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番外編

お任せください③【ランドルフ視点】

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 今日から俺は一週間の遠征だ。ヴィヴィと離れるのは憂鬱だが、これも仕事だから仕方がない。

「じゃあ、行ってくる。危ないことがないようにな」

「はい、お気をつけて」

 ニコリと微笑む彼女が愛おしくてしょうがない。こんな俺が仕事より大事なものができるとは思わなかった。

「愛してる」

「私も愛しています」

 ちゅっと軽いキスに留めておく。深く口付けたいが、そんなことをしたら離れられなくなるから。


♢♢♢


「今回の討伐は三日目から二手に分かれる。どちらも奥にドラゴンがいるから気をつけろ。右は俺が、左はクロードに付いて行くように」

「はい!」

 初日はあまり強い魔物達もおらず、平和に終わった。適当な場所にテントを張り、若い隊員達が食事の準備に取り掛かっていた。

「あー……いい匂いがする。これもヴィヴィアンヌちゃんのおかげだな」

「ああ」

 クロードがそんなことを言うので、俺は遠征一日目にしてすでに彼女に逢いたくなった。

「しかし、遠征中の飯まで心配してくれるなんて凄い奥さんだ。しかも本当にどうにかしちまうんだからな。天使エンジェルの愛は無限大だな」

 こいつはケラケラと笑っている。酔い潰れてヴィヴィを心の中で天使エンジェルと呼んでいるのがバレてしまってから、こいつは俺と二人の時に彼女をこう呼んで揶揄ってくる。

「……ああ。俺の宝物だ」

 本当にそう思っている。俺にヴィヴィは眩しすぎる。真っ直ぐで、純粋で……俺が諦めていることを『そんなこと何でもない』という風に簡単に解決してくれる。

『私といれば大丈夫です。任せてください』

 ヴィヴィがそう微笑めば、本当に大丈夫になるのが凄い。彼女と結婚してからいいことばかりだ。

 自分の家族との関係も良くなったし、使用人達とも上手くやれている。街の子ども達や領民達とも親交を深められるようになったし、もちろん仕事も絶好調だ。

 部下達からは以前より話しやすくなった、なんて言われている……らしい。よく知らないが。
 
「おや、いつの間にか素直になっちゃって。今までは好みの女のタイプすら偽ってたのになぁ……?」

「煩い」

 こいつには色々とバレていたらしい。そりゃそうか。お互い十五歳で騎士団に入って以来、ずっと一緒にいるのだから。

「俺がお前の親父さんに助言したんだからな?感謝しろよ」

「……は?何を言ったんだ!?」

 ちょっと待て。父上に何を吹き込んだと言うのか。

「本当は小さくて可愛い子が好みだってこと!ちなみにそういうタイプの御令嬢は、お前を怖がって近付いて来てくれませんね……って」

 ――まさか。ここに情報源がいたとは。

 父上がなぜ結婚相手にヴィヴィを選んできたのかとずっと疑問だったが、その理由がわかった。

「まさかお前だったのか」

「だって親父さん本当に悩んでたんだぜ?お前が結婚しないこと。俺に直接聞きにくるなんてよっぽどじゃないか」

 父上が持ってくる見合い話は、大人っぽいセクシー系の女性ばかりだった。世間的には俺はそういう女性が好みという噂になっていたし、父上の好みも完全にそっちだ。だから我が家の母上も姉上も妖艶で色っぽい美人で、自分一人の力で欲しいものは勝ち取るような強い女性だ。

 だから余計に結婚に興味がなかった。それが急にヴィヴィのようなとびきり可愛い子が現れて……あの日の俺は一目惚れしたのだ。

「だから、俺が二人のキューピッドと言っても過言ではない」

 ハッハッハッと笑いながら、俺の肩をバシバシと叩いて来た。

「お前がキューピッドだなんて癪だな」

「事実だろ?俺を崇め奉ってくれ」

「……煩い」

「でもまぁ、よくあんなお前にピッタリな良い子を見つけてくるもんだ。さすが親父さんだよ。人を見る目がある」

 確かにそれはそうだ。見た目の好みだけなら、他にも沢山いただろう。お金を介しての断れぬ関係だったとはいえ、ヴィヴィは最初から俺を怖いと避けたりはしなかった。遠慮しながらも歩み寄ってくれたのだ。しかも賢く堅実なのに、明るく無邪気だ。そんな女性はなかなかいない。

