【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹

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番外編

愛してるが聞きたくて②

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 疲労感が残った状態で目が覚めると、まだランディ様の腕の中にガッチリと抱き締められていた。部屋が薄暗いので、今は明け方だろうか。

 ああ、ここは私が一番安心できる場所だ。すりすりと頬擦りをすると頭を優しく撫でてくれた。どうやら、ランディ様は起きているようだ。

「そんな可愛いことをされたら、また襲ってしまいそうだ」

「も……むり……よ」

 私は喉がカラカラになっていて、声が掠れてしまっている。ランディ様はサイドテーブルに手を伸ばして水を含んだ後、私に口移しで水を飲ませた。

 ごくりと飲み込むと、彼は満足そうに微笑み何度かそれを繰り返した。

「ヴィヴィ、愛してるよ」

 予定とはかなり違うが、これは成功したのだろうか?昨夜の彼はいつも通り……いや、いつもよりもかなり激しいくらいだった。

「どうしていきなり『愛してる』って言ってくださらなくなったの?夜も……急に淡白になったし。もう私のこと飽きちゃったのかと不安でしたわ」

 彼はガバリと起き上がって「そんなわけないだろ!」と大きな声を出した。

「ヴィヴィに飽きるなんてことは絶対にない。こんなに可愛くて、愛おしいのに」

 真剣な顔でそう言われて、私は頬が真っ赤に染まった。

「じゃあ、どうしてですか?」

「すまない。そんなにヴィヴィを不安にさせてたとは知らなかった。実は……」

 事の顛末はこうだ。ランディ様の部下の話を聞いたのが私達のすれ違いの始まりらしい。

 ある若い騎士が彼女に振られたそうだ。ラブラブだと思っていたのに、遠征から帰ると別の男性と関係を持っており『あなたがいつも愛してるって言うから刺激がなくなっちゃった』とあっさり別れを告げられたらしい。

 それを聞いて『愛してる』と一日に何十回も言っていたランディ様は不安になったそうだ。あれだけ言っていたら俺はもうヴィヴィに飽きられているのでは?と。

 しかもその時に皆さんが奥様や恋人達と……その……どれくらいの頻度で愛し合っているかという話になった時に『毎日』という人はいなかったそうだ。

『こっちは体力有り余ってるから毎日でもたっぷり愛したいけど、向こうの身体には負担ですもんね。妻は子育てで疲れてるし、週に一回くらいですね』

 それを聞いてランディ様はさらに不安になったそうだ。私達は毎日のように愛し合っていたから。

 子育ても忙しいし、体格差もあるのに何の配慮もせずに毎晩のように濃密な夜を過ごしていたことを申し訳なく思ったらしい。そしてこんなことを続けていたら『ヴィヴィに嫌われる』と青ざめた。

