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本編
19 欲しいもの
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孤児院から帰ってディナーを食べ、今夜も寝室で一緒に話しながら寝る準備をしていく。ああ、今日は本当に丸一日ランディ様と一緒だわ。彼はいつも仕事が忙しいから、こんな機会はなかなかない。
「ふふ、そーいえばランディ様ったら、ボブにまでやきもちを焼くから驚きましたわ」
私はあの時のランディ様を思い出して、揶揄うようにそう言った。
「……当たり前だろ。ボブは男だ。ちゃんと伝えとかねばいけないだろう」
「男って!まだ六歳ですよ」
私がケラケラと笑いながらそう言うと、彼はあからさまにムッと不機嫌になった。
「君は何歳だ?」
「え?十八歳です」
「俺との年の差は何歳だ?」
「えーっと……十二歳差……?あっ!もしかして そ、そういうことですか?ボブと私も同じ年の差ということでしょうか?」
成程……今は子どもでもボブが成長すればあり得なくはない、ということか。
「子どもだと思っていてもすぐ成長する。俺と君があり得たんだ。年の差は関係ないだろう」
ランディ様は私を膝の上に乗せて、後ろから抱き締めた。彼は私の頭に顔を乗せてぐりぐりと甘えている。私は大きな彼の身体にすっぽりと包み込まれてしまった。
「……あり得ませんよ」
「どうして言い切れる?」
「誰が目の前に現れても、私がランディ様しか好きにならないからです」
へへへ、と照れながらそう言うと彼は私の体を向かい合わせにくるりと変えた。至近距離で見つめ合うのは少し恥ずかしい。
「ヴィヴィ……愛してる」
「私もランディ様を愛しています」
その日も彼から沢山のキスをされ、とろんとしていると「おやすみ」と言われ……いつの間にか眠りについた。
大好きなランディ様と本当に結ばれるのはいつになるのだろうか。私ならもう覚悟はできているのに。
♢♢♢
そんなある日、ロドリー伯爵の正式な処分が決まったと社交界で噂になっていた。彼は他国から怪しげな薬を違法に仕入れて、高く売り捌いていたらしい。しかも気に入った若くて身分の低い女性達を、無理矢理金で買い取り……飽きたら売っていたという犯罪まで明るみになった。
国王陛下がそんなことをお許しになるはずもなく、ロドリー伯爵家はお取り潰しで財産も全て没収……彼は犯罪者としてこれから裁かれるらしい。
「売られた女性は全員保護できた。陛下がロドリーから没収した金を被害女性に回して、問題なく生活ができるように手を尽くしてくださったよ」
「ああ、さすが陛下です。良かったですわ。女性達は怖かったでしょうね」
それは自分だったかもしれないと思い、カタカタと体が震えだす。そのことに気が付いて、ランディ様はそっと手を握ってくれた。
「君の誘拐事件も裁きたかったが……色々考えて、事件自体を無かったことにした。本当にすまない。でもヴィヴィを守るためなんだ」
悔しそうにグッと拳に力をいれて、ランディ様は私に謝った。
「あいつは評判が悪過ぎる。君が捕まっていたと知られたら、何もなくても周囲から好奇の目で見られる……そんなことは俺が堪えられないんだ」
確かに周囲は何かあったのでは?と邪推するだろう。特に貴族同士は足の引っ張り合いのような醜さがある。弱味になるようなところを見せるわけにはいかないのだ。
「もちろん君を誘拐した実行犯達は捕まえた。ロドリーには、死んだほうがましだと思える程の苦痛を俺自ら与えたつもりだ。それでも、君や他の女性の苦しみに比べたら僅かなものだが」
死んだ方がましな苦痛……一体どんなものなのか想像するだけで恐ろしい。
「もうあいつは表舞台に出てこない。だから安心してくれ」
「はい、ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました」
「窮屈で嫌かもしれないが、これからも護衛をつけてくれ。ロドリーの件はもう大丈夫だが、心配だから。決して一人で出歩いてはいけないよ」
懇願するような彼の声に、私は「わかりました」と頷いた。いつまでも貧乏な伯爵令嬢の気持ちでいるわけにはいかない。
「あと、来週十日間ほど家を空ける。東の森で魔物が出たらしい。大規模な討伐になりそうなんだ」
「そうですか。お怪我なきよう祈っております」
ランディ様が数日お仕事で戻られないことはあっても、十日間も家を空けるのは初めてだ。不安だし寂しいけれど、お仕事だし騎士の妻なんだから気丈にしていないといけないと自分に言い聞かせた。
「……なんだ。君と離れるのが寂しいのは俺だけか」
彼は拗ねたようにそう言って、プイッとそっぽを向いてしまった。
「わ、私ももちろん寂しいですよ!でもお仕事ですし、我儘言っちゃいけないと思いまして」
「……本当か?」
「本当です!」
「……なら良かった」