「団長、副団長ーっ!晩飯できましたよ」

 若い隊員達が、俺達を呼びに来てくれた。料理が完成したらしい。

「ああ、すぐ行く」

 そして火を囲みながら、みんなで晩御飯を食べはじめた。遠征中の食事はいつもは嫌なものだが、今夜はみんな「美味い」と嬉しそうに食べている。

「団長の奥様のおかげで本当に美味いです」
「今日は鹿が取れたんで焼いたんですよ!このハーブ塩かけたら絶品です」
「下処理でこんなに味が変わるなんて」

 そんな声が口々に聞こえてきた。俺も食べてみると……確かに美味い。これもヴィヴィのおかげだと心が温かくなった。本当に彼女には感謝しかないな。

「あー美味い。ランドルフ!この干した肉や野菜、味のついた塩を売る店を作った方がいい。そしていつでも騎士団で食べられるようにしてくれよ」

「……もう動いている。父上に相談したらいい金儲けになると喜んでいた。できたら陛下に騎士団用に国として買ってくれと交渉するらしい。あとは災害時の非常食としても使えるから、備蓄にもなる」

「さすが親父さん。抜け目ないな」

 クロードはくっくっく、と笑った。父上はこういう好機を逃さないし、仕事が早い。

「ヴィヴィアンヌちゃんはなんて?」

 俺は父上にこのことを言う前に、ヴィヴィの名で自分の店にしてはどうかと提案した。しかし彼女はそういう欲がないらしい。

『ランディ様がこれを食べられるなら、それでいいんです。必要なら毎回私が作ってもいいなと思っていたんですが、正直騎士団は大人数なので結構大変だったんです。お父様がきちんとお店にして作ってくださるなら、助かります』

「ヴィヴィアンヌちゃんらしいな」

「だろ?父上は店を彼女の名から取って『ヴィー』にすると言っているが……本人は恥ずかしいそうだ」

 これは定期的に売れる。そうなれば、我が家がファンタニエ家に支援した分以上の利益が得られることは間違いない。全く彼女は自分の力をわかっていない。

「そういえば、知ってるか?」

「何を?」

「ヴィヴィアンヌちゃんが来て以来、若い隊員達の中で『可愛い子』人気が上がってるらしいぞ」

 クロードは面白そうに笑っているが、俺は複雑な表情になった。それってつまり……ヴィヴィが可愛かったってことだろ。

「あのふりふりエプロン萌えるもんな。むさ苦しい男どもがあんなの見せられちゃ……堪らないよなぁ?」

「……」

 確かに俺が贈ったエプロン姿は死ぬほど可愛かった。まるでお人形さんのようで、最高に似合っていた。ヴィヴィに似合うもの……と選んでいたら、フリルやリボンのついたものになってしまったのだ。

 その時はあまり何も考えていなかったが、こいつの言うとおりだ。飢えた獣達の中にあんな可愛い姿の彼女を来させるなんて間違っていた。

奥様みたいに元気で可愛くて、優しいのが癒されるんだと!今まで女はセクシーに限る……なんて言ってたのに手のひら返しがすごいぜ」

 クロードはくっくっくと、肉を頬張りながら笑っている。

「ヴィヴィアンヌちゃんに惚れちゃったやつがいっぱいいるってことだ。気をつけろよ?まあ、お前の嫁と知ってて手を出す勇気はみんなねぇみたいだけど」

「……誰が来ても渡すわけないだろ」

「お、いいねぇ。きゃー!団長様格好良い」

 揶揄うクロードをヘッドロックをして、ギリギリと締め上げた。こいつは「痛い痛い」と騒いでいるが……なんだか気に食わない。

 ヴィヴィの魅力をみんなに知って欲しい。俺の妻はこんな素晴らしいと大声で伝えたい。だけど、彼女の魅力は自分だけが知っていたらいい……誰も彼女の良さに気付くなと思う自分もいる。

 ああ、やっぱり早く帰って彼女を抱き締めたい。キスをしたい。愛してると伝えたい。

 この満たされない気持ちは、一生続くのだろうなと思う。どれだけ一緒にいても『もっともっと』彼女が欲しくなる。

「おい、一日でも早く終わらせるぞ」

「へいへい、わかりましたよ。俺も愛しのシュゼットに早く逢いたいしな!」

 どうやらクロードも嫁が恋しいらしい。本気になった俺達にかかれば、一週間の討伐予定は二日繰り上げられ五日間で無事終わることができた。

 さてと……やっと帰れる。予定より早く帰れたとはいえ五日間もヴィヴィに触れていないので、もう限界だ。彼女に貰った懐中時計をポケットから取り出して、今回も俺を守ってくれた礼を込めてキスをした。

『無事に討伐が終わり、早く帰れることになった。今夜は覚悟しておいて』

 それだけの手紙を家に事前に送っておいた。今頃それを読んで、きっとヴィヴィは真っ赤になっていることだろう。

「とりあえず……あのエプロンは俺の前だけしか着ないように伝えないとな」

 可愛いすぎる妻を持つ夫も大変だ。とびきり似合う服装の彼女は、自分以外には決して見られないように気をつけなければいけないなんて。








「ただいま」

「お帰りなさいませ!」


 パタパタと嬉しそうに駆け寄ってくる彼女を抱きとめ……俺は改めてこの幸せを噛み締めた。






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二人のラブラブな日常でした。
明日は子どもが生まれてからの二人の話を投稿します。
よろしければもう少しお付き合いください。
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