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本編
5 馬鹿な男
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翌日、マリナはまた家にやってきた。この前キスをしたので少しだけ恥ずかしそうにしていた。
いつも通り食事をしていると、マリナは苦しそうに口を開いた。
「あの……申し上げにくいのですが」
「なんだ」
「お金を貸してくださいませんか。あの……大金なのですが……その……百万ゴールドほど。も、もちろん必ずお返しします。父親の病気がまた悪化して! 入院させて、お医者様に診せてあげたいのです」
そのあからさまな金の無心にロドリゴは、急激に頭が冷めていく気がした。
そして詐欺師に心を奪われるなど、どれだけ自分が愚かだったのか気がついた。
「……大変だな」
「でも、入院すれば助かると言われました。私は今、二つ仕事を掛け持ちをしているのですが……それでは間に合わなくて」
うっうっと泣き出すマリナはとても健気だ。いや、健気に見えると言った方がいいだろう。
苛ついたロドリゴは、マリナの手を引きベッドに押し倒した。
「きゃあっ……!」
怯えているマリナの手をベッドに押さえつけて、唇を無理矢理奪った。
この前したキスは幸せだった。だが、今回のキスは……苦しくて堪らない。
「お前は、金のために何人とこんなことしたんだ!」
目の前にいるのはあんなにロドリゴと一緒に過ごしながら、他の男を騙すような女だ。
「なんの……ことですか」
「……」
「ロロ様だけです」
震えながらポロポロと涙をこぼすマリナを見て、ロドリゴはギリッと唇を噛んだ。
「……嘘つきめ」
今すぐこの嘘つき女を捕まえて、詐欺師だと突き出せばいい。そうすれば……そうすれば……全てが上手くいく。
ロドリゴは手を離し、身体を離した。そしてクローゼットから札束を取り出して、マリナに無理矢理握らせた。
「これで足りるだろう。持っていけ」
「で、でも……」
「二度とこんなことをするな! そしてもう俺の前に現れるな」
鬼の形相で睨みつけ、マリナは「ごめんなさい」と言いながら走って出て行った。
「……何してんだ。俺は」
ロドリゴは、目に手を当ててそのままベッドに沈みこんだ。
詐欺師を逃がしておいて、経費を使うわけにはいかない。ロドリゴはマリナに渡した金は、自分が騎士の仕事をして必死に貯めたお金で補填しようと考えていた。
「本当に馬鹿だな」
女嫌いだから適任だと言われた結果がこのザマだ。金を失った上に、これから任務の失敗の報告をせねばならないなんて。
「……明日向こうへ戻るか」
逃げていても仕方がない。騎士団長にがっかりされるだろうが、詐欺師には逃げられたと伝えよう。
今夜のロドリゴはアルコールを浴びるほど飲まなければ眠れなさそうだったので、酒場に行くことにした。
「おい、ふざけるな。お前にいくら払ったと思ってるんだ」
「きやっ、やめてください」
酔っ払いが女に絡んでるのかと思い、眉を顰めた。騎士として放置するわけにもいかず、男が女を掴んでいる手を止めた。
「やめておけ」
「なんだ、お前は。私はこの女に騙されたんだ」
中年男は激怒しながら、そんなことを言っている。ロドリゴが女の方を見て……驚いた。
「そんな。私は何もしていないのに、急に私に暴力を……怖かったです」
うるうると涙を溜めて、ロドリゴを見上げた顔は……ブラウンの髪にぱっちりした瞳でまさに清純で大人しそうな可愛い女だったからだ。
「おい」
「うっうっ……なんですか?」
泣きながら、か細い声で女が返事をした。
「お前じゃない。なあ、あんた。この女に騙されたって?」
「おお、そうだ。こいつは父親が病気だと言っていたのに、真っ赤な嘘だったんだ。俺は三百万ゴールドも渡したのに!」
父親が病気……嘘……三百万ゴールド……ロドリゴは女をギロリと睨みつけた。
「嘘です。本当に病気で……その方は私を不憫に思ってお金をくださると仰ったのです」
「恋人だから、貸してくれと言われたんだ。なのに……この女は……他にも男がいやがったんだ!」
