【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹

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番外編

あの日の飲み会①【ランドルフ視点】

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こちらは番外編です。
本編五話付近のランドルフ視点の話になっています。

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「大変な任務ご苦労。皆よく頑張ってくれた。今夜は沢山飲んでくれ。乾杯!」

 うぉー!という叫び声と共にグビグビと酒を飲んでいるのは、騎士団の俺の部下達だ。

「くーっ!美味いっ!働いた後の酒は最高だな」
「このために頑張ってるようなものだからな」
「違いねぇ!!」

 皆のケラケラと楽しそうな声が聞こえるのを横目で見ながら、俺も冷たい酒を一気に流し込んだ。

 今回は大きな討伐で、魔物達の量も多くかなり強かった。数名の怪我人はいたものの軽症で、誰も死ぬことなく無事に任務を終えた。こんな時は、労いも込めて派手に飲み会をすることに決めている。

 騎士団は血気盛んな若い隊員達が多く、酒と美味い食事……そして女が好きだからだ。それがあると今後のモチベーションに繋がるのを知っている。なぜなら俺も十年前はそうだった。

「まあ、皆さまとてもご機嫌ね」

 うふふ、と妖艶に笑いながら俺の酒を作っているのは騎士団馴染みの店のママだ。美しい彼女はその美貌と知力で、この店を繁盛させていた。ここで働く女性達も皆教養があり、口も固いので贔屓にしている。それにここは美人が多いと若い隊員達が熱をあげているのだ。

 まあ……こいつらは、賢く美しい夜の蝶達の常連客を繋ぎ止めるための手練手管に見事に引っかかっているに違いない。向こうのほうが何枚も上手なのだから。

 しかし、若いうちはそれも経験。若い隊員達の恋愛に口を出す程野暮じゃない。

 本当に好きな女ができたら、それは仮初の恋だったのだとわかる。俺もヴィヴィアンヌに出逢って初めてそれがわかった。

「どうぞ。ランドルフ団長が久しぶりに来てくださって嬉しいわ。もう飽きられちゃったのかと思って、心配だったのよ」

 ママがそんな意味深なことを言いながら、酒を差し出してくれる。俺は誓って彼女とそういう関係ではない。

「ああ、俺は結婚したからな。今回は大きな討伐があったから特別な祝いだ」

 受け取った酒はとても美味くて、その完璧な作り方にプロだなと感心した。

「聞きましたわ。とっても可愛らしい奥様なんですって?おめでとうございます」

「ああ」

 どこで聞いたのかヴィヴィアンヌのことを知っているらしい。俺はあまり彼女の話は外でしたくない。大事な宝物だから。

「今まで誤解していましたわ。あなた様がそういうタイプをお好みなんて。私もまだまだ未熟ですわね」

「……ただの政略結婚だ」

 うふふ、と笑いながらするりと太腿を撫でられる。俺は無表情のまま、失礼にならない程度に距離を取った。

「あら、相変わらずつれないのねぇ」

 長いまつ毛をパタパタと瞬かせて、わざと寂しげに上目遣いで見つめられる。そんな目で見つめられてもどうしようもない。

 俺が触れたいのはヴィヴィアンヌだけで、俺に触れていいのもヴィヴィアンヌだけなのだから。

「ランドルフーっ!なんだよ、新婚早々浮気か?奥さんに言いつけるぞ」

 クロードがゲラゲラ笑いながら俺の肩をバシバシと叩いた。絡みは鬱陶しいが、おそらくこいつは俺が嫌がっているのを察して来てくれたのだろう。

「ママ、こんな堅物面白くないよ?俺にしとかない?」

「ご冗談を。クロード様は奥様一筋のことよく知っていますからね。うちの子達が何人あなたに懸想して振られたか。思わせぶりはやめてくださいませ」

「モテる男は罪だな。悪いな、ランドルフ……俺ばっかりモテて。まあ、俺と飲もうぜ」

 俺の酒のグラスをカチンと合わせ、グビグビと酒を煽っている。こいつが来てくれて助かった。

 好きでもない女を相手にする意味がない。ああ、早く帰りたいな。帰って彼女の顔を見たい。

「団長、飲んでますかぁ!楽しいですね」
「あんな化け物みたいな魔物倒しちゃうの格好いいです!憧れます!!」
「飲み比べしましょうよー!」

 若者達は大いに盛り上がり、ベロベロになりながらも楽しんでいる。俺は適当に付き合いながら、これに付き合ったら夜通しコースだなとげんなりした。

「俺はそろそろ帰るから若い奴等で楽しめ。金は俺にツケるから好きなだけ飲んでいい。ただし店に迷惑だけはかけるなよ!」

 釘を刺してから、ママに「すまないが頼む」と伝えた。

「ええ。今度はお一人でいらして?」

 耳元で色っぽく囁かれたが、俺は曖昧に微笑んで「……じゃあな」と店を去った。あからさまに拒否すると彼女のプライドを傷付けるだろうし、行くつもりがないのに行くなどと嘘は言えないからだ。

 まだヴィヴィアンヌは起きてくれているだろうか?口では寝ていていいと言いながら、少しでも話せたらいいなと期待してしまう。彼女が出迎えてくれるだけで、心が温かくなり……仕事の疲れが取れるのだから。

「なんだよ?ニヤニヤして気持ち悪いな」

「クロード……お前も帰るのか?」

「ああ、帰るぞ。お前と一緒にな!!」

 ――は?一緒に帰るとはどういうことだ?