嬉しそうに目を細めるランディ様がなんだか可愛い。こんな大きくて逞しいのに、そのギャップにきゅんとしてしまう。
「ヴィヴィとこんなに長い期間離れて過ごすなんて、耐えられないかもしれない。出来るだけ早く終わらせて一日でも早く帰るから」
「ふふ、お待ちしております」
「いい子で大人しくしていてくれ」
「私は大人ですから。子ども扱いしないでくださいませ」
私が怒ったふりをすると、よしよしと頭を撫でてくれた。
「むしろ大人なのに、無邪気で愛らしいから心配なんだよ。変な虫がついたら困る。俺の前だけで女でいてくれたらいい」
色っぽい顔で私を覗き込みちゅっとキスをされて、私は頬が染まる。ランディ様は気持ちが通じてからキス魔だ。どこでもキスされるので困ってしまう。
「あー……嫌だな。このまま時が止まればいいのに。討伐など行きたくない。ヴィヴィとこの家にいたい」
「ふふ、騎士団長ともあろう方が何をおっしゃっているのですか」
「ヴィヴィの方が大事だ。だがこの討伐も……君が生きている国を守るためだと思えば頑張れる」
こんな我儘を言うランディ様は珍しい。本当に遠征が嫌らしい。
「あ!そういえば……ちょうど遠征から戻られた頃がランディ様のお誕生日ですよね。盛大にお祝いしましょう」
私は元気付けようと、彼が喜ぶ明るい提案をすることにした。
「そんな時期か。自分の誕生日など今まで気にしていなかったし……また君との年齢差が開くと思うと嬉しくないな」
ランディ様は思いの外、年の差を気にしているらしく喜ばせるつもりが……むしろ頭を抱えさせてしまった。彼の次の誕生日が来れば私達の年齢差は十三歳差になるのだ。そんなこと気にしなくていいのに。
「あっ、そうだ!何か欲しいものは何かありませんか!!プレゼントしたいので」
「欲しいもの……」
彼はうーんと考え込んでしまった。よく考えたらランディ様は何でも持っている。欲しいものなんかあるのかしら?
「……ひとつだけある。どうしても欲しいものが」
「何ですか!?私が用意できるものならなんでも言ってくださいませ!!」
あるんだ!何もいらないよ、って言われるかと思ったので嬉しい。
「ヴィヴィが欲しい」
――私が欲しい……?
私が言葉の意味を理解できずにポカンと口を開けていると、ランディ様にギュッと抱きしめられた。
「ヴィヴィの全部を俺にくれないか?」
彼の手が少し震えているのがわかる。これは……つまり本当の妻にしたいってことだよね。
「……はい」
「いいのか?」
「もちろんです。私の全部をランディ様にあげますね」
「……嬉しい。そんなプレゼントがあるなら、仕事を頑張れそうだ」
ランディ様がそんなことを言うので、ついくすくすと笑ってしまった。
「ふふ、現金ですわね」
「男なんてそんなものさ。こんなに誕生日が待ち遠しいのは初めてだよ」
その日からランディ様はずっと浮かれた様子で、とてもご機嫌に過ごされていた。テッドとミアからは「旦那様の顔が緩みすぎて気持ち悪い」と気味悪がられていたが、大っぴらに理由を言うわけにはいかず私は苦笑いをしてやり過ごした。
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「君は何歳だ?」
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「えーっと……十二歳差……?あっ!もしかして そ、そういうことですか?ボブと私も同じ年の差ということでしょうか?」
成程……今は子どもでもボブが成長すればあり得なくはない、ということか。
「子どもだと思っていてもすぐ成長する。俺と君があり得たんだ。年の差は関係ないだろう」
ランディ様は私を膝の上に乗せて、後ろから抱き締めた。彼は私の頭に顔を乗せてぐりぐりと甘えている。私は大きな彼の身体にすっぽりと包み込まれてしまった。
「……あり得ませんよ」
「どうして言い切れる?」
「誰が目の前に現れても、私がランディ様しか好きにならないからです」
へへへ、と照れながらそう言うと彼は私の体を向かい合わせにくるりと変えた。至近距離で見つめ合うのは少し恥ずかしい。
「ヴィヴィ……愛してる」
「私もランディ様を愛しています」
その日も彼から沢山のキスをされ、とろんとしていると「おやすみ」と言われ……いつの間にか眠りについた。
大好きなランディ様と本当に結ばれるのはいつになるのだろうか。私ならもう覚悟はできているのに。
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そんなある日、ロドリー伯爵の正式な処分が決まったと社交界で噂になっていた。彼は他国から怪しげな薬を違法に仕入れて、高く売り捌いていたらしい。しかも気に入った若くて身分の低い女性達を、無理矢理金で買い取り……飽きたら売っていたという犯罪まで明るみになった。
国王陛下がそんなことをお許しになるはずもなく、ロドリー伯爵家はお取り潰しで財産も全て没収……彼は犯罪者としてこれから裁かれるらしい。
