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8 初恋②
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ハビエルは最後の力を振り絞って、元の姿に戻った。あのマルティナという名前の女の子が助けてくれたことで、少しだけ魔力が回復したのだ。
しかし、そのままハビエルは力尽きた。ボロボロの姿で庭に倒れているところを執事に見つかり、自室に戻され『使用人や警護を撒いて勝手に出て行ったこと』について沢山お説教を受けた。
王宮ではハビエルが居なくなったと大騒動になっていたらしい。
両親には『変化していた』ことももちろんバレており、もの凄く怒られたが……ハビエルはマルティナと出逢えたことで胸がいっぱいだった。
「父上……私はある女の子に街で親切にしてもらって、助けてもらいました。なぜかその子のことを思い出すと、胸がドキドキするのです」
「はは、そうか」
「考えると苦しいのに、早く彼女に逢いたいなと思うのです。どうしてですか?」
ハビエルは左胸のシャツをくしゃりと掴み、頬を染めて俯いた。
「それは恋だ。ハビエルはその優しいレディを好きになったんだ」
「……恋?」
ハビエルの父である国王陛下はハッハッハ、と笑いながら自分の息子の頭を撫でた。
「どこの誰だ? 身分が合うなら縁を結んでやれるかもしれんぞ」
「マルティナって名前しかわからないのです。私と同じくらいの年だと思うのですが」
「マルティナ……ああ、あのマルティナ嬢か! ペドロサ公爵家の娘ではないか。ふむ、この縁結べるかもしれんぞ。お前の妻にしてやれる可能性がある」
顎に手を当てて考えている父親を見て、ハビエルは頬が熱くなった。
「妻……私の奥さんに……彼女が……?」
「ただし条件がある。お前がちゃんと一人前になったらだ」
「はい! 頑張ります」
ハビエルはあの素敵な女の子と結婚できるのであれば、なんでも頑張れる気がした。
「早くそうなることだ。悪いがこれは確定ではない。国のために他にもっと良い縁があれば、そちらと結婚させる可能性もある。王太子としてそのことは覚悟してもらわねば」
「……はい」
「だが、ハビエルの婚約者候補としてペドロサ公爵家に打診をしてみよう。しかし、お前が変化魔法を使えることは秘密だ。だから、平民の姿で街で会ったことはマルティナ嬢には言ってはならぬ」
街で会ったことを秘密にしなければいけないのならば、ハビエルとマルティナの接点は何もなかった。
だからこそ何の接点もない状態から、マルティナに自分を好きになって貰わないといけなかった。
それから目に見えてハビエルは変わった。我儘は言わなくなり、勉学も魔法も真面目に励むようになった。
自分の無知さを恥じ、全く知らなかったお金のことやこの国の領地のことも沢山学んだ。
人を身分で差別したりもせず、皆に平等に優しい王太子へと変貌することになる。
マルティナを妻にしたいという一心で努力を続けた結果、いつの間にかハビエルは『完璧王子』などと周囲から呼ばれるようになっていた。
そのせいで御令嬢方からはキャーキャーと騒がれたが、一番好かれたいマルティナからは見向きもされていなかった。
ハビエルは何度もマルティナとの婚約を願ってきたが、ペドロサ公爵はなかなか了承してくれなかった。
『殿下お一人で娘を守れるようになれば考えましょう』
そう断られるたびに、まだお前はマルティナに『相応しくない』と言われているようで悔しかった。
もちろん、自力で近付こうとしたこともあった。できれば政略結婚ではなく、マルティナに自分のことを好きになって欲しかったからだ。
舞踏会でマルティナを見かけることは頻繁にあった。スラっとした手足に、細い腰。大人びた顔立ちは凛としていて、上質だがシンプルなドレスは彼女をより綺麗に見せていた。
「マルティナ嬢、久しぶりだね」
「ハビエル殿下、お久しぶりでございます。ご機嫌麗しゅうございますか」
機会を見計らって何度か話しかけたこともある。だが立派なレディに成長したマルティナは、常にハビエルに他所行きの微笑みを向けていた。でも、それでもハビエルは話せるだけで嬉しかった。
