【完結】公爵令嬢が婚約破棄をするために王太子殿下にハニートラップを仕掛けた結果

大森 樹

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11 ※両想い

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 ハビエルはハニートラップを仕掛けたマルティナに内心腹が立っていた。自分はこんなにマルティナを想っているのに、マルティナは自分と別れたがっているなんて。

「そんなこと……絶対に許さない。マルティナを誰にも渡さない」

 マルティナがハビエルを騙すつもりならば、その作戦に便乗してビビアナを存分に愛することにした。

 見た目は違えど、中身はマルティナなのだ。目を閉じると、マルティナのいい香りがする。

 会う回数を重ねるごとに、だんだんスキンシップを増やし、キスも深く濃いものにしていった。

 身体接触はきっと拒否されるだろうと思っていたのに、ビビアナは恥ずかしがりながらも全て受け止めてくれた。触れても抵抗しないマルティナに、ハビエルが我慢できるはずがなかった。

 ――別れたいのに、どうして私を受け入れる? 

 ――それとも、変化しなければならない何か別の理由があるのか?

 混乱しながらも、ビビアナ……いや、マルティナの柔らかい唇や温もりに夢中になり溺れていった。

 しかし初めて結ばれるのは、絶対にマルティナ本人の姿がよかった。それに、こんな外で適当に済ませたくはない。ゆっくりたっぷり時間をかけて、愛し合いたいのだ。

 だからハビエルは、歯を食いしばってなんとか一線は越えずにいた。

 そして、その時は訪れた。舞踏会で密会していたところを王家にリークされたのだ。

 予想はしていたが……本当にマルティナがハニートラップをかけていたのだと知って、ハビエルはとてもショックだった。

 しかし、同時に『好きでもない男』に口付けをさせるような女性ではないだろうという冷静な気持ちもあった。

 ハビエルは「はぁ」と大きなため息をついた。目を閉じると、浮かんでくるのはビビアナとマルティナの二人の女性の顔だった。

「どうしたものか」

 ハビエルは自分がこれからどうしたいのかを、一晩考えることにした。せっかくなら、この状況を最大限活かす方法も考えたいと思っていた。

 そして、翌日父親である国王陛下に呼び出されて叱責を受けることになる。

 そこでこの不貞疑惑の真相を明らかにさせ、マルティナの本心を知り……二人は両想いだったことを知ったのであった。

♢♢♢

 ハビエルは自室にマルティナを招いた。二人きりできちんと話したいと思ったからだ。

 ビビアナとは頻繁に逢っていたが、ずっと避けられていたためマルティナの姿でゆっくりと逢うのは久しぶりだった。

「私は、マルティナと結婚したいからずっと頑張ったんだよ」
「そんな。あの時の男の子が……殿下だったなんて」
「私は十歳のあの日から、君以外に心を奪われたことはない」

 ハビエルとマルティナの頬をそっと包んで、優しいキスをした。ビビアナの姿以外でするキスは初めてだ。軽く触れただけなのにとても気持ちが良かった。

「は、恥ずかしいです」

 マルティナの白い肌は真っ赤に染まった。

「ふふ、ビビアナの時は君も積極的だったじゃないか。でも照れている姿も可愛いね」

 ハビエルは愛おしそうに目を細め、彼女の髪を撫でた。

「でもあの時ティーナは別れようとしていたのに、なぜ私に口付けを許してくれたんだい?」
「大好きな……殿下と……最後の思い出が……欲しくて」

 涙目で恥ずかしそうに俯いてもじもじしているマルティナを、ハビエルは強く抱き締めた。

「なんてことだ。ああ、可愛い」

 マルティナの頬やおでこにちゅちゅとキスの嵐が降ってくる。

「ひゃあ、やめてくださいませ」
「やめないよ。今までは一度触れたら我慢できなくなるから必死で耐えていたんだ。お互い同じ気持ちだとわかったし、もう我慢する必要はないだろう」
「あ、あの。婚約中は節度ある交際をとお父様に言われているのですが……」

 ハビエルはドサリとマルティナをベッドに押し倒した。ニッと笑った顔はとても美しく妖艶だった。

「そうだね。だからこれは私達二人だけの秘密だ」
「秘密……?」
「そう、秘密だ。出逢った時のように二人だけの秘密にしよう」

 そのままハビエルに甘く深く口付けられ、マルティナは力が抜けてしまった。

「私のティーナへの想いは、もう言葉だけじゃ伝えきれないんだ。だから、全身でこの愛を感じて欲しい」

 手先の器用なハビエルは、するするとマルティナのドレスを脱がしていった。

「可愛い」
「殿下、いけません」
「ハビと呼んでくれ。この部屋にはバリアと防音魔法をかけた。声は外に漏れないし、邪魔も入らないよ」
「そ、そういう問題ではありません」
「ああ、やはりティーナの全てが私の好みだ。素敵だよ」

 ハビエルはマルティナのすべすべな肌に、ゆっくりと舌を這わせていった。

「ハビ……んっ……!」
「可愛い声だ。ビビアナの時はここまでしてあげられなかったから、いっぱい感じて」
「やぁっ……!」
「ティーナ、二度と私から離れないでくれ」

 ハビエルはマルティナは思いが通じたその日に、そのまま身体を重ね……愛を確かめ合った。

「とても綺麗だ。足も胸も全て美しい」
「は、恥ずかしいです」
「隠さないで。全て愛しているよ」
「あっ……ああっ……ハビ」
「ティーナ、ティーナ……!」
「私も……愛しています」

 時間をかけて一つになれた時、ハビエルは言葉にできないほど幸せだった。

「愛してるよ」

 くたりと力が抜けているマルティナの髪を撫で、ちゅっとおでこにキスをした。するとマルティナは嬉しそうに微笑み、ゆっくりと瞼を閉じた。

「……可愛い」

 マルティナの寝顔を眺めていたら、むくむくとまた熱が集まってきた。

「我ながらどうしようもないな」

 マルティナに対して尽きない欲望がある自分に呆れながらも、それも仕方がないとハビエルはそんな自分を受け入れた。だって、ずっとずっと好きな人と一つになれたのだ。興奮しないはずがない。

 しかし……しばらくしたらきちんと送り届けないと、マルティナの父であるペドロサ公爵がここに『娘に何をした』と激怒して乗り込んできそうだ。

 だけどすぐに起こすことはしたくなかった。すやすや眠るマルティナを見ることを許される男は、自分だけなのだから。

「もう少しだけお休み」

 ハビエルは、マルティナの帰りが遅くなった言い訳を考えながら時間を過ごした。




 世間では品行方正な完璧王子と言われているハビエルだが、恋焦がれているマルティナの前ではただの一人の男だった。

 そして公爵令嬢のマルティナもまた、恋焦がれているハビエルの前ではただの一人の女だった。














--------

ここまでお読みいただきありがとうございます。

ハビエルの名前が間違っている箇所がありました。
最初に読んでいただいた方、混乱させて申し訳ありません。
ご指摘いただきありがとうございました。
修正しております。




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