【短編/完結】アーサー殿下は何度も九死に一生を得る

大森 樹

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【番外編】アーサー殿下の愛は屋烏に及ぶ

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★アーサーとジュリアの結婚後のお話です。
…………………


 アーサーとジュリアは国をあげての盛大な結婚式を終え、二人は王宮で仲睦まじく暮らしていた。

「ジュリア、おはよう」

 ベッドで片肘をついているアーサーは寝起きだとは思えない程整った顔でジュリアを覗き込み、眩しい程美しく微笑んだ。

「お、お、おはようございます」

 何度一緒に朝を迎えても、この状況に慣れることはできず……ジュリアは毎回真っ赤に頬を染めてしまう。

「ふふ、いつになったら慣れてくれることやら」

 アーサーは目を細めながら、ジュリアの髪を優しく撫でた後ちゅっとおでこにキスをした。

「うゔっ……一生慣れそうにありません」

 ジュリアは顔をすっぽりと隠すようにシーツを上にあげた。

「照れている君も可愛いけれどね」

 甘い声でそう囁き、シーツの上からジュリアを優しくぽんぽんと手で叩きながら慰めた。

「結婚翌日に比べたらましになったしね。あの日はジュリアと結婚したはずなのに、夢だったのかと思って驚いたんだから……くくっ……ははは」

 アーサーはその日のことを思い出して、思わず吹き出した。

「もうっ! あれは忘れてくださいませ」

「ごめん、ごめん。あまりに衝撃的だったからさ」

 ジュリアは子どものようにむっ、と唇を尖らせて拗ねる仕草を見せた。そんな彼女を、アーサーは蕩けるような瞳で見つめている。

 結婚式を終えた夜、二人は正式な夫婦になった。ガチガチに緊張したジュリアを、アーサーの大きな愛で包み込みとても幸せな時間を過ごした。

 そして、素晴らしい朝を迎えるはずだったのだが……アーサーの目が覚めると隣にジュリアの姿がなかった。

♢♢♢

「ジュリア? ジュリア、どこだ!?」

 右を向いても左を向いてもジュリアはおらず、寝室中を必死に探し回ったがどこにも彼女は居なかった。

「まさか。全部私の夢だったんじゃないだろうな」

 アーサーはジュリアが『最強の魔法使い』で『自分と結婚した』なんて全て都合の良い夢だったのではないかと不安になった。

 だってアーサーが九死に一生を得た時はいつも、現実味を帯びていなかったのだから。

「……夢じゃありません」

 蚊の鳴くような小さな愛おしい声を、アーサーが聞き逃すはずがなかった。

「ジュリア? そこにいるのか」

「……はい」

 なんとジュリアは広いベッドの端に透明になって身を隠していた。

「どうして透明になっているんだい?」

「は、恥ずかしくて」

「はあ……居てくれて本当に良かった。お願いだから、姿を見せて欲しい」

 アーサーの心配そうな顔を見て、透明だったジュリアはようやく姿を現した。

「ご、ごめんなさい」

「まさか消えているなんてね。ふふ、結婚初日からこんなサプライズがあるとは」

「どんな顔をしたらいいかわからなくてですね……その……すみません」

 アーサーはそんなジュリアも可愛いらしいな、と思いぎゅっと強く抱き締めた。

「逃げられないように今日はずっとこうしていようかな」

「ええっ!」

「妻に逃げられた王太子だなんて格好がつかないからね。もう逃さないよ」

 それからアーサーからキスの嵐を受け、時を止めて彼の腕からやっとの思いで抜け出して『ずるい』と彼から睨まれたことはつい最近の出来事だ。

♢♢♢

「最近は透明にならずに隣に居てくれるから、幸せだよ」

 アーサーはにこり、と微笑み身体を起こした。王太子であるアーサーは毎日忙しい。二人でいつまでもゆっくりしているわけにはいかず、今日も分刻みのスケジュールが詰まっている。

「アーサー、無理だけはしないくださいね」

「ああ、ありがとう。ジュリアも今日は魔物の討伐だったね。私はどうしても一緒に行けないから、充分に気をつけて欲しい」

「全然平気です! 私の得意分野ですから任せてください」

 ジュリアは得意げにそう言った。今日の彼女は、隣町の山奥で最近悪さをしているという魔物を退治する予定になっていた。

「君の力はわかってはいるが、心配くらいはさせてくれ」

「……はい。ありがとうございます」

 アーサーはジュリアを抱き締めて、唇に甘いキスをした。


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