タバコと木札

藤ノ千里

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番外編

告白②

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「俺と、付き合ってくれませんか」
 隼巳君は3年になった時からずっと私を見ていてくれて、同い年だし同じ学校で、きっと付き合ったら楽しいんだと思う。
 でも、それでも、私はその気持ちに応えることは出来なかった。
「ごめん、なさい」
 おじさんが好きだった。
 年の差があって、告白の返事もお預けで、スキンシップも避けられてて、それでも彼が好きだった。
 胸元の木札がある限りは好きでいていいと言われてる気がしたから。
 隼巳君はいじけたような顔で横を向いた。
 なんとなく、最初から私の返事が分かっていたように見えた。
「あのおっさん?」
 呟くように隼巳君は言った。
 花火の日に来ていた彼は、気づいていたのだろうと思う。
「20歳にならないと返事貰えないんだけどね」
 言いながら悲しくなった。あと1年と8ヶ月。
 18年しか生きていない私には途方もなく遠い未来に思えた。
「なんだよ、良いおっさんじゃん」
 吐き捨てるように言うと隼巳君は立ち上がった。
 大きく息を吐いて、無理やり作った笑顔で私の方を見る。
「気が変わったら言って、俺も20歳まで待つから」
 私の返事を待たずに彼は教室を出て行く。
 今さらドキドキする心臓をなだめながら、おじさんに会いたくて、少し泣きそうになった。


 次の日、私は昼過ぎに曲尾神社に行った。
 本当は来るつもりはなかった。
 来たら飛びついてしまいそうだったから。
 おじさんは境内を掃除していて、私に気づくと少し驚いたような顔をした。
「嬢ちゃんどうした?」
 普段通りのおじさんが少し恨めしい。この人は花火の日の後も私に対する態度は全く変わっていないのだ。
 おじさんの近くに腰掛けると、彼はまた手を動かし始める。
 ザッザッと竹箒の音が境内に響く。
 Tシャツとジーンズで掃除をするただのおじさん。私を散々待たせる気のおじさん。
「私、告白されたよ」
 ピタリと音が止まったのは数秒だけで、また箒が枯葉を集め出す。
「・・・青春してんだな」
 おじさんの口から漏れた独り言を聴き逃してはあげなかった。
「断ったけど」
 今度こそ箒が止まる。背を向けられているのでおじさんの顔は見えない。
「20歳まで待たされてるって言った」
「なんでだよ」
 困っている時の声だった。背中越しに頬を掻くのが見えた。
「花火の時来てた子だろ。嬢ちゃんの事すっげぇ見てたぞ」
「だって、私が好きなのはおじさんだもん」
 大きなため息が聞こえる。
  その背中に抱きつきたくて、でも我慢してあげた。
 おじさんのために20歳までは待ってあげるし、ちゃんと高校生らしく友だちも作ってあげる。
 スキンシップも控えてあげるし、神社に入り浸らないようにしてあげる。
 その代わりこれだけは、この気持ちだけは絶対に譲れないんだと、おじさんが理解してくれるまで伝え続けてやるつもりなのだ。
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