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18 ※憧れの夫婦
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「今日正式に処分が下り、滞りなく手続きは終わりました」
「クラレンス、ご苦労だったな。感謝する」
「いえ」
「ペドロサ公爵も、ご協力ありがとうございました」
「なに、大事な娘のためだ。マルティナはこのことは、何も気が付いていないから安心して欲しい」
「はい、ありがとうございした」
バルバストル伯爵家は税金を長年誤魔化していたことが判明し、それは王家への謀反だと判断された。
最終的に伯爵家は取り潰した上に、領地と財産は没収。平民にした上で、国外追放の厳しい処分になった。
王太子妃毒殺の件は、色々な影響を考えて公にはされずに闇に葬られた。もちろんハビエルは父親である国王にこの件も報告していたので、脱税でこれだけ厳しい処分に決まったのだ。
「ハビエル殿下。この度は娘を救ってくださり、ありがとうございました」
ペドロサ公爵は襟を正し、最敬礼をしてハビエルに頭を下げた。
「やめてください。私は、あなたにマルティナを『守る』と宣言して妻にもらったのですが、当然です。それに私と結婚したからこそ、こんな事件に巻き込まれたのですから」
「ならば……手放しますか? 我が家はいつでも歓迎しますが」
意地悪くニヤリと笑ったペドロサ公爵に、ハビエルはとても嫌そうな顔をした。
「手放すなんていう選択肢はありません。一生あり得ないから安心してください」
「そうですか。また愛娘と暮らせるかと思ったのに残念です。では、そろそろ私は失礼しますね」
ハハハと笑って去って行ったペドロサ公爵は、やはり食えない男だ。ハビエルはマルティナの婚約者として認めてもらうまで、何度この男に『娘に相応しくない』と無碍に追い払われたかわからない。
「相変わらずだな」
「ハビエル、大変な義父を持ったな」
「そうだな。臣下としては、頼もしいんだがな」
「全くその通りだ」
クラレンスと顔を見合わせて、苦笑いをした。何はともあれ、無事にマルティナを守ることができてハビエルは一安心だった。
♢♢♢
この一見爽やかだが実はなかなか腹黒いハビエルは、のちにエブラム国王として即位し王妃マルティナと共に国をさらに発展させていくことになる。
国民を思い、臣下を大切にする彼は賢王と呼ばれていたが……マルティナに危害を加える者だけには、相変わらず容赦がなかった。
マルティナは、ペドロサ公爵領での経験を活かして貧困層への教育支援に尽力し、平民全員が無償で義務教育を受けられるようになった。
『莫大な費用をどうするのか』
『平民に教育をさせるなんて意味がない』
反対意見も多数あったがマルティナは長期的にみた時にメリットしかないことを説明し、ペドロサ公爵領での成果も交えてプレゼンテーションをして国の上層部を納得させた。
ハビエルが力を貸さなくとも、マルティナは一人でそれをやり遂げた。
そのプロジェクトも二十年経過した今、犯罪も減り働き手も増えて国は益々豊かになった。今やマルティナは、エブラム王国の『女神』だなんて言われている。
「ティーナは私だけの女神なんだけどな」
国民に認められているのは、ものすごく誇らしい。だが、日に日にマルティナが人気になっていくのを、ハビエルは複雑な気持ちでみていた。
「何言ってるんだよ。王妃のおかげで臣下や国民の王家への忠誠心も確固たるものになって、安泰なんじゃないか」
「……それはわかっている。ティーナには感謝しかない」
「お前もエブラム王国建国以来、一番素晴らしい王だと言われてるんだ。似合いの夫婦で、いいじゃないか」
クラレンスに『似合いの夫婦』と言われて嬉しいのが、ハビエルはまんざらでもない顔をした。
「似合っているのは当然だ。ティーナの素晴らしさを世の中に知らしめたいが、ティーナを好きになる輩がこれ以上増えてほしくないんだっ! この相反した気持ち……私はどうすればいいんだ」
ハビエルは頭をぐしゃぐしゃにかきむしりながら、叫んでいる。