「売られた女性は全員保護できた。陛下がロドリーから没収した金を被害女性に回して、問題なく生活ができるように手を尽くしてくださったよ」
「ああ、さすが陛下です。良かったですわ。女性達は怖かったでしょうね」
それは自分だったかもしれないと思い、カタカタと体が震えだす。そのことに気が付いて、ランディ様はそっと手を握ってくれた。
「君の誘拐事件も裁きたかったが……色々考えて、事件自体を無かったことにした。本当にすまない。でもヴィヴィを守るためなんだ」
悔しそうにグッと拳に力をいれて、ランディ様は私に謝った。
「あいつは評判が悪過ぎる。君が捕まっていたと知られたら、何もなくても周囲から好奇の目で見られる……そんなことは俺が堪えられないんだ」
確かに周囲は何かあったのでは?と邪推するだろう。特に貴族同士は足の引っ張り合いのような醜さがある。弱味になるようなところを見せるわけにはいかないのだ。
「もちろん君を誘拐した実行犯達は捕まえた。ロドリーには、死んだほうがましだと思える程の苦痛を俺自ら与えたつもりだ。それでも、君や他の女性の苦しみに比べたら僅かなものだが」
死んだ方がましな苦痛……一体どんなものなのか想像するだけで恐ろしい。
「もうあいつは表舞台に出てこない。だから安心してくれ」
「はい、ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました」
「窮屈で嫌かもしれないが、これからも護衛をつけてくれ。ロドリーの件はもう大丈夫だが、心配だから。決して一人で出歩いてはいけないよ」
懇願するような彼の声に、私は「わかりました」と頷いた。いつまでも貧乏な伯爵令嬢の気持ちでいるわけにはいかない。
「あと、来週十日間ほど家を空ける。東の森で魔物が出たらしい。大規模な討伐になりそうなんだ」
「そうですか。お怪我なきよう祈っております」
ランディ様が数日お仕事で戻られないことはあっても、十日間も家を空けるのは初めてだ。不安だし寂しいけれど、お仕事だし騎士の妻なんだから気丈にしていないといけないと自分に言い聞かせた。
「……なんだ。君と離れるのが寂しいのは俺だけか」
彼は拗ねたようにそう言って、プイッとそっぽを向いてしまった。
「わ、私ももちろん寂しいですよ!でもお仕事ですし、我儘言っちゃいけないと思いまして」
「……本当か?」
「本当です!」
「……なら良かった」
嬉しそうに目を細めるランディ様がなんだか可愛い。こんな大きくて逞しいのに、そのギャップにきゅんとしてしまう。
「ヴィヴィとこんなに長い期間離れて過ごすなんて、耐えられないかもしれない。出来るだけ早く終わらせて一日でも早く帰るから」
「ふふ、お待ちしております」
「いい子で大人しくしていてくれ」
「私は大人ですから。子ども扱いしないでくださいませ」
私が怒ったふりをすると、よしよしと頭を撫でてくれた。
「むしろ大人なのに、無邪気で愛らしいから心配なんだよ。変な虫がついたら困る。俺の前だけで女でいてくれたらいい」
色っぽい顔で私を覗き込みちゅっとキスをされて、私は頬が染まる。ランディ様は気持ちが通じてからキス魔だ。どこでもキスされるので困ってしまう。
「あー……嫌だな。このまま時が止まればいいのに。討伐など行きたくない。ヴィヴィとこの家にいたい」
「ふふ、騎士団長ともあろう方が何をおっしゃっているのですか」
「ヴィヴィの方が大事だ。だがこの討伐も……君が生きている国を守るためだと思えば頑張れる」
こんな我儘を言うランディ様は珍しい。本当に遠征が嫌らしい。
「あ!そういえば……ちょうど遠征から戻られた頃がランディ様のお誕生日ですよね。盛大にお祝いしましょう」
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――私が欲しい……?
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「ヴィヴィの全部を俺にくれないか?」
彼の手が少し震えているのがわかる。これは……つまり本当の妻にしたいってことだよね。
「……はい」
「いいのか?」
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「……嬉しい。そんなプレゼントがあるなら、仕事を頑張れそうだ」
ランディ様がそんなことを言うので、ついくすくすと笑ってしまった。
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「男なんてそんなものさ。こんなに誕生日が待ち遠しいのは初めてだよ」
その日からランディ様はずっと浮かれた様子で、とてもご機嫌に過ごされていた。テッドとミアからは「旦那様の顔が緩みすぎて気持ち悪い」と気味悪がられていたが、大っぴらに理由を言うわけにはいかず私は苦笑いをしてやり過ごした。
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