8 / 32
本編
8 ひとつに①
しおりを挟む
私達は毎晩一緒に寝るようになった。寝ると言っても添い寝だけれど。寝室で二人で話しながら、戯れ合う時間はとても楽しい。いつも私が先に寝てしまうのが悔しいけれど。
「ねえ、エルベルト様。私って食べるの遅いですか?」
「食べるスピード? 特に何も思わんが……」
「だって! エルベルト様は食べ終わった後、いつも私をじーっと見ながら待たれているので。それに出逢ってすぐの時に『食べるのが遅い』って仰っていたのを思い出して、少し気になってしまいまして」
彼は私の発言にさーっと青ざめた。
「それも誤解だ! 食べてる君を見ているのは、可愛いからだ」
「は?」
「もぐもぐと小さい口を動かして、美味しそうに食べる姿が好きなんだ。だから、つい見つめていた」
ふふふ……あれは見つめているつもりだったのか。睨んでいるように見えるので、てっきり『早く食べろ』の圧なのかと勘違いしていた。
「あの時食べるのが遅いと言ったのも、君が最後のデザートを食べる姿を見たいなと思ったからだ。あの時は仕事が立て込んでたから、君が食べてる途中に退席しなくてはいけなかったんだ。すまなかった。気にせずにゆっくり食べてくれ」
「ふふ、わかりました」
そんな風にこの一年のすれ違いを解決しながら、だんだん仲を深めていった。
そして口付けもこの数週間で徐々に大人のものに変化していった。彼はゆっくりじっくりと時間をかけて、慣れていない私に大人のキスを教えてくれたのだ。
「……クリスティン」
エルベルト様は甘い声で私の名前を呼んで、唇をトントンと舌でノックした。促されるまま、口を開けるとそのままぬるりと舌が中に入ってきた。
「ふっ……んんっ……!」
中で舌が絡み合ってすごくいやらしい。そして、とても恥ずかしいのにとても気持ちがいい。
ちゅっちゅっ……くちゅ……
「息は……鼻でするんだ」
そんなことを言われても、もう訳がわからないくらい頭がパニックだった。私はキスをしながら上手く鼻で息ができなかったのだ。
「ぷはっ。はぁっ……はぁっ……ごめんなさ……上手く……できませ……ん」
恥ずかしくて下を向くと、エルベルト様は私の濡れた唇をそっと指で拭いながら優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。少しずつ慣れていく」
「……はい」
「もう一度」
「はい」
それから本当に毎日毎日、何度もキスを繰り返した。吸われすぎて、なんだか唇が熱っぽく感じる。
「気持ちいい?」
「ふっ……気持ち……いい……です」
「よかった。俺も……すごく気持ちがいい」
唇を食んだり、上顎を舌でなぞったり……たくさんのパターンを教わり、だんだん上手くできるように成長していった。
今では彼がしてくれる大人のキスに、ちゃんと応えられるようになっている。まだ、自分からするのは照れてしまってできていないけれど。
そんな日々を過ごし、今日はついに結婚披露パーティーの日。結婚一年記念日に可笑しな話だが、私達は最近やっとお互いの気持ちが通じたので……あながち間違っていないのかもしれない。
彼が用意してくれたウェディングドレスはとても素敵な物だった。使用人達は旦那様が女性の好みの物などわかるはずがないと……どんなドレスが届くか不安がっていたが、一目見ると『旦那様、やればできるんですね』と拍手を送っていた。
彼はセンスが悪いわけではない。だって自分の物は素敵な物を選んでいらっしゃるから。でも『女性が喜ぶ物』がよくわからないだけなのだ。
注文していただいたドレスはレースに白い薔薇が細かく刺繍されており、裾はふわふわと羽が舞うように動いて美しかった。私が着替え終わると、正装したエルベルト様が控室にやってきた。
「クリスティン……君はこの世の物とは思えぬほど美しいな」
彼は頬を染めながら、ボーッとドレス姿の私を見つめていた。
「ありがとうございます。エルベルト様、あなたもとても凛々しくて素敵です」
あの結婚式の日は、彼は何も言ってくれなかったので『美しい』と言われて嬉しくなった。ちなみにあの時も『もちろん綺麗だと思っていたが……君と結婚できるんだと感動して何も言葉が出なかった』らしいのだが。
