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5 浮気相手
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「ハビエル、お前はなんて事をしたのだ」
約束通り朝一番に、ハビエルは父親である国王陛下の部屋を訪ねていた。
「マルティナ嬢という立派な婚約者がいながら、不貞を働くなんて! 私は息子をそんな風に育てた覚えはないぞ!!」
陛下は眉を吊り上げて、語気を強めていた。自慢の息子が不貞をはたらいたことが許せないらしい。
「私はビビアナを愛しているのです」
「何だと!? ではマルティナ嬢とは別れると言うのか? お前は彼女を愛していたのではないのか」
激昂する陛下を宥める様に、マルティナは静かな声で話しだした。
「陛下、もうおやめください。私達は所詮政略結婚。殿下が真に愛する方を見つけたのであれば、喜ばしいこと。私は潔く身を引きます」
「マルティナ嬢! しかし……」
「これ以上、ここにいる方が辛いですわ。話はもうわかりました。婚約破棄の書類は家まで届けてくださいませ」
淡々とそう告げたマルティナ。マルティナは辛そうな顔を装っているが、口元は薄ら笑っていた。なぜなら、全ての計画が上手くいっているからだ。
「話はまだ終わっていない」
ハビエルは帰ろうとするマルティナを引き止めるように、大きな声を出した。
「なんですか? 殿下、私はもうあなた様の顔も見たくありません」
「どうして? 私は絶対にティーナと婚約破棄なんてしないよ」
自分が浮気をしておいて、そんな非常識なことを言う息子に国王陛下は眉を顰めた。
「お前……! どの口がそんなことを」
「私は二人とも愛していますから」
悪びれることもなく、そう言い切るハビエル。確かにこの国では側室を持つことはできる。
しかしそれは、後継がどうしても生まれない等特別な理由がある場合が多い。結婚する前に愛人を持つなんてことは非常識だった。
「最低なことを仰らないで。これ以上あなたに失望したくありませんわ」
怒っているのか……マルティナはブルブルと震えながら、ハビエルを睨みつけた。
「ハビエル殿下は、ビビアナ様を好ましく思われていると仰いましたね。身分など関係ないほど……愛していらっしゃるのでしょう?」
「ああ、そうだ」
「では、この話は終わりです。我が家はお金には困っておりませんので、慰謝料はいりません。婚約破棄してくださるなら、あなたへの罰も望みません」
マルティナは無表情のまま淡々と冷たい声でそう言った。
「マルティナ嬢、そういうわけにはいかぬ。愚息の行いを見逃すなど許されない事だ。きちんと処分する」
「いえ、陛下。きっと私にも至らぬ点があったのです。殿下の心を惹きつけられなかったのですから」
「しかし、それでは君やペドロサ公爵に申し訳が立たない」
マルティナと国王陛下のやり取りを聞いて、ハビエルはお腹を抱えて笑いだした。
「はははっ、ティーナは面白いね」
いきなり大声で笑い出したハビエルに、陛下もマルティナも眉を顰めた。
気が触れたのか、とでも思うくらい可笑しな言動だ。
「私は婚約破棄などしないよ。だってビビアナとティーナは同一人物なのだから」
真顔に戻ったハビエルは、ニッコリと笑顔を作りマルティナに一歩ずつ近付いた。
目を見開いて驚く彼女の髪をひと掬いし、ちゅっとキスをする。
「ど、どういうことだ!? お前の浮気相手が……マルティナ嬢だと?」
「はい、父上。マルティナは何故か私の前でビビアナに変装していたのです。ちなみに調べましたが、ビビアナは存在しません。いや、正確に言えば『同じ名前の留学生は存在はする』が『全くの別人』でした」
「変装って……まさか」
「な、なんのことかわかりませんわ」
マルティナは明らかに動揺し、顔を青ざめさせ視線を逸らした。ハビエルはそんな彼女を見て、楽しそうに笑った。
「しらばっくれても無駄だよ。ああ……でも変装より変化と言った方がいいかな。父上、ティーナは私と同じ魔法が使えるんですよ」
それを聞いて、驚いたのはマルティナだった。
「同じ……魔法ですって?」
「そうだよ。私も同じ魔法が使える。こんな風にね」
彼はその場で、ビビアナの姿に変化した。それを見たマルティナは、口をポカンと開けて呆然としていた、
マルティナが驚いている間にハビエルは元の姿に戻った。
「ね、できるだろう? 今まで黙っていてごめんね。でもお互い様だから許して欲しいな」
「いつから……私だと気付いていらしたのですか」
「ふふ、面白いこと聞くね。ティーナが図書館で私の隣に座った瞬間さ。私が愛する君に気付かないはずないじゃないか」
「……え?」
マルティナの変化は完璧だった。誰がどう見てもビビアナがマルティナだなんて気が付かない。見た目も声も、身長さえ違うのだ。それなのになぜ。
「不思議だって顔してるね。香りだよ」
「香り?」
「姿が違ってもティーナの匂いがしたんだ。君の香水は私がプレゼントした世界で一つだけのもの。それにその香水と混じって、ティーナが開発したオレンジの香油の香りもしていた。だから間違いないと確信していた。そうじゃなければ、私が知らない女に手を出すはずないだろ?」
さも当たり前のようにハビエルはそう言った。
「そ……んな……」
「最初はティーナの可愛い悪戯だと思っていたんだけど。でも悪戯じゃなかった。ねえ、どうしてこんな事をしたのか教えて? なぜ婚約破棄をしたかったんだい? まあ、どんな理由でも私が君を手放すことはないけれどね」
