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25 昔話②【アイザック視点】
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体調は戻ってきたが、まだベッドから出ようとしない俺をリリーは不思議そうに見つめている。
「もう元気なのに、どうして外で遊ばないの? 何か嫌なことがあるの?」
そう聞いてきた彼女に俺は重い口を開いた。
「僕……魔力が少ないんだ。ハワード家の長男なのにありえない。父様はあんなに強いのに」
「え、ハワード家って魔力がないと継げないの?」
彼女はキョトンと首を傾げている。継げないわけではないだろうが、魔法使いの名家の後継がそれではだめだろう。
「弟は魔力が強いのに……僕はなんで……」
「そうなの? じゃあ、よかったじゃない! 貴方が継いで、ジョージに魔法のことはフォローしてもらおう。アイザックは好きに生きられるね」
「え?」
「何をする? 勉強して賢くなるか、剣を習って騎士になるとか……魔法がなくてもできることなんていーっぱいあるわよ」
「え……でもさ……」
「私だってスティアート家の長女なのに魔力なんて微々たるものよ。お父様はあんなにすごい魔法使いなのにさ。私たち一緒だね」
そう言って彼女はニコニコと笑っていた。
――好きに生きられる……? そんなこと考えたこともなかった。
「じゃあ……騎士になりたいけど、僕は背も小さいし無理だと思うんだ」
「やってないのにどうして無理だと思うのよ? いっぱい食べて、大きくなって、剣の練習しましょう」
「でも……」
この時の俺は後ろ向きで、ぐずぐずした甘ったれだった。
「でもでもうるさいわよ! じゃあ私はとりあえず、この前のウサギのリンゴを綺麗に作れるようにするわ。練習して出来ないものはない!! だから私ができたらアイザックも騎士になる訓練をはじめなさい」
「……わかった」
俺は渋々了解した。あともう一つ大問題があった。
「それに……僕は父様と母様の子じゃないらしいんだ。拾い子だって。大人がそう噂していたのを聞いちゃった」
リリーはそれを聞いて、目が溢れるんじゃないかというくらい驚いた。しかし、すぐにすっと顔を戻して首を横に振った。
「誰がそんな嘘を言ったの? 貴方、おじ様にそっくりじゃない」
彼女は珍しく本気で怒った顔でそう言った。
「それがショックでご飯が食べられなかったのね。一人で悩んで辛かったね」
リリーは俺の頭をよしよしと何度も撫でてくれた。そして、彼女は「すぐに解決してあげる」とニッコリと笑って部屋を出て行った。
そして、バタバタと音を立てながら両親の手を引いて部屋に入ってきた。
「な、なんだ? リリー急に?」
「そうよ……ど、どうしたのリリーちゃん?」
俺の両親は急に連れて来られて、とても戸惑っているようだった。
「アイザックはおじ様とおば様の子どもよね?」
――リリー、ちょっと待って。そんなことを直接の聞くなんて。
「は? 当たり前だろ」
「そうよ。なんでそんなことを?」
二人は何を言っているんだという表情だ。
「養子じゃないわよね?」
「間違いなく実子だが……リリー、これは何の話なんだ?」
親父のその言葉を聞いて、俺はボロボロと涙を溢した。
「アイザックはね、嫌な大人たちに二人の子どもじゃない、拾ってきたって子だって言われたそうよ」
リリーは両親に向かってはっきりそう言った。親父はくるっとこちらを向いて、泣いている俺の頬をパシッと叩いた。痛くて……ヒリヒリする。
「馬鹿野郎っ! 俺の子に決まってんだろ。誰だ、そんなしょうもない嘘を言った奴は。お前も……疑ってんじゃねえよ」
そう言ってガバッと抱きしめられる。お袋も涙ぐみながら俺の手を握ってくれた。
「僕……背も低いし。魔力も少ないし……父様に似てないから……っひっく、ひっく」
「俺もお前くらいの年齢の時はチビだった。そのうちでかくなるさ。魔力はどうしようもねぇかもだけど、魔法使い以外を目指せばいいだろ」
「父様が小さかった……?」
「ああ」
初めからちゃんと話せばよかった。そう、全ては俺の勘違いだったのだ。リリーは俺たちの様子を見て嬉しそうに微笑んでいた。
リリーがいなければ……俺はどうなってたんだろう?
