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18 女嫌いの理由
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「これは旦那様と親友のデニス様の話です。少し長くなりますが……」
ラルフは覚悟を決めたようにグッと拳に力を入れ、私を見つめながら話を進めた。
♢♢♢
ジルヴェスターとデニスはライバルであり、親友。仕事もプライベートもいつも一緒に過ごしていた。クールなジルヴェスターと明るいデニスは、性格は正反対だったが相性はピッタリだった。
「ジルヴェスター!今度の試合は俺が勝つからな」
「ふっ、寝言は寝てから言え。私の方が強い」
「なんだと!?俺は百戦中、四十九勝五十一敗だ!たった一勝の差なんて誤差だからな。誤差っ!!」
「安心しろ。これから差はどんどん開く」
二人は十五歳で騎士団に入団して以来、切磋琢磨しながら腕を磨いていた。
「先輩に連れて行かれた夜の店で、誰がジルヴェスターの隣に座るかで血みどろの争いが起こったんだって?女は怖いな」
お腹を抱えてゲラゲラと笑うデニス。若い頃のジルヴェスターは今ほど女性嫌いを拗らせておらず、先輩や上司に誘われれば女性店員のいる酒場も行っていた。
「やめてくれ。あの地獄絵図を思い出しただけで頭が痛くなる。先輩からは『顔のいい奴はモテて良いよな』とか『俺の馴染みの女だったのに』なんて嫌味言われて睨まれたんだぞ」
ジルヴェスターが頭を抱えると、デニスはバシバシと背中を叩いた。
「喧嘩せずに大人しく順番に並べ!全員相手にしてやるから安心しろ、って口付けの一つや二つしてやれば良かったのに」
「そんなことできるはずがないだろう!」
「ははっ、せっかくイケメンに生まれたんだしちょっとは遊べよ」
「女は苦手だ。好きでもない女に好かれても困る」
ジルヴェスターがムスッと不機嫌になると、デニスは揶揄うのをやめて真剣な顔になった。
「……そうだな。大勢に好かれたって意味がない。自分の好きな女に好かれるだけでいい」
そう言って笑ったデニスはとても男らしく、精悍な顔だった。ジルヴェスターは彼には『愛する女』がいるのだと悟った。
そして二十歳になった時、騎士団で二人に敵う者は居なくなっていた。若いがそれくらい強く、才能に溢れていた。
「ジルヴェスター、俺結婚するんだ。高嶺の花で、何年も片想いしてたんだが……やっと彼女が頷いてくれた」
「それは良かったな」
ジルヴェスターはこんなに嬉しそうな親友のデニスを見たことが無かった。そして素直に、心から彼を祝いたいと思った。
「お前にも紹介したい。是非会ってくれ」
「もちろんだ」
これが最悪の事件を巻き起こすことになるとは、ジルヴェスターもデニスも想像もしていなかった。
「ジルヴェスター、彼女は私の婚約者のパトリツィアだ」
デニスは頬を染めながら、嬉しそうに親友のジルヴェスターに婚約者を紹介した。
「初めてまして。パトリツィアと申します。ジルヴェスター様のお話はデニスからよくお聞きしておりますわ」
貴族らしく美しく着飾った綺麗な御令嬢だった。ジルヴェスターのことをポーッと見つめていたことは少し気になったが、すぐに気のせいだと考えるのをやめた。
それに……自惚れではなく、ジルヴェスターはほとんどの御令嬢方からそういう目で見られることが多かったためいつも通りと言えば、いつも通りだった。
「初めまして。美しい女性じゃないか。デニスには勿体ないな」
ジルヴェスターが軽口を言うと、デニスはヘラリと笑った。
「そうなんだ。俺には勿体無いくらいの美人なんだよ」
いつもなら「なんだと!?」と言い返すデニスはジルヴェスターの言葉にそのまま頷いた。
「ははっ、ベタ惚れだな。パトリツィア嬢、デニスを頼むよ」
