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本編
25 大事な存在
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四十歳を過ぎても、いまだにこの国一強いランディ様は騎士団長を続けている。そろそろ下に役目を譲って君とゆっくりしたいなんて言っているが、周囲がそんなことを許すはずもない。ぶちぶち文句を言っている彼を慰めるのも……もう日常だ。
「お昼に差し入れ持っていきますから。頑張って来てくださいませ」
「お父様、行ってらっしゃい」
私と三人の愛する子ども達に見送られながら、彼は仕事へ向かう。
「行ってくる」
彼は子ども達の頭を一人ずつ撫で、私にキスをして微笑んで出て行った。
そして約束通り私はシェフと一緒に彼と騎士団の皆さんのためにせっせと差し入れを作った。それをミアと共に抱えて訓練場に向かった。
騎士達の気合の入った声が聞こえ、剣のぶつかる激しい音がしている。ランディ様の声も聞こえるので、若い隊員達を指導しているようだ。
「ヴィヴィアンヌちゃん、もしかして差し入れ?ありがとう。今日も可愛いね!シュゼットが会いたがってたよ」
フレンドリーなクロード様は、何年経ってもこの調子だ。私はすっかり彼の奥様のシュゼット様とも仲良くなっていた。
彼女をランディ様の浮気相手と誤解した日のことは懐かしい思い出だ。それを彼女に伝えた時は、盛大に笑われ『私がなんでこんなぶっきらぼう大男を好きにならなきゃいけないのよ!』と怒られた。いや、その大男のことを好きな女が私なんですけれども。
そんなこんなで、彼女は全くランディ様のことを男性として好きではないことがわかったのだった。
「今度お茶しに行かせていただきますね」
「うん、待ってるね」
クロード様が私の頭を撫でようとした時に、グイッと間にランディ様が入ってきた。
「触るな!」
「こっちは相変わらず……心が狭いねぇ」
呆れたようにため息をついたクロード様は「また後で」と手をひらひらと振って去って行った。こんな彼だが、私は知っている。クロード様のこの態度は社交辞令で実はシュゼット様しか好きではないのだ。
「ランディ様、私に気付いていらしたんですね」
「当たり前だ。何処にいてもヴィヴィのことはすぐわかる」
彼の大きな手で頬をするりと撫でられて、甘く囁かれた。私は頬が染まってしまう。
ランディ様は私と想いが通じ合ってからというもの、外でもあからさまに『好き』を全面的に出すようになった。小さくて可愛いものが好き……というのを隠していた彼が私を溺愛している姿は一時期社交界を騒がせた。
しかし彼は気にする素振りもなく、何を言われても私を甘々デロッデロに愛して周りに見せつけた。
『ランディ様……あの、みんな驚いていますのでもう少し外では控えてください』
『嫌だ。もう俺は素直に生きると決めたんだ』
そう言って微笑み……今に至る。十年経った今では驚く人は誰もいない。騎士団長は愛妻家だと周囲に認めさせてしまったのだ。
「ランドルフ団長、ヴィヴィアンヌ様お久しぶりです」
その声に振り向くと、そこには騎士団の制服を着た一人の体格のいい若者が立っていた。
「あれ、覚えてません?俺の初恋はヴィヴィアンヌ様なんですけどね」
ニカッと笑った顔はあどけなく……彼が誰だかすぐに思い出した。こんなに大きくなったの!?
「まさかボブなの!?」
「ボブかっ!?」
私とランディ様はほぼ同時に驚きの声をあげた。
「思い出してもらえて良かったです!孤児院では世話になりました。やっと一人前になって騎士団に入れました」
ペコリと頭を下げて、ハハッと笑った。彼はここに来るまでどれだけの努力をしたのだろうか。
騎士団に入るのはとても大変だ。ここでは強さがものを言う。平民でも力が強ければ入れるが……入団試験はかなり厳しいのだ。
「ボブ、凄いわ!」
すっかり私より背が高くなった彼の手を取り、そのままぶんぶんと振って喜びを表現した。するとボブは照れたように頬を染めた。
「……ありがとうございます。支援して俺にまともな教育受けさせてくれた、お二人のおかげです」
「そんなことないわ。全部あなたの頑張りよ」
ニコニコと笑い合っている私達の後ろに、無言のままランディ様がやって来て私の手を彼から離させた。
「ボブよく来たな。優秀な部下が増えて嬉しいよ。俺が直々に指導してやろう」
口角だけ上げて微笑む彼の顔を見て、ボブ以外の皆さんが震え上がった。
「団長、怖っ!」
「怒鳴ってる時より笑ってる時の方が恐ろしい」
「おい、新人。死にたくなかったら、とりあえず謝れ」
必死にボブに小声で話している。まあ、全部聞こえているけれど。
「ヴィヴィアンヌ様、二番目の夫のポジションまだ空いてますか?」
ボブは悪戯っぽくそう聞いた。私がポカンとしていると、ランディ様がギロリと睨んだ。
「ヴィヴィの夫は俺しかいない。一生空くこともない。諦めろ」
そう言い切った彼を見て私の頬は真っ赤に染まった。
「はは……!十年経っても変わらないですね。さすがに冗談っすよ。俺、エミリーと婚約してるんで」
エミリーは、孤児院で騎士とお姫様の絵本が大好きだった子だ。
「団長のように、自分だけの大事な女ちゃんと見つかりました!」
ニカッと笑う彼はとても爽やかで、幸せそうだった。
「……なら、好きな女を守れるようにもっともっと強くなれ。ちゃんと鍛えてやる」
