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番外編
20歳の誕生日②
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「ねぇおじさん」
「ん?」
心なしかいつもより甘い声のおじさんの声。
ずっとドキドキしている胸の奥が、少しむず痒いような、変な感じがした。
「おじさんの名前教えてよ」
頑ななおじさんは、これまで絶対に名前を教えてくれていなかった。
調べればわかる気もしたけど、それは卑怯な気がして、私もずっと「おじさん」と呼び続けていたのだ。
「なんか今更だな」と笑うおじさんの喉元が震えて、恋人の距離感に嬉しくなる。
「安東 弘成だ」
「弘成、さん・・・?」
「好きに呼んでいいよ」
おじさんの名前。名前すらもカッコよく感じてしまう。
それに何だか、特別な感じだ。
これが両想い。ずっとずっと欲しかった、おじさんの、弘成さんの恋人の場所。
「美菜月」
名前を呼ばれて顔を上げると、また弘成さんの優しい唇が落ちて来た。
うっとりと彼の唇が私の唇を撫でて、思わず吐息が漏れる。
弘成さんの手が、いつの間にか私の背中から腰に回されていて、ゾクゾクとしたくすぐったさが背中を駆け上がってきた。
これは、そういうことをする時の空気だと、気付いた。
「付き合ってるなら、そういうこともしてもいいんだよね・・・?」
目を合わせられなくて、俯きながら聞いてみた。
あくまで、あくまで確認だ。
してほしいとか、そういうことじゃない。じゃないはず。
弘成さんはすぐに答えなかった。
チラリと様子を伺うと、手で顔を押さえながら困ったような顔をしている。
「おじさんは古い人間なので、結婚するまではそういうことは駄目です」
「えー!」
期待していなかったはずなのに、思わず不満が口から洩れた。
あんな、あんなキスをしといて、あんな風に見つめておいて、またお預けなんて!
信じられない。なんて酷い人なんだ。
彼は困った顔のまま私の頭をポンポンと撫でた。恋人になったはずなのにまた子ども扱いだ。
「親御さんに挨拶に行くから連絡しときなさい」
「いつ?」
「親御さんが空いてる日ならいつでも」
仕方なく、名残惜しい体温から離れてスマホを手に取った。
弘成さんのこういう誠実なところが、大切にされてる感じがして好きだったから。
家族LINEに「付き合ってる人が挨拶に来たいんだって。いつならいい?」と送ると、すぐにお母さんから「それなら今夜連れておいで」と返ってきた。
「今夜来ていいって」
「早・・・っ」
その時の弘成さんの顔が面白かったから、私は思わず笑ってしまったのだ。
今夜の晩ご飯は少し豪華だった。
弘成さんが来るからではない。
今日は私の誕生日だから元々そういう予定だっただけで、予定から変わったのは席の配置とお皿の数だけ。
あぁ、あと、お母さんとお父さんがちょっとよそ行きの服を着ていた。
事前に伝えていた時間ちょうどに玄関のチャイムが鳴る。
玄関で待ち構えていた私はすぐにドアを開けた。
弘成さんが、スーツの弘成さんが立っていた。
「確認しないで開けちゃダメだろ・・・!」
初めて見るスーツ姿だ。絶句しててもカッコよかった。
「スーツかっこいい・・・」
「あのなぁ・・・」
思わず口から気持ちが漏れて、おじさんは困ったように頬を掻いた。
だって、本当にカッコいいんだもん。
「こんばんは」
いつの間に来ていたのか、お母さんが私の背中越しに弘成さんに挨拶をした。
お邪魔にならないように廊下に避けると、弘成さんは玄関に入りお母さんに頭を下げた。
「夜分に突然ご訪問することになり申し訳ありません。これ、つまらないものですが」
手土産なんていつの間に用意したのか。何も考えずに気軽に誘ってしまったが、本当は明日とかにした方が良かったのかもしれない。
「まぁまぁ!ご丁寧にどうも。お久しぶりですね」
お母さんは、弘成さんが差し出した紙袋を受け取るとそう言った。
お久しぶり?
初めてじゃなくて?