「……はい」
真っ赤に頬を染めて恥ずかしそうにしている彼女と握手をしてその場を離れた。
それからは何度かデニスがいない日に、彼女が騎士団に来る時があった。デニスと入れ違いになってしまったと言うパトリツィアを無視することもできず、その度に親友のジルヴェスターがエスコートや話し相手をした。
なぜなら、親友の婚約者を蔑ろにすることなんてできなかったから。正直に言えば彼女はジルヴェスターの苦手なタイプで『ザ•貴族令嬢』そのものだったが、親友の愛する女性なのだからとできるだけ優しく接した。
そして、その日は急に訪れた。
「デニスっ!お前退団届を出したというのは本当か!?」
ジルヴェスターは上司からデニスが騎士を辞めると聞いて驚き、彼に詰め寄った。
「……ああ」
どうして?ジルヴェスターは理解ができなかった。約束したのに……!いつか二人で最強の騎士団を作るという夢があったのに。
「何があったんだ!私にできることなら何でも言ってくれ。協力するから」
そう言ったジルヴェスターをデニスはギロっと睨みつけた。それは憎しみの表情だ。ジルヴェスターはデニスのこんな顔を見たことがなかったのでかなり驚き……言葉が出てこなかった。
デニスはすぐに哀しそうに眉を下げ、視線を逸らし深く俯いた。
「……婚約の話が無くなった」
「え?どうして。あんなに仲良かったではないか」
ジルヴェスターは理解ができなかった。もしかして家同士で何か問題が?それならば、公爵家に生まれた自分が手助けできるかもしれないとその時は思っていた。
デニスはジルヴェスターの胸をドンと叩いた。思ったより痛くて、ズキズキする。
「……すまない」
苦しそうな声でデニスは謝った。
「なにが?黙っていたらわからない」
「彼女はお前のことが好きなんだと」
ジルヴェスターは頭が真っ白になった。誰が誰を好きだって?
ほとんど話したこともない私を好きになったと?彼女はこの国で一番優しくて強くて明るい良い男の婚約者なのに?
「嘘だろ?あり得ない」
「……だよな。でも本当だ。ジルヴェスターと会って一目で好きになったらしい。こればっかりは仕方がないさ。彼女もお前も……悪くない」
こんな状況でも優しい言葉を選ぶデニスのことが信じられなかった。悪くないだと?婚約者がいるのに他の男に惚れるなどあり得ないではないか。
「でも俺は器の小さい男だからさ。やっぱり思ってしまうんだ」
「……」
「お前に紹介なんてしなけりゃ良かったって」
そう言われたジルヴェスターは何も言えなくなった。デニスは「悪い。今はお前の顔を見るの辛いんだ」と謝ってそのまま騎士団を去った。
それからパトリツィアは何事もなかったかのように、ジルヴェスターに擦り寄って来た。
「ジルヴェスター様」
以前より甘ったるい猫撫で声を出し、あからさまに豊満な胸を押し当てて来た。ジルヴェスターはその事実に吐き気がしていた。
「私に話しかけるな」
「え?ジルヴェスター様……あの……」
急な態度の変化にパトリツィアは青ざめていた。しかし、当たり前だ。この女は大事な親友を傷つけたのだから。
「二度と顔を見せるな。見せれば君の家ごと捻り潰す」
冷たく言い放つと、彼女はプルプルと震え出した。この時まではジルヴェスターは『こんな女とデニスが結婚しなくて良かった』と思っていた。
「ジルヴェスター様が思わせぶりなことをされたせいではありませんか!誰も近付けないのに、私だけを特別にエスコートして優しくしてくれた。私のことを美しいって褒めてくれた!だから好きになったのに酷い!!」
ポロポロと泣き出すパトリツィアを無感情で見つめた。しかし、親友の婚約者だからと思ってやっていた行為が『彼から婚約者を奪う』ことに繋がっていたとは思ってもいなかった。
