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本編
7 まさかの知らせ
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私は孤児院で新しい洋服を渡して着替えさせ、前回贈った絵本をみんなに読んであげた。何人かの子ども達は練習した字を私に見せてくれた。
「まあ、すごく上手ね」
「ヴィヴィアンヌ様がくれた絵本ね、一人で読めるようになったよ」
「すごいわ。みんなにも教えてあげてね」
きっと数人が読み書きできるようになれば、孤児院内でお互い教え合うことができる。孤児院のシスターにも「奥様のおかげです」と感謝されたが「全て私の主人ランドルフからです」と伝えておいた。だって本当に全て彼が稼いだお金だから。
子ども達と沢山遊んで、少し気が晴れたので家に戻ることにした。朝は旦那様をお見送りできなかったけれど、帰りはお出迎えをしよう。
彼が別の女性を好きでも、私は旦那様が好きだし……何不自由ない生活をさせていただいている以上恩も返さねばならないだろう。
しかし、この日は旦那様が家に帰ってくることはなかった。急な魔物討伐の依頼が入り数日家を空けると、テッドに連絡があったらしい。
「旦那様は大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。旦那様はお強いですから」
そう言われたが、急に不安になってきた。だって、こんな時に限って私はお見送りをしなかったから。それにまだお守りのハンカチも渡せていない。騎士という職業はいつでも危険と隣り合わせだ。この国一強いと言われている旦那様に何かあるとは思えないが……それでも騎士の妻となる以上は突然別れの日が来ることも覚悟しないといけない。
だからこそ騎士の妻は常に気丈でいなければいけないし、毎日後悔のないように大切に暮らさねばならないと結婚前にお義母様から教えてもらっていたのに。
「……早く旦那様にお会いしたいわ」
「きっと旦那様も同じように思われています」
ミアにそう慰められながら、私は彼のいない日々を寂しく家で過ごした。
♢♢♢
そして帰って来られる予定の日。夕方には戻るという話だったのに、もうすっかり外は真っ暗になっている。
「やっぱり何かあったのかしら」
「奥様、落ち着いてください。何かあれば必ず連絡が来ますから。何の報告もないということは大丈夫という証拠です」
そうよね、女主人として気丈に振る舞わないとみんなが心配になるものね。しかしその決意が一瞬で揺らぐことが起きた。我が家に旦那様の所属する騎士団の副団長が訪ねてきたのだ。
「奥様、初めまして。俺は副団長のクロード・オリヴィエと申します。ランドルフとは若い頃からの仲なんですよ。実は討伐が終わった後ランドルフが倒れまして、今宿舎で寝かして……」
「だ、旦那様が倒れたのですか!?」
私は血の気が引いて、カタカタと身体が震え出した。
「ええ……でも……」
「命の危険は!?」
「え?いや、それはないですよ」
私が大きな声を出したことに、クロード様は驚いているようだったが今はそんなこと気にしてられない。命の危機はないと聞いてとりあえずホッとする。しかし起き上がれないなんてよっぽどよね。
「あの……ご迷惑とは思いますが、これから私を旦那様の元に連れて行ってくださいませんか!?」
「……いいですよ」
何故か彼はニッと嬉しそうに微笑み、来た馬車に先に私を乗せてくれた。クロード様のことはテッドやミアもよく知っているようだった。
「ちょっと使用人達に軽くだけ説明してきます。少しだけ待って下さいね」
彼が何か話しているのが見える。ああ……本来なら私が使用人に指示をしないといけないのに、私が動揺しているのを知ったクロード様が全てしてくださっているんだ。申し訳ないし、自分が情けない。
「よし、じゃあ行きましょうか」
「クロード様、申し訳ありません。驚いてしまって……騎士の妻としては失格ですね」
「そんなことありませんよ。旦那をこんなに心配するなんて、いい妻の証です。ランドルフは幸せ者だ」
