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5 努力の証
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転生してから毎朝ジルヴェスターとモーニングを食べているが、全く仲良くはなれていない。
「私は勉強中なの!これでもましになったんだから」
「……十点だ。もちろん百点満点中のな」
毎朝毎朝嫌味を言ってくるので、私はこの時間が一番嫌いだ。そして腹が立つのは、目の前のジルヴェスターは信じられないくらい美しい所作でご飯を食べているところだ。だけど毎回感情なく淡々と食べ進めている。
「あなたももっと美味しそうに食べたら?こんな素晴らしいご飯なのに。あー……このコーンスープ最高!料理長に『ありがとう』って伝えておかなくっちゃ」
「……君は静かに食事ができないのか」
「私の国では、皆楽しく話しながら食べるのが普通よ」
そう伝えて、私はペロリとご飯を平らげた。毎日のハードスケジュールをこなすためには、エネルギーが必要だから。
「君はよく食べるな」
「悪い?小食な女が好きなら、細くて可愛いらしい別の婚約者を探しなさいよ」
この家を放り出されたら困るのは事実だが、この生活をずっと続けるのも限界な気もする。向こうから契約破棄するなら、違約金でももらって出て行ってやるという気持ちになっていた。
「いや……好きに食べろ」
ジルヴェスターはやけに優しい声でそう呟いた。いつものように悪態をついてくれないと、なんだか調子が狂ってしまう。私が戸惑っていると、彼は「また」とだけ告げて仕事に行ってしまった。
その後は私はパチーニャ王国の歴史を勉強し、ダンスレッスンをして……休憩を兼ねてお茶をしながらマナーの訓練をしている。
正直ぐったりするようなスケジュールだが、馬鹿にされるのも癪なのでなんとか予定をこなしていく。
「はぁ……足が痛い。なんでこんな高いヒール履かなくちゃいけないのよ」
私は今日のレッスンを全て終えて、ベッドに寝転がった。元々運動神経の良い私は、ダンスだけは最初から割と上手くできたのだが……履き慣れないヒールの靴がもの凄く痛いのだ。
「お疲れ様でございました。先生がもう舞踏会に出ても恥ずかしくないと褒めておられましたよ。ああ……でもお美しい足が傷付いていますね。毎日頑張っていらっしゃいますものね」
まるでお母さんのように優しいニーナに私は甘えるようになっていた。
「いつもありがとう。ニーナがいるから、私ここでの暮らしを頑張れているわ」
「まあ、勿体ないお言葉ですわ」
そう言いながらテキパキと私の靴擦れができた足の手当てをしてくれている。
「ここのみんなは本当に優しいよね。優しくないのはジルヴェスターだけよ」
「旦那様は心配なのですわ。貴族社会は煩いですから、アンナ様が外に出た時に困らないようにと心配されているのです。その……言い方は不器用ですが」
「ただ嫌味なだけでしょ!今日も『十点だ』なんて言われたんだから!!」
私はわざと目つきを悪くして、ジルヴェスターの口調を真似するとニーナは困ったように眉を下げた。
自分の主人の悪口に頷くわけにはいかないものね。ニーナにこんなことを言うのは間違っていたな、と反省した。
「そういえば、今夜はアンナ様のお好きなスイーツを作るとシェフが張り切っていましたよ」
「ええ!?本当?楽しみだわ」
私はこの一ヶ月で、使用人達と仲を深めていた。ジルヴェスターは仕事で朝から夜遅くまでいないため、執事や侍女……シェフや庭師などいろんな人と交流を持った。こんな家に一人でいるなんて寂しすぎるもの。
シェフはよく食べる私を気に入ってくれているようで、最近は創作意欲が湧いて新しい料理を沢山作ってくれるようになった。
家の周りを散歩していたら、綺麗な花が咲いているので名前を教えてもらっていたら庭師のみんなとも仲良くなった。
侍女達とは定期的にお茶をしている。最初は一緒のテーブルに座るなんていけません、と拒否されたが『お願い』と目を潤ませて頼んだら受け入れてくれた。
執事達は公爵家の仕事を補佐しているみたいなので、私もレッスンが少ない日はできることを手伝うことにした。何もせずに居候させて貰うのはなんとなく気が引けるから。まあ、私にできることといえば手紙の代筆ぐらいだけど。
「これ全部縁談の手紙なの?」
「そうです。旦那様は人気がございますので、毎日このような手紙や姿絵が届きます」
へぇー……あの自信過剰っぷりは本物だったんだ。縁談の釣書が雪崩を起こす程高く積み上がっている。
「アンナ様が来てくださったおかげで『すでに愛する婚約者がいる』と返事ができるようになり、文面を考えるのがとても楽になりました」
ラルフはニコニコとしながら、さらりとそんなことを言っている。
「……愛されてないけどね」
私はその大嘘を、御令嬢達の返事として何枚も何枚も書いた。中にはとても美人な姿絵もある。うわー……なんでこんな素敵な人があの性悪を好きなんだろう?