ジルヴェスターは自分を責めた。気付くタイミングは何度も会ったはずだ。デニスがいない時に騎士団を訪れていたのは、下心があったからだ。
「大事な親友の婚約者だったから。ただそれだけだ。勘違いするな」
騎士団内で強かったデニスが急に辞めたことは大きな騒動になっており、表向きは家の事情となっているが……色男のジルヴェスターが親友の婚約者を奪ったと噂になっていた。
公爵家の力を使ってその噂を消すことは容易かったが、ジルヴェスターはあえてそのままにした。自分の罪だとでもいうように。
それからはどんどん女嫌いが加速していき、両親が亡くなると更に酷くなった。そして女性を避け続けたまま二十五歳を迎えた。
ちなみに、この日以来ジルヴェスターとデニスは一言も話していない。
♢♢♢
「……というわけです」
「そうだったのね」
私はひと通り話を聞いて涙が出てきた。そしてゴシゴシと手で頬を拭った。
「なにそれ。その女が最低なだけじゃない!ジルもデニス様も全く悪くない!!」
そう叫んだ私を見て、ラルフとニーナは小さく頷いてくれた。
「あ、これは独り言だからね。私がデニス様に会いに行く。それでジルと仲直りしてもらいたい!だってそんなことで友情が壊れるなんておかしいもん」
「……私達もそれを望んでいますが、難しいかもしれません。デニス様は騎士団を辞められた後、腕を買われて後継の居なかった田舎の伯爵家の養子になり爵位を継いでおられます。なので今はブラマーニ伯爵です」
つまりは遠くにいるってことね。でも、そんなことで諦めたくない。
「その話を聞く限り、デニス様が私を狙ったとはどうしても思えないの。犯人はきっと別の人よ」
「私もそう思います。しかし、旦那様は立場上色んなところから狙われています。若くして騎士団長になったことを妬んでいる輩もいますし、また自分の娘を嫁がせたい貴族がアンナ様に嫌がらせをした可能性もあります」
「そうね」
でもデニス様との件が解決したらジルも本当に好きな女性を見つけられるんじゃないだろうか。
彼の横に並ぶのが自分じゃないと思うと胸がチクリと痛む。ん……?なんでだろう?
私はこの痛みに気が付かない振りをして、彼の親友デニス様に会いに行くことを決めた。
ラルフは覚悟を決めたようにグッと拳に力を入れ、私を見つめながら話を進めた。
♢♢♢
ジルヴェスターとデニスはライバルであり、親友。仕事もプライベートもいつも一緒に過ごしていた。クールなジルヴェスターと明るいデニスは、性格は正反対だったが相性はピッタリだった。
「ジルヴェスター!今度の試合は俺が勝つからな」
「ふっ、寝言は寝てから言え。私の方が強い」
「なんだと!?俺は百戦中、四十九勝五十一敗だ!たった一勝の差なんて誤差だからな。誤差っ!!」
「安心しろ。これから差はどんどん開く」
二人は十五歳で騎士団に入団して以来、切磋琢磨しながら腕を磨いていた。
「先輩に連れて行かれた夜の店で、誰がジルヴェスターの隣に座るかで血みどろの争いが起こったんだって?女は怖いな」
お腹を抱えてゲラゲラと笑うデニス。若い頃のジルヴェスターは今ほど女性嫌いを拗らせておらず、先輩や上司に誘われれば女性店員のいる酒場も行っていた。
「やめてくれ。あの地獄絵図を思い出しただけで頭が痛くなる。先輩からは『顔のいい奴はモテて良いよな』とか『俺の馴染みの女だったのに』なんて嫌味言われて睨まれたんだぞ」
ジルヴェスターが頭を抱えると、デニスはバシバシと背中を叩いた。
「喧嘩せずに大人しく順番に並べ!全員相手にしてやるから安心しろ、って口付けの一つや二つしてやれば良かったのに」
「そんなことできるはずがないだろう!」
「ははっ、せっかくイケメンに生まれたんだしちょっとは遊べよ」