彼はニコニコと笑い、私が気を遣わないようにいろいろ他愛のない話をしてくださったが私は正直それどころではなかった。
――旦那様、どうかご無事で。
震える手を握りしめて、神様に祈った。その様子を見たクロード様は、優しく微笑み「大丈夫だよ」と頭をポンポンと撫でて下さった。
そして、騎士の宿舎に着いた。ここには騎士達全員分の部屋があるらしい。クロード様に案内され、旦那様の部屋に着く。宿舎とは思えないほど広い部屋だ。
「あいつは団長だから、一番いい部屋なんですよ。さあ、入ろう。寝ているだろうけど」
クロード様はノックしたが、反応が無いので「入るぞ」と言って私を中に入れてくれた。
旦那様がベッドに横になっていたが、目の下にはうっすら隈ができていて顔色が悪く見える。
「旦那様っ!死んじゃ嫌です……私を置いて死なないでくださいっ……ひっく……ひっく……」
私は彼の手をギュッと握ってそう叫んだ。シーンとした部屋で私の声だけが響く。
「うっ……うっ……旦那様ぁ……」
涙が止まらなくて、ポロポロと彼の手が濡れていく。すると、ピクリと手が動いてゆっくりと彼の瞼が開いた。
「旦那様っ!?」
「……ヴィヴィアンヌ何故泣いている?泣いてる女は好きではないと言っただろ」
旦那様は私の目に溜まった涙を指で拭ってくれた。それに……私の名前を呼んでくださった。こんな状況で不謹慎だが、嬉しい。
「旦那様!生きていらしたのですね……良かったです」
私はシーツの上から彼の身体に勢いよく抱き付いた。旦那様は「うわっ」と声を出して顔が真っ赤になっていた。熱でもあるのだろうか?心配だわ。
「……生きていた?一体なんの話だ。それになぜここに来ているんだ」
旦那様がこいつ何言ってるんだ?というような表情でこちらを見てきた。
「旦那様が倒れたってお聞きして、心配でここまで来ました。お怪我されたと思っていたのですが……違うのですか?」
私は首をこてんと傾げた。すると後ろからクロード様が「くっくっく……あーっはっはっは」と大声でお腹を抱えて笑い出した。
旦那様はガバリと起き上がり鋭い目で、ギロリとクロード様を睨みつけた。
「クロード!どういうことだこれは!!」
「あははは……悪い、悪い!お前が寝てしまったから宿舎に放り込んでおくって伝えに行ったんだが、途中からヴィヴィアンヌちゃんお前が大怪我したと勘違いしちゃってさ。あまりに心配してるから、これはもうこっちに来てお前の世話をしてもらおうと思ってさ」
――え……勘違いだったの?
私は恥ずかしすぎて、顔が真っ赤に染まった。確かにクロード様は『倒れた』としか言ってなかったし『大丈夫だ』と言われていた。その意味が今ならわかる。でも……それなら寝ているだけだって教えてくださったら良かったのに。
「こいつ何か気にかかることがあったらしくてさ。毎日の討伐では大暴れして魔物倒しまくるくせに、夜全然寝てなかったらしい。そりゃぶっ倒れるわ!倒れた時、俺しか居なかったから良かったけど部下がいたらびっくりするっつーの!」
気になることって何かしら?確かに怪我はなくて良かったけど、旦那様の体調は悪いってことよね。
「可愛い奥さんにお世話してもらって、元気になりな。あ、でも宿舎でえっちなことはするなよ!」
ニヤリと笑ったクロード様に、恐ろしい顔の旦那様が凄い勢いで枕を投げつけた。クロード様は「うお、危ねぇ」と当たる前になんとかキャッチする。
「旦那様、めっ!枕は投げるものじゃありませんよ」
私はつい癖で弟のアルに言うように、旦那様を叱ってしまった。
「……」
「……」
二人の沈黙で、自分がとんでもなく失礼なことを口走ったと気がついた。
「あっ!すみません……あの……弟が幼い頃によく遊びで枕を投げていたのを怒ってて……癖で……」
言い訳をしようと思っていると、クロード様がお腹を抱えて笑いだした。
「ヴィヴィアンヌちゃん……っ!最高……くっくっく、ランドルフ怒られてやんの」
「……黙れ、出て行け」
私はあわあわと、すみませんと旦那様に謝っているとクロード様にポンポンと頭を撫でられた。すると、旦那様はギロッとクロード様を睨みつけた。