ポンポンとボブの頭を撫でて、笑う彼はすっかり上司の顔だった。
孤児院の支援は今も続けている。ベルナール家の領地では犯罪は減り、子どもの識字率は格段に上がった。ボブを見ていると……あの時自分がしたことは無駄じゃなかったんだなと思うことができる。
「ヴィヴィ、やはり君は最高の女だ。見た目も中身も全部俺の好みだ」
ランディ様にちゅっとキスをされ、肩を抱き寄せられた。こんなみんながいる場で……恥ずかしい。気を遣った騎士団の皆さんは『見ていない』風を装ってくれている。
ランディ様が私を『好みじゃない』と嘘をついたのは今は遠い昔の話。最初は私は資金援助目的、彼は好みの伴侶を欲しいというだけの結婚だった。
年齢も身長も身分も貧富の差も何もかもが違う二人。だけど今はお互いしか考えられない程大好きで大事な存在だ。
「ランディ様の見た目も中身も全部私の好みですわ」
私も負けじと彼を見上げて、ニッコリと微笑んだ。
「……そんな可愛い顔でそんな嬉しいことを言われたら、俺は仕事どころじゃなくなるんだが」
彼は頬を染め、私を熱っぽい瞳でじっと見つめた。
「……今すぐデートにしよう。クロード、あとは任せた。今週休みがなかったから、俺は今から半休だ。ボブ、指導はまた今度な」
「ええっ!?ちょ……ランディ様っ!?冗談ですよね。そんな我儘いけません」
私をふわりと抱き上げて、彼は色っぽくニヤリと笑った。
「冗談なものか。今週は働きすぎている。家に帰るまでは俺は父親ではなく、君を愛するただの男に戻る」
「確かに今週のお前は働きすぎだな。今日訓練以外何もねぇしこっちは任せろ。いってらっしゃーい」
クロード様がケラケラと笑いながら、ひらひらと手を振っている。
本当にそのまま連れ出されて、彼に溢れんばかりの愛を受けることになった。その時の私も……彼を愛するただの女に戻っていたと思う。
「愛してる」
彼の言葉を聞きながら、こんなに素敵な結婚ができた奇跡を改めて幸せだと思った。
愛する騎士団長の旦那様は、どうやら小さくて年下な私がお好みなようです。
END
…………………………………………………………
本編はこれで最終回です。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回から数話、番外編の投稿をします。
ランドルフ視点もあるので、よろしければそちらもご覧ください。
「お昼に差し入れ持っていきますから。頑張って来てくださいませ」
「お父様、行ってらっしゃい」
私と三人の愛する子ども達に見送られながら、彼は仕事へ向かう。
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彼は子ども達の頭を一人ずつ撫で、私にキスをして微笑んで出て行った。
そして約束通り私はシェフと一緒に彼と騎士団の皆さんのためにせっせと差し入れを作った。それをミアと共に抱えて訓練場に向かった。
騎士達の気合の入った声が聞こえ、剣のぶつかる激しい音がしている。ランディ様の声も聞こえるので、若い隊員達を指導しているようだ。
「ヴィヴィアンヌちゃん、もしかして差し入れ?ありがとう。今日も可愛いね!シュゼットが会いたがってたよ」
フレンドリーなクロード様は、何年経ってもこの調子だ。私はすっかり彼の奥様のシュゼット様とも仲良くなっていた。
彼女をランディ様の浮気相手と誤解した日のことは懐かしい思い出だ。それを彼女に伝えた時は、盛大に笑われ『私がなんでこんなぶっきらぼう大男を好きにならなきゃいけないのよ!』と怒られた。いや、その大男のことを好きな女が私なんですけれども。
そんなこんなで、彼女は全くランディ様のことを男性として好きではないことがわかったのだった。
「今度お茶しに行かせていただきますね」
「うん、待ってるね」
クロード様が私の頭を撫でようとした時に、グイッと間にランディ様が入ってきた。
「触るな!」
「こっちは相変わらず……心が狭いねぇ」
呆れたようにため息をついたクロード様は「また後で」と手をひらひらと振って去って行った。こんな彼だが、私は知っている。クロード様のこの態度は社交辞令で実はシュゼット様しか好きではないのだ。
「ランディ様、私に気付いていらしたんですね」
「当たり前だ。何処にいてもヴィヴィのことはすぐわかる」
彼の大きな手で頬をするりと撫でられて、甘く囁かれた。私は頬が染まってしまう。
ランディ様は私と想いが通じ合ってからというもの、外でもあからさまに『好き』を全面的に出すようになった。小さくて可愛いものが好き……というのを隠していた彼が私を溺愛している姿は一時期社交界を騒がせた。
しかし彼は気にする素振りもなく、何を言われても私を甘々デロッデロに愛して周りに見せつけた。
『ランディ様……あの、みんな驚いていますのでもう少し外では控えてください』
『嫌だ。もう俺は素直に生きると決めたんだ』
そう言って微笑み……今に至る。十年経った今では驚く人は誰もいない。騎士団長は愛妻家だと周囲に認めさせてしまったのだ。
「ランドルフ団長、ヴィヴィアンヌ様お久しぶりです」
その声に振り向くと、そこには騎士団の制服を着た一人の体格のいい若者が立っていた。
「あれ、覚えてません?俺の初恋はヴィヴィアンヌ様なんですけどね」
ニカッと笑った顔はあどけなく……彼が誰だかすぐに思い出した。こんなに大きくなったの!?