「もう結婚して二十年も経つのに、よくそんなに王妃のことが好きだよな」
「大好きに決まっているだろう。何年経ってもティーナは可愛い。昨日のティーナより、今日のティーナはさらに可愛いんだ」
「……はいはい」
クラレンスは、呆れたように適当に相槌を打った。
ハビエルとマルティナは、ずっと仲睦まじく暮らしている。たまに喧嘩をしている時もあるが、それは大抵マルティナが『自分以外の男に優しくしてた』とか『可愛い顔で笑いかけてた』とかいうハビエルのしょうもないやきもちが原因だ。
しかしその喧嘩も、一晩経てば関係が直っている。翌朝マルティナはぐったりしていて、ハビエルは艶々しているのを見ると……まあ、つまりはそういうことなのだろう。
「我が国は平和だな」
他国では正妃と側室の血みどろの争いがあったり、国王が若い女にいれあげて税金を使いまくるなんて話も珍しくない。
しかし、エブラム王国ではそんな心配は全くなかった。ハビエルはマルティナだけを、ずっと愛しているからである。
二人は三人の子どもを授かっており、皆すくすくと優秀に育っている。なので、エブラム王国はしばらく安泰だと言われている。
♢♢♢
「ティーナが足りないっ! もっと一緒にいたいのに、お互いこの忙しさはなんなんだ」
寝室で、ハビエルがそんなことを言い出した。最近は二人とも公務が忙しくて、夜の僅かな時間しか話すことができていなかった。どうやらハビエルは、我慢の限界らしい。
後ろからぎゅうぎゅうと抱き締め、ハビエルはマルティナの首筋に顔を埋めた。
「子どもたちより、あなたの方が甘えん坊ですね」
マルティナにそんなことを言われて、ハビエルはムッと唇を尖らせた。
「……やっと二人きりに戻れたんだ。いいだろう?」
「ええ」
最近末の子どもが一人で眠れる年齢になったので、部屋を分けたのだ。なので、完全に二人きりの寝室は久しぶりだった。
「子たちは皆可愛いが、一番可愛いのはティーナだからね」
ハビエルはマルティナをゆっくりと、ベッドに押し倒した。
「今夜からは、いっぱい大きな声が出せるよ」
「……馬鹿」
真っ赤に頬を染めているマルティナを見下ろしながら、ハビエルは目を細めた。もう子どももいるのに、こういう時に毎回照れるマルティナが、愛おしくて堪らなかった。
四十歳に差し掛かったハビエルは、結婚した時よりも深みのある魅力的な男になっている。そして、日に日にハビエルの色気が増しているのでマルティナは困ってしまう。
「我慢して耐えている君も魅力的だが、やはり可愛い声を聴きたいんだ」
ニッと口角を上げたハビエルは、マルティナに深い口づけをした。
「あんっ……ふっ……」
「やっぱりいい声だね。もっと聴かせて?」
ハビエルはマルティナの美しい胸を長い指で包み込み、ツンと硬くなった先端をペロリと舐めた。
「……んんっ!」
「ティーナは、昔からここ好きだよね。いっぱい気持ちよくなって」
焦らすようにねっとりと何度も舐められた後に、じゅっと強めに吸われるとマルティナの身体がビクッと跳ねた。
「あっ……ああっ……!」
「胸だけで上手にイケたね。可愛い」
マルティナはトロンとした顔で「はぁはぁ」と息を整えていた。その姿がとても色っぽくて、ハビエルはごくりと唾を飲み込んだ。
「すごいな。もうとろとろだ」
ハビエルはぐっしょりと濡れた秘部に、そのまま顔を埋めて舌を這わせた。
「だめぇ……もう少し待っ……んんっ……!」
「待たない。もっともっと愛させて」
「ああんっ!」
「いい声だ。ずっと聴いていたいな」
それからハビエルは宣言通りじっくり丁寧に全身を愛し続け、マルティナは声が掠れるほど一晩中鳴く羽目になった。
「ティーナ。そろそろ抜け出して街でデート……いや、街の視察をしよう」
ハビエルは翌朝ベッドで片肘をつきながら、マルティナにそう切り出した。
彼等はお互い変化ができるので、姿を隠してお忍びのデートができた。ちなみにハビエルが変化魔法を使えるのは未だに王族のごく一部の人間とマルティナだけの秘密だ。
「まあ、悪い人ね」
「視察だ。だから、ちゃんとした仕事だよ」
