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6 愛する人

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「あなたの……あなたの好みが私じゃ……ないから。別れて差し上げようと思って……ひっく……ひっく」

 形勢逆転されたマルティナは、ハニートラップを仕掛けた理由を素直に話すことにした。

「え? 待ってくれ。どういう意味だい?」
「だって殿下はクラレンス様に結婚相手は『スタイルが良くて可愛くて優しい穏やかな女性がいい』って仰っていたから」

 マルティナはポロポロと涙を溢しながら、何故こんなことをしたのかを話し出した。

「まさか、あの会話を聞いていたのか? いや……でもなぜそれが、君がビビアナに変化することになるんだ?」
「だから! 殿下の好みに合わせた女性が現れたら、きっと私と婚約破棄したくなると思ったのです」
「私好みの女性……? ビビアナが?」

 ハビエルは眉を顰めて、首を傾げた。

「中身が愛するティーナと知っていたから相手をしたが、正直ビビアナの見た目は私の好みとはかけ離れてるけれど」

 そのとんでもないカミングアウトに、マルティナは絶句した。

「ええっ……でも。殿方から人気の御令嬢の良い特徴を研究したのですが? それにお好み通り胸を大きくしてスタイル良くしたし、背も低くして目も大きくして可愛く……ニコニコして穏やかな癒し系の女性を演じました」

 マルティナが必死に説明するのを見て、国王陛下とハビエルは顔を見合わせた。

「これはマルティナ嬢に大きな勘違いをされているぞ。ハビエル、お前……ちゃんと自分の気持ちを話していないのか?」
「私はティーナに『愛してる』とか『可愛い』と何度も伝えていたんですが、まさか信じてくれていなかったなんて」

 ハビエルは目を片手で押さえて、天を仰いだ。

「そんな言葉は社交辞令だったのでは? だって、ハビエル殿下と私の婚約は『仕方なく消去法』で結ばれたものなのでしょう? 家格が合う、丁度いい年齢の御令嬢が他にいないから……」

 マルティナの話を聞いて、ハビエルは不機嫌な顔になり大声を出した。

「誰だ、そんなデマを流した奴は!」
「え? デマ……ですか?」
「当たり前だ。私の好みは君だし、愛してるのも君だけだ」
「……え?」
「私は昔からティーナが好きで、どうしてもティーナと結婚したくて君の父上であるペドロサ公爵に、何度も何度も婚約を頼み込んだのだ」

 そんな話はティアナは初耳だった。

「それは本当だ」

 陛下もハビエルの意見に同意している。二人が嘘をついているとは思えないので、きっとそれが真実なのだろう。

「そもそもクラレンスとの話を聞いていたのならば、わかっていたんではないのか? あの後……私はクラレンスに『婚約者のティーナが理想の女性そのものだ』と話していただろう?」
「え? そんなことは言われていませんでしたが……ああ! でも私は、これ以上盗み聞きしてはいけないと思い途中でその場を去りました」
「では、一番誤解されそうな部分だけを聞いたんだな」

 ハビエルは眉を下げて、困ったような表情を見せた。

「ではハビエル殿下は私が婚約者のままでよろしいのですか?」
「当たり前だ。君が嫌だと言っても、婚約破棄などしない!」
「うっうっ……良かった。私……愛されていないと……思っていて……あなたが幸せになるように……身を引こうと……うっ……うっ」

 マルティナは安心したのか、泣きながらその場でうずくまってしまった。

「ああ、泣かないでくれ」

 ハビエルはすぐに駆け寄り、ハンカチで目元をそっと拭った。

「私のことを思って身を引こうとしたのか? やはり君は心優しい女性だね」

 ニコリと微笑んだハビエルに、マルティナはなんとか泣き止んだ。しかし彼女は不安気な顔で彼の耳に口を寄せた。

「私、胸が小さいです」

 そんなとんでもない発言に、ボッとハビエルは頬を染めた。

「コホン。そ、それは……実際に確認してみないとわからないが。しかし、私はそこを重要視してない。大きさが全てというものでもないし……その……色々と他に魅力があると思う。長い脚とか細い腰とか……んん、いやなんでもない」

 ハビエルは照れながらごにょごにょと言葉を濁した。さすがにはっきりとマルティナのスレンダーな身体が好みだと言うのは、憚られたからだ。

「そうなのですか?」
「ビビアナの見た目よりティーナの方がよっぽど好みだよ」

 それを聞いてマルティナは、自分の容姿がハビエルの好みなのだと信じることができた。

「信じてくれた?」
「……はい」
「じゃあ、改めて。ティーナ、私の妻になってくれるかい?」
「はい!」

 二人はぎゅっと抱き締め合った。ハビエルとビビアナは何度も抱擁していたが、ハビエルとマルティナとしては初めてだった。

「何はともあれ丸く収まってよかった」

 国王陛下はふう、と呆れたようにため息をついたが幸せそうな二人を目を細めて眺めていた。

 王家としても、例え魔法のことがなかったとしても優秀なマルティナを手放すつもりなんてなかったのだ。

 大変な王妃教育をマルティナは文句も言わず、黙々と努力してして完璧にこなしていたのだから。



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