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本編
6 お金の使い道
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だいぶ酔っている旦那様のお世話をテッドに任せて、自室に戻った。キスされて抱き締められたところをミアにしっかり見られていたので「大丈夫ですか」と心配された。
「もう一度お風呂に入るわね。抱き締められてお酒と女性の香水の匂いが移ってしまったの」
「奥様……」
「いいの、子どもじゃないからわかってる。騎士達がそういう女性のいるところで飲んだり……その……それ以上のこととか……するって。旦那様は私に触れないんだから、外に別のお相手がいる方が普通だわ」
私は涙をぐっと堪えて、ミアに心配かけさせないようになるべく明るくそう言った。
「旦那様は仕事場のお付き合いでそういう場所に行かれることはあっても、浮気をする方ではありませんわ」
そうね、浮気をする人ではないかもしれない。でも浮気ではなくてそっちが本気の可能性もある。私のことはボランティアで助けたお飾りの妻なのだから。
「そうね。それにしても、旦那様ったらあんなに飲んで困ったものだわ。しっかり面倒みてさしあげてね。私は……一人でお風呂に入れるから大丈夫よ。ミアは下がって」
「奥様……」
ミアがとても心配しているのがわかるが、私はこれ以上彼女といては取り繕うことができなくなる。
「……一人になりたいの。お願い」
「ゆっくりおやすみなさいませ」
ミアは私の気持ちを優先して、部屋から下がってくれた。その瞬間にポロリと涙が溢れる。
「私、旦那様のこと好きなんだな」
改めて自覚してしまった。報われない片想いはこんなに苦しいのかと驚いた。彼に吸われた唇をそっとなぞる。これが私へのキスだったらどんなに嬉しかったことか。
こんなことなら初夜の日に何が何でも抱いてもらうんだったな、なんて意味のない後悔が押し寄せてくる。あの日の彼は私を妻にしてくれる気があった。今となっては、もうどうしようもない。
私は哀しさを洗い流すようにシャワーを浴び、匂いが一つも残らぬようにいつもより入念に身体を洗った。
♢♢♢
翌朝、私は彼のお見送りをしなかった。こんなことは結婚して初めてだが、どうしてもする気になれなかった。ミアが旦那様に聞かれたら適当に言い訳をしておいてくれる、というので任せた。まあ……聞かれることもないかもしれないが。
旦那様にとっては、私が見送っても見送らなくても差し支えないだろう。
私はシーツに包まったまま、旦那様が出て行く気配がするまで部屋で過ごした。
「旦那様は仕事に行かれましたよ。お支度をしてモーニングを食べましょう」
「……今日は気分転換に孤児院に行こうかと思うの」
「そうですか、それは良い考えですね。護衛の者にもそう伝えておきましょう」
街に出るのでドレスではなく可愛いワンピースに着替えることにした。私の部屋のクローゼットの中には沢山の可愛いドレスやワンピースがぎっしりと並んでいる。なんて贅沢な……と思って恐縮していたが綺麗な服を着ることも旦那様の顔に泥を塗らないため必要なのだと知ったので、今は受け入れている。
定期的に新しい物も補充されているが、一体誰が用意をしてくれているのだろう?多分ミアだとは思うけれど。
モーニングを食べていると、使用人やシェフのみんなが私を心配してくれているのがわかる。だって今まではまるで忠犬のように『旦那様、旦那様!』と追いかけていたのに、今日は見送りにも行かなかったのだから。
「テッド、旦那様はあれだけ飲まれていたのに大丈夫だったの?」
「ええ。朝は少し頭が痛そうでしたが、問題ないと出て行かれました。旦那様はかなりお強いので、あれだけ酔われているお姿は珍しいです。昨夜は相当強いお酒を飲まされたらしいです」
「……そう」
「奥様の体調が悪いのではとかなり心配されていました。申し上げにくいですが、旦那様は昨夜のことはあまり覚えていらっしゃらないようです」
テッドは困ったように眉を下げて、そう言った。私はだんだんと腹が立ってきた。こっちはモヤモヤしていたのに、向こうは覚えていないなんて。
「私からそれとなくお伝えしておきましょうか?」
「いいです。旦那様にとっては取るに足りないことでしょうから!」
ムッと怒りながらパクパクとモーニングを食べて行く。今朝は私を気遣ってか、甘いパンケーキが用意されていた。美味しい……とっても美味しいのになんだか味気ない気がするのは、私の気持ちのせいなんだろう。