「ああ。マルティナ嬢、私と一曲おど……」
ドキドキしながらマルティナにダンスを申し込もうとしたその時、ハビエルはたくさんの御令嬢に囲まれてしまった。
「ハビエル殿下、今夜も素敵ですわね。私と踊ってくださいませ」
「いいえ、是非私とお願い致します」
「殿下、聞いてくださいませ。私はこの前一級の魔法使いになりましたのよ」
派手なドレスを身に纏い、べったりと化粧や香水をつけた御令嬢がハビエルに纏わりついてくる。跳ね除けたい気持ちだったが、流石に貴族の娘たちをあからさまに拒否をするわけにもいかない。
なんとか作り笑顔で、その場を切り抜けると……もうマルティナは近くには居なかった。哀しいが、そんなことばかりだった。
幼い頃は明るく元気だったマルティナは、今は大人しく控えめな性格になっていた。それはペドロサ公爵家の娘なのに『魔力が少ない』と周りが陰口を言っていることが関係があるのかもしれない。
珍しい魔法である『変化』が使えることは公表していないようだった。だから、皆はマルティナの凄さを知らないのだ。
しかしハビエルは魔法が無かったとしても、マルティナが凄いことを知っていた。
マルティナが新しい産業を生み出したことで領民の仕事は増え、ペドロサ領地はさらに潤うようになった。低所得者層にも教育と、仕事を与え治安の改善も同時に成し遂げた。
それはエブラム王国全土でやりたい政策のモデルケースのようだった。
マルティナのその賢さや、身分を問わず領民たちを思いやる心は次期王妃として相応しかった。
ハビエルはマルティナと距離を縮められないまま、時間が過ぎた。しかしその間もハビエルはマルティナに相応しい男になるために、努力し続けた。
そして一年前……ハビエルが十八歳、マルティナが十六歳の時にやっと婚約が決まった。
「本当ですか!?」
「ああ」
「……っしゃぁ!」
父親である国王陛下から正式な決定を聞いたハビエルは、ガッツポーズをして叫び声をあげた。
王太子としてその品のない言動は褒められたものではないが、ずっと一途にマルティナを想って頑張ってきた息子を咎める気にはなれなかった。
「……良かったな」
「はい」
ハビエルは十八年間生きてきて、この日が一番嬉しかった。
しかし、そのままハビエルは力尽きた。ボロボロの姿で庭に倒れているところを執事に見つかり、自室に戻され『使用人や警護を撒いて勝手に出て行ったこと』について沢山お説教を受けた。
王宮ではハビエルが居なくなったと大騒動になっていたらしい。
両親には『変化していた』ことももちろんバレており、もの凄く怒られたが……ハビエルはマルティナと出逢えたことで胸がいっぱいだった。
「父上……私はある女の子に街で親切にしてもらって、助けてもらいました。なぜかその子のことを思い出すと、胸がドキドキするのです」
「はは、そうか」
「考えると苦しいのに、早く彼女に逢いたいなと思うのです。どうしてですか?」
ハビエルは左胸のシャツをくしゃりと掴み、頬を染めて俯いた。
「それは恋だ。ハビエルはその優しいレディを好きになったんだ」
「……恋?」
ハビエルの父である国王陛下はハッハッハ、と笑いながら自分の息子の頭を撫でた。
「どこの誰だ? 身分が合うなら縁を結んでやれるかもしれんぞ」
「マルティナって名前しかわからないのです。私と同じくらいの年だと思うのですが」
「マルティナ……ああ、あのマルティナ嬢か! ペドロサ公爵家の娘ではないか。ふむ、この縁結べるかもしれんぞ。お前の妻にしてやれる可能性がある」
顎に手を当てて考えている父親を見て、ハビエルは頬が熱くなった。
「妻……私の奥さんに……彼女が……?」
「ただし条件がある。お前がちゃんと一人前になったらだ」
「はい! 頑張ります」
ハビエルはあの素敵な女の子と結婚できるのであれば、なんでも頑張れる気がした。
「早くそうなることだ。悪いがこれは確定ではない。国のために他にもっと良い縁があれば、そちらと結婚させる可能性もある。王太子としてそのことは覚悟してもらわねば」
「……はい」
「だが、ハビエルの婚約者候補としてペドロサ公爵家に打診をしてみよう。しかし、お前が変化魔法を使えることは秘密だ。だから、平民の姿で街で会ったことはマルティナ嬢には言ってはならぬ」