中年男がそう声をあげると、女はチッと舌打ちをしてロドリゴとその男を思い切り押した。
「騙される方が悪いんだよ」
「なっ……! 逃げるな」
これで確定した。詐欺師は……この女だ。女はかなり逃げ足が速かったが、騎士として訓練を受けているロドリゴが負けるはずがない。
ロドリゴはすぐに追いかけて、女を捕まえた。
「くそっ、離せ」
「お前がロマンス詐欺をしている女だな」
「くそ……! きゃあ、助けてっ! 男に無理矢理襲われてるの」
女がそんな嘘を大声で叫ぶので、夜にも関わらず人がたくさん集まってきた。
「ふふ、あんたも終わりね。みんなは、か弱い女の味方よ」
女は先ほどの清純そうな芝居はやめたようで、ニヤリと妖艶に笑った。
「うっ、うう、痛い! 助けてくださいっ」
女は大袈裟に痛がり、助けを乞うている。
「お嬢さん、どうしたんだっ!」
「手を離してやれよ」
「無理矢理なんて可哀想だろう」
「女に乱暴するな!」
口々にそんなことを言われたが、ロドリゴが手を離すはずがない。きっと、いつもピンチになればこうやって逃げていたのだろう。
「静かにしてくれ。俺は騎士だ。この女は詐欺師で、犯罪者。だから捕まえている」
ロドリゴは、冷静にポケットから取り出した正式な騎士だという紋章を見せた。
その効果は絶大で、みんな大人しくなってくれた。
「き……し……ですって!」
「ああ、お前を捕まえに来た」
女は青ざめて、そのままお大人しくなった。ロドリゴは紐で縛り上げすぐに騎士団に連絡して、女の身柄を引き渡した。
「これだから騎士なんか嫌いよ」
女は悔しそうにロドリゴにそう吐き捨て、連れて行かれた。
本物の詐欺師を捕まえた。じゃあ、ロドリゴが出逢ったマリナはなんだったのか。
「マリナは……本当に俺を好きで、頼ってくれていたのか?」
ロドリゴは、自分が盛大な勘違いをしていたことにやっと気がついた。
「……俺は本物の馬鹿だ」
好きだなんて言っていても、ロドリゴはマリナのことを何も知らなかった。そして、二度と姿を現せるなと言ったのはロドリゴ自身だ。
もう二度と逢えないのだと思うと、ロドリゴの目から一筋の涙が溢れた。
せめて、自分が渡したあの金で父親が回復するようにと心の中で祈った。
いつも通り食事をしていると、マリナは苦しそうに口を開いた。
「あの……申し上げにくいのですが」
「なんだ」
「お金を貸してくださいませんか。あの……大金なのですが……その……百万ゴールドほど。も、もちろん必ずお返しします。父親の病気がまた悪化して! 入院させて、お医者様に診せてあげたいのです」
そのあからさまな金の無心にロドリゴは、急激に頭が冷めていく気がした。
そして詐欺師に心を奪われるなど、どれだけ自分が愚かだったのか気がついた。
「……大変だな」
「でも、入院すれば助かると言われました。私は今、二つ仕事を掛け持ちをしているのですが……それでは間に合わなくて」
うっうっと泣き出すマリナはとても健気だ。いや、健気に見えると言った方がいいだろう。
苛ついたロドリゴは、マリナの手を引きベッドに押し倒した。
「きゃあっ……!」
怯えているマリナの手をベッドに押さえつけて、唇を無理矢理奪った。
この前したキスは幸せだった。だが、今回のキスは……苦しくて堪らない。
「お前は、金のために何人とこんなことしたんだ!」
目の前にいるのはあんなにロドリゴと一緒に過ごしながら、他の男を騙すような女だ。
「なんの……ことですか」
「……」
「ロロ様だけです」
震えながらポロポロと涙をこぼすマリナを見て、ロドリゴはギリッと唇を噛んだ。
「……嘘つきめ」
今すぐこの嘘つき女を捕まえて、詐欺師だと突き出せばいい。そうすれば……そうすれば……全てが上手くいく。
ロドリゴは手を離し、身体を離した。そしてクローゼットから札束を取り出して、マリナに無理矢理握らせた。
「これで足りるだろう。持っていけ」
「で、でも……」
「二度とこんなことをするな! そしてもう俺の前に現れるな」
鬼の形相で睨みつけ、マリナは「ごめんなさい」と言いながら走って出て行った。
「……何してんだ。俺は」
