【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹

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番外編

消えた妻①【ランドルフ視点】

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こちらは番外編です。
本編十二話付近のランドルフ視点の話になっています。

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「おいおい、何だその顔は?酷い面だな」

 クロードが俺の執務室に入ってくるなり、すぐに眉を顰めてそんなことを言った。自分でも酷い顔だと自覚はある。

 ――完全にヴィヴィに嫌われた。

 グレゴリーに告白されているのを見て……つまらぬやきもちを焼いた。そして、その衝動のまま無理矢理口付けて彼女をきつく詰ったのだ。

 結婚前にヴィヴィの情報は全て集めた。素行調査と言い訳をしたが、本当は可愛い彼女のことを一つでも多く知りたかっただけだ。

 その中にあの男……グレゴリーの名前はあった。学生時代の二人はとても仲が良く、付き合っているのでは?と周囲から噂されていた。しかしそのまま進展せず、友達のまま終わったようだと。

 ――終わってくれていて良かった。

 男が想いを告げる勇気がなかったのだろう。自分だって人のことは言えないが……あいつは最大のチャンスを逃している。

 きっとお互いの初恋なのだろう。俺はだいぶ年上なのだから『二人でゆっくり昔話をしてくるといい。だけど、君の夫は俺だと忘れないように』なんて、釘を刺しつつも余裕たっぷりに対応すべきだったのだ。

 だけど、俺はヴィヴィのことになったら余裕なんて全くない。あいつが彼女を奪ったらどうしようと怖くなったのだ……それでこの有様。

『旦那様なんて大っ嫌い』

 その言葉がずっと頭をぐるぐると繰り返して、昨日は一睡もできなかった。今までに彼女から好きだと言われたことはあった。それは愛してるという意味ではなく、慕っているという意味なのだろうと理解していた。

 それでもやっぱり『好き』は嬉しかった。そして逆に『嫌い』……いや『大っ嫌い』は与えるダメージが大きかった。

「あ、ヴィヴィアンヌちゃんと喧嘩したんだろ?舞踏会で早く帰ってたもんな。俺も話したかったのに」

 こいつのこういう時の勘はものすごく当たるから、腹が立つ。しかしこのもやもやした気持ちを誰かに吐き出したかった。

「……彼女が口説かれてた」

 するとクロードは「ひゅう!」と口笛を吹いて、ニッと笑った。

「ヴィヴィアンヌちゃんやるねぇ!お前に喧嘩売る命知らずは、どこのどいつだよ」

「クレール伯爵家の次男……グレゴリーだ。お前知ってるか?」

 クロードは顎に手を当てて、ふむふむと頷いた。どうやらどんな男か知っているようだ。

「いい男じゃねぇか。あいつ外交官に望まれるくらい優秀だろ?顔も今流行りの優男だし」

 ……だから嫌なんだろ。どうでもいい、魅力のない男なら放置しておいてもいい。そんな男に彼女が靡くはずないのだから。でもはだめだ。

 俺がムッとしているとクロードはニヤニヤ笑い、俺の肩に手を回した。

「お前は彼女のなんだろ?じゃあいいじゃねぇか!グレゴリーはこれから出世するぞ。あいつは若いし、ヴィヴィアンヌちゃんにはお似合いだ。祝福してやれよ」

 そう言われてグッと唇を噛み締めた。

「……だめだ。あいつは次男だ。爵位を継げない」

「なくてもいいだろ。食える金が稼げりゃ」

「もちろんそうだ。でも彼女の旦那になるなら、生家も支えられる権力と財力がないとだめだ。それに何かあった時に、あの細腕じゃ守れないからだめだ。彼女の相手として相応しくない」

 色々と言い訳をして、グレゴリーを必死に否定する自分が格好悪いことはわかっている。

「見た目はそこそこでも、彼女だけを愛して浮気などしない男がいい。真面目で誠実、それでいて強く逞しくて金持ちで高位貴族で…………若い男」

「そんな男いるかっ!!何だお前は。一人娘を持った父親みたいな条件を言いやがって。結局お前がなんだかんだ理由つけて、彼女を傍に置きたいだけだろ!」

 その通りだ。俺は彼女に相応しい該当者がいないから、仕方なく手放せないのだと理由をつけたいだけだ。

「いや、いるな。以外はお前は条件を満たしているじゃねぇか」

 くっくっく、と笑って俺の肩をバシバシ叩いた。悪かったな……若くなくて。お前も同じ歳だけどな!

「若いとも言えないが、別にオヤジって歳でもねぇし気にすることないだろ。男の魅力は三十からってな!」

「……ヴィヴィから見たら俺はオヤジだろ」

「まぁな、ピッチピチの十八歳だもんな」

「その言い方がオヤジ臭い」

 クロードは「何だと!?」と怒り出して、結局は二人でしょうもない言い合いをギャーギャー繰り返すことになった。

 こいつとは昔からずっとこんな感じだが、お陰で少しスッキリした。

 やっぱり俺はヴィヴィがどうしようもなく好きで、諦められそうにない。今夜帰ったら、昨夜の醜い嫉妬を詫びて彼女の誤解を解いて……正直に気持ちを全て伝えよう。

『君だけを愛してる』

 そう伝えたら、どんな顔をするだろうか。戸惑うだろうか?嬉しそうに頬を染めてくれたら嬉しいけれど。

 俺は君がいれば何もいらないから、グレゴリーではなく自分を選んで欲しいと。そんなことを考えていると、外から大きな声が聞こえてきた。

「旦那様っ!!失礼ですが、入らせていただきます」

 珍しく慌てた様子で、ノックもそこそこに騎士団の執務室に入ってきたテッドを見て俺は驚いていた。冷静沈着なこの男がこれだけ慌てているのだ。何か良くないことがあったに違いない。

 執務室に一緒にいたクロードも何事かと眉を顰めている。

「どうした?」

「申し訳ありません。奥様の姿が見当たりません。ミアが三十分前には返事があったと申しておりましたが、返事がなく心配になって……マスターキーで部屋を開けたところ扉の前には沢山の椅子や机が積み上げられていました」

「なんだと!?」

「隣の寝室から内ドアを開けたら、すでに奥様はいらっしゃらなかったのです。私はとりあえず旦那様にご報告を、とすぐにここに来ました!他の皆は手分けして外を探しています」

「彼女はどうやって外に出たんだ?」

「……わかりません。一階には我々使用人がたくさんいたのに、誰も見かけていないのです」

 俺はそれを聞いて青ざめた。ヴィヴィアンヌがいなくなっただと!?十中八九、昨日のことが原因だろう。

 どうして無理矢理でも昨夜彼女と話さなかったのかと、後悔ばかりが襲ってきた。


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