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0 いきなりの求婚

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「アイラ嬢、どうか俺と結婚して欲しい」

 伯爵家の次男で王家直属騎士の隊長であるオスカー・ルーマンは大きな花束を持って、王都のど真ん中で跪き子爵令嬢のアイラ・ロッシュに求婚をした。

「……オスカー様、どうして私なのですか?」

 アイラは花束を受け取らず、無表情のままオスカーに質問をした。

「それはもちろん、君の顔がいいからだ!」

 オスカーはさも当たり前だと言うように、ニカッと豪快に笑った。アイラはオスカーが差し出していた花束を受け取り、にっこりと微笑んだ。

「アイラ嬢」

 花束を受け取ってもらえたことで、オスカーはアイラが求婚を受けてくれたと思いキラキラと目を輝かせた。

「お断りしますっ!」

 アイラはギロリと睨みつけながらその花束を振りかぶって、跪いているオスカーの頭に思いっきり叩きつけた。その衝撃を受けて、パタリと後ろに倒れたオスカーの頭上にハラハラと花びらが舞った。

「二度と私に話かけないでくださいませ」

 アイラは一度も振り返ることなく、背を向けてその場を去った。

 ショックで道の真ん中に倒れたままのオスカーを見て、親友のエイベルは「あちゃー……」と頭を抱えた。

「お前、馬鹿だろ」
「……」
「あれじゃあ、アイラ嬢の『顔』だけしか好きじゃないみたいに聞こえるぞ」

 エイベルは、まだ動かないオスカーに手を差し出した。失恋したばかりの親友に対するせめてもの情けだ。公衆の面前で派手に振られたせいで、周りからはすでに憐みの目で向けられているのが居た堪れない。

「あの振られた人って、騎士隊長のオスカー様じゃない?」
「不憫だわ。こっぴどく振られてたわね」
「でもしょうがないわよ。お相手がアイラ様だもの」
「そうよね。可哀想だけど、あの天使のようなアイラ嬢とは釣り合わないわ。オスカー様って無骨だもんね」

 小さな声で話しているのだろうが、全て聞こえている。できるだけこの場から早く連れ出してやらなければ、とエイベルは思っていた。

「ほら、さっさと行くぞ。やけ酒なら付き合ってやるから」

 そう伝えると、オスカーはむくりと起き上がって首をブンブンと左右に振った。そして頭や顔に降り積もっていた花びらを地面に落とした。

「アイラ嬢は怒った顔もいいな」

 頬を染めて嬉しそうにそう呟いたオスカーを見て、エイベルは「こりゃ駄目だ」と天を仰いだ。


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