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番外編 秘密のデートその後
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五年後、王宮の騎士団にある若者が入団してきた。その若者の名前は『ネイサン』だった。
彼は孤児院で育ち、きちんと教育を受け……努力して身体を鍛え上げ実力で騎士になった。大変な試験を乗り越えて最年少の十五歳での入団なので、王宮ではとても注目されていた。
「ネイサン、入団おめでとうございます。期待していますよ」
騎士の入団式で、マルティナは王妃として壇上から声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
深く下げた頭をあげて、マルティナの笑顔を見た時に、ネイサンはなぜか『ティナ』のことを思い出した。
ティナはネイサンの初恋だ。自分を救ってくれた女神でもある。だがあの日以来、一度も会うことはできなかった。手当たり次第に商人に声をかけて探してみたが、手がかりすら掴めなかった。
あれは夢だったのでは? と思ったが、実際にあの日を境に孤児院は過ごしやすい場所になった。
騎士になろうと思ったのも、王家が教育支援をしてくれたことに恩返しがしたかったからだ。憎むべきは、大人や貴族、王族ではなくあの横領していた男だけだったことがわかった。
「王妃様……あの……失礼ですが……昔、俺と会っていませんか?」
マルティナはネイサンがあの時の少年だと気が付き、感無量になっていた。もちろん、変化していた時に会っているのでそれを彼に伝えるつもりはなかった。
「おや、こんな公の場で私の最愛の妻を口説くとは……最年少騎士はやはり大物だな」
ハビエルがハハハと豪快に笑い、周囲からもつられて笑い声が漏れた。惚れた女性に『初めての気がしない』というのは口説く常套句だからだ。
一見笑っているように見えるが、本当は全く笑っていないハビエルを見て、側近のクラレンスは内心ゾッとしていた。
長年の付き合いで、ハビエルがやきもち焼きなことを知っているからだ。
「申し訳ありません。両陛下に失礼なことを。私がきっちり教育致しますので」
騎士団長が、ネイサンの頭を持ってグッと下げさせた。
「す、すみません。変なことを申し上げました」
ネイサンも恥ずかしくなり慌てて謝ると、マルティナはくすりと笑った。
「いいのですよ。でも、私とあなたは今日が初めてです」
「そ、そうですよね」
平民のネイサンが、街で王妃に会うことなどあり得ない。
「本日より騎士としてこの国を守れるように、精進致します」
「ああ、頼んだぞ」
「頼みましたよ」
二人はあの時の助けた少年が、まっすぐ育ってくれたことを嬉しく感じた。
「良かったですね」
「ああ」
しかし、その後ハビエルはネイサンをマルティナに近付けることはなかったとか。
「お前、あえてだろ」
「……当たり前だ」
「ネイサンからしたら、母親くらいの年齢だぜ? いくら王妃の見た目が若いとはいえ……わざわざ、邪魔する必要ねぇだろ」
「だめだ。愛に年齢は関係ないし、あいつは手が早いからな」
ムスッとしたハビエルに、クラレンスは首を傾げた。
「随分と真面目な男だと聞いてるぞ」
「……昔は手が早かった」
「は? 十五歳の昔っていつだよ」
「昔は昔だ!」
「……意味がわからねぇ」
「わからなくていい」
実はハビエルはネイサンがマルティナの頬にキスしたことを、いまだに許していなかったのだ。
「ティーナの目に映る男は、一生私だけでいいってことだ」
ハビエルは、自信に満ちた顔でクラレンスにニッと微笑んだ。悔しいほど綺麗な顔のハビエルを見て、クラレンスはため息をついた。
「お前、何年経っても変わらないな」
「それは褒め言葉なのか?」
「ああ。たぶんな」
「たぶんってなんだよ」
軽口を言い合いながら、二人は親友同士に戻っていた。
「ハビ、ちょっとよろしいですか?」
「もちろんだよ」
ハビエルはマルティナを見ると、途端にパッと顔を明るくさせた。
「クラレンス、さっさと出ていけ」
「おい! さすがに酷いな」
「あ……私は後で大丈夫ですわ」
「いい、いい! たいした話なんてないんだから」
「クラレンス様、申し訳ありません」
二人の幸せそうな姿を見て、クラレンスは呆れながらも幸せな気持ちになった。
この二人の治めるエブラム王国が一日でも長く続きますようにと願いながら、クラレンスは扉を閉めた。
番外編 END
彼は孤児院で育ち、きちんと教育を受け……努力して身体を鍛え上げ実力で騎士になった。大変な試験を乗り越えて最年少の十五歳での入団なので、王宮ではとても注目されていた。
「ネイサン、入団おめでとうございます。期待していますよ」
騎士の入団式で、マルティナは王妃として壇上から声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
深く下げた頭をあげて、マルティナの笑顔を見た時に、ネイサンはなぜか『ティナ』のことを思い出した。
ティナはネイサンの初恋だ。自分を救ってくれた女神でもある。だがあの日以来、一度も会うことはできなかった。手当たり次第に商人に声をかけて探してみたが、手がかりすら掴めなかった。
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「王妃様……あの……失礼ですが……昔、俺と会っていませんか?」
マルティナはネイサンがあの時の少年だと気が付き、感無量になっていた。もちろん、変化していた時に会っているのでそれを彼に伝えるつもりはなかった。
「おや、こんな公の場で私の最愛の妻を口説くとは……最年少騎士はやはり大物だな」
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一見笑っているように見えるが、本当は全く笑っていないハビエルを見て、側近のクラレンスは内心ゾッとしていた。
長年の付き合いで、ハビエルがやきもち焼きなことを知っているからだ。
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「良かったですね」
「ああ」
しかし、その後ハビエルはネイサンをマルティナに近付けることはなかったとか。
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「だめだ。愛に年齢は関係ないし、あいつは手が早いからな」
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「昔は昔だ!」
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「わからなくていい」
実はハビエルはネイサンがマルティナの頬にキスしたことを、いまだに許していなかったのだ。
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「あ……私は後で大丈夫ですわ」
「いい、いい! たいした話なんてないんだから」
「クラレンス様、申し訳ありません」
二人の幸せそうな姿を見て、クラレンスは呆れながらも幸せな気持ちになった。
この二人の治めるエブラム王国が一日でも長く続きますようにと願いながら、クラレンスは扉を閉めた。
番外編 END
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