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本編
24 幸せの報告①
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そして結婚して二年が経過した。つまり本物の夫婦になって一年が経過した頃、私は妊娠していることがわかった。最近ずっと体調が悪かったが、彼に毎晩のように愛されているのでもしかして……と期待していた。
そして今日きちんとお医者様に診てもらって子どもができたことが判明したのだ。
「クリス、君になにかあったらと思うと心配でしょうがない。お願いだから俺を置いて死なないでくれ」
お医者様に診てもらう前、エルはベッドで寝ている私の手を握りそんな深刻なことを言っていた。明らかに大袈裟だ。
「大丈夫、ちょっとしんどいだけだから」
「でもご飯も食べれないなんて、おかしいだろ。君に何かあったら俺は生きていけない。午前中に医者を呼んだから診てもらってくれ。もし難しい病気なら、俺が君を治してくれる医者を必ずみつけ出すからな。安心してくれ!」
「……ありがとうございます」
エルはめちゃくちゃ心配性だ。でも本当に……彼の愛があれば、どんな病気でも治すお医者さんを連れて来そうだ。
「仕事を休もう」
「だめです。働いてきてくださいませ」
「……だめか? 絶対にだめ?」
「だめです」
「……行ってきます。早く帰るから」
エルはちゅっと軽いキスをして心配そうな顔をしながら、とぼとぼと仕事へ向かった。
そして、先程妊娠が判明したのだ。よかった……病気ではなかった。エルが早く帰ってこないかな、と思っているとまだ昼なのに彼が「クリス! 医者は何と言っていた?」といきなり部屋に入ってきた。
「エル? お仕事はどうされたのですか」
「昼休憩だ。どうしても心配でステラで駆けてきた」
彼は、はぁはぁ……と息を切らしているのでかなり急いで来てくれたみたいだ。私はくすりと笑って、ベッドの近くに彼を手招きして呼ぶとエルは少し不安そうにベッド横の椅子に座った。
「エル、この体調不良はしばらく続くらしいです」
「なんだと! チッ……あのヤブ医者め。クリス、俺が別の医者を探してくる」
「ふふ、エル……先生はヤブ医者なんかじゃありませんわ。撤回してくださいませ」
「ん? どういう意味だ?」
「あなたと私の子がお腹にいるらしいです」
「ほぉ……俺と君の子が……子が……子が!? 俺と君の子ができた……それは本当か?」
エルは驚いてガターンと椅子を倒しながら立ち上がった。
「ええ。本当です」
私はそっとお腹を撫でて、彼を見上げて微笑んだ。彼の瞳からはポタポタと涙が落ちた。
「クリス……ありがとう。ありがとう」
彼は私を優しくギュッと抱きしめた。エルは私の前では結構泣き虫だ。きっと騎士団の部下がこの姿を見たらかなり驚くだろうけれど。でも私は泣き顔も可愛いと思っているし、彼が素直な感情を私の前だけで出してくれるのがとても嬉しい。
「嬉しいですね」
「ああ、嬉しい。俺に家族を作ってくれてありがとう。君との子なんて夢のようだ」
ご両親が亡くなられて、私が嫁ぐまでは彼は天涯孤独だった。だから、家族を増やせたことはとても嬉しい。
「より一層身体を大事にしてくれ」
それからのエルはさらに愛情深く、毎日甲斐甲斐しくお世話をしてくれるようになった。使用人達も私が妊娠したことを知って喜び、より一層優しくされてなんだかくすぐったかった。
「これなら食べれそうか?」
悪阻で苦しんでいる時は、サッパリとした果物のゼリーやジュースを自ら口に運んでくれる。
「はい。ごめんなさい……あなたもお忙しいのに、こんなお世話をかけて」
「君の世話をできるなんてむしろとても幸せだ。しかもクリスは俺との子を育ててるんだから」
彼は本当に私のお世話を全く負担と思っていないようで「早く逢いたい」と毎日お腹にちゅっちゅとキスをして撫でている。
