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4 誘拐
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私が何故サムを好きだったのか。それは九歳の時、誘拐される事件にまで遡る。
我が国の三分の一は魔法が使える人種だ。その中でも強い魔力がある人はごく一部。殆どは、物を少し浮かせられるとか、マッチ無しで小さな火を起こせる程度の物だ。
私の父は魔力が強いタイプの人種。魔力には遺伝というものがあるらしく、高位貴族は魔力が強い者が多い。
父は氷属性の魔法使いであり、王宮の近衛隊長をしている。簡単に言えば稼げる職業であり、我がスティアート家は伯爵家の中でも名家でありかなり裕福である。
私は残念ながら父の強い魔力は遺伝せず、簡単な魔法しか使えない。ちなみに弟のアーサーは父と同じ氷属性の強い魔力を持っている。
話がそれてしまったが、とりあえず当家はお金持ちであり身代金目当てで私は誘拐されたらしい。
♢♢♢
あれは私が九歳の頃。侍女達と街に買い物に行っていた時に何者かに襲われ倉庫に押し込められた。近くに警護もいたが、あっという間にやられてしまうほど犯人の方が強かった。
「そいつは傷付けんなよ。無傷での取引をお望みなんだから」
柄の悪そうな男達に囲まれて私は震え上がった。伯爵家の令嬢として大事に育てられてきた私は、貴族や家の使用人達しか会ったことがなく、粗暴な男と接するのは初めてだった。
――怖い……怖いよ。でも泣いてはだめ。お父様やお母様がきっと見つけてくださる。伯爵令嬢として毅然としていなければ。
私はぐっと涙を我慢した。
「どうなさるおつもりですか? 我が家には後継の弟がいますから、私に人質の価値はありません。我が家を脅してもお金は取れませんわよ」
「っくっくっく、嬢ちゃん何も知らねぇんだな」
「強がって可哀想にな」
「弟なんてどうだっていい。お前じゃないと価値がねぇんだよ」
私にしか価値がないとはどういう意味なのか?とりあえず、殺されはしないようで安心する。リーダーの男にジュースとパンを食えと投げられる。
次にいつご飯が貰えるかわからないので、私は素直にパンを食べる。いつも食べているふわふわのパンじゃなくて硬くてゴワゴワしていて美味しくない。
こんな些細なことでまた涙が出そうになるが、我慢してゴクっと飲み込む。私が今まで当然のように食べていた物は当たり前の物ではなく、豪華な物であったのだとこんな時に気付かされる。
「立て! 移動するぞ。一言も喋るんじゃねぇぞ」
屈強な男に怒鳴られ、ビクビクしながらも私が立ち上がったその時。
バンッと大きな音で扉が開き、隊服に身を包んだ騎士達が沢山倉庫に入ってきた。男達にとわーわーと揉みあいになっており、私は驚いて動けなくなった。
そんな時に私の頭を撫で「一人でよく頑張ったな。怪我はないかい?」とにこっと微笑んでくれた人が……サムだったのだ。心の中で助かったと安堵したが、私は驚きすぎて言葉が出ずに震えていた。
そんな私を彼はギュッと抱きしめ「怖かっただろう? 泣いていいんだよ」とポンポンと背中を優しく叩いてくれた。その優しい言葉に私は自然とポロポロと涙が溢れてきた。
「ひっく……っく……こわ……怖かった」
「もう大丈夫。大丈夫だからね」
彼はずっと私を抱きしめたまま気が済むまで泣かせてくれた。この時私はまだ小さかったけれど、助けてくれたサムに恋をしてしまったのだ。男らしい大きな体、優しい性格、素敵な笑顔……全部大好きになった。
その後、サムが犯人達を魔法で叩きのめしていたお父様の元へ連れて行ってくれた。
「リリー、リリー……本当に無事で良かった」
お父様は私を抱きしめ涙を流している。泣いている姿を見るのは初めてだ。私はとても心配をかけてしまったようだ。
「ごめん……怖かったね。私が悪いんだ。もっと警備を考えなければいけなかった」
私は頬にキスをして「大丈夫よ」とニッコリと笑った。それを見てお父様はほっと安心したのか「みんな心配してる。早く家に帰ろう」と私を抱き上げ足早に帰ろうとした。
「お父様、この騎士様がずっと傍にいて励ましてくださったの。何かお礼したいわ」
私はサムを呼び、お父様にそう告げた。私はもう一度彼に会いたいと思っていたので、あえてお父様に紹介することにした。
「娘を助けてくれてありがとう。後日礼をさせてくれ」
「いいえ、これは騎士団の仕事ですからお気になさらず」
「いや、私の大事な娘が君にお礼をしたいと言っているから聞いてくれないか? 良ければ後日家に来てくれ。名前は?」
「第一騎士団のサミュエルと申します」