食べ終えて、予定通り孤児院に向かった。実は旦那様から私が好きに使って良いお金を毎月いただいている。家の支援までしてもらったのに、そんなお金いらないと固辞したが『旦那が妻へやるのは当たり前だ』と……こんな時だけ『妻』という単語を使うずるい旦那様に言いくるめられた。
驚くほどの金額に手が震えたが、使わないのも悪いことだと教えられた。公爵家の人間になった以上、それなりにお金を浪費して経済を回すことも必要らしい。そういうものなのね。
服や宝石はあまり興味がない……と、いうか必要なものはすでに素晴らしい物を用意してくださっている。
弟に必要な本や文房具、そして服などを買って送ったがそんなもの微々たるものだ。全くお金が減らなかった。そこで困った私は、あることを思いついた。
我が家にお金がなくなって一番困ったのは『教育』だった。飢饉が起きた時に私はもう成人していたので問題なかったが、弟に良い家庭教師をつける費用がなかったのだ。今は……旦那様のおかげで弟はしっかりと教育を受けられている。
だから、孤児院の子どもたちに教育を受けさせようと思ったのだ。読み書きや計算ができれば、大人になったら働くことができる。働ければその子達も生きていけるし、働いて儲けてくれれば領地も潤うというものだ。
私は本屋さんで低年齢から読める本や教科書を買い占め、文房具店に足を運びノートやペンを大量に買った。あと初めて行った時に生活環境が悪かったので、寝具や衣服を新しいものに変えさせた。
これらは全て街の店の店主達に相談し、庶民のものを揃えた。街で買うことで他の店も潤って良いだろうと思ったのだ。いきなりランドルフ様の妻が来たとあって何事かと驚かれ、恐縮されたが……私の幼い見た目もあってか割とみんなすぐに打ち解けて下さった。
「ありがとうございます、皆さんのおかげで助かってますわ」
「いえいえ、奥様のおかげで店も儲かってありがたいですよ。頼まれていた子供服届いたので、息子に一緒に持って行かせますよ」
「まあ、よろしいのですか?助かります」
子供服の店主の息子さんは私と同じ年齢だ。明るく人懐っこい感じで街では人気者らしい。
「重たいのにごめんなさいね」
「なんのなんの!むしろこんなに可愛い奥様と、二人で歩けるなんてラッキーですよ」
そんなことを言っているが、後ろに護衛がいるので二人きりじゃないけどね。
「まあ、そんなに褒められてはまた大量に買わないといけなくなるわ」
「あちゃー……作戦がバレました?どうぞ今後ともご贔屓にお願い致します」
はははと笑い合ってそんな冗談を言いながら、孤児院まで一緒に来てくれた。
まさかその姿を旦那様に見られているとは、全く思ってもいなかった。
「もう一度お風呂に入るわね。抱き締められてお酒と女性の香水の匂いが移ってしまったの」
「奥様……」
「いいの、子どもじゃないからわかってる。騎士達がそういう女性のいるところで飲んだり……その……それ以上のこととか……するって。旦那様は私に触れないんだから、外に別のお相手がいる方が普通だわ」
私は涙をぐっと堪えて、ミアに心配かけさせないようになるべく明るくそう言った。
「旦那様は仕事場のお付き合いでそういう場所に行かれることはあっても、浮気をする方ではありませんわ」
そうね、浮気をする人ではないかもしれない。でも浮気ではなくてそっちが本気の可能性もある。私のことはボランティアで助けたお飾りの妻なのだから。
「そうね。それにしても、旦那様ったらあんなに飲んで困ったものだわ。しっかり面倒みてさしあげてね。私は……一人でお風呂に入れるから大丈夫よ。ミアは下がって」
「奥様……」
ミアがとても心配しているのがわかるが、私はこれ以上彼女といては取り繕うことができなくなる。
「……一人になりたいの。お願い」
「ゆっくりおやすみなさいませ」
ミアは私の気持ちを優先して、部屋から下がってくれた。その瞬間にポロリと涙が溢れる。
「私、旦那様のこと好きなんだな」
改めて自覚してしまった。報われない片想いはこんなに苦しいのかと驚いた。彼に吸われた唇をそっとなぞる。これが私へのキスだったらどんなに嬉しかったことか。
こんなことなら初夜の日に何が何でも抱いてもらうんだったな、なんて意味のない後悔が押し寄せてくる。あの日の彼は私を妻にしてくれる気があった。今となっては、もうどうしようもない。
私は哀しさを洗い流すようにシャワーを浴び、匂いが一つも残らぬようにいつもより入念に身体を洗った。