彼は私の前に跪き、真っ白な薔薇のブーケを下さった。とても綺麗……それに私のドレスの刺繍とお揃いで嬉しくなる。
「クリスティン、その薔薇は二十四本ある。俺はいつ何時でも君のことを想っているよ。どうか……俺と本物の夫婦になって一生添い遂げて欲しい」
「はい」
私は嬉しくて涙が溢れる。お化粧が取れるので、泣いてはいけないのに止まらない。
「愛してるよ」
彼は嬉しそうに笑い、私の手の甲にチュッとキスをした。これは私が憧れていた騎士の正式な求婚申し込みだ。
すでに結婚しているので、変なのだが……私達にとっては変じゃない。私の準備を手伝ってくれていたノエルや他の侍女達も、涙を拭っていた。
「さあ、行こう。あいつらに見せるのは勿体ないが、俺の奥さんはこんなに素敵なんだとみんなに自慢したい」
彼にエスコートされて、結婚パーティーの会場へ入った。今日は騎士団の皆さんや、エルベルト様のお友達が沢山来てくださっている。お祝いなので、領民達にも酒やご飯が振る舞われるという盛大なイベントだ。
「クリスティン様、お綺麗です!」
「団長が優しいかどうかあなたにかかってます! ずっと仲良くいてください」
「エルベルト、幸せそうで良かったな」
「お似合いですよ!」
周囲から口々にお祝いの言葉をもらえる。エルベルト様はみんなの前ではキリッと……いや、かなり無愛想な『鬼』の顔に戻っているが私に話しかける時だけ視線も口調もかなり甘くなる。
「うわ、団長のあんな顔初めてみた」
「蕩けた優しい顔できるんだ」
「なんか胸焼けしそう」
……と、部下の皆様にはかなり驚かれた。しかし、エルベルト様は気にするのをやめたらしい。
「当たり前だ。この世で一番大事な妻に優しくしないでどうする?」
彼は堂々とそう言い放ち、私の頬にチュッとキスをして微笑んだ。私の顔は真っ赤に染まる。
「ひゅー! 団長、最高」
囃し立てられて、恥ずかしいが……私はこんなにも彼に愛されて幸せだ。その後もパーティーは盛り上がり楽しい時間を過ごした。
「ねえ、エルベルト様。私って食べるの遅いですか?」
「食べるスピード? 特に何も思わんが……」
「だって! エルベルト様は食べ終わった後、いつも私をじーっと見ながら待たれているので。それに出逢ってすぐの時に『食べるのが遅い』って仰っていたのを思い出して、少し気になってしまいまして」
彼は私の発言にさーっと青ざめた。
「それも誤解だ! 食べてる君を見ているのは、可愛いからだ」
「は?」
「もぐもぐと小さい口を動かして、美味しそうに食べる姿が好きなんだ。だから、つい見つめていた」
ふふふ……あれは見つめているつもりだったのか。睨んでいるように見えるので、てっきり『早く食べろ』の圧なのかと勘違いしていた。
「あの時食べるのが遅いと言ったのも、君が最後のデザートを食べる姿を見たいなと思ったからだ。あの時は仕事が立て込んでたから、君が食べてる途中に退席しなくてはいけなかったんだ。すまなかった。気にせずにゆっくり食べてくれ」
「ふふ、わかりました」
そんな風にこの一年のすれ違いを解決しながら、だんだん仲を深めていった。
そして口付けもこの数週間で徐々に大人のものに変化していった。彼はゆっくりじっくりと時間をかけて、慣れていない私に大人のキスを教えてくれたのだ。
「……クリスティン」
エルベルト様は甘い声で私の名前を呼んで、唇をトントンと舌でノックした。促されるまま、口を開けるとそのままぬるりと舌が中に入ってきた。
「ふっ……んんっ……!」
中で舌が絡み合ってすごくいやらしい。そして、とても恥ずかしいのにとても気持ちがいい。
ちゅっちゅっ……くちゅ……
「息は……鼻でするんだ」
そんなことを言われても、もう訳がわからないくらい頭がパニックだった。私はキスをしながら上手く鼻で息ができなかったのだ。
「ぷはっ。はぁっ……はぁっ……ごめんなさ……上手く……できませ……ん」
恥ずかしくて下を向くと、エルベルト様は私の濡れた唇をそっと指で拭いながら優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。少しずつ慣れていく」