「ただ、君に触れられないのは寂しいな。落ち着いたら、たっぷり愛したい」
そんなことを耳元で甘く囁かれて、私は真っ赤になった。エルのたっぷりなんて、考えただけで大変そうだ。だけどしばらく触れられていないので、彼に妻として愛して欲しいと思う私もいる。
「私もあなたに愛されたい……デス」
素直にそう伝えて、潤んだ瞳でチラリとエルを見つめた。
「あー……その顔は反則。可愛すぎて襲いたくなる。襲わないけど」
彼はゔーっと変な呻き声をあげながら、ガシガシと頭をかいていた。
「いや、本来の俺は楽しみは後に取っておけるタイプなんだ。君の方が何十倍も大変なんだし、俺も頑張れる」
懸命に自分にそう言い聞かせている姿が面白くて、くすりと笑ってしまう。
酷い話だが世の中の男性は、妻の妊娠中に愛人をつくる場合が多いらしい。お腹が大きくなると、女性として見れないと酷いことを言う男性もいると聞いたことがある。
しかし、エルの場合は浮気の心配はなさそうだった。妊娠してからも、夫婦のスキンシップはしっかりととっていたし相変わらずの溺愛っぷりだったから。
「クリス、愛してるよ」
優しくハグをされて、甘いキスをされるととても心地が良い。
「私もエルを愛しています」
嬉しそうに目を細めたエルに、私からキスをしようとすると……お腹の中をドンと蹴られた。
「あ……! 今、中で蹴りました」
「本当か?」
「ええ、ほら。触ってください」
エルがお腹に触れると、さらにドンドンと蹴飛ばしている。
「おお! すごいな。この子はなんて元気なんだ」
「こんなに動いているのは初めてです」
「そうか。すごいな……本当にいるんだな」
私のお腹をそっと撫でて、二人で微笑んだ。そしてもう一度キスをしようとすると……
ドンドンドン
「あ! また蹴っています」
キスをする寸前で中断されるので、エルは真顔でお腹に話しかけている。
「……いい子だから、少しだけ大人しくしててくれ。頼む」
「ふふ、聞こえるのかしら」
「聞こえているさ。クリスは君の母親だが、俺の妻だ。そして、今は俺とクリスの大事な時間なんだ。賢い君ならわかるな?」
真剣な声でお腹の子どもに語りかけているエルを見て、私は声を殺して笑い続けていた。
そして今日きちんとお医者様に診てもらって子どもができたことが判明したのだ。
「クリス、君になにかあったらと思うと心配でしょうがない。お願いだから俺を置いて死なないでくれ」
お医者様に診てもらう前、エルはベッドで寝ている私の手を握りそんな深刻なことを言っていた。明らかに大袈裟だ。
「大丈夫、ちょっとしんどいだけだから」
「でもご飯も食べれないなんて、おかしいだろ。君に何かあったら俺は生きていけない。午前中に医者を呼んだから診てもらってくれ。もし難しい病気なら、俺が君を治してくれる医者を必ずみつけ出すからな。安心してくれ!」
「……ありがとうございます」
エルはめちゃくちゃ心配性だ。でも本当に……彼の愛があれば、どんな病気でも治すお医者さんを連れて来そうだ。
「仕事を休もう」
「だめです。働いてきてくださいませ」
「……だめか? 絶対にだめ?」
「だめです」
「……行ってきます。早く帰るから」
エルはちゅっと軽いキスをして心配そうな顔をしながら、とぼとぼと仕事へ向かった。
そして、先程妊娠が判明したのだ。よかった……病気ではなかった。エルが早く帰ってこないかな、と思っているとまだ昼なのに彼が「クリス! 医者は何と言っていた?」といきなり部屋に入ってきた。
「エル? お仕事はどうされたのですか」
「昼休憩だ。どうしても心配でステラで駆けてきた」
彼は、はぁはぁ……と息を切らしているのでかなり急いで来てくれたみたいだ。私はくすりと笑って、ベッドの近くに彼を手招きして呼ぶとエルは少し不安そうにベッド横の椅子に座った。
「エル、この体調不良はしばらく続くらしいです」
「なんだと! チッ……あのヤブ医者め。クリス、俺が別の医者を探してくる」
「ふふ、エル……先生はヤブ医者なんかじゃありませんわ。撤回してくださいませ」
