今の表情とは比べものにならない程とびきり可愛らしいのだから。

「……アイラ」
「お父様、お願いしますね」
「ああ」

 アイラは父親からエスコートを受け、教会のバージンロードをゆっくりと歩き出した。

 ここはこの国で一番大きくて、有名な教会だ。たくさんの参列者がきているが、少し見渡しただけでも有力な貴族ばかりが座っている。

 アイラは失敗しないようにゆっくりと足取りを進め、祭壇の前で待っているファビアンの元に辿り着いた。

「アイラ、愛してるよ。嫁いでも君は私の自慢の娘だ」
「お父様、今までありがとうございました。私も愛しています」

 そっと父親の手を離し、アイラはファビアンの手を取った。

「アイラのことはお任せください」
「……お願いします」

 二人で神父の前に立ち、誓いの言葉の宣誓になった。

「夫ファビアン・アンブロスはいついかなる時も、妻アイラ・ロッシュを愛することを誓いますか」
「はい、誓います」

 迷いのないファビアンのはっきりした声が、教会に響いた。

「妻アイラ・ロッシュはいついかなる時も、夫ファビアン・ロッシュを愛することを誓いますか」
「……」

 アイラはグッと唇を噛み締めて、返事をするために大きく息をつい込んだ。

「は……」

 バーンッ

 その時、教会の扉が大きな音を立てて開けられた。参列者たちは驚き、一気にザワザワと騒がしくなった。

「その結婚、待ってくれ!」

 扉の前には、騎士の制服を着たオスカーが立っていた。みんなが一斉に後ろに注目をした。

「アイラを迎えに来た!」

 大声でそう叫び、オスカーは一切物怖じすることなくバージンロードを歩きだした。

「オスカー……様」

 アイラは驚きすぎて、何も言葉が出てこないままオスカーを見つめていた。

「……チッ、あいつ!」

 隣にいたファビアンがギリっと唇を噛み、恐ろしい顔でオスカーを睨みつけた。

「おい、そいつを早くつまみ出せ!」

 その声に警備員たちが一斉にオスカーを押さえつけようとしたが、オスカーはびくともしなかった。ドサドサッと警備員たちは、床に一瞬で倒されていく。オスカーはそれほどに強かった。

「俺を止めたければ、こんな奴等じゃ足りねぇよ」
「君は……神聖な結婚式をなんだと思っているんだい? こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「それはこっちの台詞だ。アイラを騙しやがって!」

 オスカーは一直線に祭壇の前まで来て、ファビアンと睨み合った。

「何のことだかわからないな。変な言いがかりはよしてくれないか」

 アイラはファビアンの隣で不安そうに瞳を揺らしながら、オスカーを見つめていた。

「大丈夫だ。俺に任せてくれ」

 アイラに向かってニカッと豪快に笑い、オスカーは大きく息を吸い込んだ。

「みんな聞いてくれ。ロッシュ子爵領への放火は、ファビアン及びアンブロス公爵家の人間によるものだ。アイラ・ロッシュを手に入れるためのこの大罪を、誰が許すことができようか!」

 そのオスカーの告発に、式場内は騒然としてしていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

処理中です...