街で会ったことを秘密にしなければいけないのならば、ハビエルとマルティナの接点は何もなかった。
だからこそ何の接点もない状態から、マルティナに自分を好きになって貰わないといけなかった。
それから目に見えてハビエルは変わった。我儘は言わなくなり、勉学も魔法も真面目に励むようになった。
自分の無知さを恥じ、全く知らなかったお金のことやこの国の領地のことも沢山学んだ。
人を身分で差別したりもせず、皆に平等に優しい王太子へと変貌することになる。
マルティナを妻にしたいという一心で努力を続けた結果、いつの間にかハビエルは『完璧王子』などと周囲から呼ばれるようになっていた。
そのせいで御令嬢方からはキャーキャーと騒がれたが、一番好かれたいマルティナからは見向きもされていなかった。
ハビエルは何度もマルティナとの婚約を願ってきたが、ペドロサ公爵はなかなか了承してくれなかった。
『殿下お一人で娘を守れるようになれば考えましょう』
そう断られるたびに、まだお前はマルティナに『相応しくない』と言われているようで悔しかった。
もちろん、自力で近付こうとしたこともあった。できれば政略結婚ではなく、マルティナに自分のことを好きになって欲しかったからだ。
舞踏会でマルティナを見かけることは頻繁にあった。スラっとした手足に、細い腰。大人びた顔立ちは凛としていて、上質だがシンプルなドレスは彼女をより綺麗に見せていた。
「マルティナ嬢、久しぶりだね」
「ハビエル殿下、お久しぶりでございます。ご機嫌麗しゅうございますか」
機会を見計らって何度か話しかけたこともある。だが立派なレディに成長したマルティナは、常にハビエルに他所行きの微笑みを向けていた。でも、それでもハビエルは話せるだけで嬉しかった。
「ああ。マルティナ嬢、私と一曲おど……」
ドキドキしながらマルティナにダンスを申し込もうとしたその時、ハビエルはたくさんの御令嬢に囲まれてしまった。
「ハビエル殿下、今夜も素敵ですわね。私と踊ってくださいませ」
「いいえ、是非私とお願い致します」
「殿下、聞いてくださいませ。私はこの前一級の魔法使いになりましたのよ」
派手なドレスを身に纏い、べったりと化粧や香水をつけた御令嬢がハビエルに纏わりついてくる。跳ね除けたい気持ちだったが、流石に貴族の娘たちをあからさまに拒否をするわけにもいかない。
なんとか作り笑顔で、その場を切り抜けると……もうマルティナは近くには居なかった。哀しいが、そんなことばかりだった。
幼い頃は明るく元気だったマルティナは、今は大人しく控えめな性格になっていた。それはペドロサ公爵家の娘なのに『魔力が少ない』と周りが陰口を言っていることが関係があるのかもしれない。
珍しい魔法である『変化』が使えることは公表していないようだった。だから、皆はマルティナの凄さを知らないのだ。
しかしハビエルは魔法が無かったとしても、マルティナが凄いことを知っていた。
マルティナが新しい産業を生み出したことで領民の仕事は増え、ペドロサ領地はさらに潤うようになった。低所得者層にも教育と、仕事を与え治安の改善も同時に成し遂げた。
それはエブラム王国全土でやりたい政策のモデルケースのようだった。
マルティナのその賢さや、身分を問わず領民たちを思いやる心は次期王妃として相応しかった。
ハビエルはマルティナと距離を縮められないまま、時間が過ぎた。しかしその間もハビエルはマルティナに相応しい男になるために、努力し続けた。
そして一年前……ハビエルが十八歳、マルティナが十六歳の時にやっと婚約が決まった。
「本当ですか!?」
「ああ」
「……っしゃぁ!」
父親である国王陛下から正式な決定を聞いたハビエルは、ガッツポーズをして叫び声をあげた。
王太子としてその品のない言動は褒められたものではないが、ずっと一途にマルティナを想って頑張ってきた息子を咎める気にはなれなかった。
「……良かったな」
「はい」
ハビエルは十八年間生きてきて、この日が一番嬉しかった。
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