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翌朝、私は彼のお見送りをしなかった。こんなことは結婚して初めてだが、どうしてもする気になれなかった。ミアが旦那様に聞かれたら適当に言い訳をしておいてくれる、というので任せた。まあ……聞かれることもないかもしれないが。
旦那様にとっては、私が見送っても見送らなくても差し支えないだろう。
私はシーツに包まったまま、旦那様が出て行く気配がするまで部屋で過ごした。
「旦那様は仕事に行かれましたよ。お支度をしてモーニングを食べましょう」
「……今日は気分転換に孤児院に行こうかと思うの」
「そうですか、それは良い考えですね。護衛の者にもそう伝えておきましょう」
街に出るのでドレスではなく可愛いワンピースに着替えることにした。私の部屋のクローゼットの中には沢山の可愛いドレスやワンピースがぎっしりと並んでいる。なんて贅沢な……と思って恐縮していたが綺麗な服を着ることも旦那様の顔に泥を塗らないため必要なのだと知ったので、今は受け入れている。
定期的に新しい物も補充されているが、一体誰が用意をしてくれているのだろう?多分ミアだとは思うけれど。
モーニングを食べていると、使用人やシェフのみんなが私を心配してくれているのがわかる。だって今まではまるで忠犬のように『旦那様、旦那様!』と追いかけていたのに、今日は見送りにも行かなかったのだから。
「テッド、旦那様はあれだけ飲まれていたのに大丈夫だったの?」
「ええ。朝は少し頭が痛そうでしたが、問題ないと出て行かれました。旦那様はかなりお強いので、あれだけ酔われているお姿は珍しいです。昨夜は相当強いお酒を飲まされたらしいです」
「……そう」
「奥様の体調が悪いのではとかなり心配されていました。申し上げにくいですが、旦那様は昨夜のことはあまり覚えていらっしゃらないようです」
テッドは困ったように眉を下げて、そう言った。私はだんだんと腹が立ってきた。こっちはモヤモヤしていたのに、向こうは覚えていないなんて。
「私からそれとなくお伝えしておきましょうか?」
「いいです。旦那様にとっては取るに足りないことでしょうから!」
ムッと怒りながらパクパクとモーニングを食べて行く。今朝は私を気遣ってか、甘いパンケーキが用意されていた。美味しい……とっても美味しいのになんだか味気ない気がするのは、私の気持ちのせいなんだろう。
食べ終えて、予定通り孤児院に向かった。実は旦那様から私が好きに使って良いお金を毎月いただいている。家の支援までしてもらったのに、そんなお金いらないと固辞したが『旦那が妻へやるのは当たり前だ』と……こんな時だけ『妻』という単語を使うずるい旦那様に言いくるめられた。
驚くほどの金額に手が震えたが、使わないのも悪いことだと教えられた。公爵家の人間になった以上、それなりにお金を浪費して経済を回すことも必要らしい。そういうものなのね。
服や宝石はあまり興味がない……と、いうか必要なものはすでに素晴らしい物を用意してくださっている。
弟に必要な本や文房具、そして服などを買って送ったがそんなもの微々たるものだ。全くお金が減らなかった。そこで困った私は、あることを思いついた。
我が家にお金がなくなって一番困ったのは『教育』だった。飢饉が起きた時に私はもう成人していたので問題なかったが、弟に良い家庭教師をつける費用がなかったのだ。今は……旦那様のおかげで弟はしっかりと教育を受けられている。
だから、孤児院の子どもたちに教育を受けさせようと思ったのだ。読み書きや計算ができれば、大人になったら働くことができる。働ければその子達も生きていけるし、働いて儲けてくれれば領地も潤うというものだ。
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「ありがとうございます、皆さんのおかげで助かってますわ」
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「まあ、よろしいのですか?助かります」
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「重たいのにごめんなさいね」
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そんなことを言っているが、後ろに護衛がいるので二人きりじゃないけどね。
「まあ、そんなに褒められてはまた大量に買わないといけなくなるわ」
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