「まさかボブなの!?」
「ボブかっ!?」
私とランディ様はほぼ同時に驚きの声をあげた。
「思い出してもらえて良かったです!孤児院では世話になりました。やっと一人前になって騎士団に入れました」
ペコリと頭を下げて、ハハッと笑った。彼はここに来るまでどれだけの努力をしたのだろうか。
騎士団に入るのはとても大変だ。ここでは強さがものを言う。平民でも力が強ければ入れるが……入団試験はかなり厳しいのだ。
「ボブ、凄いわ!」
すっかり私より背が高くなった彼の手を取り、そのままぶんぶんと振って喜びを表現した。するとボブは照れたように頬を染めた。
「……ありがとうございます。支援して俺にまともな教育受けさせてくれた、お二人のおかげです」
「そんなことないわ。全部あなたの頑張りよ」
ニコニコと笑い合っている私達の後ろに、無言のままランディ様がやって来て私の手を彼から離させた。
「ボブよく来たな。優秀な部下が増えて嬉しいよ。俺が直々に指導してやろう」
口角だけ上げて微笑む彼の顔を見て、ボブ以外の皆さんが震え上がった。
「団長、怖っ!」
「怒鳴ってる時より笑ってる時の方が恐ろしい」
「おい、新人。死にたくなかったら、とりあえず謝れ」
必死にボブに小声で話している。まあ、全部聞こえているけれど。
「ヴィヴィアンヌ様、二番目の夫のポジションまだ空いてますか?」
ボブは悪戯っぽくそう聞いた。私がポカンとしていると、ランディ様がギロリと睨んだ。
「ヴィヴィの夫は俺しかいない。一生空くこともない。諦めろ」
そう言い切った彼を見て私の頬は真っ赤に染まった。
「はは……!十年経っても変わらないですね。さすがに冗談っすよ。俺、エミリーと婚約してるんで」
エミリーは、孤児院で騎士とお姫様の絵本が大好きだった子だ。
「団長のように、自分だけの大事な女ちゃんと見つかりました!」
ニカッと笑う彼はとても爽やかで、幸せそうだった。
「……なら、好きな女を守れるようにもっともっと強くなれ。ちゃんと鍛えてやる」
ポンポンとボブの頭を撫でて、笑う彼はすっかり上司の顔だった。
孤児院の支援は今も続けている。ベルナール家の領地では犯罪は減り、子どもの識字率は格段に上がった。ボブを見ていると……あの時自分がしたことは無駄じゃなかったんだなと思うことができる。
「ヴィヴィ、やはり君は最高の女だ。見た目も中身も全部俺の好みだ」
ランディ様にちゅっとキスをされ、肩を抱き寄せられた。こんなみんながいる場で……恥ずかしい。気を遣った騎士団の皆さんは『見ていない』風を装ってくれている。
ランディ様が私を『好みじゃない』と嘘をついたのは今は遠い昔の話。最初は私は資金援助目的、彼は好みの伴侶を欲しいというだけの結婚だった。
年齢も身長も身分も貧富の差も何もかもが違う二人。だけど今はお互いしか考えられない程大好きで大事な存在だ。
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「ええっ!?ちょ……ランディ様っ!?冗談ですよね。そんな我儘いけません」
私をふわりと抱き上げて、彼は色っぽくニヤリと笑った。
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クロード様がケラケラと笑いながら、ひらひらと手を振っている。
本当にそのまま連れ出されて、彼に溢れんばかりの愛を受けることになった。その時の私も……彼を愛するただの女に戻っていたと思う。
「愛してる」
彼の言葉を聞きながら、こんなに素敵な結婚ができた奇跡を改めて幸せだと思った。
愛する騎士団長の旦那様は、どうやら小さくて年下な私がお好みなようです。
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