「……はい」
「もう一度」
「はい」
それから本当に毎日毎日、何度もキスを繰り返した。吸われすぎて、なんだか唇が熱っぽく感じる。
「気持ちいい?」
「ふっ……気持ち……いい……です」
「よかった。俺も……すごく気持ちがいい」
唇を食んだり、上顎を舌でなぞったり……たくさんのパターンを教わり、だんだん上手くできるように成長していった。
今では彼がしてくれる大人のキスに、ちゃんと応えられるようになっている。まだ、自分からするのは照れてしまってできていないけれど。
そんな日々を過ごし、今日はついに結婚披露パーティーの日。結婚一年記念日に可笑しな話だが、私達は最近やっとお互いの気持ちが通じたので……あながち間違っていないのかもしれない。
彼が用意してくれたウェディングドレスはとても素敵な物だった。使用人達は旦那様が女性の好みの物などわかるはずがないと……どんなドレスが届くか不安がっていたが、一目見ると『旦那様、やればできるんですね』と拍手を送っていた。
彼はセンスが悪いわけではない。だって自分の物は素敵な物を選んでいらっしゃるから。でも『女性が喜ぶ物』がよくわからないだけなのだ。
注文していただいたドレスはレースに白い薔薇が細かく刺繍されており、裾はふわふわと羽が舞うように動いて美しかった。私が着替え終わると、正装したエルベルト様が控室にやってきた。
「クリスティン……君はこの世の物とは思えぬほど美しいな」
彼は頬を染めながら、ボーッとドレス姿の私を見つめていた。
「ありがとうございます。エルベルト様、あなたもとても凛々しくて素敵です」
あの結婚式の日は、彼は何も言ってくれなかったので『美しい』と言われて嬉しくなった。ちなみにあの時も『もちろん綺麗だと思っていたが……君と結婚できるんだと感動して何も言葉が出なかった』らしいのだが。
彼は私の前に跪き、真っ白な薔薇のブーケを下さった。とても綺麗……それに私のドレスの刺繍とお揃いで嬉しくなる。
「クリスティン、その薔薇は二十四本ある。俺はいつ何時でも君のことを想っているよ。どうか……俺と本物の夫婦になって一生添い遂げて欲しい」
「はい」
私は嬉しくて涙が溢れる。お化粧が取れるので、泣いてはいけないのに止まらない。
「愛してるよ」
彼は嬉しそうに笑い、私の手の甲にチュッとキスをした。これは私が憧れていた騎士の正式な求婚申し込みだ。
すでに結婚しているので、変なのだが……私達にとっては変じゃない。私の準備を手伝ってくれていたノエルや他の侍女達も、涙を拭っていた。
「さあ、行こう。あいつらに見せるのは勿体ないが、俺の奥さんはこんなに素敵なんだとみんなに自慢したい」
彼にエスコートされて、結婚パーティーの会場へ入った。今日は騎士団の皆さんや、エルベルト様のお友達が沢山来てくださっている。お祝いなので、領民達にも酒やご飯が振る舞われるという盛大なイベントだ。
「クリスティン様、お綺麗です!」
「団長が優しいかどうかあなたにかかってます! ずっと仲良くいてください」
「エルベルト、幸せそうで良かったな」
「お似合いですよ!」
周囲から口々にお祝いの言葉をもらえる。エルベルト様はみんなの前ではキリッと……いや、かなり無愛想な『鬼』の顔に戻っているが私に話しかける時だけ視線も口調もかなり甘くなる。
「うわ、団長のあんな顔初めてみた」
「蕩けた優しい顔できるんだ」
「なんか胸焼けしそう」
……と、部下の皆様にはかなり驚かれた。しかし、エルベルト様は気にするのをやめたらしい。
「当たり前だ。この世で一番大事な妻に優しくしないでどうする?」
彼は堂々とそう言い放ち、私の頬にチュッとキスをして微笑んだ。私の顔は真っ赤に染まる。
「ひゅー! 団長、最高」
囃し立てられて、恥ずかしいが……私はこんなにも彼に愛されて幸せだ。その後もパーティーは盛り上がり楽しい時間を過ごした。
108
お気に入りに追加
1,181
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる