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番外編
消えた妻②【ランドルフ視点】
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「これが旦那様のお部屋に置いてありました」
渡されたのは手紙と刺繍入りのハンカチ、そして結婚指輪だった。俺は震える指で手紙を開けた。
旦那様へ
今まで大変お世話になりました。
旦那様には返しきれぬ大きな恩があるのに、
何もお返しできず申し訳ありません。
あなたにとっては迷惑だったかもしれませんが、
私にとってはとても幸せな毎日でした。
お金は何年かかってもお返しします。
旦那様は本当にお好きな女性と結ばれて下さい。
私とは離縁を致しましょう。
旦那様の幸せを祈っています。
使用人皆さんにもありがとうと伝えてください。
さようなら。お元気で。
ヴィヴィアンヌ
何だこれは?離縁だと!?彼女は俺と別れたくて家を出て行ったということか。しかし彼女は大きな誤解をしている。俺の好きな女はヴィヴィしかいないのだから。
無くさないようにハンカチと指輪をポケットに入れ、深呼吸して混乱した頭を必死に回した。
「テッド、すぐに彼女のご両親に連絡を。もしファンタニエ家にいなければ、必ず見つけ出すので心配しないで欲しいと伝えてくれ」
「はい」
「俺は街中を探す。一人で事件に巻き込まれている可能性もあるから」
「旦那様……それが奥様は殆どお金を持っていらっしゃらないようなのです。お金も宝石類も全て家にありました」
なんてことだ。彼女らしいが、金を置いて一人で出て行くなんて無謀すぎる。
「質屋と安い宿、辻馬車を徹底的に調べ上げろ。きっとどこか当たるはずだ。協力してもらったら礼は弾め。偽名を使った可能性もあるから、見た目の特徴も伝えてくれ」
「承知しました」
――どうか無事でいてくれ。それだけでいい。
「ランドルフ、俺らも手伝うぜ?今は討伐依頼もないし。街の見回りも騎士団の大事な役目だろ」
「……感謝する」
「なんか怪しい動きがないかパトロールさせる。変な動きがあったらすぐわかるだろう」
俺は頷き、すぐに街に出た。テッドからは『ファンタニエ家にはいなかった』と報告があった。
街で聞き込みを始めると、ヴィヴィアンヌのことを知っている人が多くて驚いた。
「ヴィヴィアンヌ様ですか?今日はお見かけしていませんね」
「何かあったのですか!?」
「見かけたらご連絡しますね」
尋ねるとみんな彼女を心配し、何かあれば情報をくれると言ってくれた。
「ヴィヴィアンヌちゃん、かなり人気者だね」
聞き込みをしながらクロードがそう話しかけて来た。
「……ああ。俺も驚いている」
俺は彼女のことを何も知らないんだと痛感した。きっと、ヴィヴィは街に何度も来ているのだろう。そして質屋で話を聞くと三十分程前に彼女がやってきたと言っていた。
「本当か!?」
「ええ。ピンクオパールのイヤリングを売りたいと仰られたんですが、とても良いお品でしたし思い詰めていらっしゃったので本当に売るのですか?とお聞きしたらやめると言って出て行かれました」
それはいつも彼女が身につけているものだ。確か義父上にもらったと言っていた気がする。
「どこに行くとか言っていなかったか!?」
「いえ、何も」
くそ……でも、彼女は確かにここにいた。そう遠くへは行っていないはずだ。礼を言って俺は質屋を出た。
「おい!ランドルフ、部下から嫌な情報が入ってきた」
焦ったようにクロードが俺のそばに駆けて来た。嫌な情報だと!?
「孤児院の方に向かっているヴィヴィアンヌちゃんを見かけた人がいる。ただ、孤児院には着いていない。しかも路地から柄の悪そうな男達が、でかい袋を抱えていたのを目撃したと情報が入った」
「なんだと?」
彼女の身体の大きさなら、袋に入れて担いでも大きな男なら余裕で運べるだろう。まさか誘拐されたのか?誰が……何のために?
「あとその路地に鞄が落ちていたそうだ。これはヴィヴィアンヌちゃんの物か?」
「……そうだ」
俺はそれを見て血の気が引いた。ヴィヴィが何か事件に巻き込まれたことが決定的になってしまった。
「団長!報告します。裏の道に怪しげな馬車がいたとの報告がありました。しかもその辺りに紙を千切ったようなものが点々と落ちています」
――きっと彼女だ。道を教えてくれているのだろう。
「すぐ行く」
俺は馬に乗ってその紙を頼りに道を進んでいく。目印が風で飛ぶ前に早く彼女を見つけなければ。どうか、どうか無事でいてくれ。
「こんなことがあったのに、ヴィヴィアンヌちゃんは冷静で賢いね。きっと無事だ」
「ああ。無事に決まっている!」
絶対に助ける。助けなければならない。俺には彼女程大事なものなんてないのだから。
そしてしばらくすると森の中に、急に家のようなものが現れた。
「なんだここは?」
「うわ……怪しさ凄いな。入るか」
「ああ、俺が先に行く。お前らは後ろから頼む」
少し離れた場所に馬を置き、足音を立てずに中に入る。中には多くの人の気配がする。そして入口に向かって歩いてくる柄の悪い三人組が見えた。
「あの親父、あんな若い子に手を出すなんて変態だよな。誘拐までするとか頭おかしいぜ」
「くく、大事なクライアント様の悪口言うなよ。俺達は金を貰えればいいんだから」
「まあ、そうっすねー。今夜はパーっと飲みましょうよ」
あの親父?まさか……彼女を連れ去ったのはロドリー卿か!俺はギリっと唇を噛み締めた。あいつがまだ諦めていなかったなんて。
しかしあいつが犯人なら、身代金目的よりやばい。一刻も早く救い出さなければ彼女の身が危ない。そう思った俺は迷いなく扉を開けた。
「どういうことか教えてもらおうか?」
「何だテメェ!?」
二人同時に俺に向かって殴りかかって来たが、こんなゴロツキどもが何人かかってきたところで問題はない。
「ぐわっ……うわっ……!」
「ゲホッ……ゔっ……」
一人を蹴り飛ばし、もう一人は首を締め上げた。こんな奴ら剣を抜くまでもない。気を失った男を手から離して床に落とした。
「あとはお前だけだ。まだやるか?」
リーダー格の男をギロリと睨むと、両手を挙げて降参のポーズをした。
「あんたランドルフ・ベルナールか。俺は勝てない勝負はしない主義でね。こんなすぐ気が付かれるとは思わなかった」
「賢明な判断だな。お前の雇い主はロドリーだな?」
「……そうだ」
俺はチッと舌打ちをして、リーダーの男の腹を思い切り殴った。意識を失った男がドサリと倒れ込んだ。
「俺は甘くないんでね。大事な妻を拐った男をそのまま見逃すわけないだろ。それに自分だけ降参なんて虫が良すぎる」
後ろから来た部下に誘拐の実行犯を引き渡し中へ急いだ。
なんなんだこの部屋は?扉は重厚で……普通の家じゃない。まさか、ここはあの男の監禁部屋じゃないだろうな。嫌な予感がして、背中に冷や汗が流れる。
先に進むと、ロドリーが雇っている護衛達が何十人もいた。面倒くさいな……こっちは急いでんだよ。俺がグッと拳に力を入れた時、クロードと部下達が後ろから現れた。
「ランドルフ、こっちは任せろ!」
「団長に鍛えられてたら、こんな人数何ともないっすよ」
「早く行ってあげてください」
俺はいい仲間を持ったようだ。皆に礼を言って、奥に急いだ。
扉の前にいる護衛の男たちを殴り倒し、少しだけ扉を開けて中を見た。
……いた!ヴィヴィとロドリーの話し声が聞こえてくる。
「君が頼れるのはもう私だけだよ。今日から私のことを旦那様と呼びなさい」
「嫌です。私の旦那様は生涯ランドルフ様ただ一人です!」
「なんだと……?あの忌まわしい男の名前は二度と呼ぶな!!どうやら君が従順になるように躾をし直す必要がありそうだな。安心しなさい、可愛い顔は傷付けない。愛する旦那様に反抗するのは悪いことだと痛みで覚えろ!」
ロドリーが思い切り手をあげたのを見て、俺は扉を開けて中に入った。
ふざけるな!俺の大事な彼女を殴ろうとするなんて、許せるはずがない。
「ランディ様……助けて!」
彼女のその悲鳴を聞き、俺はロドリーの腕を捻り上げた。よかった、間に合った。俺の大事なヴィヴィを誘拐した挙句に、殴ろうなど……死に値する。
「その汚い手を離せ」
怒りからさらに力を入れたので、腕はギリギリと嫌な音を立てている。
ヴィヴィはホッとしたのか、力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。もう大丈夫だから安心してくれ、と心の中で呟いた。
「ぐわぁっ……ゔゔっ……」
ロドリーの悲鳴が聞こえてくるが、知ったことではない。
「俺の妻を誘拐するなんて、許せるわけがない」
俺は恐ろしく鋭い瞳でやつを睨みつけ、ボキッと骨を折った。
「ぐっ……ああっ……!お、おい!護衛は何をしているっ!?早く私を助けろ!!」
「護衛って、もしかして弱いこいつらのことですかねえ?」
クロード達はあっという間に、外にいた奴等を倒したらしい。さすがだな。
ロドリーはなんだかんだと言い訳していたが、俺はこの男の話なんて聞くつもりはない。もともと素行のよくない男だ。調べあげれば全てわかること……きっと叩けば埃だらけだ。ロドリーを捕まえて、地下牢に入れるように指示をした。
後で俺が自ら『死んだほうがまし』だと思うほどの苦痛を与えてやろう。しかし、今は彼女が優先だ。
座り込んでしまったヴィヴィと同じ目線になるために、しゃがんで彼女に話しかけた。
「旦那様……!旦那様っ……!」
彼女は俺の胸に抱きついて泣きじゃくっていた。優しく背に手を回して抱きしめる。誘拐されて、どんなに怖かっただろうか。可哀想に。
「大丈夫。もう大丈夫だ。怖かったな」
「怖かったです!助けに……来てくださって……ううっ……ありがとうございました」
「当たり前だろ?ヴィヴィは俺の大事な妻なんだから」
彼女にやっと「大事だ」と伝えることができた。
「ごめんなさい……ごめ……んなさ……」
「いい。とりあえずヴィヴィが無事で良かった」
彼女が無事なら他のことなどどうでもいい。ヴィヴィが俺の腕の中にいてくれるだけで幸せだった。
もう絶対に……絶対に二度と離さない。俺はそう心に誓った。
………………………………………………………………
ヴィヴィアンヌの家出&誘拐事件の裏側でした。
みんな必死に探していました。
ランドルフは見つけるまで、生きた心地がしなかったことでしょう→ここから本編十四話に続きます。
明日はヴィヴィアンヌ視点の番外編を投稿します。
ラブラブ期の二人です。
よろしければお読みください。
………………………………………………………………
渡されたのは手紙と刺繍入りのハンカチ、そして結婚指輪だった。俺は震える指で手紙を開けた。
旦那様へ
今まで大変お世話になりました。
旦那様には返しきれぬ大きな恩があるのに、
何もお返しできず申し訳ありません。
あなたにとっては迷惑だったかもしれませんが、
私にとってはとても幸せな毎日でした。
お金は何年かかってもお返しします。
旦那様は本当にお好きな女性と結ばれて下さい。
私とは離縁を致しましょう。
旦那様の幸せを祈っています。
使用人皆さんにもありがとうと伝えてください。
さようなら。お元気で。
ヴィヴィアンヌ
何だこれは?離縁だと!?彼女は俺と別れたくて家を出て行ったということか。しかし彼女は大きな誤解をしている。俺の好きな女はヴィヴィしかいないのだから。
無くさないようにハンカチと指輪をポケットに入れ、深呼吸して混乱した頭を必死に回した。
「テッド、すぐに彼女のご両親に連絡を。もしファンタニエ家にいなければ、必ず見つけ出すので心配しないで欲しいと伝えてくれ」
「はい」
「俺は街中を探す。一人で事件に巻き込まれている可能性もあるから」
「旦那様……それが奥様は殆どお金を持っていらっしゃらないようなのです。お金も宝石類も全て家にありました」
なんてことだ。彼女らしいが、金を置いて一人で出て行くなんて無謀すぎる。
「質屋と安い宿、辻馬車を徹底的に調べ上げろ。きっとどこか当たるはずだ。協力してもらったら礼は弾め。偽名を使った可能性もあるから、見た目の特徴も伝えてくれ」
「承知しました」
――どうか無事でいてくれ。それだけでいい。
「ランドルフ、俺らも手伝うぜ?今は討伐依頼もないし。街の見回りも騎士団の大事な役目だろ」
「……感謝する」
「なんか怪しい動きがないかパトロールさせる。変な動きがあったらすぐわかるだろう」
俺は頷き、すぐに街に出た。テッドからは『ファンタニエ家にはいなかった』と報告があった。
街で聞き込みを始めると、ヴィヴィアンヌのことを知っている人が多くて驚いた。
「ヴィヴィアンヌ様ですか?今日はお見かけしていませんね」
「何かあったのですか!?」
「見かけたらご連絡しますね」
尋ねるとみんな彼女を心配し、何かあれば情報をくれると言ってくれた。
「ヴィヴィアンヌちゃん、かなり人気者だね」
聞き込みをしながらクロードがそう話しかけて来た。
「……ああ。俺も驚いている」
俺は彼女のことを何も知らないんだと痛感した。きっと、ヴィヴィは街に何度も来ているのだろう。そして質屋で話を聞くと三十分程前に彼女がやってきたと言っていた。
「本当か!?」
「ええ。ピンクオパールのイヤリングを売りたいと仰られたんですが、とても良いお品でしたし思い詰めていらっしゃったので本当に売るのですか?とお聞きしたらやめると言って出て行かれました」
それはいつも彼女が身につけているものだ。確か義父上にもらったと言っていた気がする。
「どこに行くとか言っていなかったか!?」
「いえ、何も」
くそ……でも、彼女は確かにここにいた。そう遠くへは行っていないはずだ。礼を言って俺は質屋を出た。
「おい!ランドルフ、部下から嫌な情報が入ってきた」
焦ったようにクロードが俺のそばに駆けて来た。嫌な情報だと!?