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「……そうだな。大勢に好かれたって意味がない。自分の好きな女に好かれるだけでいい」
そう言って笑ったデニスはとても男らしく、精悍な顔だった。ジルヴェスターは彼には『愛する女』がいるのだと悟った。
そして二十歳になった時、騎士団で二人に敵う者は居なくなっていた。若いがそれくらい強く、才能に溢れていた。
「ジルヴェスター、俺結婚するんだ。高嶺の花で、何年も片想いしてたんだが……やっと彼女が頷いてくれた」
「それは良かったな」
ジルヴェスターはこんなに嬉しそうな親友のデニスを見たことが無かった。そして素直に、心から彼を祝いたいと思った。
「お前にも紹介したい。是非会ってくれ」
「もちろんだ」
これが最悪の事件を巻き起こすことになるとは、ジルヴェスターもデニスも想像もしていなかった。
「ジルヴェスター、彼女は私の婚約者のパトリツィアだ」
デニスは頬を染めながら、嬉しそうに親友のジルヴェスターに婚約者を紹介した。
「初めてまして。パトリツィアと申します。ジルヴェスター様のお話はデニスからよくお聞きしておりますわ」
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それに……自惚れではなく、ジルヴェスターはほとんどの御令嬢方からそういう目で見られることが多かったためいつも通りと言えば、いつも通りだった。
「初めまして。美しい女性じゃないか。デニスには勿体ないな」
ジルヴェスターが軽口を言うと、デニスはヘラリと笑った。
「そうなんだ。俺には勿体無いくらいの美人なんだよ」
いつもなら「なんだと!?」と言い返すデニスはジルヴェスターの言葉にそのまま頷いた。
「ははっ、ベタ惚れだな。パトリツィア嬢、デニスを頼むよ」
「……はい」
真っ赤に頬を染めて恥ずかしそうにしている彼女と握手をしてその場を離れた。
それからは何度かデニスがいない日に、彼女が騎士団に来る時があった。デニスと入れ違いになってしまったと言うパトリツィアを無視することもできず、その度に親友のジルヴェスターがエスコートや話し相手をした。
なぜなら、親友の婚約者を蔑ろにすることなんてできなかったから。正直に言えば彼女はジルヴェスターの苦手なタイプで『ザ•貴族令嬢』そのものだったが、親友の愛する女性なのだからとできるだけ優しく接した。
そして、その日は急に訪れた。
「デニスっ!お前退団届を出したというのは本当か!?」
ジルヴェスターは上司からデニスが騎士を辞めると聞いて驚き、彼に詰め寄った。
「……ああ」
どうして?ジルヴェスターは理解ができなかった。約束したのに……!いつか二人で最強の騎士団を作るという夢があったのに。
「何があったんだ!私にできることなら何でも言ってくれ。協力するから」
そう言ったジルヴェスターをデニスはギロっと睨みつけた。それは憎しみの表情だ。ジルヴェスターはデニスのこんな顔を見たことがなかったのでかなり驚き……言葉が出てこなかった。
デニスはすぐに哀しそうに眉を下げ、視線を逸らし深く俯いた。
「……婚約の話が無くなった」
「え?どうして。あんなに仲良かったではないか」
ジルヴェスターは理解ができなかった。もしかして家同士で何か問題が?それならば、公爵家に生まれた自分が手助けできるかもしれないとその時は思っていた。
デニスはジルヴェスターの胸をドンと叩いた。思ったより痛くて、ズキズキする。
「……すまない」
苦しそうな声でデニスは謝った。
「なにが?黙っていたらわからない」
「彼女はお前のことが好きなんだと」
ジルヴェスターは頭が真っ白になった。誰が誰を好きだって?
ほとんど話したこともない私を好きになったと?彼女はこの国で一番優しくて強くて明るい良い男の婚約者なのに?