ハビエルは顔は笑っていたが、圧のある空気を出し明らかに怒っていた。
約束通り朝一番に、ハビエルは父親である国王陛下の部屋を訪ねていた。
「マルティナ嬢という立派な婚約者がいながら、不貞を働くなんて! 私は息子をそんな風に育てた覚えはないぞ!!」
陛下は眉を吊り上げて、語気を強めていた。自慢の息子が不貞をはたらいたことが許せないらしい。
「私はビビアナを愛しているのです」
「何だと!? ではマルティナ嬢とは別れると言うのか? お前は彼女を愛していたのではないのか」
激昂する陛下を宥める様に、マルティナは静かな声で話しだした。
「陛下、もうおやめください。私達は所詮政略結婚。殿下が真に愛する方を見つけたのであれば、喜ばしいこと。私は潔く身を引きます」
「マルティナ嬢! しかし……」
「これ以上、ここにいる方が辛いですわ。話はもうわかりました。婚約破棄の書類は家まで届けてくださいませ」
淡々とそう告げたマルティナ。マルティナは辛そうな顔を装っているが、口元は薄ら笑っていた。なぜなら、全ての計画が上手くいっているからだ。
「話はまだ終わっていない」
ハビエルは帰ろうとするマルティナを引き止めるように、大きな声を出した。
「なんですか? 殿下、私はもうあなた様の顔も見たくありません」
「どうして? 私は絶対にティーナと婚約破棄なんてしないよ」
自分が浮気をしておいて、そんな非常識なことを言う息子に国王陛下は眉を顰めた。
「お前……! どの口がそんなことを」
「私は二人とも愛していますから」
悪びれることもなく、そう言い切るハビエル。確かにこの国では側室を持つことはできる。
しかしそれは、後継がどうしても生まれない等特別な理由がある場合が多い。結婚する前に愛人を持つなんてことは非常識だった。
「最低なことを仰らないで。これ以上あなたに失望したくありませんわ」
怒っているのか……マルティナはブルブルと震えながら、ハビエルを睨みつけた。
「ハビエル殿下は、ビビアナ様を好ましく思われていると仰いましたね。身分など関係ないほど……愛していらっしゃるのでしょう?」
「ああ、そうだ」
「では、この話は終わりです。我が家はお金には困っておりませんので、慰謝料はいりません。婚約破棄してくださるなら、あなたへの罰も望みません」
マルティナは無表情のまま淡々と冷たい声でそう言った。
「マルティナ嬢、そういうわけにはいかぬ。愚息の行いを見逃すなど許されない事だ。きちんと処分する」
「いえ、陛下。きっと私にも至らぬ点があったのです。殿下の心を惹きつけられなかったのですから」
「しかし、それでは君やペドロサ公爵に申し訳が立たない」
マルティナと国王陛下のやり取りを聞いて、ハビエルはお腹を抱えて笑いだした。
「はははっ、ティーナは面白いね」
いきなり大声で笑い出したハビエルに、陛下もマルティナも眉を顰めた。
気が触れたのか、とでも思うくらい可笑しな言動だ。
「私は婚約破棄などしないよ。だってビビアナとティーナは同一人物なのだから」
真顔に戻ったハビエルは、ニッコリと笑顔を作りマルティナに一歩ずつ近付いた。
目を見開いて驚く彼女の髪をひと掬いし、ちゅっとキスをする。
「ど、どういうことだ!? お前の浮気相手が……マルティナ嬢だと?」
「はい、父上。マルティナは何故か私の前でビビアナに変装していたのです。ちなみに調べましたが、ビビアナは存在しません。いや、正確に言えば『同じ名前の留学生は存在はする』が『全くの別人』でした」
「変装って……まさか」
「な、なんのことかわかりませんわ」
マルティナは明らかに動揺し、顔を青ざめさせ視線を逸らした。ハビエルはそんな彼女を見て、楽しそうに笑った。
「しらばっくれても無駄だよ。ああ……でも変装より変化と言った方がいいかな。父上、ティーナは私と同じ魔法が使えるんですよ」
それを聞いて、驚いたのはマルティナだった。
「同じ……魔法ですって?」
「そうだよ。私も同じ魔法が使える。こんな風にね」
彼はその場で、ビビアナの姿に変化した。それを見たマルティナは、口をポカンと開けて呆然としていた、
マルティナが驚いている間にハビエルは元の姿に戻った。
「ね、できるだろう? 今まで黙っていてごめんね。でもお互い様だから許して欲しいな」
「いつから……私だと気付いていらしたのですか」
「ふふ、面白いこと聞くね。ティーナが図書館で私の隣に座った瞬間さ。私が愛する君に気付かないはずないじゃないか」
「……え?」
マルティナの変化は完璧だった。誰がどう見てもビビアナがマルティナだなんて気が付かない。見た目も声も、身長さえ違うのだ。それなのになぜ。
「不思議だって顔してるね。香りだよ」
「香り?」
「姿が違ってもティーナの匂いがしたんだ。君の香水は私がプレゼントした世界で一つだけのもの。それにその香水と混じって、ティーナが開発したオレンジの香油の香りもしていた。だから間違いないと確信していた。そうじゃなければ、私が知らない女に手を出すはずないだろ?」
さも当たり前のようにハビエルはそう言った。
「そ……んな……」
「最初はティーナの可愛い悪戯だと思っていたんだけど。でも悪戯じゃなかった。ねえ、どうしてこんな事をしたのか教えて? なぜ婚約破棄をしたかったんだい? まあ、どんな理由でも私が君を手放すことはないけれどね」
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