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本編
1 好みではない妻
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「俺は子どもみたいな女は好きではない」
それは好みの問題なので理解はできる。でもそれはわざわざ初夜の前に、本人に言わねばならぬことなのだろうか?無駄に傷付くんですけれど。
「だが……後継の問題もある。君には酷な話だと思うが、婚姻を結んだ以上は諦めてくれ」
「はい」
これはつまり全く私のことは好きではないが、子どもを授かるまではそういう行為はするという言い訳だろうか。
「いいのか……?」
何故か旦那様は、眉を顰めて怖い顔のまま私にそう尋ねた。いいも何も今日結婚してしまったし、後継の大切さは私も一応貴族令嬢なのでちゃんとわかっている。
「嫁ぐと決めた時に覚悟はしております。旦那様こそ大丈夫ですか?その……好みでない私でそういう気分になれます?」
私は不安だったことを聞くことにした。身体の大きな旦那様の顔を見るためには、首をかなり上げないといけないのでしんどい。
閨の教育を受けた時に、男性は好みでない女の前ではできない場合があると教わった。何がどうできないのか乙女の私には具体的にはよくわからないが、とりあえずできないらしい。だからこそ、妻は常に美しく着飾り旦那様に愛されるように努力しなければいけないそうだ。
「……問題ない」
彼は低く冷たい声でそう呟き、ぐっと唇を噛み締めた。なんだ、問題ないのか。事前に聞いていた話と違うらしい。
「女性なら誰でも大丈夫ってことですか?」
「……」
彼にギロリと睨まれて、私はこれは聞いてはいけなかったことなんだと手で口を押さえた。
「へ、変なことを聞いてすみません」
私は慌てて頭を下げた。しかしこの気まずい雰囲気をどうしたらいいかわからない。
「……誰でもいいわけじゃない。君が俺の妻だから抱く。それだけだ」
妻だから抱くのか。なんかぶっきらぼうな物言いだけど、女なら誰でも抱けると言われるよりはまだましかもしれない。
「見せるほどの身体でもありませんが、旦那様の好きになさってください」
私は意を決してそう言った。私が作法をわからない以上は旦那様に委ねるしかない。
「……そんな危ないことを、男の前で口にするものではないな」
旦那様は呆れるようにそう言った後、私の唇にキスをした。僅かに触れるだけだったが、結婚式の時もしたので二回目になる。そのまま軽いキスを何度かされた後、彼に頭をグッと抱え込まれ……食べられるような深い口付けをされた。
熱い舌が口内をなぞり、身体がゾクゾクする。そして激しい口付けをされながら、頭を優しく撫でられ続けた。
「んんっ……!」
色気のない変な声が漏れて恥ずかしい。そして息ができない。気持ちいいような苦しいような。キスってこんなものなの?でも旦那様は好みじゃない女にもこんなことできるんだと、複雑な気持ちになった。
苦しそうな私に気が付いて、彼はそっと唇を離した。彼はとても色っぽくって、旦那様は私と違って大人の男性なんだと再認識してしまった。
彼は私のガウンに手をかけ、するりとそれを脱がした。夜着はあえてセクシーな物を選んだ。恥ずかしいけれど、侍女のミアにこれくらいは普通ですと言われてしまった。
「……似合わないな」
旦那様は私の身体を凝視しながら、不機嫌そうにそう言った。そんなことは言われなくてもわかっている。童顔の私には白とかベビーピンクのリボンやフリルが沢山ついた可愛い系の方が似合う。
今身につけているのは、黒と紫を基調としていて蝶々の刺繍がされているかなり大人っぽいものだ。そりゃあ似合わないだろう……でもそれは!セクシー系の女性ばかりをお相手していると噂の旦那様に、少しでも喜んで欲しかったからなのに。
「ひっく……ひっく……ひどい……酷いです」
私は堪えられずに泣き出してしまった。旦那様は泣き出した私を見て、流石に少し焦り驚いていた。
「な……泣くな!女の泣き顔は好きじゃない」
泣かせているのはあなたです、と言いたいが言葉にならない。少しでも好かれたいと思うのは、過ぎた願いなのだろうか。
「変なものをお見せして申し訳ありませんでした」
私はシーツを手繰り寄せて、身体をすっぽりと隠した。自分が惨めすぎてまた泣けてくる。似合わないと言われた夜着をこれ以上見せる勇気はない。これならばガウンの下に何も着ない方がましだった。
「……悪かった。もう触れないから寝なさい」
そう言って彼はパタンと扉を閉めて、寝室を出て行った。静かになった部屋に余計に胸が苦しくなる。
私は今すぐ荷物を纏めるべきだろうか?好みでない私が妻としてここにいても彼に迷惑なだけだろう。でも……お金を支援してもらった以上ここをすぐに去るわけにはいかない。
さっきは私に酷いことを言った旦那様だが、彼には返しきれない大きな恩がある。それなのに私は妻としての責務も果たさず、泣き出すなんて最低だ。子どもだと言われても仕方がない。
私は手でグイッと涙を拭き取り、彼に好かれる努力をしようと心に決めた。
――出て行けと言われるまでは頑張ろう。