「おいおい、ちょっと触れただけで怒んなよ!ヴィヴィアンヌちゃん、ランドルフのこと頼んだね。君達の使用人にはこいつは寝ているだけって伝えてあるから心配ないよ。じゃあまた今度ゆっくり話そう」
クロード様は手をひらひらと振って、部屋から出て行った。
「まあ、すごく上手ね」
「ヴィヴィアンヌ様がくれた絵本ね、一人で読めるようになったよ」
「すごいわ。みんなにも教えてあげてね」
きっと数人が読み書きできるようになれば、孤児院内でお互い教え合うことができる。孤児院のシスターにも「奥様のおかげです」と感謝されたが「全て私の主人ランドルフからです」と伝えておいた。だって本当に全て彼が稼いだお金だから。
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彼が別の女性を好きでも、私は旦那様が好きだし……何不自由ない生活をさせていただいている以上恩も返さねばならないだろう。
しかし、この日は旦那様が家に帰ってくることはなかった。急な魔物討伐の依頼が入り数日家を空けると、テッドに連絡があったらしい。
「旦那様は大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。旦那様はお強いですから」
そう言われたが、急に不安になってきた。だって、こんな時に限って私はお見送りをしなかったから。それにまだお守りのハンカチも渡せていない。騎士という職業はいつでも危険と隣り合わせだ。この国一強いと言われている旦那様に何かあるとは思えないが……それでも騎士の妻となる以上は突然別れの日が来ることも覚悟しないといけない。
だからこそ騎士の妻は常に気丈でいなければいけないし、毎日後悔のないように大切に暮らさねばならないと結婚前にお義母様から教えてもらっていたのに。
「……早く旦那様にお会いしたいわ」
「きっと旦那様も同じように思われています」
ミアにそう慰められながら、私は彼のいない日々を寂しく家で過ごした。
♢♢♢
そして帰って来られる予定の日。夕方には戻るという話だったのに、もうすっかり外は真っ暗になっている。
「やっぱり何かあったのかしら」
「奥様、落ち着いてください。何かあれば必ず連絡が来ますから。何の報告もないということは大丈夫という証拠です」
そうよね、女主人として気丈に振る舞わないとみんなが心配になるものね。しかしその決意が一瞬で揺らぐことが起きた。我が家に旦那様の所属する騎士団の副団長が訪ねてきたのだ。
「奥様、初めまして。俺は副団長のクロード・オリヴィエと申します。ランドルフとは若い頃からの仲なんですよ。実は討伐が終わった後ランドルフが倒れまして、今宿舎で寝かして……」
「だ、旦那様が倒れたのですか!?」
私は血の気が引いて、カタカタと身体が震え出した。
「ええ……でも……」
「命の危険は!?」
「え?いや、それはないですよ」
私が大きな声を出したことに、クロード様は驚いているようだったが今はそんなこと気にしてられない。命の危機はないと聞いてとりあえずホッとする。しかし起き上がれないなんてよっぽどよね。
「あの……ご迷惑とは思いますが、これから私を旦那様の元に連れて行ってくださいませんか!?」
「……いいですよ」
何故か彼はニッと嬉しそうに微笑み、来た馬車に先に私を乗せてくれた。クロード様のことはテッドやミアもよく知っているようだった。
「ちょっと使用人達に軽くだけ説明してきます。少しだけ待って下さいね」
彼が何か話しているのが見える。ああ……本来なら私が使用人に指示をしないといけないのに、私が動揺しているのを知ったクロード様が全てしてくださっているんだ。申し訳ないし、自分が情けない。
「よし、じゃあ行きましょうか」
「クロード様、申し訳ありません。驚いてしまって……騎士の妻としては失格ですね」
「そんなことありませんよ。旦那をこんなに心配するなんて、いい妻の証です。ランドルフは幸せ者だ」
彼はニコニコと笑い、私が気を遣わないようにいろいろ他愛のない話をしてくださったが私は正直それどころではなかった。
――旦那様、どうかご無事で。