「その節はご心配をおかけしまして」
「いいのよぉ、うちの子がやった事なんだから」
訳が分からずおじさんを見ると、気まずそうに目を逸らされた。
「ん?」
心なしかいつもより甘い声のおじさんの声。
ずっとドキドキしている胸の奥が、少しむず痒いような、変な感じがした。
「おじさんの名前教えてよ」
頑ななおじさんは、これまで絶対に名前を教えてくれていなかった。
調べればわかる気もしたけど、それは卑怯な気がして、私もずっと「おじさん」と呼び続けていたのだ。
「なんか今更だな」と笑うおじさんの喉元が震えて、恋人の距離感に嬉しくなる。
「安東 弘成だ」
「弘成、さん・・・?」
「好きに呼んでいいよ」
おじさんの名前。名前すらもカッコよく感じてしまう。
それに何だか、特別な感じだ。
これが両想い。ずっとずっと欲しかった、おじさんの、弘成さんの恋人の場所。
「美菜月」
名前を呼ばれて顔を上げると、また弘成さんの優しい唇が落ちて来た。
うっとりと彼の唇が私の唇を撫でて、思わず吐息が漏れる。
弘成さんの手が、いつの間にか私の背中から腰に回されていて、ゾクゾクとしたくすぐったさが背中を駆け上がってきた。
これは、そういうことをする時の空気だと、気付いた。
「付き合ってるなら、そういうこともしてもいいんだよね・・・?」
目を合わせられなくて、俯きながら聞いてみた。
あくまで、あくまで確認だ。
してほしいとか、そういうことじゃない。じゃないはず。
弘成さんはすぐに答えなかった。
チラリと様子を伺うと、手で顔を押さえながら困ったような顔をしている。
「おじさんは古い人間なので、結婚するまではそういうことは駄目です」
「えー!」
期待していなかったはずなのに、思わず不満が口から洩れた。
あんな、あんなキスをしといて、あんな風に見つめておいて、またお預けなんて!
信じられない。なんて酷い人なんだ。
彼は困った顔のまま私の頭をポンポンと撫でた。恋人になったはずなのにまた子ども扱いだ。
「親御さんに挨拶に行くから連絡しときなさい」
「いつ?」
「親御さんが空いてる日ならいつでも」
仕方なく、名残惜しい体温から離れてスマホを手に取った。
弘成さんのこういう誠実なところが、大切にされてる感じがして好きだったから。
家族LINEに「付き合ってる人が挨拶に来たいんだって。いつならいい?」と送ると、すぐにお母さんから「それなら今夜連れておいで」と返ってきた。
「今夜来ていいって」
「早・・・っ」
その時の弘成さんの顔が面白かったから、私は思わず笑ってしまったのだ。
今夜の晩ご飯は少し豪華だった。
弘成さんが来るからではない。
今日は私の誕生日だから元々そういう予定だっただけで、予定から変わったのは席の配置とお皿の数だけ。
あぁ、あと、お母さんとお父さんがちょっとよそ行きの服を着ていた。
事前に伝えていた時間ちょうどに玄関のチャイムが鳴る。
玄関で待ち構えていた私はすぐにドアを開けた。
弘成さんが、スーツの弘成さんが立っていた。
「確認しないで開けちゃダメだろ・・・!」
初めて見るスーツ姿だ。絶句しててもカッコよかった。
「スーツかっこいい・・・」
「あのなぁ・・・」
思わず口から気持ちが漏れて、おじさんは困ったように頬を掻いた。
だって、本当にカッコいいんだもん。
「こんばんは」
いつの間に来ていたのか、お母さんが私の背中越しに弘成さんに挨拶をした。
お邪魔にならないように廊下に避けると、弘成さんは玄関に入りお母さんに頭を下げた。
「夜分に突然ご訪問することになり申し訳ありません。これ、つまらないものですが」
手土産なんていつの間に用意したのか。何も考えずに気軽に誘ってしまったが、本当は明日とかにした方が良かったのかもしれない。
「まぁまぁ!ご丁寧にどうも。お久しぶりですね」
お母さんは、弘成さんが差し出した紙袋を受け取るとそう言った。
お久しぶり?
初めてじゃなくて?
「その節はご心配をおかけしまして」
「いいのよぉ、うちの子がやった事なんだから」
訳が分からずおじさんを見ると、気まずそうに目を逸らされた。
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