タバコと木札

藤ノ千里

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番外編

20歳の誕生日④

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 そこそこご飯を食べ終わり、お母さんが切り分けた誕生日ケーキを配ってくれている時だった。
「弘成くん」と、真面目な顔でお父さんが口を開いた。
 弘成さんは「はい」と答えて、姿勢を正す。
 お父さんはお酒を飲んでたけど、あんまり酔っ払ってないように見えた。
 ちなみに、弘成さんはノンアルコールしか飲んでいない。
「君が挨拶に訪れた二年前から、娘はどんどん明るくなって友だちもできた。この子がこんな風に笑っているのは君のおかげなんだと思っている。娘をこれからもよろしく頼む」
 弘成さんの建前みたいに、お父さんは一息でそう言って頭を下げた。
 事前に考えてたんだろうか。
 弘成さんが「ありがとうございます」と頭を下げ返すと、お父さんはリビングを出ていった。
 泣いてた気が、しなくもない。
 それはまるで、
「まるで結婚の挨拶みたいね」
 考えてたことと全く同じことをお母さんが言ってくれた。
 あれ、さっき、お付き合いすることの挨拶だって、言ったよね・・・?


 ケーキを食べ終わるとお別れの時間が来てしまう。
 家の前でのお見送りが少し寂しい。
「泊まっていけばいいのに」
 思わず不満が口から漏れた。
 そういうことはダメだったとしても、せっかく彼女になれたのにもうバイバイしないといけないなんて切ない。
 できることならもっと一緒にいたいのに。
「そういうこと言わないの。付き合ってるんだから」
 弘成さんの手が頭を撫でて、そのまま引き寄せられると唇を奪われた。
 もう1回、と離れていく唇を追いかけようとして、邪魔された。
 邪魔してくれた弘成さんの手には、小さな箱が握られていて、プレゼントだとすぐに気づく。
 受け取って、開けてみた。
 シンプルだけど大人っぽいネックレスが、小ぎれいな箱の中にキチンと収まっていた。
 安いものじゃないというのがひと目で分かる。
「木札が取れたら着けな」
「これ・・・」
 いつから用意してたんだろう?
 手土産と違ってそんなに直ぐに買ってこれるものじゃないはずだ。
 私が今日告白しに来ることを分かっていて、それにオッケーするつもりで、前々から用意していてくれてたということか。
 好き。凄く、凄く好き。
 もう我慢の限界で、弘成さんに思い切り抱きついた。
 思いを口にする代わりに、力いっぱい抱きしめた。
 途方もないくらい長い2年だったけど、寂しさから諦めそうになったこともあったけど、ずっとこの人を好きでいて良かった。
 本当に、本当に良かった。
「風邪ひくといけないから、戻りなさい」
 弘成さんの優しい声が降ってきて、嫌だったけど仕方なく体を引き剥がす。
「来週末遊びに行っていい?」
「あぁ、待ってる」
 そう言って微笑んだ弘成さんは、私の口でなくおでこにキスをして帰って行った。


 弘成さんのくれたネックレスには小さな宝石が付いていて、それの正体がムーンストーンだと気づくのはもう少し後になってからだった。
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