震える手を握りしめて、神様に祈った。その様子を見たクロード様は、優しく微笑み「大丈夫だよ」と頭をポンポンと撫でて下さった。
そして、騎士の宿舎に着いた。ここには騎士達全員分の部屋があるらしい。クロード様に案内され、旦那様の部屋に着く。宿舎とは思えないほど広い部屋だ。
「あいつは団長だから、一番いい部屋なんですよ。さあ、入ろう。寝ているだろうけど」
クロード様はノックしたが、反応が無いので「入るぞ」と言って私を中に入れてくれた。
旦那様がベッドに横になっていたが、目の下にはうっすら隈ができていて顔色が悪く見える。
「旦那様っ!死んじゃ嫌です……私を置いて死なないでくださいっ……ひっく……ひっく……」
私は彼の手をギュッと握ってそう叫んだ。シーンとした部屋で私の声だけが響く。
「うっ……うっ……旦那様ぁ……」
涙が止まらなくて、ポロポロと彼の手が濡れていく。すると、ピクリと手が動いてゆっくりと彼の瞼が開いた。
「旦那様っ!?」
「……ヴィヴィアンヌ何故泣いている?泣いてる女は好きではないと言っただろ」
旦那様は私の目に溜まった涙を指で拭ってくれた。それに……私の名前を呼んでくださった。こんな状況で不謹慎だが、嬉しい。
「旦那様!生きていらしたのですね……良かったです」
私はシーツの上から彼の身体に勢いよく抱き付いた。旦那様は「うわっ」と声を出して顔が真っ赤になっていた。熱でもあるのだろうか?心配だわ。
「……生きていた?一体なんの話だ。それになぜここに来ているんだ」
旦那様がこいつ何言ってるんだ?というような表情でこちらを見てきた。
「旦那様が倒れたってお聞きして、心配でここまで来ました。お怪我されたと思っていたのですが……違うのですか?」
私は首をこてんと傾げた。すると後ろからクロード様が「くっくっく……あーっはっはっは」と大声でお腹を抱えて笑い出した。
旦那様はガバリと起き上がり鋭い目で、ギロリとクロード様を睨みつけた。
「クロード!どういうことだこれは!!」
「あははは……悪い、悪い!お前が寝てしまったから宿舎に放り込んでおくって伝えに行ったんだが、途中からヴィヴィアンヌちゃんお前が大怪我したと勘違いしちゃってさ。あまりに心配してるから、これはもうこっちに来てお前の世話をしてもらおうと思ってさ」
――え……勘違いだったの?
私は恥ずかしすぎて、顔が真っ赤に染まった。確かにクロード様は『倒れた』としか言ってなかったし『大丈夫だ』と言われていた。その意味が今ならわかる。でも……それなら寝ているだけだって教えてくださったら良かったのに。
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気になることって何かしら?確かに怪我はなくて良かったけど、旦那様の体調は悪いってことよね。
「可愛い奥さんにお世話してもらって、元気になりな。あ、でも宿舎でえっちなことはするなよ!」
ニヤリと笑ったクロード様に、恐ろしい顔の旦那様が凄い勢いで枕を投げつけた。クロード様は「うお、危ねぇ」と当たる前になんとかキャッチする。
「旦那様、めっ!枕は投げるものじゃありませんよ」
私はつい癖で弟のアルに言うように、旦那様を叱ってしまった。
「……」
「……」
二人の沈黙で、自分がとんでもなく失礼なことを口走ったと気がついた。
「あっ!すみません……あの……弟が幼い頃によく遊びで枕を投げていたのを怒ってて……癖で……」
言い訳をしようと思っていると、クロード様がお腹を抱えて笑いだした。
「ヴィヴィアンヌちゃん……っ!最高……くっくっく、ランドルフ怒られてやんの」
「……黙れ、出て行け」
私はあわあわと、すみませんと旦那様に謝っているとクロード様にポンポンと頭を撫でられた。すると、旦那様はギロッとクロード様を睨みつけた。
「おいおい、ちょっと触れただけで怒んなよ!ヴィヴィアンヌちゃん、ランドルフのこと頼んだね。君達の使用人にはこいつは寝ているだけって伝えてあるから心配ないよ。じゃあまた今度ゆっくり話そう」
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