「孤児院の方に向かっているヴィヴィアンヌちゃんを見かけた人がいる。ただ、孤児院には着いていない。しかも路地から柄の悪そうな男達が、でかい袋を抱えていたのを目撃したと情報が入った」
「なんだと?」
彼女の身体の大きさなら、袋に入れて担いでも大きな男なら余裕で運べるだろう。まさか誘拐されたのか?誰が……何のために?
「あとその路地に鞄が落ちていたそうだ。これはヴィヴィアンヌちゃんの物か?」
「……そうだ」
俺はそれを見て血の気が引いた。ヴィヴィが何か事件に巻き込まれたことが決定的になってしまった。
「団長!報告します。裏の道に怪しげな馬車がいたとの報告がありました。しかもその辺りに紙を千切ったようなものが点々と落ちています」
――きっと彼女だ。道を教えてくれているのだろう。
「すぐ行く」
俺は馬に乗ってその紙を頼りに道を進んでいく。目印が風で飛ぶ前に早く彼女を見つけなければ。どうか、どうか無事でいてくれ。
「こんなことがあったのに、ヴィヴィアンヌちゃんは冷静で賢いね。きっと無事だ」
「ああ。無事に決まっている!」
絶対に助ける。助けなければならない。俺には彼女程大事なものなんてないのだから。
そしてしばらくすると森の中に、急に家のようなものが現れた。
「なんだここは?」
「うわ……怪しさ凄いな。入るか」
「ああ、俺が先に行く。お前らは後ろから頼む」
少し離れた場所に馬を置き、足音を立てずに中に入る。中には多くの人の気配がする。そして入口に向かって歩いてくる柄の悪い三人組が見えた。
「あの親父、あんな若い子に手を出すなんて変態だよな。誘拐までするとか頭おかしいぜ」
「くく、大事なクライアント様の悪口言うなよ。俺達は金を貰えればいいんだから」
「まあ、そうっすねー。今夜はパーっと飲みましょうよ」
あの親父?まさか……彼女を連れ去ったのはロドリー卿か!俺はギリっと唇を噛み締めた。あいつがまだ諦めていなかったなんて。
しかしあいつが犯人なら、身代金目的よりやばい。一刻も早く救い出さなければ彼女の身が危ない。そう思った俺は迷いなく扉を開けた。
「どういうことか教えてもらおうか?」
「何だテメェ!?」
二人同時に俺に向かって殴りかかって来たが、こんなゴロツキどもが何人かかってきたところで問題はない。
「ぐわっ……うわっ……!」
「ゲホッ……ゔっ……」
一人を蹴り飛ばし、もう一人は首を締め上げた。こんな奴ら剣を抜くまでもない。気を失った男を手から離して床に落とした。
「あとはお前だけだ。まだやるか?」
リーダー格の男をギロリと睨むと、両手を挙げて降参のポーズをした。
「あんたランドルフ・ベルナールか。俺は勝てない勝負はしない主義でね。こんなすぐ気が付かれるとは思わなかった」
「賢明な判断だな。お前の雇い主はロドリーだな?」
「……そうだ」
俺はチッと舌打ちをして、リーダーの男の腹を思い切り殴った。意識を失った男がドサリと倒れ込んだ。
「俺は甘くないんでね。大事な妻を拐った男をそのまま見逃すわけないだろ。それに自分だけ降参なんて虫が良すぎる」
後ろから来た部下に誘拐の実行犯を引き渡し中へ急いだ。
なんなんだこの部屋は?扉は重厚で……普通の家じゃない。まさか、ここはあの男の監禁部屋じゃないだろうな。嫌な予感がして、背中に冷や汗が流れる。
先に進むと、ロドリーが雇っている護衛達が何十人もいた。面倒くさいな……こっちは急いでんだよ。俺がグッと拳に力を入れた時、クロードと部下達が後ろから現れた。
「ランドルフ、こっちは任せろ!」