しかも、彼女は二週間後に完璧なウサギリンゴを目の前で披露してくれた。毎日練習して、やっと作れるようになったらしい。
「やればできるでしょう?」
彼女は得意げにそう言った。今日のはどこからどう見ても可愛いウサギだ。すごい……前はあんなにボロボロだったのに。
「アイザックも諦めずに何でもやるのよ!」
「うん、僕今日から剣の訓練する。好き嫌いもやめて沢山食べて体も大きくなる」
「そう! その調子よ。アイザックならできるわ」
――リリー……ありがとう。
それから、俺は本当に頑張って訓練に励んだ。走ったり、筋トレをしたり体力もつけた。だんだん泣くことも少なくなった。
リリーの隣に立って恥ずかしくない男になりたい。リリーを守れる男になりたい。リリーに俺を好きになってもらいたい。
それだけを目指してずっと努力を続けた。そして日を重ねる度にリリーを好きな気持ちがどんどん……どんどん大きくなっていった。
「もう元気なのに、どうして外で遊ばないの? 何か嫌なことがあるの?」
そう聞いてきた彼女に俺は重い口を開いた。
「僕……魔力が少ないんだ。ハワード家の長男なのにありえない。父様はあんなに強いのに」
「え、ハワード家って魔力がないと継げないの?」
彼女はキョトンと首を傾げている。継げないわけではないだろうが、魔法使いの名家の後継がそれではだめだろう。
「弟は魔力が強いのに……僕はなんで……」
「そうなの? じゃあ、よかったじゃない! 貴方が継いで、ジョージに魔法のことはフォローしてもらおう。アイザックは好きに生きられるね」
「え?」
「何をする? 勉強して賢くなるか、剣を習って騎士になるとか……魔法がなくてもできることなんていーっぱいあるわよ」
「え……でもさ……」
「私だってスティアート家の長女なのに魔力なんて微々たるものよ。お父様はあんなにすごい魔法使いなのにさ。私たち一緒だね」
そう言って彼女はニコニコと笑っていた。
――好きに生きられる……? そんなこと考えたこともなかった。
「じゃあ……騎士になりたいけど、僕は背も小さいし無理だと思うんだ」
「やってないのにどうして無理だと思うのよ? いっぱい食べて、大きくなって、剣の練習しましょう」
「でも……」
この時の俺は後ろ向きで、ぐずぐずした甘ったれだった。
「でもでもうるさいわよ! じゃあ私はとりあえず、この前のウサギのリンゴを綺麗に作れるようにするわ。練習して出来ないものはない!! だから私ができたらアイザックも騎士になる訓練をはじめなさい」
「……わかった」
俺は渋々了解した。あともう一つ大問題があった。
「それに……僕は父様と母様の子じゃないらしいんだ。拾い子だって。大人がそう噂していたのを聞いちゃった」
リリーはそれを聞いて、目が溢れるんじゃないかというくらい驚いた。しかし、すぐにすっと顔を戻して首を横に振った。
「誰がそんな嘘を言ったの? 貴方、おじ様にそっくりじゃない」
彼女は珍しく本気で怒った顔でそう言った。
「それがショックでご飯が食べられなかったのね。一人で悩んで辛かったね」
リリーは俺の頭をよしよしと何度も撫でてくれた。そして、彼女は「すぐに解決してあげる」とニッコリと笑って部屋を出て行った。
そして、バタバタと音を立てながら両親の手を引いて部屋に入ってきた。
「な、なんだ? リリー急に?」
「そうよ……ど、どうしたのリリーちゃん?」
俺の両親は急に連れて来られて、とても戸惑っているようだった。
「アイザックはおじ様とおば様の子どもよね?」
――リリー、ちょっと待って。そんなことを直接の聞くなんて。
「は? 当たり前だろ」
「そうよ。なんでそんなことを?」
二人は何を言っているんだという表情だ。
「養子じゃないわよね?」
「間違いなく実子だが……リリー、これは何の話なんだ?」
親父のその言葉を聞いて、俺はボロボロと涙を溢した。
「アイザックはね、嫌な大人たちに二人の子どもじゃない、拾ってきたって子だって言われたそうよ」
リリーは両親に向かってはっきりそう言った。親父はくるっとこちらを向いて、泣いている俺の頬をパシッと叩いた。痛くて……ヒリヒリする。
「馬鹿野郎っ! 俺の子に決まってんだろ。誰だ、そんなしょうもない嘘を言った奴は。お前も……疑ってんじゃねえよ」
そう言ってガバッと抱きしめられる。お袋も涙ぐみながら俺の手を握ってくれた。
「僕……背も低いし。魔力も少ないし……父様に似てないから……っひっく、ひっく」
「俺もお前くらいの年齢の時はチビだった。そのうちでかくなるさ。魔力はどうしようもねぇかもだけど、魔法使い以外を目指せばいいだろ」
「父様が小さかった……?」
「ああ」
初めからちゃんと話せばよかった。そう、全ては俺の勘違いだったのだ。リリーは俺たちの様子を見て嬉しそうに微笑んでいた。
リリーがいなければ……俺はどうなってたんだろう?
しかも、彼女は二週間後に完璧なウサギリンゴを目の前で披露してくれた。毎日練習して、やっと作れるようになったらしい。
「やればできるでしょう?」
彼女は得意げにそう言った。今日のはどこからどう見ても可愛いウサギだ。すごい……前はあんなにボロボロだったのに。
「アイザックも諦めずに何でもやるのよ!」
「うん、僕今日から剣の訓練する。好き嫌いもやめて沢山食べて体も大きくなる」
「そう! その調子よ。アイザックならできるわ」
――リリー……ありがとう。
それから、俺は本当に頑張って訓練に励んだ。走ったり、筋トレをしたり体力もつけた。だんだん泣くことも少なくなった。
リリーの隣に立って恥ずかしくない男になりたい。リリーを守れる男になりたい。リリーに俺を好きになってもらいたい。
それだけを目指してずっと努力を続けた。そして日を重ねる度にリリーを好きな気持ちがどんどん……どんどん大きくなっていった。
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