パチンとウィンクをするハビエルは年齢を重ねた今でも美しく、マルティナの永遠の『王子様』だ。実際は……もう王様なのだが。
「これは私達だけの秘密だよ」
「はい、秘密ですね」
ベッドで視察という名目のデートの計画を立てる二人は、とても幸せだった。
「変化魔法を使うと、いつもティーナに初めて逢った時のことを思いだすんだ」
「ふふ、十歳の頃のことですか? 懐かしすぎますね」
「あとは、君からのハニートラップ。あれは衝撃的だったね」
ハビエルが意地悪な顔でニヤリと笑うと、マルティナは拗ねたように唇を尖らせた。
「もう、あれは忘れてください」
「はは、忘れられるわけないよ。あのおかげで今があるんだから」
ハビエルはくすくすと笑って、マルティナに優しいキスをした。
「それに、ティーナになら騙されてもいいな」
「ではまた、変化してハニートラップをかけてみましょうか。あの頃より魔法の精度が上がっていますからね」
マルティナが冗談っぽくそう言うと、ハビエルは愛おしそうに目を細めた。
「はは、いいよ。どんな姿でも、絶対にティーナのことに気付くから」
「私もわかりますよ。あなたがどんな姿でも」
自慢満々にそう言ったマルティナに、ハビエルは微笑んだ。
「私はティーナのことを、ティーナは私を愛しているからね」
「ええ、その通りです」
「……私は幸せ者だな」
「私の方が幸せ者です」
お互い張り合ってそんなことを言い合っているのがなんだか可笑しくて、見つめ合いながらぷっと吹き出して笑った。
ハビエルとマルティナはエブラム王国で『憧れの夫婦』としていつまでも仲良く暮らしました。
もし街中で仲睦まじい夫婦がいたら、それはもしかしたらマルティナとハビエルかもしれません。変化した二人は、お互い以外にはわからないのですから。
公爵令嬢が王太子殿下と婚約破棄をするためにハニートラップをしかけたら……まさかの幸せな結婚生活が待っていたのでした。
END
ーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけていたら、幸せです。
誤字脱字のご指摘も確認して、修正しております。教えていただいて感謝しています。
恋愛小説大賞に応募しております。
よろしければ、応援していただけると嬉しいです。
「クラレンス、ご苦労だったな。感謝する」
「いえ」
「ペドロサ公爵も、ご協力ありがとうございました」
「なに、大事な娘のためだ。マルティナはこのことは、何も気が付いていないから安心して欲しい」
「はい、ありがとうございした」
バルバストル伯爵家は税金を長年誤魔化していたことが判明し、それは王家への謀反だと判断された。
最終的に伯爵家は取り潰した上に、領地と財産は没収。平民にした上で、国外追放の厳しい処分になった。
王太子妃毒殺の件は、色々な影響を考えて公にはされずに闇に葬られた。もちろんハビエルは父親である国王にこの件も報告していたので、脱税でこれだけ厳しい処分に決まったのだ。
「ハビエル殿下。この度は娘を救ってくださり、ありがとうございました」
ペドロサ公爵は襟を正し、最敬礼をしてハビエルに頭を下げた。
「やめてください。私は、あなたにマルティナを『守る』と宣言して妻にもらったのですが、当然です。それに私と結婚したからこそ、こんな事件に巻き込まれたのですから」
「ならば……手放しますか? 我が家はいつでも歓迎しますが」
意地悪くニヤリと笑ったペドロサ公爵に、ハビエルはとても嫌そうな顔をした。
「手放すなんていう選択肢はありません。一生あり得ないから安心してください」
「そうですか。また愛娘と暮らせるかと思ったのに残念です。では、そろそろ私は失礼しますね」
ハハハと笑って去って行ったペドロサ公爵は、やはり食えない男だ。ハビエルはマルティナの婚約者として認めてもらうまで、何度この男に『娘に相応しくない』と無碍に追い払われたかわからない。
「相変わらずだな」
「ハビエル、大変な義父を持ったな」
「そうだな。臣下としては、頼もしいんだがな」
「全くその通りだ」
クラレンスと顔を見合わせて、苦笑いをした。何はともあれ、無事にマルティナを守ることができてハビエルは一安心だった。