「だから『愛してる』って言うのを減らそうと思った。夜の頻度もあえて少なくした」

「……なるほど」

「でも傍にいたら、君に触れないなんて無理なんだ。だからなるべく短時間で終わらせて、ヴィヴィの身体にダメージがないように気をつけたんだ」

 それがあの事務的な夜が続いた原因なのだとやっとわかったので、私はホッと胸を撫で下ろした。

「そんな理由だったんですか。じゃあ、私のことを嫌になったわけじゃないのですね?」

「嫌になんてなるわけない!君がいないと生きていけないくらい愛してるのに」

 彼はぎゅうぎゅうと抱き締めて、ちゅっちゅと私の顔中にキスをした。ああ、いつものランディ様が戻ってきた。

「子育てしててお化粧とか服とかあまり気を遣えなくて可愛くなくなったから、飽きられたんだとショック受けてたんですからね」

「化粧?服?可愛くない??」

 彼はよくわからないという風に首を傾げた。

「君はいつ見ても可愛い。化粧をしている姿ももちろん素敵だが、俺はヴィヴィの素顔が一番好きだ。それに服は全部俺が君に似合うのを選んでるから、どれも似合っている」

「……ありがとう……ございます」

 そんなことを言われて、私は恥ずかしくて身体中が熱くなった。

「他の人がどうかはわかりませんが、私はランディ様に『愛してる』と言っていただけたら毎回幸せな気持ちになります。何度言われてもドキドキします」

「そうか。なら……これまで通りたくさん伝えてもいいか?」

「はい!嬉しいです」

 彼の顔が嬉しそうにパッと明るくなった。それと恥ずかしくても大事なことを伝えなくてはいけない。

「私……大丈夫です。その……若いですし……身体は小さいですけど、体力もありますから。あなたが触れてくださらない方が哀しいわ」

「い、いいのか?」

「しんどい時や疲れている時はきちんとお伝えしますから。今まで通りに……その……してくださいませ」

「ヴィヴィ……愛してる。愛してる!」

 彼に濃厚なキスをされ、また甘い雰囲気になってしまった。もう無理だって言ったのに……と思いながらもランディ様の幸せそうな顔を見たら拒否する気にはなれそうもない。それに、久しぶりに私もとことん彼に愛されたいと思ってしまっていた。

「ヴィヴィが積極的なのは驚いたが、すごく嬉しかった」

「どうしたらいいか、シュゼット様に相談しました。その……これが世に言う倦怠期なのかと思って」

「やっぱりこんなことを言い出すのはシュゼットか。でも新鮮だし……次回はヴィヴィにお願いしようかな?」

 ランディ様は悪戯っぽく私に向かってくすり、と笑った。

「は、恥ずかしいから困ります。それに、あなたに愛されるほうが……好き……です」

 私が真っ赤になりながらそう言うと、彼は嬉しそう微笑んだ。

「それは良かった。俺はどちらかと言えば愛されるより愛したい派だから」

「……なら良かったです」

「でも本当の倦怠期にならないように、お互い努力することも大事かもしれない。まだした事がないことはいっぱいある……二人で一つずつチャレンジしていこう?」

 ――した事がないこと?いっぱいある?

 私がよくわからないと首を傾げた。結婚前の閨の勉強で習ったことはもうしている。これ以外に何があるというのだろうか。

「飽きるなんて言えないくらい、毎日新しい事ができるから……覚悟してて?」

 ランディ様は緩んだ口元を手で隠しながら、そう言った。

「……ランディ様、絶対すごくいやらしいこと考えていらっしゃるでしょう!」

「そりゃそうさ。男なんて、好きな女の前ではみんないやらしいものだ」

「まあ、なんてことかしら。誠実で硬派な騎士団長が私の旦那様だったはずなのに」

 私がわざとらしく文句を言うと、彼はくくくっと笑った。

「本当の俺は、ヴィヴィの前にいるただの男だよ」

 ちゅうっ……と深く口付けされて「こんな俺は君しか知らない」と言われてしまった。

「こんな私もあなたしか知りませんわ」

「ああ。俺には君で、君には俺……本当の姿を知るのはこの世に一人でいい。愛してるよ」

「私も愛しています」

 それから、彼の言う初めてのことを試すことになり……すっごくすっごく恥ずかしい思いをしたがランディ様はとても満足気だった。

『大丈夫、俺に任せて』
『いい子だ、上手だよ』
『ヴィヴィ、可愛い』

 こんなことがまだまだあるというのか?結婚して二年……私は初心者を卒業したと思っていたのにそうではなかったらしい。大人の階段はまだまだあるようだ。




 後日……ランディ様は今回の騒動の原因を知ったシュゼット様に『いい大人が、他人の話を鵜呑みにするなんていい加減にしなさいよ!』と怒られ、クロード様には『ランドルフは可愛いな。これだから結婚までまともに恋愛をしたことがない男は……ははっ、面白過ぎる』と爆笑されたらしい。

 彼はそんなお二人の前で『他人と比べることが無意味だとわかった。だから、毎日ヴィヴィを愛する』なんて真顔で堂々と宣言したそうだ。



 ランディ様の『愛してる』が聞こえる幸せな日常は戻ってきたが……私は恥ずかしすぎてしばらくお二人に会うことができなかった。








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結局、イチャイチャな二人でした。

明日の朝の投稿(一話)が番外編最後になります。
ヴィヴィがトラウマを克服する話です。
最後まで楽しんで読んでいただければ嬉しいです。

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