「この人なんてもの凄く美人じゃない!ジルヴェスターはこれ見ていないんでしょ?見たら好きになるかもしれないわよ」
ラルフに姿絵を見せた瞬間、私の後ろに大きな影ができた。振り向くより前に、シュッと手から姿絵が奪われた。
「見る必要はない」
そこにはいつの間にかジルヴェスターが立っていて、姿絵を見ることなくゴミ箱に捨てた。
「ちょっと……!せっかくあなたを好きだってこんな手紙くれてるのに失礼じゃない」
「こいつらは私の地位や見た目、財力が好きなだけだ。誰も私自身を見てはいない」
彼は低い声で冷たくそう言い放った。大半はそうかも知れないが……そうじゃない人もいるかもしれないのに。なんでこの男はこんなにひねくれているのだろうか?
「いらぬことをするな」
「はいはい!すみませんね」
私はそのまま部屋を出て行こうとしたが、靴擦れした部分が痛くて「うゔっ……」としゃがみ込んだ。どうやら動いたことで、治療してもらったところからまた血が出たようだ。
「……どうした?」
「何でもないわ。ただの靴擦れよ。放っておいて」
私がそう言うと、彼は私をふわりと横抱きにした。いきなりのことに驚いているとそのまま歩き出した。
「ちょっ、離してよ!」
バタバタと暴れるがビクともしない。そのまま私の部屋に連れて行かれて、ベッドに下ろされた。それからジルヴェスターに靴を脱がされ……足を見られた。
――は、恥ずかしい。
私の足はダンスの練習のせいで、色んなところが擦り切れて怪我だらけだ。
美しい彼がそんな汚い足を掴んでいることに居た堪れなくなった。
「……血が滲んでいる。なぜこんな風になるまで放っておいた?」
「ヒールを履くのも、ダンスも慣れてないから怪我するの。これはしょうがないのよ。足……汚いから触らないで」
「……」
そう言ったが、なぜか彼無言で私の足を掴んだままだ。一体何を考えているの?
「汚くない」
ジルヴェスターは私の足の甲を優しく撫でた。私は予想していなかった出来事にポカンと口を開けたままになった。
「これは君の努力の証だろう。汚いはずがない。もう一度手当てがいるな……ニーナを呼んでくる」
今、私の足の甲を撫でた?その事実を理解した瞬間に全身真っ赤になった。
ドキドキドキドキ
心臓が破れそうなほど早く動いている。しかもあの男から『努力の証』などと嬉しい言葉をもらってしまった。
ジルヴェスターに見られたら絶対に『下手だから怪我するんだ。格好悪い』と貶されると思っていたのに。
「なんなのよ……いきなり優しくなっちゃってさ」
私の心はぐちゃぐちゃだ。態度の変な私を見て、ニーナはとても心配してくれたが……さっきのことを話す勇気はなかった。
その日はなんだかよく眠れずに、いつもより早起きをしてしまった。窓を開けて外の空気を吸っていると、庭でジルヴェスターが剣を振っているのが見えた。傍にはシュバルツもいる。
「……この国一強くても、まだ鍛錬するのね」
私は彼をボーッと眺めていた。するとノック音が鳴りニーナが「おはようございます」と部屋に入ってきた。
「ジルヴェスターは毎朝剣を振っているの?」
私が庭を指さすと、ニーナは「旦那様は幼い頃から一日も欠かさずされています」と教えてくれた。
「幼い頃からずっと……」
彼はどうやら口だけの男ではないらしい。ほんの少し……ほんの少しだけ私はジルヴェスターを見直した。嫌なだけの奴ではないのかもしれない。
「私は勉強中なの!これでもましになったんだから」
「……十点だ。もちろん百点満点中のな」
毎朝毎朝嫌味を言ってくるので、私はこの時間が一番嫌いだ。そして腹が立つのは、目の前のジルヴェスターは信じられないくらい美しい所作でご飯を食べているところだ。だけど毎回感情なく淡々と食べ進めている。
「あなたももっと美味しそうに食べたら?こんな素晴らしいご飯なのに。あー……このコーンスープ最高!料理長に『ありがとう』って伝えておかなくっちゃ」
「……君は静かに食事ができないのか」
「私の国では、皆楽しく話しながら食べるのが普通よ」