♢♢♢
この一見爽やかだが実はなかなか腹黒いハビエルは、のちにエブラム国王として即位し王妃マルティナと共に国をさらに発展させていくことになる。
国民を思い、臣下を大切にする彼は賢王と呼ばれていたが……マルティナに危害を加える者だけには、相変わらず容赦がなかった。
マルティナは、ペドロサ公爵領での経験を活かして貧困層への教育支援に尽力し、平民全員が無償で義務教育を受けられるようになった。
『莫大な費用をどうするのか』
『平民に教育をさせるなんて意味がない』
反対意見も多数あったがマルティナは長期的にみた時にメリットしかないことを説明し、ペドロサ公爵領での成果も交えてプレゼンテーションをして国の上層部を納得させた。
ハビエルが力を貸さなくとも、マルティナは一人でそれをやり遂げた。
そのプロジェクトも二十年経過した今、犯罪も減り働き手も増えて国は益々豊かになった。今やマルティナは、エブラム王国の『女神』だなんて言われている。
「ティーナは私だけの女神なんだけどな」
国民に認められているのは、ものすごく誇らしい。だが、日に日にマルティナが人気になっていくのを、ハビエルは複雑な気持ちでみていた。
「何言ってるんだよ。王妃のおかげで臣下や国民の王家への忠誠心も確固たるものになって、安泰なんじゃないか」
「……それはわかっている。ティーナには感謝しかない」
「お前もエブラム王国建国以来、一番素晴らしい王だと言われてるんだ。似合いの夫婦で、いいじゃないか」
クラレンスに『似合いの夫婦』と言われて嬉しいのが、ハビエルはまんざらでもない顔をした。
「似合っているのは当然だ。ティーナの素晴らしさを世の中に知らしめたいが、ティーナを好きになる輩がこれ以上増えてほしくないんだっ! この相反した気持ち……私はどうすればいいんだ」
ハビエルは頭をぐしゃぐしゃにかきむしりながら、叫んでいる。
「もう結婚して二十年も経つのに、よくそんなに王妃のことが好きだよな」
「大好きに決まっているだろう。何年経ってもティーナは可愛い。昨日のティーナより、今日のティーナはさらに可愛いんだ」
「……はいはい」
クラレンスは、呆れたように適当に相槌を打った。
ハビエルとマルティナは、ずっと仲睦まじく暮らしている。たまに喧嘩をしている時もあるが、それは大抵マルティナが『自分以外の男に優しくしてた』とか『可愛い顔で笑いかけてた』とかいうハビエルのしょうもないやきもちが原因だ。
しかしその喧嘩も、一晩経てば関係が直っている。翌朝マルティナはぐったりしていて、ハビエルは艶々しているのを見ると……まあ、つまりはそういうことなのだろう。
「我が国は平和だな」
他国では正妃と側室の血みどろの争いがあったり、国王が若い女にいれあげて税金を使いまくるなんて話も珍しくない。
しかし、エブラム王国ではそんな心配は全くなかった。ハビエルはマルティナだけを、ずっと愛しているからである。
二人は三人の子どもを授かっており、皆すくすくと優秀に育っている。なので、エブラム王国はしばらく安泰だと言われている。
♢♢♢
「ティーナが足りないっ! もっと一緒にいたいのに、お互いこの忙しさはなんなんだ」
寝室で、ハビエルがそんなことを言い出した。最近は二人とも公務が忙しくて、夜の僅かな時間しか話すことができていなかった。どうやらハビエルは、我慢の限界らしい。
後ろからぎゅうぎゅうと抱き締め、ハビエルはマルティナの首筋に顔を埋めた。
「子どもたちより、あなたの方が甘えん坊ですね」
マルティナにそんなことを言われて、ハビエルはムッと唇を尖らせた。
「……やっと二人きりに戻れたんだ。いいだろう?」
「ええ」
最近末の子どもが一人で眠れる年齢になったので、部屋を分けたのだ。なので、完全に二人きりの寝室は久しぶりだった。
「子たちは皆可愛いが、一番可愛いのはティーナだからね」
ハビエルはマルティナをゆっくりと、ベッドに押し倒した。
「今夜からは、いっぱい大きな声が出せるよ」
「……馬鹿」
