【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹

文字の大きさ
上 下
19 / 35
本編

19 欲しいもの

しおりを挟む
 孤児院から帰ってディナーを食べ、今夜も寝室で一緒に話しながら寝る準備をしていく。ああ、今日は本当に丸一日ランディ様と一緒だわ。彼はいつも仕事が忙しいから、こんな機会はなかなかない。

「ふふ、そーいえばランディ様ったら、ボブにまでやきもちを焼くから驚きましたわ」

 私はあの時のランディ様を思い出して、揶揄うようにそう言った。

「……当たり前だろ。ボブは男だ。ちゃんと伝えとかねばいけないだろう」

「男って!まだ六歳ですよ」

 私がケラケラと笑いながらそう言うと、彼はあからさまにムッと不機嫌になった。

「君は何歳だ?」

「え?十八歳です」

「俺との年の差は何歳だ?」

「えーっと……十二歳差……?あっ!もしかして そ、そういうことですか?ボブと私も同じ年の差ということでしょうか?」

 成程……今は子どもでもボブが成長すればあり得なくはない、ということか。

「子どもだと思っていてもすぐ成長する。俺と君があり得たんだ。年の差は関係ないだろう」

 ランディ様は私を膝の上に乗せて、後ろから抱き締めた。彼は私の頭に顔を乗せてぐりぐりと甘えている。私は大きな彼の身体にすっぽりと包み込まれてしまった。

「……あり得ませんよ」

「どうして言い切れる?」

「誰が目の前に現れても、私がランディ様しか好きにならないからです」

 へへへ、と照れながらそう言うと彼は私の体を向かい合わせにくるりと変えた。至近距離で見つめ合うのは少し恥ずかしい。

「ヴィヴィ……愛してる」

「私もランディ様を愛しています」

 その日も彼から沢山のキスをされ、とろんとしていると「おやすみ」と言われ……いつの間にか眠りについた。

 大好きなランディ様と本当に結ばれるのはいつになるのだろうか。私ならもう覚悟はできているのに。


♢♢♢


 そんなある日、ロドリー伯爵の正式な処分が決まったと社交界で噂になっていた。彼は他国から怪しげな薬を違法に仕入れて、高く売り捌いていたらしい。しかも気に入った若くて身分の低い女性達を、無理矢理金で買い取り……飽きたら売っていたという犯罪まで明るみになった。

 国王陛下がそんなことをお許しになるはずもなく、ロドリー伯爵家はお取り潰しで財産も全て没収……彼は犯罪者としてこれから裁かれるらしい。

「売られた女性は全員保護できた。陛下がロドリーから没収した金を被害女性に回して、問題なく生活ができるように手を尽くしてくださったよ」

「ああ、さすが陛下です。良かったですわ。女性達は怖かったでしょうね」

 それは自分だったかもしれないと思い、カタカタと体が震えだす。そのことに気が付いて、ランディ様はそっと手を握ってくれた。

「君の誘拐事件も裁きたかったが……色々考えて、事件自体を無かったことにした。本当にすまない。でもヴィヴィを守るためなんだ」

 悔しそうにグッと拳に力をいれて、ランディ様は私に謝った。

「あいつは評判が悪過ぎる。君が捕まっていたと知られたら、何もなくても周囲から好奇の目で見られる……そんなことは俺が堪えられないんだ」

 確かに周囲はあったのでは?と邪推するだろう。特に貴族同士は足の引っ張り合いのような醜さがある。弱味になるようなところを見せるわけにはいかないのだ。

「もちろん君を誘拐した実行犯達は捕まえた。ロドリーには、だと思える程の苦痛を俺自ら与えたつもりだ。それでも、君や他の女性の苦しみに比べたら僅かなものだが」

 死んだ方がましな苦痛……一体どんなものなのか想像するだけで恐ろしい。

「もうあいつは表舞台に出てこない。だから安心してくれ」

「はい、ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました」

「窮屈で嫌かもしれないが、これからも護衛をつけてくれ。ロドリーの件はもう大丈夫だが、心配だから。決して一人で出歩いてはいけないよ」

 懇願するような彼の声に、私は「わかりました」と頷いた。いつまでも貧乏な伯爵令嬢の気持ちでいるわけにはいかない。

「あと、来週十日間ほど家を空ける。東の森で魔物が出たらしい。大規模な討伐になりそうなんだ」

「そうですか。お怪我なきよう祈っております」

 ランディ様が数日お仕事で戻られないことはあっても、十日間も家を空けるのは初めてだ。不安だし寂しいけれど、お仕事だし騎士の妻なんだから気丈にしていないといけないと自分に言い聞かせた。

