タバコと木札

藤ノ千里

文字の大きさ
上 下
20 / 26
番外編

告白②

しおりを挟む
「俺と、付き合ってくれませんか」
 隼巳君は3年になった時からずっと私を見ていてくれて、同い年だし同じ学校で、きっと付き合ったら楽しいんだと思う。
 でも、それでも、私はその気持ちに応えることは出来なかった。
「ごめん、なさい」
 おじさんが好きだった。
 年の差があって、告白の返事もお預けで、スキンシップも避けられてて、それでも彼が好きだった。
 胸元の木札がある限りは好きでいていいと言われてる気がしたから。
 隼巳君はいじけたような顔で横を向いた。
 なんとなく、最初から私の返事が分かっていたように見えた。
「あのおっさん?」
 呟くように隼巳君は言った。
 花火の日に来ていた彼は、気づいていたのだろうと思う。
「20歳にならないと返事貰えないんだけどね」
 言いながら悲しくなった。あと1年と8ヶ月。
 18年しか生きていない私には途方もなく遠い未来に思えた。
「なんだよ、良いおっさんじゃん」
 吐き捨てるように言うと隼巳君は立ち上がった。
 大きく息を吐いて、無理やり作った笑顔で私の方を見る。
「気が変わったら言って、俺も20歳まで待つから」
 私の返事を待たずに彼は教室を出て行く。
 今さらドキドキする心臓をなだめながら、おじさんに会いたくて、少し泣きそうになった。


 次の日、私は昼過ぎに曲尾神社に行った。
 本当は来るつもりはなかった。
 来たら飛びついてしまいそうだったから。
 おじさんは境内を掃除していて、私に気づくと少し驚いたような顔をした。
「嬢ちゃんどうした?」
 普段通りのおじさんが少し恨めしい。この人は花火の日の後も私に対する態度は全く変わっていないのだ。
 おじさんの近くに腰掛けると、彼はまた手を動かし始める。
 ザッザッと竹箒の音が境内に響く。
 Tシャツとジーンズで掃除をするただのおじさん。私を散々待たせる気のおじさん。
「私、告白されたよ」
 ピタリと音が止まったのは数秒だけで、また箒が枯葉を集め出す。
「・・・青春してんだな」
 おじさんの口から漏れた独り言を聴き逃してはあげなかった。
「断ったけど」
 今度こそ箒が止まる。背を向けられているのでおじさんの顔は見えない。
「20歳まで待たされてるって言った」
「なんでだよ」
 困っている時の声だった。背中越しに頬を掻くのが見えた。
「花火の時来てた子だろ。嬢ちゃんの事すっげぇ見てたぞ」
「だって、私が好きなのはおじさんだもん」
 大きなため息が聞こえる。
  その背中に抱きつきたくて、でも我慢してあげた。
 おじさんのために20歳までは待ってあげるし、ちゃんと高校生らしく友だちも作ってあげる。
 スキンシップも控えてあげるし、神社に入り浸らないようにしてあげる。
 その代わりこれだけは、この気持ちだけは絶対に譲れないんだと、おじさんが理解してくれるまで伝え続けてやるつもりなのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

処理中です...