そう伝えて、私はペロリとご飯を平らげた。毎日のハードスケジュールをこなすためには、エネルギーが必要だから。
「君はよく食べるな」
「悪い?小食な女が好きなら、細くて可愛いらしい別の婚約者を探しなさいよ」
この家を放り出されたら困るのは事実だが、この生活をずっと続けるのも限界な気もする。向こうから契約破棄するなら、違約金でももらって出て行ってやるという気持ちになっていた。
「いや……好きに食べろ」
ジルヴェスターはやけに優しい声でそう呟いた。いつものように悪態をついてくれないと、なんだか調子が狂ってしまう。私が戸惑っていると、彼は「また」とだけ告げて仕事に行ってしまった。
その後は私はパチーニャ王国の歴史を勉強し、ダンスレッスンをして……休憩を兼ねてお茶をしながらマナーの訓練をしている。
正直ぐったりするようなスケジュールだが、馬鹿にされるのも癪なのでなんとか予定をこなしていく。
「はぁ……足が痛い。なんでこんな高いヒール履かなくちゃいけないのよ」
私は今日のレッスンを全て終えて、ベッドに寝転がった。元々運動神経の良い私は、ダンスだけは最初から割と上手くできたのだが……履き慣れないヒールの靴がもの凄く痛いのだ。
「お疲れ様でございました。先生がもう舞踏会に出ても恥ずかしくないと褒めておられましたよ。ああ……でもお美しい足が傷付いていますね。毎日頑張っていらっしゃいますものね」
まるでお母さんのように優しいニーナに私は甘えるようになっていた。
「いつもありがとう。ニーナがいるから、私ここでの暮らしを頑張れているわ」
「まあ、勿体ないお言葉ですわ」
そう言いながらテキパキと私の靴擦れができた足の手当てをしてくれている。
「ここのみんなは本当に優しいよね。優しくないのはジルヴェスターだけよ」
「旦那様は心配なのですわ。貴族社会は煩いですから、アンナ様が外に出た時に困らないようにと心配されているのです。その……言い方は不器用ですが」
「ただ嫌味なだけでしょ!今日も『十点だ』なんて言われたんだから!!」
私はわざと目つきを悪くして、ジルヴェスターの口調を真似するとニーナは困ったように眉を下げた。
自分の主人の悪口に頷くわけにはいかないものね。ニーナにこんなことを言うのは間違っていたな、と反省した。
「そういえば、今夜はアンナ様のお好きなスイーツを作るとシェフが張り切っていましたよ」
「ええ!?本当?楽しみだわ」
私はこの一ヶ月で、使用人達と仲を深めていた。ジルヴェスターは仕事で朝から夜遅くまでいないため、執事や侍女……シェフや庭師などいろんな人と交流を持った。こんな家に一人でいるなんて寂しすぎるもの。
シェフはよく食べる私を気に入ってくれているようで、最近は創作意欲が湧いて新しい料理を沢山作ってくれるようになった。
家の周りを散歩していたら、綺麗な花が咲いているので名前を教えてもらっていたら庭師のみんなとも仲良くなった。
侍女達とは定期的にお茶をしている。最初は一緒のテーブルに座るなんていけません、と拒否されたが『お願い』と目を潤ませて頼んだら受け入れてくれた。
執事達は公爵家の仕事を補佐しているみたいなので、私もレッスンが少ない日はできることを手伝うことにした。何もせずに居候させて貰うのはなんとなく気が引けるから。まあ、私にできることといえば手紙の代筆ぐらいだけど。
「これ全部縁談の手紙なの?」
「そうです。旦那様は人気がございますので、毎日このような手紙や姿絵が届きます」
へぇー……あの自信過剰っぷりは本物だったんだ。縁談の釣書が雪崩を起こす程高く積み上がっている。
「アンナ様が来てくださったおかげで『すでに愛する婚約者がいる』と返事ができるようになり、文面を考えるのがとても楽になりました」
ラルフはニコニコとしながら、さらりとそんなことを言っている。
「……愛されてないけどね」
私はその大嘘を、御令嬢達の返事として何枚も何枚も書いた。中にはとても美人な姿絵もある。うわー……なんでこんな素敵な人があの性悪を好きなんだろう?