ロドリゴは、目に手を当ててそのままベッドに沈みこんだ。
詐欺師を逃がしておいて、経費を使うわけにはいかない。ロドリゴはマリナに渡した金は、自分が騎士の仕事をして必死に貯めたお金で補填しようと考えていた。
「本当に馬鹿だな」
女嫌いだから適任だと言われた結果がこのザマだ。金を失った上に、これから任務の失敗の報告をせねばならないなんて。
「……明日向こうへ戻るか」
逃げていても仕方がない。騎士団長にがっかりされるだろうが、詐欺師には逃げられたと伝えよう。
今夜のロドリゴはアルコールを浴びるほど飲まなければ眠れなさそうだったので、酒場に行くことにした。
「おい、ふざけるな。お前にいくら払ったと思ってるんだ」
「きやっ、やめてください」
酔っ払いが女に絡んでるのかと思い、眉を顰めた。騎士として放置するわけにもいかず、男が女を掴んでいる手を止めた。
「やめておけ」
「なんだ、お前は。私はこの女に騙されたんだ」
中年男は激怒しながら、そんなことを言っている。ロドリゴが女の方を見て……驚いた。
「そんな。私は何もしていないのに、急に私に暴力を……怖かったです」
うるうると涙を溜めて、ロドリゴを見上げた顔は……ブラウンの髪にぱっちりした瞳でまさに清純で大人しそうな可愛い女だったからだ。
「おい」
「うっうっ……なんですか?」
泣きながら、か細い声で女が返事をした。
「お前じゃない。なあ、あんた。この女に騙されたって?」
「おお、そうだ。こいつは父親が病気だと言っていたのに、真っ赤な嘘だったんだ。俺は三百万ゴールドも渡したのに!」
父親が病気……嘘……三百万ゴールド……ロドリゴは女をギロリと睨みつけた。
「嘘です。本当に病気で……その方は私を不憫に思ってお金をくださると仰ったのです」
「恋人だから、貸してくれと言われたんだ。なのに……この女は……他にも男がいやがったんだ!」
中年男がそう声をあげると、女はチッと舌打ちをしてロドリゴとその男を思い切り押した。
「騙される方が悪いんだよ」
「なっ……! 逃げるな」
これで確定した。詐欺師は……この女だ。女はかなり逃げ足が速かったが、騎士として訓練を受けているロドリゴが負けるはずがない。
ロドリゴはすぐに追いかけて、女を捕まえた。
「くそっ、離せ」
「お前がロマンス詐欺をしている女だな」
「くそ……! きゃあ、助けてっ! 男に無理矢理襲われてるの」
女がそんな嘘を大声で叫ぶので、夜にも関わらず人がたくさん集まってきた。
「ふふ、あんたも終わりね。みんなは、か弱い女の味方よ」
女は先ほどの清純そうな芝居はやめたようで、ニヤリと妖艶に笑った。
「うっ、うう、痛い! 助けてくださいっ」
女は大袈裟に痛がり、助けを乞うている。
「お嬢さん、どうしたんだっ!」
「手を離してやれよ」
「無理矢理なんて可哀想だろう」
「女に乱暴するな!」
口々にそんなことを言われたが、ロドリゴが手を離すはずがない。きっと、いつもピンチになればこうやって逃げていたのだろう。
「静かにしてくれ。俺は騎士だ。この女は詐欺師で、犯罪者。だから捕まえている」
ロドリゴは、冷静にポケットから取り出した正式な騎士だという紋章を見せた。
その効果は絶大で、みんな大人しくなってくれた。
「き……し……ですって!」
「ああ、お前を捕まえに来た」
女は青ざめて、そのままお大人しくなった。ロドリゴは紐で縛り上げすぐに騎士団に連絡して、女の身柄を引き渡した。
「これだから騎士なんか嫌いよ」
女は悔しそうにロドリゴにそう吐き捨て、連れて行かれた。
本物の詐欺師を捕まえた。じゃあ、ロドリゴが出逢ったマリナはなんだったのか。
「マリナは……本当に俺を好きで、頼ってくれていたのか?」
ロドリゴは、自分が盛大な勘違いをしていたことにやっと気がついた。
「……俺は本物の馬鹿だ」
好きだなんて言っていても、ロドリゴはマリナのことを何も知らなかった。そして、二度と姿を現せるなと言ったのはロドリゴ自身だ。
もう二度と逢えないのだと思うと、ロドリゴの目から一筋の涙が溢れた。
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