「団長に鍛えられてたら、こんな人数何ともないっすよ」
「早く行ってあげてください」
俺はいい仲間を持ったようだ。皆に礼を言って、奥に急いだ。
扉の前にいる護衛の男たちを殴り倒し、少しだけ扉を開けて中を見た。
……いた!ヴィヴィとロドリーの話し声が聞こえてくる。
「君が頼れるのはもう私だけだよ。今日から私のことを旦那様と呼びなさい」
「嫌です。私の旦那様は生涯ランドルフ様ただ一人です!」
「なんだと……?あの忌まわしい男の名前は二度と呼ぶな!!どうやら君が従順になるように躾をし直す必要がありそうだな。安心しなさい、可愛い顔は傷付けない。愛する旦那様に反抗するのは悪いことだと痛みで覚えろ!」
ロドリーが思い切り手をあげたのを見て、俺は扉を開けて中に入った。
ふざけるな!俺の大事な彼女を殴ろうとするなんて、許せるはずがない。
「ランディ様……助けて!」
彼女のその悲鳴を聞き、俺はロドリーの腕を捻り上げた。よかった、間に合った。俺の大事なヴィヴィを誘拐した挙句に、殴ろうなど……死に値する。
「その汚い手を離せ」
怒りからさらに力を入れたので、腕はギリギリと嫌な音を立てている。
ヴィヴィはホッとしたのか、力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。もう大丈夫だから安心してくれ、と心の中で呟いた。
「ぐわぁっ……ゔゔっ……」
ロドリーの悲鳴が聞こえてくるが、知ったことではない。
「俺の妻を誘拐するなんて、許せるわけがない」
俺は恐ろしく鋭い瞳でやつを睨みつけ、ボキッと骨を折った。
「ぐっ……ああっ……!お、おい!護衛は何をしているっ!?早く私を助けろ!!」
「護衛って、もしかして弱いこいつらのことですかねえ?」
クロード達はあっという間に、外にいた奴等を倒したらしい。さすがだな。
ロドリーはなんだかんだと言い訳していたが、俺はこの男の話なんて聞くつもりはない。もともと素行のよくない男だ。調べあげれば全てわかること……きっと叩けば埃だらけだ。ロドリーを捕まえて、地下牢に入れるように指示をした。
後で俺が自ら『死んだほうがまし』だと思うほどの苦痛を与えてやろう。しかし、今は彼女が優先だ。
座り込んでしまったヴィヴィと同じ目線になるために、しゃがんで彼女に話しかけた。
「旦那様……!旦那様っ……!」
彼女は俺の胸に抱きついて泣きじゃくっていた。優しく背に手を回して抱きしめる。誘拐されて、どんなに怖かっただろうか。可哀想に。
「大丈夫。もう大丈夫だ。怖かったな」
「怖かったです!助けに……来てくださって……ううっ……ありがとうございました」
「当たり前だろ?ヴィヴィは俺の大事な妻なんだから」
彼女にやっと「大事だ」と伝えることができた。
「ごめんなさい……ごめ……んなさ……」
「いい。とりあえずヴィヴィが無事で良かった」
彼女が無事なら他のことなどどうでもいい。ヴィヴィが俺の腕の中にいてくれるだけで幸せだった。
もう絶対に……絶対に二度と離さない。俺はそう心に誓った。
………………………………………………………………
ヴィヴィアンヌの家出&誘拐事件の裏側でした。
みんな必死に探していました。
ランドルフは見つけるまで、生きた心地がしなかったことでしょう→ここから本編十四話に続きます。
明日はヴィヴィアンヌ視点の番外編を投稿します。
ラブラブ期の二人です。
よろしければお読みください。
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