真っ赤に頬を染めているマルティナを見下ろしながら、ハビエルは目を細めた。もう子どももいるのに、こういう時に毎回照れるマルティナが、愛おしくて堪らなかった。
四十歳に差し掛かったハビエルは、結婚した時よりも深みのある魅力的な男になっている。そして、日に日にハビエルの色気が増しているのでマルティナは困ってしまう。
「我慢して耐えている君も魅力的だが、やはり可愛い声を聴きたいんだ」
ニッと口角を上げたハビエルは、マルティナに深い口づけをした。
「あんっ……ふっ……」
「やっぱりいい声だね。もっと聴かせて?」
ハビエルはマルティナの美しい胸を長い指で包み込み、ツンと硬くなった先端をペロリと舐めた。
「……んんっ!」
「ティーナは、昔からここ好きだよね。いっぱい気持ちよくなって」
焦らすようにねっとりと何度も舐められた後に、じゅっと強めに吸われるとマルティナの身体がビクッと跳ねた。
「あっ……ああっ……!」
「胸だけで上手にイケたね。可愛い」
マルティナはトロンとした顔で「はぁはぁ」と息を整えていた。その姿がとても色っぽくて、ハビエルはごくりと唾を飲み込んだ。
「すごいな。もうとろとろだ」
ハビエルはぐっしょりと濡れた秘部に、そのまま顔を埋めて舌を這わせた。
「だめぇ……もう少し待っ……んんっ……!」
「待たない。もっともっと愛させて」
「ああんっ!」
「いい声だ。ずっと聴いていたいな」
それからハビエルは宣言通りじっくり丁寧に全身を愛し続け、マルティナは声が掠れるほど一晩中鳴く羽目になった。
「ティーナ。そろそろ抜け出して街でデート……いや、街の視察をしよう」
ハビエルは翌朝ベッドで片肘をつきながら、マルティナにそう切り出した。
彼等はお互い変化ができるので、姿を隠してお忍びのデートができた。ちなみにハビエルが変化魔法を使えるのは未だに王族のごく一部の人間とマルティナだけの秘密だ。
「まあ、悪い人ね」
「視察だ。だから、ちゃんとした仕事だよ」
パチンとウィンクをするハビエルは年齢を重ねた今でも美しく、マルティナの永遠の『王子様』だ。実際は……もう王様なのだが。
「これは私達だけの秘密だよ」
「はい、秘密ですね」
ベッドで視察という名目のデートの計画を立てる二人は、とても幸せだった。
「変化魔法を使うと、いつもティーナに初めて逢った時のことを思いだすんだ」
「ふふ、十歳の頃のことですか? 懐かしすぎますね」
「あとは、君からのハニートラップ。あれは衝撃的だったね」
ハビエルが意地悪な顔でニヤリと笑うと、マルティナは拗ねたように唇を尖らせた。
「もう、あれは忘れてください」
「はは、忘れられるわけないよ。あのおかげで今があるんだから」
ハビエルはくすくすと笑って、マルティナに優しいキスをした。
「それに、ティーナになら騙されてもいいな」
「ではまた、変化してハニートラップをかけてみましょうか。あの頃より魔法の精度が上がっていますからね」
マルティナが冗談っぽくそう言うと、ハビエルは愛おしそうに目を細めた。
「はは、いいよ。どんな姿でも、絶対にティーナのことに気付くから」
「私もわかりますよ。あなたがどんな姿でも」
自慢満々にそう言ったマルティナに、ハビエルは微笑んだ。
「私はティーナのことを、ティーナは私を愛しているからね」
「ええ、その通りです」
「……私は幸せ者だな」
「私の方が幸せ者です」
お互い張り合ってそんなことを言い合っているのがなんだか可笑しくて、見つめ合いながらぷっと吹き出して笑った。
ハビエルとマルティナはエブラム王国で『憧れの夫婦』としていつまでも仲良く暮らしました。
もし街中で仲睦まじい夫婦がいたら、それはもしかしたらマルティナとハビエルかもしれません。変化した二人は、お互い以外にはわからないのですから。
公爵令嬢が王太子殿下と婚約破棄をするためにハニートラップをしかけたら……まさかの幸せな結婚生活が待っていたのでした。
END
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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