「ん? どういう意味だ?」
「あなたと私の子がお腹にいるらしいです」
「ほぉ……俺と君の子が……子が……子が!? 俺と君の子ができた……それは本当か?」
エルは驚いてガターンと椅子を倒しながら立ち上がった。
「ええ。本当です」
私はそっとお腹を撫でて、彼を見上げて微笑んだ。彼の瞳からはポタポタと涙が落ちた。
「クリス……ありがとう。ありがとう」
彼は私を優しくギュッと抱きしめた。エルは私の前では結構泣き虫だ。きっと騎士団の部下がこの姿を見たらかなり驚くだろうけれど。でも私は泣き顔も可愛いと思っているし、彼が素直な感情を私の前だけで出してくれるのがとても嬉しい。
「嬉しいですね」
「ああ、嬉しい。俺に家族を作ってくれてありがとう。君との子なんて夢のようだ」
ご両親が亡くなられて、私が嫁ぐまでは彼は天涯孤独だった。だから、家族を増やせたことはとても嬉しい。
「より一層身体を大事にしてくれ」
それからのエルはさらに愛情深く、毎日甲斐甲斐しくお世話をしてくれるようになった。使用人達も私が妊娠したことを知って喜び、より一層優しくされてなんだかくすぐったかった。
「これなら食べれそうか?」
悪阻で苦しんでいる時は、サッパリとした果物のゼリーやジュースを自ら口に運んでくれる。
「はい。ごめんなさい……あなたもお忙しいのに、こんなお世話をかけて」
「君の世話をできるなんてむしろとても幸せだ。しかもクリスは俺との子を育ててるんだから」
彼は本当に私のお世話を全く負担と思っていないようで「早く逢いたい」と毎日お腹にちゅっちゅとキスをして撫でている。
「ただ、君に触れられないのは寂しいな。落ち着いたら、たっぷり愛したい」
そんなことを耳元で甘く囁かれて、私は真っ赤になった。エルのたっぷりなんて、考えただけで大変そうだ。だけどしばらく触れられていないので、彼に妻として愛して欲しいと思う私もいる。
「私もあなたに愛されたい……デス」
素直にそう伝えて、潤んだ瞳でチラリとエルを見つめた。
「あー……その顔は反則。可愛すぎて襲いたくなる。襲わないけど」
彼はゔーっと変な呻き声をあげながら、ガシガシと頭をかいていた。
「いや、本来の俺は楽しみは後に取っておけるタイプなんだ。君の方が何十倍も大変なんだし、俺も頑張れる」
懸命に自分にそう言い聞かせている姿が面白くて、くすりと笑ってしまう。
酷い話だが世の中の男性は、妻の妊娠中に愛人をつくる場合が多いらしい。お腹が大きくなると、女性として見れないと酷いことを言う男性もいると聞いたことがある。
しかし、エルの場合は浮気の心配はなさそうだった。妊娠してからも、夫婦のスキンシップはしっかりととっていたし相変わらずの溺愛っぷりだったから。
「クリス、愛してるよ」
優しくハグをされて、甘いキスをされるととても心地が良い。
「私もエルを愛しています」
嬉しそうに目を細めたエルに、私からキスをしようとすると……お腹の中をドンと蹴られた。
「あ……! 今、中で蹴りました」
「本当か?」
「ええ、ほら。触ってください」
エルがお腹に触れると、さらにドンドンと蹴飛ばしている。
「おお! すごいな。この子はなんて元気なんだ」
「こんなに動いているのは初めてです」
「そうか。すごいな……本当にいるんだな」
私のお腹をそっと撫でて、二人で微笑んだ。そしてもう一度キスをしようとすると……
ドンドンドン
「あ! また蹴っています」
キスをする寸前で中断されるので、エルは真顔でお腹に話しかけている。
「……いい子だから、少しだけ大人しくしててくれ。頼む」
「ふふ、聞こえるのかしら」
「聞こえているさ。クリスは君の母親だが、俺の妻だ。そして、今は俺とクリスの大事な時間なんだ。賢い君ならわかるな?」
真剣な声でお腹の子どもに語りかけているエルを見て、私は声を殺して笑い続けていた。
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