「……なんだ。君と離れるのが寂しいのは俺だけか」

 彼は拗ねたようにそう言って、プイッとそっぽを向いてしまった。

「わ、私ももちろん寂しいですよ!でもお仕事ですし、我儘言っちゃいけないと思いまして」

「……本当か?」

「本当です!」

「……なら良かった」

 嬉しそうに目を細めるランディ様がなんだか可愛い。こんな大きくて逞しいのに、そのギャップにきゅんとしてしまう。

「ヴィヴィとこんなに長い期間離れて過ごすなんて、耐えられないかもしれない。出来るだけ早く終わらせて一日でも早く帰るから」

「ふふ、お待ちしております」

「いい子で大人しくしていてくれ」

「私は大人ですから。子ども扱いしないでくださいませ」

 私が怒ったふりをすると、よしよしと頭を撫でてくれた。

「むしろ大人なのに、無邪気で愛らしいから心配なんだよ。変な虫がついたら困る。俺の前だけで女でいてくれたらいい」

 色っぽい顔で私を覗き込みちゅっとキスをされて、私は頬が染まる。ランディ様は気持ちが通じてからキス魔だ。どこでもキスされるので困ってしまう。

「あー……嫌だな。このまま時が止まればいいのに。討伐など行きたくない。ヴィヴィとこの家にいたい」

「ふふ、騎士団長ともあろう方が何をおっしゃっているのですか」

「ヴィヴィの方が大事だ。だがこの討伐も……君が生きている国を守るためだと思えば頑張れる」

 こんな我儘を言うランディ様は珍しい。本当に遠征が嫌らしい。

「あ!そういえば……ちょうど遠征から戻られた頃がランディ様のお誕生日ですよね。盛大にお祝いしましょう」

 私は元気付けようと、彼が喜ぶ明るい提案をすることにした。

「そんな時期か。自分の誕生日など今まで気にしていなかったし……また君との年齢差が開くと思うと嬉しくないな」

 ランディ様は思いの外、年の差を気にしているらしく喜ばせるつもりが……むしろ頭を抱えさせてしまった。彼の次の誕生日が来れば私達の年齢差は十三歳差になるのだ。そんなこと気にしなくていいのに。

「あっ、そうだ!何か欲しいものは何かありませんか!!プレゼントしたいので」

「欲しいもの……」

 彼はうーんと考え込んでしまった。よく考えたらランディ様は何でも持っている。欲しいものなんかあるのかしら?

「……ひとつだけある。どうしても欲しいものが」

「何ですか!?私が用意できるものならなんでも言ってくださいませ!!」

 あるんだ!何もいらないよ、って言われるかと思ったので嬉しい。

「ヴィヴィが欲しい」

 ――私が欲しい……?

 私が言葉の意味を理解できずにポカンと口を開けていると、ランディ様にギュッと抱きしめられた。

「ヴィヴィの全部を俺にくれないか?」

 彼の手が少し震えているのがわかる。これは……つまり本当の妻にしたいってことだよね。

「……はい」

「いいのか?」

「もちろんです。私の全部をランディ様にあげますね」

「……嬉しい。そんなプレゼントがあるなら、仕事を頑張れそうだ」

 ランディ様がそんなことを言うので、ついくすくすと笑ってしまった。

「ふふ、現金ですわね」

「男なんてそんなものさ。こんなに誕生日が待ち遠しいのは初めてだよ」

 その日からランディ様はずっと浮かれた様子で、とてもご機嫌に過ごされていた。テッドとミアからは「旦那様の顔が緩みすぎて気持ち悪い」と気味悪がられていたが、大っぴらに理由を言うわけにはいかず私は苦笑いをしてやり過ごした。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...