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86 女神の祝福

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 燃え上がる激しい炎の中で二人の姿が見える。炎以外の部分は真っ黒な闇で空から降る大量の稲妻もビリビリと飛び交っている。

「こんなところで死ぬわけには……いかない……私は強い……んだ」
「黙れ。もう……抜け出せないさ。諦めろ」

 アイザックの魔法を受けながら、中でブライアンとあの男が闘っていることがわかる。よく見えないが二人の苦痛なうめき声が聞こえる。

「ブライアン! ブライアンっ!!」

 私は彼の名前を叫びながら近付こうとするが、お父様に身動きが取れないように抱きしめられ拘束される。

「リリー! 行くんじゃない」
「離して! だって……だってブライアンが」

 私は泣きながら必死に訴えるが、お父様は横に首を振る。

「絶対に行かせない。ブライアンの気持ちをわかってやれ」

 私は絶望と悲しみで膝から崩れ落ちた。どうして彼が私のために犠牲にならねばいけないのか。

「リリー! これはブライアンの命懸けの告白だ。君はこれを……生きて受け取る義務がある」

 ザックは歯を食いしばり、魔法を全力でかけ続けている。火柱が強くなり、しばらくすると部屋にかかっていた雷のガードがパンっと解けた。それに合わせるかのように、暗闇も晴れ明るい部屋に戻る。

 これは……ステファンとブライアンの魔法が切れたのだ。

 そしてドサドサっと何かが複数倒れる音が聞こえる。明るくなった部屋には倒れている二人の姿が見えた。

 ステファンは血だらけで動かなくなっている。そして……ブライアンも。

 私は駆け寄り、ボロボロで血だらけの彼に恐る恐る触れると驚くほど冷たかった。

「ああっ……うわぁ……っひっく……ブライ……アン」

 私は彼の体に顔を埋めて、嗚咽を漏らしながら泣いた。

「ひっく……ひっ……あぁ……っああ……」

 声が枯れるまで泣き叫ぶと、なぜか私の体が全身キラキラと輝きぶわっと風が吹いた。

 ドクン ドクン ドクン

 ――何これ……苦しい。心臓が飛び出て来そう。

「リリー! どうしたんだ」
「熱い……体が……燃えるように熱いの」
「大丈夫か!?」

 ザックが私の体を抱きとめてくれるが、心臓の音は止まらない。

『リ……リリー……』

 その時、頭の中で何か声が聞こえる。

『リリー……貴方……たすけ……いの?』

 誰? 私に似た声……これは誰なの?

『私は……リリアン』

 リリアン!? 私は彼を助けたいわ。本当に助けられるの?

『私はできなかったけど、貴方は能力が覚醒してる……愛する人と一緒ならできるわ』

 愛する人と……?

『ええ。でもこの力を使ったら、あなたの女神ヴィーナスの祝福はなくなるわ』

 そんな物なくなってもいいわ。

『ふふっ、ね。さすが、私の娘』

 どうすればいいか教えて! お願い。

『信じて……あなたの力を。愛する人の力を……』

 その時、私はハッと正気に戻った。

「ザック……力を貸して」
「え?」
「お願い。私を信じて一緒に力を使って」

 こんなわけのわからないことを言っている私に彼は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに真顔になり頷いてくれる。

「俺にできることなら何でもする。リリーのことも全て信じる」

 そう言って微笑んで私の手をギュッと握ってくれた。

「ありがとう。愛してる」

 私は彼の頬にチュッとキスをして魔力を回復させる。リリアンの話が本当なら……私の女神ヴィーナスの祝福はなくなるのだろう。

 片手でザックの手を握り、反対の手はブライアンに当てる。私は目を閉じて自分の中の魔力を探り集めようとするが、今まで自分に強い魔力を感じたことなどなかったので上手くできない。

「リリー……俺が君に微力の魔力を流す。その流れを自分の中で感じ取って」
「やってみるね」

 私の中に彼の力が流れ込んでくるのがわかる。その瞬間、私の手から眩しいくらいの光が溢れ出す。

女神ヴィーナスの祝福を、私の力の全てを捧げます」

 そっと彼に触れるだけの口付けをする。その瞬間彼の全身が光に包まれた。あまりの衝撃に手を離しそうになるが、ザックが体を支えてくれる。

「大丈夫。リリーならできる……俺もついてる」
「ええ!」

 私は更に手に力を込めた。パァーンという音と共にブライアンの周りの光が消えた。

「ん……っ……」

 その瞬間、彼がわずかに動いた。目の錯覚ではない筈だ。確かに動いていた!

「ブライアン、ブライアンっ!」

 私の目からは涙が溢れ、彼の頬をボタボタと濡らす。すると、彼はゆっくりと思い瞼を開けた。

「リ……リー……」
「ブライアンっ! 気がついたのね」
「なく……な」
「泣くわよ」
「好きな……女……泣かせるのは……趣味じゃな……い」

 力なくフッと笑って、彼はまた気を失った。でも心臓は動いている。生きてる……ブライアンは生きている。よかった。

「ザック、ありがとう」
「リリー、よく頑張ったな」

 私たちは見つめ合い、キスを交わした。その瞬間に安心して気が抜けたのか……私は意識を手放した。

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