「シュゼットが、お前の結婚相手について知りたいから家に連れて来いって!二次会は俺の家だ」

「行かないぞ。俺は帰る」

 クロードとシュゼットの三人で飲むなど冗談じゃない。そんなことをしたら、絶対にヴィヴィアンヌが寝てしまうではないか!

「いーから、いーから。行くぞ!さっき助けてやっただろ?行かないなら奥さんに『セクシーなママとイチャイチャしてたよ』ってばらすからな」

「馬鹿言うな。イチャイチャなんてしていない」

「じゃあ口説かれてたって話そう」

 ああ、もう面倒くさい!こいつの怖いところは、本当に話しかねないことだ。ヴィヴィアンヌにいらぬ誤解をされたくない。

「こんな夜に行けば子ども達が起きるぞ」

「大丈夫。もうぐっすり眠ってる時間だよ。俺の子は一度寝たら絶対に起きない」

「……わかった。少しだけだからな」

「素直でよろしい!」

 そんなこんなで無理矢理クロードの家に連れて行かれた。クロードは二十歳の時に結婚しているので、彼の妻のシュゼットとの付き合いも十年だ。彼女は二つ下だが、出会った頃から大人びていて自分の意思をはっきり言う女性だった。見た目も中身もとびきり良い女だと思う。全く俺の好みではないが。

 こんなことを言えば『私もあんたなんかこれっぽっちも好みじゃないわよ!』と怒られるに決まっているので、口には出さない。しかし、お互い同じ気持ちだというわけだ。

 そうだ……十年前に出会った時は、今のヴィヴィアンヌと同じ歳だったはず。同じ女性でこうも違うのかと不思議に思う。

 ヴィヴィアンヌは可愛い。うん……とりあえず可愛い。ぴょこぴょこと動いているだけで、抱き締めたくなる。そんなことできないけれど。そして、可愛いだけじゃなくて、明るくしっかりしているところや前向きで頑張り屋なところも好きだ。

 大人しい子なのかと思っていたので、意外だったがそこも堪らなく心をくすぐられる。

 いやいや、何を言ってるんだ。俺はあの子を手放すと決めているだろう!?良い子だから俺に懐いてくれてはいるが、男として好きな訳じゃないのだから。

 クロードはシュゼットと初めて話した瞬間に、その芯の強さに惚れ『好きだ好きだ!愛してる!!』と毎日彼女の元へ押しかけすぐさま結婚した。

 若い頃から色んな御令嬢やお店の女性達からモテて、遊びまくっていた男がシュゼットに恋をして一切女遊びをやめた。未だに天性の軽さは残っているが、浮気をする気配すらない。

 騎士ともあろう者がよくもまあ女にそんな恥ずかしい台詞を言えるものだと、内心呆れていたが心の底から愛する人を見つけたクロードが羨ましくもあった。

 ――俺には一生見つからないと思ってたから。

 正直今までは女と会うより剣の訓練をして腕を磨くほうが楽しかったし、仕事はやり甲斐があった。そしていつの間にか最年少で騎士団長に任命されるくらい、強くなっていた。

 騎士はいつ命を落とすかわからない。だからこそ後継を早く作れと父上が煩かったのだが、好きじゃない女と結婚などあり得ない。そんなの妻も子どもも可哀想だ。

 そう思っていたのにまさかの結婚。しかも……俺はヴィヴィアンヌに一目惚れだった。顔合わせで彼女を見た瞬間に衝撃が走った。

 ――なんて可愛いんだ。

 ぱっちりとした大きなピンクの瞳に、長い睫毛。色白の顔に血色の良い小さな唇。カールがかった柔らかそうなブロンドの髪に少し高めの声。全てが完璧だった。

 ニヤつきそうな顔を見られたくなくって、必死に険しい顔を作った。ずっと隠していたが、可愛いタイプが好きだったので好みのドストライクだった。

 まさか自分に好きな女性ができるとは思わなかった。ヴィヴィアンヌに出逢うまでは。

 しかも彼女は中身も可愛らしかった。感情豊かで、泣いたり笑ったり怒ったりしている。旦那様!と嬉しそうにパタパタと走って迎えに来てくれる姿は堪らない。

 それに大変な女主人としての仕事も努力して、頑張ってくれている。使用人達ともよく連携を取り、気遣い……家の雰囲気は彼女のおかげでとても明るくなった。

 顔が好みなのに性格までいいなんて……俺はどんどん好きになってしまっていた。



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