【完結】公爵令嬢が婚約破棄をするために王太子殿下にハニートラップを仕掛けた結果

大森 樹

文字の大きさ
上 下
12 / 23

12 結婚式

しおりを挟む
 ハビエルとマルティナの結婚式は、国中を巻き込んで盛大に行われた。

 婚約が決まった時から特注で作らせていたハビエルこだわりのウェディングドレスは、マルティナの凛とした美しさを惹きたたせ、よく似合っていた。

「ティーナ、君はまるで……女神のようだ。とても綺麗だよ」

 ハビエルはマルティナのドレス姿に見惚れ、ポーッとしていた。

「ハビこそ、すごく格好いいです」

 正装をしているハビエルも、いつもにも増して美しさに磨きがかかっていた。こんなに白いタキシードが似合う人はどこを探しても他にいないだろうと、マルティナは心の中で思った。

「ありがとう。ティーナ、私はこの日を待ちわびていた」
「はい、私もです」
「一生、愛してるよ。神に誓う前に、君に誓う」
「はい。私も一生愛しています」

 二人で微笑みあってキスをした。ハビエルが思いの外激しく口を吸ったので、口紅が取れてしまい……慌てて化粧直しをしてもらうはめになった。マルティナは恥ずかしかったが、ハビエルは素知らぬ顔で堂々としていた。