「サミュエル君か。今日は本当にありがとう、また会おう」
それが私と彼との劇的な出会いだった。
我が国の三分の一は魔法が使える人種だ。その中でも強い魔力がある人はごく一部。殆どは、物を少し浮かせられるとか、マッチ無しで小さな火を起こせる程度の物だ。
私の父は魔力が強いタイプの人種。魔力には遺伝というものがあるらしく、高位貴族は魔力が強い者が多い。
父は氷属性の魔法使いであり、王宮の近衛隊長をしている。簡単に言えば稼げる職業であり、我がスティアート家は伯爵家の中でも名家でありかなり裕福である。
私は残念ながら父の強い魔力は遺伝せず、簡単な魔法しか使えない。ちなみに弟のアーサーは父と同じ氷属性の強い魔力を持っている。
話がそれてしまったが、とりあえず当家はお金持ちであり身代金目当てで私は誘拐されたらしい。
♢♢♢
あれは私が九歳の頃。侍女達と街に買い物に行っていた時に何者かに襲われ倉庫に押し込められた。近くに警護もいたが、あっという間にやられてしまうほど犯人の方が強かった。
「そいつは傷付けんなよ。無傷での取引をお望みなんだから」
柄の悪そうな男達に囲まれて私は震え上がった。伯爵家の令嬢として大事に育てられてきた私は、貴族や家の使用人達しか会ったことがなく、粗暴な男と接するのは初めてだった。
――怖い……怖いよ。でも泣いてはだめ。お父様やお母様がきっと見つけてくださる。伯爵令嬢として毅然としていなければ。
私はぐっと涙を我慢した。
「どうなさるおつもりですか? 我が家には後継の弟がいますから、私に人質の価値はありません。我が家を脅してもお金は取れませんわよ」
「っくっくっく、嬢ちゃん何も知らねぇんだな」
「強がって可哀想にな」
「弟なんてどうだっていい。お前じゃないと価値がねぇんだよ」
私にしか価値がないとはどういう意味なのか?とりあえず、殺されはしないようで安心する。リーダーの男にジュースとパンを食えと投げられる。
次にいつご飯が貰えるかわからないので、私は素直にパンを食べる。いつも食べているふわふわのパンじゃなくて硬くてゴワゴワしていて美味しくない。
こんな些細なことでまた涙が出そうになるが、我慢してゴクっと飲み込む。私が今まで当然のように食べていた物は当たり前の物ではなく、豪華な物であったのだとこんな時に気付かされる。
「立て! 移動するぞ。一言も喋るんじゃねぇぞ」
屈強な男に怒鳴られ、ビクビクしながらも私が立ち上がったその時。
バンッと大きな音で扉が開き、隊服に身を包んだ騎士達が沢山倉庫に入ってきた。男達にとわーわーと揉みあいになっており、私は驚いて動けなくなった。
そんな時に私の頭を撫で「一人でよく頑張ったな。怪我はないかい?」とにこっと微笑んでくれた人が……サムだったのだ。心の中で助かったと安堵したが、私は驚きすぎて言葉が出ずに震えていた。
そんな私を彼はギュッと抱きしめ「怖かっただろう? 泣いていいんだよ」とポンポンと背中を優しく叩いてくれた。その優しい言葉に私は自然とポロポロと涙が溢れてきた。
「ひっく……っく……こわ……怖かった」
「もう大丈夫。大丈夫だからね」
彼はずっと私を抱きしめたまま気が済むまで泣かせてくれた。この時私はまだ小さかったけれど、助けてくれたサムに恋をしてしまったのだ。男らしい大きな体、優しい性格、素敵な笑顔……全部大好きになった。
その後、サムが犯人達を魔法で叩きのめしていたお父様の元へ連れて行ってくれた。
「リリー、リリー……本当に無事で良かった」
お父様は私を抱きしめ涙を流している。泣いている姿を見るのは初めてだ。私はとても心配をかけてしまったようだ。
「ごめん……怖かったね。私が悪いんだ。もっと警備を考えなければいけなかった」
私は頬にキスをして「大丈夫よ」とニッコリと笑った。それを見てお父様はほっと安心したのか「みんな心配してる。早く家に帰ろう」と私を抱き上げ足早に帰ろうとした。
「お父様、この騎士様がずっと傍にいて励ましてくださったの。何かお礼したいわ」
私はサムを呼び、お父様にそう告げた。私はもう一度彼に会いたいと思っていたので、あえてお父様に紹介することにした。
「娘を助けてくれてありがとう。後日礼をさせてくれ」
「いいえ、これは騎士団の仕事ですからお気になさらず」
「いや、私の大事な娘が君にお礼をしたいと言っているから聞いてくれないか? 良ければ後日家に来てくれ。名前は?」
「第一騎士団のサミュエルと申します」
「サミュエル君か。今日は本当にありがとう、また会おう」
それが私と彼との劇的な出会いだった。
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