「嘘だろ?あり得ない」
「……だよな。でも本当だ。ジルヴェスターと会って一目で好きになったらしい。こればっかりは仕方がないさ。彼女もお前も……悪くない」
こんな状況でも優しい言葉を選ぶデニスのことが信じられなかった。悪くないだと?婚約者がいるのに他の男に惚れるなどあり得ないではないか。
「でも俺は器の小さい男だからさ。やっぱり思ってしまうんだ」
「……」
「お前に紹介なんてしなけりゃ良かったって」
そう言われたジルヴェスターは何も言えなくなった。デニスは「悪い。今はお前の顔を見るの辛いんだ」と謝ってそのまま騎士団を去った。
それからパトリツィアは何事もなかったかのように、ジルヴェスターに擦り寄って来た。
「ジルヴェスター様」
以前より甘ったるい猫撫で声を出し、あからさまに豊満な胸を押し当てて来た。ジルヴェスターはその事実に吐き気がしていた。
「私に話しかけるな」
「え?ジルヴェスター様……あの……」
急な態度の変化にパトリツィアは青ざめていた。しかし、当たり前だ。この女は大事な親友を傷つけたのだから。
「二度と顔を見せるな。見せれば君の家ごと捻り潰す」
冷たく言い放つと、彼女はプルプルと震え出した。この時まではジルヴェスターは『こんな女とデニスが結婚しなくて良かった』と思っていた。
「ジルヴェスター様が思わせぶりなことをされたせいではありませんか!誰も近付けないのに、私だけを特別にエスコートして優しくしてくれた。私のことを美しいって褒めてくれた!だから好きになったのに酷い!!」
ポロポロと泣き出すパトリツィアを無感情で見つめた。しかし、親友の婚約者だからと思ってやっていた行為が『彼から婚約者を奪う』ことに繋がっていたとは思ってもいなかった。
ジルヴェスターは自分を責めた。気付くタイミングは何度も会ったはずだ。デニスがいない時に騎士団を訪れていたのは、下心があったからだ。
「大事な親友の婚約者だったから。ただそれだけだ。勘違いするな」
騎士団内で強かったデニスが急に辞めたことは大きな騒動になっており、表向きは家の事情となっているが……色男のジルヴェスターが親友の婚約者を奪ったと噂になっていた。
公爵家の力を使ってその噂を消すことは容易かったが、ジルヴェスターはあえてそのままにした。自分の罪だとでもいうように。
それからはどんどん女嫌いが加速していき、両親が亡くなると更に酷くなった。そして女性を避け続けたまま二十五歳を迎えた。
ちなみに、この日以来ジルヴェスターとデニスは一言も話していない。
♢♢♢
「……というわけです」
「そうだったのね」
私はひと通り話を聞いて涙が出てきた。そしてゴシゴシと手で頬を拭った。
「なにそれ。その女が最低なだけじゃない!ジルもデニス様も全く悪くない!!」
そう叫んだ私を見て、ラルフとニーナは小さく頷いてくれた。
「あ、これは独り言だからね。私がデニス様に会いに行く。それでジルと仲直りしてもらいたい!だってそんなことで友情が壊れるなんておかしいもん」
「……私達もそれを望んでいますが、難しいかもしれません。デニス様は騎士団を辞められた後、腕を買われて後継の居なかった田舎の伯爵家の養子になり爵位を継いでおられます。なので今はブラマーニ伯爵です」
つまりは遠くにいるってことね。でも、そんなことで諦めたくない。
「その話を聞く限り、デニス様が私を狙ったとはどうしても思えないの。犯人はきっと別の人よ」
「私もそう思います。しかし、旦那様は立場上色んなところから狙われています。若くして騎士団長になったことを妬んでいる輩もいますし、また自分の娘を嫁がせたい貴族がアンナ様に嫌がらせをした可能性もあります」
「そうね」
でもデニス様との件が解決したらジルも本当に好きな女性を見つけられるんじゃないだろうか。
彼の横に並ぶのが自分じゃないと思うと胸がチクリと痛む。ん……?なんでだろう?
私はこの痛みに気が付かない振りをして、彼の親友デニス様に会いに行くことを決めた。
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