「さあ、行こうか」
「はい」

 二人は国で一番大きな教会で、たくさんの人々に見守られながら滞りなく結婚式を終えた。

「ご結婚おめでとうございます」
「ハビエル殿下、マルティナ様万歳!」
「なんて素晴らしい日だ」

 魔力の強いハビエルと、レアな魔法を使えるマルティナはお似合いの夫婦だと祝福された。

 マルティナは結婚を機に『変化魔法を使える』ということを世間に公表したからだ。あの騒動で、マルティナの能力が国王陛下にバレてしまったので隠すのをやめたのだった。

 それにハビエルがビビアナ他の御令嬢と浮気しているのではという良くない噂もちらほら出ていた。

 どうやら二人の密会を、他の生徒に見られていたらしい。

 なので立場上なかなか二人で逢えないので『ハビエルは魔法で別人に変わったマルティナとお忍びでデートをしていた』という設定にしたのだ。

 半信半疑だった周囲も目の前でビビアナに変化したマルティナを見たら、ハビエルの浮気疑惑はすぐに消えた。

 そして王家とペドロサ公爵家と話し合った結果、マルティナの変化魔法は隠すのではなく公表して国の宝として王家が守ることに決まったのだ。

「良かった。前々から君への低い評価は我慢ならなかったんだ」

 手のひらを返したようにマルティナがハビエルの妻に相応しくないという声は、自然と無くなっていった。

「……計画通り」

 ハビエルは小声でポツリと呟き、ニヤリと笑った。

「え? 何か言われましたか?」
「いや、何でもないよ。あの時父上に変化魔法のことがバレたから丁度良かったなと思って」
「結果的にはそうですね」

 爽やかに微笑むハビエルは、マルティナの頬にキスをした。

 どうやらハビエルがあえてハニートラップに引っかかったのは、全てマルティナとの幸せな結婚のためだったらしい。

 ハビエルは王族らしく穏やかに微笑みながら、来賓の対応をし続けてた。隣にいるマルティナも同様である。

「……早く二人きりになりたい」

 他の人に気付かれないよう表情は変えずに、ハビエルはマルティナにこそっとそう告げた。

「同感です」
「もう同じような挨拶はいいだろう。いい加減にして欲しい」
「……だめですよ。一緒に耐えましょう」
「終わりが見えないぞ」

 非の打ち所がない完璧な王子だなんて言われているハビエルは、マルティナの前ではその完璧さを崩していた。

 まさかこの王子が、心の中でこんなことを思っているなんて誰も思わないだろう。

「私が隣にいますから」
「ありがとう。ティーナがいてくれれば、私も頑張れそうだ」

 マルティナの手を握り、ハビエルは嬉しそうに目を細めた。それは明らかに皆に見せる作られた笑顔とは別の……心から幸せそうな顔だった。

「楽しみは後に取っておこう」

 ハビエルは長い指ですりすりとマルティナの手を撫でながら、耳元で色っぽく囁いた。マルティナは、真っ赤に頬を染め恥ずかしそうに目を伏せた。

「……やる気が出てきた。さっさと終わらせよう」

 それからのハビエルは、凄かった。にこやかに、しかし無駄なく会話を交わして最短で挨拶を終えた。

 二人は結婚式と披露宴、祝賀パレードまで終えてやっと王宮に戻って来た。各自の部屋はあるが、今夜からは同じ寝室で眠ることになる。

 ドレスを脱ぎ、お風呂に入って身支度を整えたマルティナはドキドキして寝室に入った。

「失礼致します」

 そっとドアを開けると、素肌にガウンを羽織っているハビエルがベッドに座っていた。

「ティーナ」

 ハビエルはマルティナの姿を見て、嬉しそうに微笑んだ。まだ少し濡れている髪がセクシーで、いつもの何倍もハビエルの色気が増していた。

「何か飲むかい?」
「い、いえ。大丈夫です」

 緊張しているマルティナは、ハビエルを直視できずに視線を彷徨わせていた。

「ティーナ、こっちにおいで」

 ハビエルは手招きして、ベッドに呼び寄せた。マルティナがゆっくりと近付くと、手を引かれあっという間にハビエルの胸の中にすっぽりと包まれた。

「ああ、やっと二人で過ごせる」
「……はい」
「ティーナと結婚できて幸せだ」
「私も幸せです」

 ぎゅっと抱き締められて、マルティナもハビエルの背中に腕を回した。

「大好きだよ、ティーナ」

 その言葉をきっかけに、ちゅっちゅと頬や首にキスをされながらゆっくりとベッドに押し倒された。器用なハビエルは、キスをしながらマルティナのガウンを脱がしていった。

「この夜着似合ってるね」
「ううっ……恥ずかしいです」

 マルティナは全身真っ赤に染めて、手で身体を隠した。

 今夜のマルティナの夜着は、普段自分が身に付けている何倍も大人びた物だ。大事な部分だけはかろうじて隠れているが、他はレースの隙間から全て見えてしまっている。

 実は初夜に何を着ていいか悩んで、マルティナはすでに嫁いでいる姉のディアナに相談した。経験者に聞くのが一番だと思ったからだ。

 ディアナから『人妻になるんだからこれくらい張り切らないと』と言われ、お祝いだとこのセクシーな夜着をプレゼントされたのだ。

 だから勇気を出して着てみたのだが、やはりこれはマルティナには恥ずかしすぎた。

「どうして? すごく素敵なのに。私のためにこれを身に付けてくれたと思うと、嬉しいよ」

 爽やかに微笑みながら、身体を隠しているマルティナの手をそっとどけた。

「綺麗だよ」
「あ、ありがとうございます」

 マルティナは、恥ずかしくてハビエルから視線を逸らした。ハビエルはくすりと笑い、唇に触れるだけのキスをした。

「こんなに頬を染めて。可愛いね」
「……っ!」
「初めてじゃないのに、まだ恥ずかしいのかい?」

 この美しい顔に覗き込まれて、照れないなんて無理な話だ。

「でも、結婚してだもんね。朝までゆっくり私の愛を伝えさせて欲しい」
「あ、朝まで……!?」
「今までは、家に帰さないといけないと思って色々我慢していたから、やっと全力で愛せるのが嬉しいんだ」

 マルティナはそのとんでもない発言を聞いて、驚いて目をパチパチとさせた。婚約中も気を失いそうなほど激しく求められたはずなのに、目の前のハビエルは『我慢していた』と言ったからだ。

「え? あ、あの……我慢されていたのですか? 今までも……その……十分すごかった気がするのですが」
「本気の私はもっとすごいから、覚悟して」

 フッと色っぽく口角を上げたハビエルに、マルティナはドキドキして心臓が止まりそうだった。自分はどうなってしまうのかと、期待と不安が入り混じった複雑な感情だった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...