「この人なんてもの凄く美人じゃない!ジルヴェスターはこれ見ていないんでしょ?見たら好きになるかもしれないわよ」
ラルフに姿絵を見せた瞬間、私の後ろに大きな影ができた。振り向くより前に、シュッと手から姿絵が奪われた。
「見る必要はない」
そこにはいつの間にかジルヴェスターが立っていて、姿絵を見ることなくゴミ箱に捨てた。
「ちょっと……!せっかくあなたを好きだってこんな手紙くれてるのに失礼じゃない」
「こいつらは私の地位や見た目、財力が好きなだけだ。誰も私自身を見てはいない」
彼は低い声で冷たくそう言い放った。大半はそうかも知れないが……そうじゃない人もいるかもしれないのに。なんでこの男はこんなにひねくれているのだろうか?
「いらぬことをするな」
「はいはい!すみませんね」
私はそのまま部屋を出て行こうとしたが、靴擦れした部分が痛くて「うゔっ……」としゃがみ込んだ。どうやら動いたことで、治療してもらったところからまた血が出たようだ。
「……どうした?」
「何でもないわ。ただの靴擦れよ。放っておいて」
私がそう言うと、彼は私をふわりと横抱きにした。いきなりのことに驚いているとそのまま歩き出した。
「ちょっ、離してよ!」
バタバタと暴れるがビクともしない。そのまま私の部屋に連れて行かれて、ベッドに下ろされた。それからジルヴェスターに靴を脱がされ……足を見られた。
――は、恥ずかしい。
私の足はダンスの練習のせいで、色んなところが擦り切れて怪我だらけだ。
美しい彼がそんな汚い足を掴んでいることに居た堪れなくなった。
「……血が滲んでいる。なぜこんな風になるまで放っておいた?」
「ヒールを履くのも、ダンスも慣れてないから怪我するの。これはしょうがないのよ。足……汚いから触らないで」
「……」
そう言ったが、なぜか彼無言で私の足を掴んだままだ。一体何を考えているの?
「汚くない」
ジルヴェスターは私の足の甲を優しく撫でた。私は予想していなかった出来事にポカンと口を開けたままになった。
「これは君の努力の証だろう。汚いはずがない。もう一度手当てがいるな……ニーナを呼んでくる」
今、私の足の甲を撫でた?その事実を理解した瞬間に全身真っ赤になった。
ドキドキドキドキ
心臓が破れそうなほど早く動いている。しかもあの男から『努力の証』などと嬉しい言葉をもらってしまった。
ジルヴェスターに見られたら絶対に『下手だから怪我するんだ。格好悪い』と貶されると思っていたのに。
「なんなのよ……いきなり優しくなっちゃってさ」
私の心はぐちゃぐちゃだ。態度の変な私を見て、ニーナはとても心配してくれたが……さっきのことを話す勇気はなかった。
その日はなんだかよく眠れずに、いつもより早起きをしてしまった。窓を開けて外の空気を吸っていると、庭でジルヴェスターが剣を振っているのが見えた。傍にはシュバルツもいる。
「……この国一強くても、まだ鍛錬するのね」
私は彼をボーッと眺めていた。するとノック音が鳴りニーナが「おはようございます」と部屋に入ってきた。
「ジルヴェスターは毎朝剣を振っているの?」
私が庭を指さすと、ニーナは「旦那様は幼い頃から一日も欠かさずされています」と教えてくれた。
「幼い頃からずっと……」
彼はどうやら口だけの男ではないらしい。ほんの少し……ほんの少しだけ私はジルヴェスターを見直した。嫌なだけの奴ではないのかもしれない。
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