タバコと木札

藤ノ千里

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番外編

揺れる心①

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 大学生になって1年目。
 元々勉強は好きな方だったからキャンパスライフはすごく充実してて、大学に通い始めてあっという間に半年経った。
 実家から通える距離に大学があったのも運が良かったと思う。
 お母さんに買ってもらった電動自転車で実家から片道約30分。創立20年の真新しい校舎が、私の通う豊葉ホウヨウ大学だ。
「おはよー」
「あ、隼巳ハヤミ君おはよー」
 同じく自転車通学の隼巳君とは駐輪場でよく会う。
 バス通学の学生が多いから、いつも駐輪場はガラガラで、いつもの定位置に自転車を停めた。
「美菜月は今年も花火大会行くの?」
「あ、もうすぐだっけ?」
「うん、再来週の土曜日」
 そういえばもう9月。花火大会の時期だ。
 学校が忙しくてすっかり忘れてたけど、もう秋になるのか。
 大学の敷地内に植えられた街路樹も、気づけば少しずつ色づいていた。
「隼巳君は行くの?」
「俺かー、俺は・・・」
 隼巳君は何かを少し考えてチラリとこちらを見た。
 イケメンの部類に入る彼は大学でもそこそこモテていて、何度か告白されていたみたいだけど彼女が出来たというのは聞いていない。
 去年は男女グループで行ったけど、今年はどうなるんだろう・・・。
美菜月ミナツ達が行くなら行こうかな」
「じゃあまこまことしーちゃんに聞いとくね」
 隼巳君もやっぱり行くならみんなでがいいらしい。
 専攻が違う隼巳君とは校舎で分かれ、教室へ向かう。
 今日の夕食は久しぶりにまこまことしーちゃんとの女子会だから、その時に花火大会の話をしようと思っていた。


「ごめーんみなっちゃん!」
「全然いいよー」
 久しぶりの女子会はカラオケだった。
 始まって15分。忘れないうちに「今年も花火大会行く?」と聞いた私に、まこまこは大袈裟に頭を下げた。
 先月頭に付き合い始めた社会人の彼氏と行く予定と言われれば、さすがに私が譲るしかない。
 ちょっとだけ、残念だけど。
「しーちゃんは?」
「ごめん、私も予定入ってた」
 しーちゃんの専門学校は医療系だから忙しいとは聞いてたし、バイトもしてるらしいから仕方ないか。
「2人が来ないなら今年はなしかなー」
 残念だけど今年は諦めるしかない。隼巳君にも行かないと伝えておこう。
 花火大会はまた来年もあるし、再来年もある。その時に見ればいいか、とスマホを手にした時だった。
「ねー、みなっちゃん」
 悪巧みをするような声にまこまこの方を見ると、まこまこは凄く悪い顔で笑っていた。
「誰も来ないなら、あのおじさんと2人きり、じゃない?」


 次の日の昼。私は思い切っておじさんにメッセージを送ってみた。
「再来週の花火大会、私一人で曲尾まがお神社に行ってもいい?」
 送ってから言葉足らずな事に気づく。慌てて「友だちが用事があって来れないみたいだから」と追加で送って、凄く言い訳みたいだなと後悔する。
 でも、すぐに「親御さんに送り迎えして貰えるなら」と返ってきたから、嬉しくて思わず心の中でガッツポーズした。
 今年の夏、プールに行った時に、私の胸元の木札を目ざとく見つけたまこまこは、「それって前手首につけてたやつ?」と聞いてきて、返答に詰まった私に何かを察したらしい。
 それがいつの間にかしーちゃんにも伝わって、あの二人には私のおじさんへの思いはもう筒抜けなのだ。
 一応お礼は言っておこうと、2人とのグループLINEに「誘えたよ!」と送った。
 すぐに既読がついて「良かったね」と泣くうさぎと、「頑張れ」の犬のスタンプが返ってきたから、やっぱり女友達はいいなぁと実感した。


 花火大会までの間、私は美容部員として働くまこまこにアドバイスを貰いながら毎日お化粧の練習をした。
 花火大会は夜だから、少し濃いめに。でも派手にならないように。そして大人っぽく見えるように。
 おじさんに少しでも可愛いと思って貰えるように男の子からの意見も欲しくて、隼巳君にも2回ほど相談した。
 ヘアアレンジはあえてあまりしない事にして、新しく買った髪飾りを付けるんだ。去年と同じ浴衣に合わせた、菜の花の髪飾りを。
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