そうと決まれば、早く寝なければいけない。明日寝坊しては旦那様に謝れないからだ。涙に濡れた顔を洗い、ふかふかのベッドに入ると……結婚式の疲れもあったのかすぐに眠りについた。
それは好みの問題なので理解はできる。でもそれはわざわざ初夜の前に、本人に言わねばならぬことなのだろうか?無駄に傷付くんですけれど。
「だが……後継の問題もある。君には酷な話だと思うが、婚姻を結んだ以上は諦めてくれ」
「はい」
これはつまり全く私のことは好きではないが、子どもを授かるまではそういう行為はするという言い訳だろうか。
「いいのか……?」
何故か旦那様は、眉を顰めて怖い顔のまま私にそう尋ねた。いいも何も今日結婚してしまったし、後継の大切さは私も一応貴族令嬢なのでちゃんとわかっている。
「嫁ぐと決めた時に覚悟はしております。旦那様こそ大丈夫ですか?その……好みでない私でそういう気分になれます?」
私は不安だったことを聞くことにした。身体の大きな旦那様の顔を見るためには、首をかなり上げないといけないのでしんどい。
閨の教育を受けた時に、男性は好みでない女の前ではできない場合があると教わった。何がどうできないのか乙女の私には具体的にはよくわからないが、とりあえずできないらしい。だからこそ、妻は常に美しく着飾り旦那様に愛されるように努力しなければいけないそうだ。
「……問題ない」
彼は低く冷たい声でそう呟き、ぐっと唇を噛み締めた。なんだ、問題ないのか。事前に聞いていた話と違うらしい。
「女性なら誰でも大丈夫ってことですか?」
「……」
彼にギロリと睨まれて、私はこれは聞いてはいけなかったことなんだと手で口を押さえた。
「へ、変なことを聞いてすみません」
私は慌てて頭を下げた。しかしこの気まずい雰囲気をどうしたらいいかわからない。
「……誰でもいいわけじゃない。君が俺の妻だから抱く。それだけだ」
妻だから抱くのか。なんかぶっきらぼうな物言いだけど、女なら誰でも抱けると言われるよりはまだましかもしれない。
「見せるほどの身体でもありませんが、旦那様の好きになさってください」
私は意を決してそう言った。私が作法をわからない以上は旦那様に委ねるしかない。
「……そんな危ないことを、男の前で口にするものではないな」
旦那様は呆れるようにそう言った後、私の唇にキスをした。僅かに触れるだけだったが、結婚式の時もしたので二回目になる。そのまま軽いキスを何度かされた後、彼に頭をグッと抱え込まれ……食べられるような深い口付けをされた。
熱い舌が口内をなぞり、身体がゾクゾクする。そして激しい口付けをされながら、頭を優しく撫でられ続けた。
「んんっ……!」
色気のない変な声が漏れて恥ずかしい。そして息ができない。気持ちいいような苦しいような。キスってこんなものなの?でも旦那様は好みじゃない女にもこんなことできるんだと、複雑な気持ちになった。
苦しそうな私に気が付いて、彼はそっと唇を離した。彼はとても色っぽくって、旦那様は私と違って大人の男性なんだと再認識してしまった。
彼は私のガウンに手をかけ、するりとそれを脱がした。夜着はあえてセクシーな物を選んだ。恥ずかしいけれど、侍女のミアにこれくらいは普通ですと言われてしまった。
「……似合わないな」
旦那様は私の身体を凝視しながら、不機嫌そうにそう言った。そんなことは言われなくてもわかっている。童顔の私には白とかベビーピンクのリボンやフリルが沢山ついた可愛い系の方が似合う。
今身につけているのは、黒と紫を基調としていて蝶々の刺繍がされているかなり大人っぽいものだ。そりゃあ似合わないだろう……でもそれは!セクシー系の女性ばかりをお相手していると噂の旦那様に、少しでも喜んで欲しかったからなのに。
「ひっく……ひっく……ひどい……酷いです」
私は堪えられずに泣き出してしまった。旦那様は泣き出した私を見て、流石に少し焦り驚いていた。
「な……泣くな!女の泣き顔は好きじゃない」
泣かせているのはあなたです、と言いたいが言葉にならない。少しでも好かれたいと思うのは、過ぎた願いなのだろうか。
「変なものをお見せして申し訳ありませんでした」
私はシーツを手繰り寄せて、身体をすっぽりと隠した。自分が惨めすぎてまた泣けてくる。似合わないと言われた夜着をこれ以上見せる勇気はない。これならばガウンの下に何も着ない方がましだった。
「……悪かった。もう触れないから寝なさい」
そう言って彼はパタンと扉を閉めて、寝室を出て行った。静かになった部屋に余計に胸が苦しくなる。
私は今すぐ荷物を纏めるべきだろうか?好みでない私が妻としてここにいても彼に迷惑なだけだろう。でも……お金を支援してもらった以上ここをすぐに去るわけにはいかない。
さっきは私に酷いことを言った旦那様だが、彼には返しきれない大きな恩がある。それなのに私は妻としての責務も果たさず、泣き出すなんて最低だ。子どもだと言われても仕方がない。
私は手でグイッと涙を拭き取り、彼に好かれる努力をしようと心に決めた。
――出て行けと言われるまでは頑張ろう。
そうと決まれば、早く寝なければいけない。明日寝坊しては旦那様に謝れないからだ。涙に濡れた顔を洗い、ふかふかのベッドに入ると……結婚式の疲れもあったのかすぐに眠りについた。
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